【劇場版】俺のポケットモンスター・ミュウツーの逆襲   作:越谷さん

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4章

 潮の匂いが混ざった夜風はひんやりと肌寒い。しかしニューアイランドに溢れる戦闘の熱を冷ますまでにはいかなかった。

 ハルカ達が眺めるバトルフィールドの先には、ミュウツーとコピーポケモンがこちらに対峙している。彼らは余裕な表情で、最初の対戦相手を待ち構えているようだ。

「……よし、それじゃあ」

「まずは僕が相手だ!」

 名乗り出ようとしたハルカを止めて、ユウリが先陣を切った。

「悪ぃけどお前らの出る幕はないぜ? なんせ僕達がこいつらまとめてぶっ倒しちまうからな!」

 ユウリはそう謝罪したが、そこに反省は感じられない。どうやらユウリは本気で全員を相手にするつもりらしい。

「行くぞシュン!」

 ユウリの鼓舞に奮い立ち、シュンがバトルフィールドに足を入れる。シュンの心もユウリと同じだった。

 フィールドに立ったシュンを見て、ミュウツーもコピーポケモンに右手で指示を投げる。指示を請け負ったコピーシュンはフィールドに移動して、オリジナルのシュンの前に立ちはだかった。

 この勝負に審判は居ない。どこからでも掛かってこいと、ミュウツーは無言でユウリを見つめていた。

「来ねぇんだったらこっちから行くぜ! シュン! サイケこうせん!」

 ユウリの指示通りに、シュンはスプーンに念動力を溜めて光線を放出する。電撃の様に迸る光線は、コピーシュンに目掛けて直進した。

『テレポート』

 ミュウツーがテレパシーで端的に技名だけ告げると、コピーシュンは光線を目前に瞬間移動する。コピーシュンが移動した先は、シュンのすぐ背後だった。

「!」

「リフレクター!」

 大きくスプーンを振りかぶるコピーシュンに、シュンは即席で透明の壁を構築する。しかしコピーシュンのスプーンはその壁を物ともせず、シュンを後方へと吹き飛ばした。

「くっ! サイコキネシス!」

 負けじとシュンはコピーシュンに念動力を送り、相手の体を拘束する。まるで麻縄に強く縛られて宙吊りにされているようだ。しかしミュウツーとコピーシュンに、一切の動揺はなかった。

『自分にサイコキネシスを掛け、体の自由を奪い取れ』

 ミュウツーの指示に、コピーシュンは自身の体にサイコキネシスを掛ける。コピーシュンの念がシュンの念を蝕んでいき、やがて完全に崩壊してコピーシュンの体は解放された。

「なっ!?」

『力の差を教えてやれ』

 困惑するユウリを、ミュウツーは見逃さない。

『サイコキネシス』

 今度はコピーシュンの念動力がシュンを襲う。シュンは体を拘束されたまま空中に浮かび上がり、抵抗する暇も与えられずに彼方へと弾き飛ばされた。フィールド外の壁に、シュンは強く体を打ちつける。

「シュン!」

 地面に倒れたシュンに、ユウリは慌てて駆けつける。ユウリの手を借りても立ち上がれそうにないシュンが戦闘に戻る事は難しそうだ。

『次はどっちだ』

 休憩は不要だと、ミュウツーは次の対戦相手候補に目を向ける。情の欠片も見えないミュウツーの冷酷な瞳に、ハルカはゴクリと息を飲んだ。

「……俺が行く!」

 覚悟を決めて、ハルカは足を踏み出す。

「行けるかスネオ!」

「うん!」

 スネオもフィールドに立ち、気合十分と骨を振り回す。威嚇するスネオに、コピースネオは足音も立てずに対峙した。

 二匹の間で、険しい視線だけが交差する。

「突っ込め!」

 ハルカの掛け声に合わせて、スネオがコピースネオに走り出す。コピースネオも同時に走り出し、二匹はフィールドの中央で衝突した。

 互いの骨が拮抗する鍔迫り合い。二匹は一度距離を離すと、アクション映画の様な殺陣を披露した。両者一歩も譲らずに、骨と骨がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。そんな中、一瞬の隙を突いたコピースネオが、スネオの骨を宙に離した。

「なっ!?」

 骨は宙を縦回転し、スネオは丸腰になる。コピースネオはスネオの空いた鳩尾に、自身の骨を突撃させた。

『ホネこんぼう』

「ぐはっ!」

 後方に突き飛ばされたスネオは、フィールド外に力なく倒れた。

「スネオ!」

「うぅっ……!」

「大丈夫か!?」

 ハルカが駆け寄って、スネオに声を掛ける。スネオの目はまだ死んでいなかったが、体は思うように動かなかった。フィールドに落ちた骨はトランプが回収し、スネオの側に戻していた。

「……どうやら俺達も、少しは用心した方が良いみたいだな」

 あまりに一方的に敗北したユウリとハルカを見て、残る一人となったコウジは敵の強さを見定めながら前に出る。相棒のリチャードも漆黒の翼を羽ばたかせ、フィールドに降り立っては烈火を吐いた。

 最後の対戦相手の登場に、コピーリチャードもフィールドに降り立つ。リチャードの遺伝子から造られたコピーリチャードも、同じく翼を漆黒に染めていた。

「リチャード! かえんほうしゃ!」

「かえんほうしゃ」

 二匹の竜が燃え盛る炎を吹く。炎は中央で激突し、温度を相殺した。どうやら炎の威力は五分のようだ。

「だったら……リチャード! 空中戦だ!」

 コウジの指示に従って、リチャードは巨大な翼で体を浮き上がらせる。コウジの作戦に臨むところだと、コピーリチャードも空へ飛び立った。

 星の瞬く夜空に、二匹の竜が相対する。どちらも相手の背後を陣取ろうと、壮絶な空中戦を繰り広げていた。

 瞬間、コピーリチャードがリチャードの頭部を狙って鉤爪を突き立てる。攻撃を防ごうとリチャードは両腕で盾を作るが、コピーリチャードの攻撃は一向に来ない。視界を開いたその時、眼前に自分と瓜二つの漆黒の竜は居なかった。

「!」

 リチャードの背後を、コピーリチャードが奪い取る。

『ちきゅうなげ』

 コピーリチャードはリチャードの両腕を掴むと、夜空を一回転して急降下する。そして重力の勢いのまま、リチャードをフィールドに叩き落とした。地面を揺らす衝撃音と共に、リチャードがフィールドに沈む。

「リチャード!」

 戦闘不能となったリチャードに、コウジはフィールドへと駆け込む。傷を負った翼では、しばらく空を舞えそうになかった。

「そんな……まさかリチャードが……」

 戦慄するコウジを余所に、戦闘を終えたコピーリチャードは静かに主人のもとに帰還する。蓋を開けてみれば全戦全勝、ミュウツー率いるコピーポケモン達の圧勝だった。

『これで分かっただろう。スピード、パワー、全てにおいて我々コピーの方が勝っている』

「……我々?」

 ミュウツーの台詞に、コウジは違和感を覚える。

「くっそ……!」

 ハルカは余裕ぶったミュウツーに歯を軋ませたが、この惨憺たる結果では発言を撤回させる事も出来なかった。

 するとミュウツーは腕を広げて、宙に三つのモンスターボールを出現させた。おどろおどろしい眼をあしらった奇怪なモンスターボール。ミュウツーがそのモンスターボールを念力で操ると、敗北し倒れるスネオ達を吸収して閉じ込めてしまった。

「リチャード!」

「テメェ! 俺達のポケモンを奪うつもりか!」

『奪う?』

 ハルカの憤りに、見当違いだとミュウツーは笑止する。

『いいや、お前達が自慢するポケモンよりも更に強い、私に相応しいコピーを造るのだ』

「またコピーか……!」

 相棒を奪われ、コウジの額の血管は破れそうな程浮き上がっていた。

「そんなの許される訳ねぇだろ!」

 ユウリも立ち上がって、ミュツウーに異議を申し立てる。

『私に指図するな!』

 するとミュウツーは瞳を青白く光らせ、サイコキネシスでユウリの体を浮上させた。ユウリはそのまま乱暴に放り投げられ、先に居たハルカと接触事故を起こす。

「うわぁっ!」

「痛っ!」

 ミュウツーの逆襲はそれだけに収まらない。

『私のルールは私が決める!』

 先程の奇怪なモンスターボールを無限に出現させ、こちらを見つめる全てのポケモンを捕獲しようと出陣させた。

「お前ら逃げろ!」

 危機を感じたコウジの避難命令に、ポケモン達は逃げ出した。

「ちょっ、お前どけって!」

「うげっ!」

 ユウリの下敷きになっていたハルカは、伸し掛かる荷物を雑に捨ててポケモン達の救助に走る。パーティー会場に逃げ込むポケモン達だったが、アオイ、リン、ヨウコと続々と魔の手の餌食となっていた。

 ウナジューも巨大な翼を広げて、無数のモンスターボールから逃避行を図る。しかし屋内では空中の機動力を上手く発揮できず、背中の鱗から吸い込まれてしまった。

「わっ!」

 瞬足自慢のオリバーやロバートも、同様に追いつかれていた。

 噴水に浸かるノリカは、モンスターボールに凍てつく冷凍ビームを放って懸命に抵抗する。ユウリも体を張ってノリカの盾となるが、モンスターボールの圧倒的物量の前では抵抗も虚しかった。

「畜生……!」

 ポルコとサチコは背中合わせになって、迫りくるモンスターボ―ルと対峙していた。

「おらぁぁぁ!」

「キャアッ!」

 憤怒のまま拳をふるうポルコに対し、戦意のないサチコは恐怖に身を震わせている。その行動ではなんの時間稼ぎにもならず、たちまち二匹もモンスターボールに捕獲された。

「ポルコ! サチコ!」

 次々と連れ去られる仲間達に、ハルカは苦悶の表情を浮かべる。

「お前ら! ポケモンをモンスターボールに戻すんだ!」

 名案を閃いたコウジは、そう一同に声を上げる。早速ポケットからモンスターボールを取り出し、必死に抵抗するタンガとハナコを安全地帯に避難させた。

『無駄だ』

 そんな安堵を鼻で笑う様に、奇怪なモンスターボールがコウジの持つモンスターボールに触れる。するとなんとそのモンスターボールごと、タンガとハナコを吸収してしまった。

「なんだと!?」

『私の造り出したモンスターボールに、不可能はない』

 自分の掌から消えたモンスターボールに、コウジは深く絶望した。

「ハルカ!」

「!」

 名前を呼ばれて、ハルカは顔を上げる。そこではモンスターボールから逃げ惑う水掻きがバタバタと暴れ回っていた。

「トランプ!」

 ハルカも加勢すべく、トランプのもとに走り出す。額からは汗が溺れる程噴き出し、トランプの体力はもう限界だった。そんな事情に容赦もなく、モンスターボールは迫る。

「ハルカ! 助け」

 言い終える事も出来ずに、トランプはモンスターボールに囚われた。

「トランプ!」

 目の前で助けを求める仲間を奪われ、ハルカは膝から崩れ落ちる。この危機的状況下でなにも出来ないままの自分が許せなかった。

 ポケモンを吸収したモンスターボールは、からくり仕掛けに開いた床の抜け道からどこかへ移動している。固定化された行動は、まるで帰巣本能に従っているかの様だった。

 ピコタローのすぐ側で、ハチがモンスターボールに囚われる。次の標的はお前だと、モンスターボールの眼が一斉にピコタローを睨みつけた。恐怖で足が竦んだピコタローにモンスターボールが襲い掛かる中、エリックがその射線上に割って入ってくる。

「エリック!」

 エリックはピコタローに口角を吊り上げると、モンスターボールに吸い込まれる。身を挺して守ってくれたエリックに、ピコタローの心は痛んだ。

「ピコタロー! 逃げろ!」

 離れた位置からハルカの声も聞こえる。ここで捕まる訳にはいかないと、ピコタローは電光石火に走り出した。

 モンスターボールの襲撃を紙一重で躱しながら、ピコタローは螺旋階段を上る。追いつこうとするモンスターボールには電撃を浴びせ、ただひたすら頂上を目指した。しかし追っ手の数は一向に減らない。ピコタローの体力は消耗するばかりで、頬の電気袋も限界に近かった。

 その時、ふらついたピコタローの足が螺旋階段を踏み外す。

「あっ!」

 ピコタローはそのまま垂直に落下。空中では手も足も出せずに、最後はピコタローもモンスターボールに吸い込まれてしまった。

「ピコタロー!」

 ピコタローを捕らえたモンスターボールも、抜け道へと帰っていく。入口を塞ごうと動き出した仕掛けに、ハルカも滑り込んで抜け道に入っていった。

「ハルカ!」

 ユウリの叫び声も、蓋を閉められてしまった今では聞こえない。ただハルカは、仲間達を救う事で頭がいっぱいだった。

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