【劇場版】俺のポケットモンスター・ミュウツーの逆襲 作:越谷さん
荒波が防波堤を寄せては返す。窓ガラスは今も豪雨に撃ち込まれており、外の過酷な気象状況を映していた。
「……ん」
天井の照明がやけに眩しくて、ユウリはようやく目を覚ました。
「ここは!?」
「クチバの波止場だ。俺達知らないうちにここに戻されてたんだよ」
横長の椅子から飛び起きたユウリに、先に起きていたコウジが状況を説明する。確かにそこは、ニューアイランドを目指す前に集まったクチバシティの波止場だった。視界の奥には、陽が落ちて昇った後も勤勉に働くボイジャーの姿が見える。
「あれ!? 僕達さっきまでニューアイランドに居たよな!? それなのにどうしてここに!? もしかして、今までの全部夢だったんじゃ!」
「落ち着け」
理解不能な状況の連続に、ユウリは混乱状態に陥った。宥めようとするコウジの声も、今は届かない。
「夢じゃありません」
そう口にしたのは、普段の仕事衣装に戻ったジョーイだ。
「あの場所で起きた事は、決して」
「ジョーイさん……」
夢のような出来事だったが、決して夢ではない。ジョーイがこうして無事クチバシティに戻ってきたのが、なによりの証拠だった。
そんなジョーイの掌を、ユウリの掌が颯爽と奪う。
「貴女と出逢えたのもまるで夢のようだ。良かったらこのまま、僕達二人で夢の続きを……」
「まぁ」
「ジョーイさん、こいつ適当に無視して良いですよ」
平常運転に戻ったユウリに、コウジは重たい溜息を吐いた。
そんな三人の掛け合いを、少し離れた位置からハルカは眺めていた。日常が戻ってきたような安心感から、ハルカは笑みを溢す。
「……あっ」
「ん?」
窓の外を覗いていたトランプがふと声を漏らした。ハルカが振り返ると、先程まで消える気配のなさそうだった雨雲が徐々に撤退を始めていた。
船着き場に溜まった水溜まりを一つ跳び越える。湿り気の残った空気はひんやりとしていて、汗ばんでいた肌を爽やかに撫でた。鮮やかな虹の架かった快晴の下、船着き場にハルカとその仲間達の影が並ぶ。
果てしなく長く続く水平線。目に見えないその先に、先程まで自分達が居たなんて嘘のようだ。きっとその先にも未だ見た事ない景色があって、未だ出逢った事ないポケモンが待っているのだろう。
「……まだこの世界は、俺達の知らない事ばかりなんだろうなぁ」
そう呟いたハルカの表情を、肩に乗ったピコタローが覗く。その表情は、目の前の景色と同じくらい透き通っていた。
「世界の先まで、俺についてきてくれるか?」
尋ねながらハルカはピコタローに笑い掛ける。答えは聞かずとも分かっていた。
「勿論!」
そんなハルカ達の会話を、遠い空の先で一匹のポケモンが眺める。
「あっ! ミュウ!」
「えっ!?」
声を上げたトランプに、一同は一斉に空を凝視した。
「どこ!?」
「どこに居る!?」
「ほら! あそこ!」
「だからどこだって!」
「あそこだって! あっ、あー行っちゃった」
「くそー、見えなかったじゃねぇかよー」
「ていうか本当に居たの?」
「トランプの見間違いじゃないですか?」
「ほんとに居たんだってば!」
疑惑の目を向けられるトランプは、無実を証明しようと慌てて狼狽する。その様子がおかしくって、一同は笑い合った。そういえばミュウはテレポートが得意だったなと、頭の片隅に思い出しながら。
「……よし、行くか!」
一頻り笑い終わって、ハルカが踵を返す。
「うん!」
「行こう!」
その後ろをポケモン達が歩く。なにも変わらない、いつも通りの日常だ。これからも、その先も。
「あーなんか腹減ったな」
「じゃあまずは皆でご飯食べに行こっか」
「賛成!」
「なに食べたい?」
「やっぱクチバだし海鮮食べたいよなー」
「お寿司なんてどうです?」
「おっ、良いじゃん! 寿司行こうぜ寿司!」
「良いわね。私も玉子食べたいわ」
「いつも食べてるじゃん」
「おぉぉぉ! 鉄火巻きは全部俺のもんだぁぁぁ!」
「うるさいな! ていうかポルコそんなに鉄火巻き好きだったの!?」
ポケットモンスター、縮めてポケモン。この星の不思議な不思議な生き物。森に、空に、海に、街に、世界の至るところでその姿を見る事が出来る。
ポケモンの数だけの夢があり、ポケモンの数だけの冒険が待っている。