『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今更ながら諸注意。

本作の防人は奏生存の為にSAKIMORI化してません。



その21

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼のカリスマさん、かー。どんな人なんだろ?」

 

「いきなりどうした立花」

 

旧リディアン音楽院での本日の学業を終え、久し振りに行き付けのお好み焼店であるフラワーへやって来た響達、学生ではない天羽奏も本日は仕事も休みでフラワーでは珍しく二課のシンフォギア装者全員が揃いぶみを果たしていた。

 

“フィーネ”なる組織とそのシンフォギア装者との苛烈な戦い、そんな中偶々訪れた平和な時間、せめてこの時くらいは戦いの時を忘れようと皆が談笑しながら会話を弾ませていた。

 

そんな時、不意に響の口からある人物の名前らしき名称が溢れる。幸い店長である女将は席を外しており、店には時間帯的に自分達以外のお客がいないから誰かに聞かれるという心配は無かった。

 

響が口にする蒼のカリスマ、それは日本政府の中でも一部の者しか知らされていない謎多き人物、その正体も目的も全てが明らかにされていない。正体不明でまるでUMAの様な存在、しかし彼の者は実在しており、かの超大国であるアメリカに政治的に干渉、翻弄したというのだから驚きだ。

 

勿論響達はその全貌を知る由もない。ただ危険な人物かもしれないから注意しろとしか伝わっておらず、漠然としか把握出来ていなかった。

 

故に…………いや、だからこそ響は気になった。それほど迄に恐れられている人間が、何故あの時自分達の窮地に助けてくれたのか。無論、結果的にそうなっただけというのは分かる。偶々あの状況に居合わせただけ、確率的に言えば他の者が言ってるようにそうであった可能性は高い。

 

しかし、どうも響は納得出来ないでいた。直接見たわけでも話した訳でもないのに、ただ勘というだけで疑問に思い、そして口にしていた。

 

「翼さんと奏さんは見たことあるんですよね? その蒼のカリスマって人を。どんな人だったんですか?」

 

「どんな……と、言われてもな」

 

「奴さん、仮面を被って素顔を隠してたからなぁ。ただ、物凄く強い奴ってのは見ててわかった」

 

「も、物凄く強いんですか?」

 

「えぇ、私は奏より近い所にいたから鮮明に覚えているけど到底常人とは思えない動きだったわ。物理干渉の効かないノイズを相手に無傷で対処した挙げ句、弦十郎叔父様…………いえ、司令とマトモに打ち合えていたんだもの、その実力は計り知れないわ」

 

「し、師匠と打ち合えた? マジですか」

 

真剣な表情で語る翼に響は唖然となる。響の師匠でもある風鳴弦十郎は響にとってある種の絶対的存在でもあった。というか、シンフォギア装者になり、ある程度の実力を身に付けた段階で響は弦十郎の異常性を嫌でも分かるようになってしまった。

 

助走なしの垂直跳びで三階建てのビルに匹敵する脚力を有している事から始め、以前ふとした事で参加した模擬戦で垣間見た戦闘能力、そのどれもが常軌を逸したものであり、生身の人間とは思えない身体能力を備えており、正直響は自分の師を普通の人間として見れなかった。

 

というか、見れる訳がない。一体どこの世界でシンフォギアを纏う装者相手に無双できるのだ。とどめに亡き櫻井了子が完全聖遺物を鎧として纏い、自分達に襲いかかってきた時も単身で圧倒してみせたと聴く。

 

そんな色んな意味で出鱈目な自分の師と拮抗する実力を持つ者がいる。それが先程響自身が話題に起こした蒼のカリスマその人である。響はクラリと目眩がした。

 

「けれど、立花が気になるというのも分からなくはないの」

 

「翼さん?」

 

「……実はもう一つ、蒼のカリスマに関する情報があるんだ」

 

「え?」

 

「翼、それもしかして二年前のアレか? いいのか? 話しても」

 

「司令には既に許可を戴いているわ。それに、これからも蒼のカリスマという輩が出てくる可能性がある以上、話しておく必要があると思うの」

 

「けどよ……」

 

「奏、貴女の気持ちも分かるわ。だから一度立花に訊ねましょう。───立花、これから話すのは二年前のあの日、私達のライヴに起きた悲劇に纏わる話だけど……聞きたい?」

 

二年前のライヴ、その言葉を聞いた響の視界が一瞬揺れる。忘れる訳がない。あの日、あの地獄で自分はツヴァイウイングの二人に命を助けてもらったのだ。

 

もうダメだと思い諦め掛けていた時、薄れ行く意識の中で聞こえてきた奏の生きることを諦めない意志の声を。

 

だから、こうして今も自分は生きていられる。あの日の二人が在ったから、自分はこうしてここにいられる。

 

あの日、あの地獄は響にとってトラウマであり、忌まわしき事件であり。今までの自分が今日まで生きてこられた転換期でもある。だからこそ、響は翼の問いを“ハイ”と即答出来た。

 

響の覚悟を受け取り、改めて語り始めた翼、静かになる。フラワーの店内で淡々と翼の語る言葉だけが紡がれていた。

 

彼女が口にしたのは“蒼い魔神”という単語と二年前に起きた出来事の全て、勿体振っておきながら話の内容はそれほど多くなく、しかしそれに反して響に起きる衝撃の大きさは計り知れなかった。

 

「蒼い魔神って、それって了子さんの時にも現れたって言う」

 

「あぁ、そして二年前の時もあの蒼い魔神は予兆も前兆も前触れもなく唐突に現れ、全てのノイズを消滅した後、何もなかった様に姿を消していた。アレほどの巨大な存在を事前に認識出来なかった事も不可解だが、分からない事はそれだけではなかった」

 

一体どこの誰があんな兵器を造り出したのか、アレほどの巨大で強大な人型兵器を他国に気取られず完成させるなど不可能に近い。だからいっそ、アレは何か特別な力を持った完全聖遺物なのではないかと当時の日本政府は結論付けた。

 

「けれど、どんなに思考を巡らせてもあの魔神に関するモノは何一つ見出だせていなかった。そんな時に現れたのが───」

 

「蒼のカリスマ、ですか」

 

響の言葉に翼は無言で頷いた。

 

自らを魔神の担い手と告白する蒼のカリスマ。当時彼の言葉を耳にした某大臣はその衝撃に胃をやられ、入院したと聴く。

 

何故今更になって自ら名乗り出たのか、その事も含めて分からない事だらけだが、しかし響は一つあることを思い付いた。

 

「…………もしかして、蒼スマさんって割と良い人、なんじゃないですかね?」

 

「どうしてそう思うんだよ。てか蒼スマって……」

 

「だって、そう思った方が一番しっくり来ると思うんですよ。二年前のあの日だって私達の事を見掛けて助けたのだとしたら、了子さんの時やこの間の事だって説明できますよ」

 

“人助け” 自分と同じ、ささやかなモノの為に戦っているのではないか、と響は蒼のカリスマなる人物をそう考えた。明らかに楽観が過ぎる考えだが、不思議と彼女達も否定する事はしなかった。

 

特に今まで口を開かないで聞き入っていたクリスは何ともやりきれないと言った表情で苦笑いを浮かべている。明らかに何かを知っている風な彼女だが、顔を響達とは別方向に向けているため彼女達がそれに気付く事はなかった。

 

「もしそうならきっと分かり合えると思うんですよ。私達なら、きっと蒼スマさんとだって仲良くなれる筈です!」

 

「そうだなー、そうなるといいなー」

 

「むむ、クリスちゃんてばやけに棒読み、さては私の事まぁたバカにしてますな!」

 

「いやぁ? 別にンなこたぁねぇよ? そうだな。どうせなら話し合おうって聞いてみたらどうだ? 案外ノリノリで話し合いの場を設けてくれそうだぜ。綺麗なテーブルとか茶菓子とか付けてな」

 

何やら意味深に笑うクリス、その目が何やら遠くを見つめている彼女に響達は不思議に互いに顔を見合わせるのだった。

 

「それよりも、小日向はどうなってんだよ。アイツまだ遅くなるのか?」

 

「あ、そうだった。メール打ったのにまだ返って来ないんだよね」

 

「何か、トラブルでもあったのか?」

 

「便所じゃね?」

 

はしたない物言いをする相方を小突きつつ、翼はもう一度連絡するよう響に促した。みんな待ってるよ。その内容のメールを送った瞬間、小日向未来の未来は最悪な方向へ向かっていく事も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうしよう。不味い事になっちゃった)

 

小日向未来、立花響の幼馴染みにして彼女の親友でもある少女は物陰に隠れ、おそるおそる視線の先に映る光景を目の当たりにし、軽く絶望を覚えた。

 

今は誰も使わない廃棄された倉庫、人気もなく、市街からは離れた位置にあるこの場所で最初未来はこんな所に立ち寄らず、真っ先に親友が待つフラワーに向かうつもりだった。

 

しかし、涙と鼻水まみれのぐしゃぐしゃな顔で死に物狂いで逃げ惑う子供達の姿を見て、未来は無性に嫌な予感を感じた。もしかしたら、そんな思いで子供達が逃げてきた方向を見つめ、未来は身を竦ませながら廃倉庫へと向かった。

 

いつでも親友を呼べるように携帯を手にしながら進む彼女の先に待っていたのは、予想通り…………いや、予想以上の光景が展開されていた。

 

フルフェイスの仮面を被り、白いコートに身を包んだ男性らしき人間が無数のノイズとシンフォギア装者を相手に圧倒する光景、未来の知る常識とはかけ離れた光景に彼女は思わず近くのコンテナに身を隠した。

 

おそるおそる覗き込んで見ると、そこには三人のシンフォギア装者が仮面の男の踏み込み(震脚)によってノイズ共々吹き飛ばされていた。

 

遠巻きから眺めている自分にまで及んでくる衝撃波、その事に悲鳴を上げること無かったのは先のノイズ騒動で無駄に度胸が付いたからか、それとも悲鳴を上げる暇もなかったのか。いずれにしても自分の存在を知られる事が無さそうだったのは不幸中の幸いだった。

 

自分が落ち着きを取り戻している最中にも状況は変わらず、仮面の男は余裕の態度を崩さず疲弊仕切って地に膝を着けている三人のシンフォギア装者を見下ろしていた。

 

仮面の男、彼が何かをした訳ではない。少なくとも未来がこの場に訪れてこの光景を見ていた限りでは仮面の男は自ら手を出した様子は見当たらなかった。

 

三人のシンフォギア装者───以前自分達の学園祭の時に現れた二人の少女と先のライヴで有名人となったマリアには目立った怪我もない。ただ酷く疲れているようには見えるが……。

 

「これで分かって戴けた筈です。あなた方に危害を加えるつもりはないと、私が用があるのは其処にいるウェル博士だけです」

 

「ヒッ!?」

 

「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス、貴方が手にしているソロモンの珠は人の手に委ねるべきではない危険な代物、それは然るべき所に然るべき対応で封印、または破壊すべき聖遺物だ。一人の人間の野望で使って良い代物じゃあない」

 

「う、五月蠅い黙れ! 僕は英雄になるんだ。人類を救済し、英雄になり、世界に僕の名前を刻み込むまで邪魔される訳にはいかないんだ!」

 

「英雄は()るモノではなく語られる存在(モノ)だというのに、野望というより妄想の類いだったか、どちらにせよ厄介である事には変わらない、か」

 

「ほら、お前達もいつまで休んでいる。さっさとそいつを殺っちゃえよ! さっき渡したLiNKERがあるだろぉっ!?」

 

「そ、そうだ。私達にはやり遂げなければならない使命がある」

 

「その使命というのは、無関係な子供まで犠牲にしてまでやり遂げる程、重要な事なのでしょうか? 私はそんな使命なんてモノを掲げた事なんて無いから理解できませんが…………正直、不快ですね」

 

「五月蠅いデス、お前みたいな強い奴が、大人が私達の何が分かると言うのデスか!」

 

「知りませんし興味もありません。大体、自分達は他者を偽善者呼ばわりしているではないですか。いざ追い詰められたら開き直るなど、あなた方の掲げる大義名分もたかが知れている。それではあなた方の嫌う偽善な人間と、一体どこが違うというのです」

 

「それはっ!」

 

「そもそも、君達のいう偽善とは前提からして間違っている。人間とは元々自分の為に行動するモノ、人助けを趣味としているとある少女もただ自分がそうしたいからそうしているだけにすぎません。人類を救済しようとするあなた達も本質的な所はなにも変わらない」

 

誰かの為に、何かの為に、聖人も悪人も、勇者も英雄も自分が望んだ願いや想いの為に行動をし続けた存在だ。人間の根底には誰にでも僅かながら揺るがない“我”というものがある。確かにこの世界は偽善な人間で溢れているだろう。彼女達の語る偽善者という話にも仮面の男は少なからず共感出来る。

 

だが、偽善とは必ずしも悪ではないという事も知っている。自分の思わぬ行動に誰かが助かったりする事もあるし、その逆もまた然り。良い意味でも悪い意味でも世界は理不尽に溢れていた。

 

この世界はそう言うモノで出来ている。それを理解するには彼女達は少々純粋に過ぎた。

 

「しかし、それが悪だとは思いません。彼女の人助けが自分の心の内から出てきた本物であるように、君達の抱く想いもまた嘘ではないのだから。ですから私は非難はしても否定はしません」

 

ですが、と言葉を紡いだ仮面の男はウェル博士に向けて一歩足を踏み出す。

 

「Dr.ウェル、貴方は自分の目的の為に他者を蔑ろにし過ぎる。自分の野望の為と謳うなら、せめて自分の命位は張って見せろよ」

 

「うっ」

 

「英雄になりたいなら、一度くらい自分の手を汚して見せろよ。道具に頼り仲間に縋り、何かに求めるだけがあんたの語る英雄像か? 少なくとも俺はそんな英雄は一人として思い当たらないぞ」

 

まるで人が変わった様に口調の変わる仮面の男に調と切歌は何だか既視感を感じた。何処かで聞いた事があるような、そんなデジャヴに浸っている二人を他所に仮面の男はウェル博士に一歩ずつ詰め寄っていく。

 

「まぁ、尤もアンタの英雄の道は始まる前に終わってるんだけどな」

 

「な、何っ!? それは、どういういみだ?」

 

「月の落下、確かそれがアンタ達の行動の目的だったな。月の落下から地球人類を救う。それが“フィーネ”の理念、けれど残念だったな。月の軌道修正はとっくに─────」

 

その時、仮面の男の背後のコンテナから携帯電話特有の着信音が鳴り響いた。この場においてあまりにも似つかわしくないその音は一瞬だけとは言え、場の空気を一変させる程の破壊力を持ち合わせていた。

 

振り返ると、其処には自分の店の常連客でもある小日向未来が固まった表情で立ち尽くしている。次いでウェルの方へ視線を向けると獲物を見付けた肉食獣の如く、最高に歪んだ笑みを浮かべている。

 

仮面の男────蒼のカリスマが駆け出すのと、ウェル博士がソロモンの珠を用いてノイズを呼び出したのは殆ど同時だった。しかし、ウェル博士がノイズを召喚し、未来に向けて襲わせる様に仕向ける頃には蒼のカリスマは未来を守るようにノイズの前に立ち塞がっていた。

 

「前蹴りッ!」

 

攻撃態勢となり、矢となって襲い来るノイズの群れを地盤ごと蹴りあげた蒼のカリスマの一撃が衝突する。地面の雪崩に呑み込まれたノイズ等はそのまま炭化と化し、風に乗って消えていく。

 

「未来ちゃん、大丈───」

 

後ろに控える未来の安否を気遣う蒼のカリスマは無事である筈の彼女に視線を向けようとその一瞬隙を見せる。ノイズの背後から彼の様子を窺っていたある者はその隙を見逃さなかった。

 

未来は無事だった。怪我一つなく、ノイズに触れた様子の無い彼女に蒼のカリスマは心の底から安堵する。…………それが、致命的な隙であった事も知らずに。

 

未来が何かに驚いている。自分ではなく、自分の背後を見て驚愕に表情を染め上げる未来に蒼のカリスマはまさかと振り返る。

 

そこにいたのは邪悪な笑みを浮かべている調だった。見たこと無い表情を浮かべて刃を降り下ろしてくる彼女に蒼のカリスマはその刹那、全てを理解する。

 

(そうか、そういう復活の仕方か! クソッタレめ!)

 

瞬間、大きな鋸に切り裂かれた蒼のカリスマは胴体から大量の血を吹き出して地に落ちた。

 

「い、いや…………イヤァァァァァッ!!」

 

凄惨な光景を前に小日向未来の叫びが倉庫街に響き渡る。しかし、そんな彼女の叫びは誰かに届く事なく、虚しく空へ溶けていった。

 

 

 




Q.もしも響と蒼のカリスマが遭遇したら?

A. 響「蒼スマさん、私たちはノイズと違って言葉が話せます! 話し合いましょう!」
蒼スマ「えぇ、構いませんよ。そこの席にお座りください。ちょうど良い茶葉が手に入ったのでご馳走しますよ。お茶請けは……クッキーにします? ケーキにします?」

響「ケーキでお願いします!」

クリス「誰かあのバカ二人止めてこい!」

次回もまた見てボッチノシ

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