『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回はかなり短め

ボッチからは逃げられない。


その20

 

 

「───蒼のカリスマ、か」

 

東京湾、深海。特異災害対策二課の仮設本部である特殊潜水艦、迅速な事態への対策として政府から設けられた移動式対策室。そのブリッジと呼ばれる場所で二課の長と呼ばれる司令の風鳴弦十郎は先日見えたテロリストの名を口にする。

 

眼前に広がる巨大モニターには今しがた口にしたテロリストの姿が映し出され、まるで此方の意図を見通している様に顔を向けている。

 

フルフェイスの仮面に覆われて表情、思考等は把握出来ないが弦十郎には何故かその仮面が挑発する笑みを浮かべている様に見えた。

 

「申し訳ありません司令、僕が彼を見逃していなければ……」

 

「いや、それは奴の実力────奴の意図を見出だせなかった俺の責任だ。お前が気に病む必要はない」

 

側に控える緒川の自責を弦十郎は気にするなと諫める。

 

「彼の意図……ですか?」

 

「あぁ、翼と奏君から聞いた話だが、どうやら奴の目的はウェル博士の方にあったらしくてな、シンフォギア装者である彼女達にはなんの興味も示さなかったらしい」

 

シンフォギア装者、現場特異災害に対する唯一の対抗手段である彼女達は同じ特異災害に頭を悩ます諸国にとってどんな手段を用いても手に入れたい存在とされている。

 

それ故に装者に関する情報は日本政府により徹底的に秘匿され、国家の情報の中でも最上級の機密とされている。勿論この秘匿の中には装者達の安全を考慮した意味も含まれている。

 

そんな彼女達に政府の上層部の人間、中でも一部の者にしか知らされていないテロリストが彼女達の前に現れた。当時の状況と思惑が定まっていないとされてきた彼の登場、これにより事態は更に悪化したものと判断し、弦十郎は仮設本部である潜水艦から飛び出し現場へと急行した。

 

仮面の男、蒼のカリスマの真意が分からず、またその戦闘能力の高さと当時の状況から自分が出るしかないと判断した弦十郎の考えは間違いではなかった。もし蒼のカリスマの目的がシンフォギア装者にあるのだとしたら、もし彼の目的が“フィーネ”と名乗る者達……いや、ウェル博士の思惑に通じていたら事態は自分達が考えている以上に最悪な方面へと転がり落ちていたのかもしれないから。

 

以上の事を踏まえて、弦十郎の判断は間違いではなかった。しかしその結果ウェル博士は取り逃がし、蒼のカリスマも見失ってしまった。唯一手懸りと思われるモノは逃走する最中の蒼のカリスマを必死な思いで漸く撮りとめた緒川が残した一枚のみ、それは今現在巨大モニターに映し出されている。

 

「彼の目的が奏さん達ではないのなら、一体何故彼はあのタイミングで出てきたのでしょう」

 

「正直な所、俺にも分からん。だが、今の所奴に悪意や敵意といったモノは感じられなかった」

 

「それは、拳を合わせた者同士の特有の直感……ですか?」

 

「そこまで奴と分かり合うつもりはない。が、そう感じたのもまた事実、暫くは放置しておいても構わないだろう。仮に再び奴が現れたとしても」

 

「彼が敵対する可能性は低いと?」

 

「それもある。が、それ以上に俺が捕まえるつもりだ」

 

ヤル気満々といった様子で拳を握り締める風鳴弦十郎、司令官が前に出過ぎる事に思う所はあるが、現在の戦力では心許ないのも事実。

 

そして更に蒼のカリスマには他の誰にも持ち得ない超常の力があるとされている。

 

“魔神” 先のリディアン音楽院跡地で起きたノイズ騒動の首謀者とされるフィーネこと櫻井了子、ノイズと融合し、巨大なノイズと変貌を遂げた彼女を屠った存在。

 

その全貌は不明で弦十郎でさえも把握仕切れていない超常の存在、その怪物をたった一人の人間が制御している。

 

以上のことから蒼のカリスマは弦十郎や二課の人間にとって最も警戒すべき相手でもあり、最も敵対したくはない相手でもあった。

 

けれど、弦十郎は心の何処かで期待しているのかもしれない。蒼のカリスマの目的が自分達と同じモノである事を。

 

自身の握り締めた拳を見て、弦十郎はそうであってほしいとただ願うだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

さて、一方その頃、話題の中心人物である本人はというと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、白昼堂々の真っ昼間からノイズを出すとは、しかもアメリカ兵達だけに飽きたらず通りすがりの子供達まで始末しようとするその根性、ますます気に入りませんね」

 

「ひ、ヒィィィィッ!」

 

「こんな、こんな事って…………」

 

「シンフォギア装者三人を相手に無傷……」

 

「どういう理屈デスか!」

 

「少し、頭を冷やしなさい」

 

誰もが知らない処で、一人王手に手を掛けていた。

 

 

 




Q.どうしてそこまで麻婆に辛さを求めるの?
A.ボッチ「辛くなくして何が麻婆か!!」



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