賀陽燐羽世話焼き幼馴染概念   作:たつおのすけ

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閑話 在りし日の夢

『ね、マコ! 曲作ってよ!』

『えぇ……急に呼び出されたかと思ったら、それぇ?』

 

 あぁ、これは夢だ。懐かしい夢。輝かしい夢。そして――女々しい、夢。

 

『でも、りんちゃんだけじゃないんだよね』

『うん。SyngUp! っていうの。どう?』

『……うん、いいんじゃない』

 

 良い、と言っていた真の顔は、私の主観を抜きにしても、本当に良いと思っていたように見えた。

 ……だから、次いで出てきた彼の提案が、未だに解せない。

 

『……条件出していい?』

『えぇー……なに?』

 

 もっと喜んでくれると思っていた。もっと興奮したように、曲を作ってくれると思っていた。

 私は面食らって、拗ねるような声を出してしまったのを、今でも良く、覚えている。

 

『名前は変える。なんか最近、浪川真ってだけで評価されてる気がして、やだ』

『マコが書いてくれるなら、なんでもいい!』

 

 なんだ、大したことない条件だ。そう思った。新進気鋭の天才作曲家、浪川真の名前が欲しかったのではない。大好きなマコの、大好きな曲が欲しかったのだ。

 だから――次の言葉に、私はただ、困惑した。

 

『あと――一回こっきりね。SyngUp! に楽曲を提供するのは、これが最初で最後』

『え……なんで?』

『んー……なんか、浮かばなそうだから』

 

 理由もハッキリしない。……何故、どうして。

 じわじわと、心が黒ずむ。私の中に、不快な黒が纏わりついて、離れてくれない。

 

 ……まぁ、こんな感情になるのは、私が未来をしっているからだけど。当時の私は、不思議なだけで、深くは考えなかったから。

 

『まぁ、いいよ! 約束ね! 絶対曲書いてね!』

『うん。……一個だけなら、すぐ書けるよ。あぁでも、一応レッスンの様子だけ見させて。微調整するから』

『分かった。……手毬も美鈴も、それでいいよね?』

 

 リーダーとして、一応二人にも確認する。二人がどんな返答をしたのか、はっきりとは覚えていないが……手毬は私の決めたことならなんでも良かっただろうし、美鈴は眠たげに、いいですよ、とでも言っていただろう。

 

『決まり! あと……いつでも、約束破ってもいいから』

『……なんで?』

 

 真からしたら、真面目ちゃんだった私のその言葉は、意味が分からなかっただろう。あの時の不思議そうな顔に、くすりとする。

 この時の私は、信じて疑わなかった。こんな約束、きっとすぐに意味なんてなくなる。だって――

 

『――だって、私たち、すごいから! きっとマコも、見てたらいっぱい曲作りたくなるよ!』

『……うん、だといいな』

 

 自信満々の私に、真は小さく笑って――そして約束どおり、二曲目を書くことは、ついぞなかった。

 

 

 

 ――目が覚める。……時刻は六時前。アラームが鳴るよりも、早い。

 

「ハァ……最悪」

 

 アラームを前もって止めて……ガシガシと頭を掻く。

 まさか、今更になって、こんな夢を見るなんて。

 

 ……クローゼットを開く。中には、二つの制服が入っている。

 初星学園、そして、極月学園。……手に取るのは、極月学園の制服だ。何故なら、約束したから。契約したから。黒井さんとの契約を満了するまでは、何があっても、私は極月学園の一員である。

 

「……もう未練なんて、ないわよ」

 

 約束も、契約も、絶対に破ることはない。だって一番破られたくない約束が破られて――一番破られたい約束が、未だに守られている。それなのに、他の約束が破られるなんて、あってはならないことだから。

 

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