安眠求めて旅に出たクズが伝説巻き起こす話   作:がしやま

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第1話

 

 

 

 

 

 

 膨大な呪力量、使役する二体の強力な呪霊、使い古された竹刀。

 彼と出会った者は決まって蛇に睨まれた蛙のように身体を硬直させ、戦慄を走らせる。中には出くわしただけで死を悟り、走馬灯を見た者もいる程だ。

 

 

 鋭い目つき、頬に刻まれた傷、ヒョロリとしたモヤシ体型……情報は少しずつ集まってきてはいるものの、まだまだ詳細は掴めきれておらず捜索は難航している。

 日本中を転々とし、ふと現れては人知れず一級相当の呪霊を祓い、僕の竜と共に姿を消す。毎度そのワンパターンなのだが、いかんせん男を捕まえることができない。北海道で目撃証言が上がったかと思えばその真反対の沖縄に現れたということはザラにある。

 神出鬼没、故に対応が全て後手に回る。

 

 

 ――竜神。

 

 

 人々はいつしか、男のことをそう呼ぶようになっていた。

 

 五条悟が味方についている限り、万が一男が牙をむいてこようが最悪の事態は免れるだろう。ただ、こちらもそれ相応の被害を覚悟しておかなければならない。男はそれだけの力を持ち得ている。竜神のごとき、計り知れない強大な力を。

 

 

 男が呪詛師に転じる前になんとか手綱を握りたいと考える近頃の上層部は一向に捕まらぬ男の身柄にヤキモキしている。

 謎多き未登録の呪術師の存在によりピリつく呪術界隈。

 

 

 そんな中、あるおかしな噂が呪術界に広まり始めた。

 

 

 ――竜神が、夏油傑を探している。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 ――前世の記憶を取り戻した。

 

 

 春眠暁を覚えず。それは高校二年生へと無事進級し、朝も昼もグースカ寝こけて怠惰な春休み生活を送っていた頃のこと。

 

 のび太君よろしく今日も座布団を枕替わりにしておやすみ三秒前に入ろうとした瞬間、脳内に存在しないはずの記憶が溢れ始めた。野球ボールが頭に直撃したわけでも、バナナの皮で転倒したわけでもない。何の前触れもなく、俺の記憶は「よっ、おひさ」と幽霊部員が一年ぶりに顔を見せたぐらいのノリで蘇ったのだ。

 

 当然状況すら呑み込めずただただ一人困惑して突っ立っていたわけだが、そんな理解すら追いついていない俺に追い打ちをかけるかのごとく一枚の紙がペラリとどこからともなく降ってきた。

 四つ折りにされた謎の紙を拾い上げ、とりあえず中身を確認してみる。

 

 

「『ポケモン二体で夏油傑を救え』……?」

 

 

 紙に書かれてあったことを全て読み終えた途端、ゴッゴッと二回程俺の頭に固い何かがぶつかった。

 なんじゃいこんな時にと落ちてきた物を見やれば、そこには赤と白の見覚えのあるボール。

 え、うそ。これ何かのドッキリ?

 

 上を見上げてみるがそこには白い天井が広がっているだけで誰かが忍者みたく張り付いているとかいうことはなく、本当に何もないところからこのモンスターなボールが降ってきたのである。え、こわ。

 

 

 立て続けに起こる意味わからん不可解マジ卍現象に恐怖を覚えつつも、何を血迷ったのか俺はおそるおそる落ちてきた紅白ボールを手に取った。そして真ん中のボタンを押しながらパカリと紅白ボール基モンスターボールを開く。

 

 

「コダッ」

 

 

 眩い光がモンスターボールから放たれたかと思えば、目の前には見覚えのある黄色いアヒル。たるんだフォルムに馬鹿みてーなマヌケ面、そして変な鳴き声。間違いない、コダックである。

 益々混乱する俺を他所に、コダックは頭を抱えながらヨタヨタ千鳥足で部屋を意味もなく徘徊している。

 

 マジで何これ、ホンマにポケモン出てきたんだが。シンプルにこわ。

 しかし、恐怖と困惑のあまり一周回って冷静になってきた俺はもう一つのモンスターボールを開く。そして光と共に出てきた二匹目のポケモンは――

 

 

「いやコイキングは草」

 

 

 

 身体を床に叩きつけ、ビチッ、ビチッと音を鳴らしながら跳ね続けるコイキング。その瞳は一切の光を許さず、常に虚空を見つめ続けていた。どういう目?

 

 

 …………あの……ちょ、そろそろ跳ねる以外のアクション起こしてくれません? 何考えてるか全くわからんくてクソ不便なんですが……あの、コイキングさん?

 

 

 俺の思いも空しく、いくら待てどコイキングは本当にただ跳ね続けるだけだった。これ程まで意思疎通が困難なポケモンが今までにいただろうか、いやない。

 

 と、無駄に反語表現を使って一人自分を納得させていたところで、俺はそっとコイキングをモンスターボールに戻した。床でビチビチ跳ね続ける惨めなコイキングを俺はこれ以上見ていられない。なんか罪悪感湧くんだよ俺100%悪くないのに!

 

 

 コイキングの入ったモンスターボールをとりあえず机の上に置き、コダックの首根っこを掴む。ウロウロしてんじゃねーよしれっと俺のポテチ食うな。

 

 

「ええ……なんだよこの状況。

 てか第一の前提として夏油傑誰だよ、せめて住所教えろ住所」

 

 

 しかし俺の要望が叶うことはなく、静かに時間が過ぎていくばかり。

 もしやヒント無しでやらせようとしてる? それは無理ゲーすぎ、日本中から該当する夏油さんを一人見つけるとか普通に考えて無謀以外の何物でもないんだが。日本人口舐めんなよマジで。しかも救うってなに? 夏油傑の何を救えばいいの? 定義すら教えてくれん感じ? ふざけんなよ。

 

 

「そも、こちとら見ず知らずの人間救おうとか思える程お人好しじゃないんだなこれが。こんなん人に押し付けてねーでテメーでやれテメーで。

 俺はこの春休みをノンビリ高校生らしく満喫する、以上」

 

 

 真っ白な天井に向かってハッキリそう宣言した俺はついさっき勢い余って蹴飛ばしてしまった座布団を定位置に戻し、再びお昼寝タイムに入ろうと目を瞑る……が、顔面にバサッと紙が叩きつけられる。いって。

 

 

「なんだよ……なになに、『試練を棄権した場合、二度と安らかな睡眠は得られぬ』……って、おいコラ、神様っぽい口調にしといてやってること小学生以下だぞ」

 

 

 これで脅してやがるもりなのだろうか。こんな幼稚な嫌がらせで靡く程俺の意思は軽くない、寝るたったら寝る。

 フンと鼻を鳴らして横になる。

 しかしそれと同時に俺の真横で凄まじい音を立てながら何かが落ちてきた。驚いて飛び起きるとそこには割れた照明が……やば。

 

 

 

「うそ、睡眠妨害ってか永眠させようとしてね? サイコパス?」

 

 

 怖くなって机の下に移動し、身体を丸めながら再チャレンジしてみるがタイミング良く結構強めの地震が起こる。おわわわわわわわ震度5くらい? 地球規模で睡眠妨害してくるんだけどホントやだ。

 

 しばらくして揺れが収まった後「テメッ、そろそろいい加減にしろよ!」と中指を立てたら落ちてたモンスターボールを踏んですっ転ぶ。多分さっきの地震で机から落ちたやつ、ちくしょう!

 

 予想していたより遥かに睡眠妨害のレベルが高かった。まさかこんなことでここまでしてくるとは思わなんだ。

 なんて執念深さだ……流石に恐れ入った。

 

 

「わかった、わかったから! やればいいんだろやれば!

 だからこれ以上なんか仕掛けてくんのやめろ!!」

 

 

 降参の意味を込めて両手を上げ、白旗替わりに座布団をバタバタ揺らす。うわっ、埃舞ったんだけどきったね!!

 一人咳き込んでいると、またしても紙が一枚降ってくる。

 

 

 

「『救済のタイムリミットは九月の――』って、時間制限あるんかい」

 

 

 

 しかも救済に失敗した場合もペナルティがあるんですって。世の中ってホント理不尽ね。

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