賀陽燐羽世話焼き幼馴染概念   作:たつおのすけ

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満ちたのは月か、或いは時か

 多くのアイドルたちが鎬を削り、ファンを奪い合ったN.I.A。長いようで短かった大会も、ついに、決着した。

 月村手毬の優勝。ランキング一位の秦谷美鈴を下し、堂々の一位を勝ち取った。

 そして――優勝ライブが、始まる。

 

「私は約束を果たしました。だからこそ、胸を張って――この曲を、歌います」

 

「聞いてください――『ミチノサキ』」

 

 ……観客席が、どよめく。困惑しているのは、特に月村手毬を、ずっと応援していた人たちだった。彼らが知らない楽曲。即ち――新曲だ。

 セオリーでは、優勝ライブは既存曲。加えて、N.I.Aでは尚更だ。

 

 ファンを奪い合うシステム上、会場は完全なホームなり得ない。だからこそ新曲は、既存のファンを驚かせつつ、しかしファンの間に差をつけない、フラットな魅力を届けられる、渾身の一手。それを温存して大会を優勝して、優勝ライブで披露するなど――前代未聞だろう。

 

 だが、それが月村手毬だ。……彼女ならやりかねない。そんな納得感が、すぐに会場のざわめきを鎮火させた。

 その様子を、一つ頷いた手毬は、息を大きく吸って――歌い始める。

 

 それは、月の曲だった。太陽の光を反射して光る月は、新月から半月、そしてついには、満月へと進んでいく。

 しかし、そこから月は翳りを見せる。太陽が、沈んでいってしまうから。……でも、月は、それを認めない。

 

 太陽が翳るなら、自分が光ってしまえば良い。一歩、踏み出す。……あぁそうか。

 道の先。未知の先。そして――満ちの、その先。()()()の考えそうな、トリプルミーニングだ。……会場で見ていた賀陽燐羽は、思わず歯軋りをした。

 

 随分と、挑発的な曲だ。言いたいことは分かってる。もう、月村手毬は一人で歩けるのだと、賀陽燐羽に照らされる必要など無いのだと、声高に主張している。何より――この曲調。暖かで、甘く、どこかが微かに寂しい。否応なく、アイツの曲だと分からされる曲調が、燐羽の神経を逆撫でした。

 

「ありがとう……ございましたっ!」

 

 いつの間にか、曲が終わっている。会場は熱狂の渦に包まれ、皆、拍手をしながら、感動を声に変えている。その中で、たった一人。賀陽燐羽だけが――静かに、どこかへ向かって歩き出していた。

 

 

 

「どういうつもり?」

「ひっ……ど、どういうって、なにが……!」

 

 真っ先に燐羽が向かったのは、手毬の控え室だ。顔は知られているし、優勝のお祝いの一言を、と言えば、すんなり通して貰えた。

 

「しらばっくれないで。なんでアンタが、アイツの曲を歌ってるの」

「だ、だって、歌えって言われたから。私は別に、もう燐羽がアイドル戻るって聞いたから、終わりで良かったんだけど……まぁ、折角約束果たしたし、新曲だし、歌っちゃおうかなって……」

「はぁ?」

 

 聞き捨てならない。どちらにせよ、彼が曲を書いた結果は変わらないが――過程は変わる。どちらから、打診したのか。それによって、燐羽にとっての印象は、大きく異なった。

 

「アンタから頼んだんじゃないわけ?」

「う、うん。……ですよね、プロデューサー!」

「はい、その件に関しては、浪川真さん側から、提案されまして……」

「……本当、なのね」

 

 彼らが嘘を吐くとは思えない。特に、すぐさまプロデューサーの陰に逃げ込んだ手毬は、誤魔化すなんて選択肢、思いついてもいないだろう。

 

「アンタまで、破るんだ」

 

 ぽつり。誰に言うでもなく、彼女は震える声で呟く。その顔は、怒りとも、悲しみとも取れない――しかし、どこか泣きそうな顔だった。

 

「……邪魔したわね」

「り、りんは……」

「なに?」

「なっ――なんでもない……」

 

 呼び止めようとした手毬を、燐羽は視線だけで制すと、静かに歩き出した。向かう先は――既に、決まっている。

 

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