──人はどうして戦うのだろう。
誰かに必要とされるためか、自分を証明するためか。
それとも、ただそこにしか自分の居場所がないと思い込んでいるからか。
IS学園での日々は、刻一刻と進んでいく。
演習、訓練、そして数々の対抗戦。彼女らは、まるでそれが楽しいかのように活き活きとしている。自分が主人公なのだと決して疑わないその力強い姿は、少しだけ、羨ましい。
平凡を望んでいたはずの僕も、世界で二人目の男性IS操縦者というだけで、舞台の真ん中に立たされてしまった。
──望んでなんか、いなかったのに。
***
その日、僕とセシリアはペアを組んで対抗戦に出場していた。
対戦相手は、フランス代表候補生のシャルロット・デュノアとドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒだ。
セシリアは、冷静に機体を操作し、華麗に、けれど執拗に、相手の死角をついていく。
彼女の専用機であるブルーティアーズもそれに応えるように動いている。
彼女の戦い方は、洗練されていて、隙がなくて、でもどこか──痛々しかった。
「セシリア……」
僕は、彼女の動きを見つめながら、胸の奥がぎゅっと締めつけられるのを感じていた。
まるで自分に勝たせる隙を与えないかのように、彼女は必死だった。
──そんなに、強くあろうとしなくていいのに。
僕はそう思った。
けれど、彼女の目は、迷いがなく、まっすぐで、鋭かった。
「私は…負けられない」
試合が終わったあと、彼女はそう言った。
その言葉が、僕の心のどこかに引っかかっていた。
「……セシリア、どうして……そんなふうに戦うんだ?」
思わず、僕はプライベート通信で彼女に問いかけた。
「私……」
彼女は一瞬だけ、ためらったように見えた。
「私が弱いって、誰にも思われたくないから」
「誰にも……?」
「貴方にも」
「……」
「貴方には……私のこと、強い人だって思っていてほしい。だって、私……貴方に、恥ずかしいところなんて見せたくないもの」
彼女は、いつも毅然としていた。誇りをもってイギリスの代表候補生、そしてセシリア・オルコットであることを止めようとしない。
クラスの誰よりもプライドが高く、誰よりも完璧を目指していた。
でも、本当は──
「ねえ、セシリア……それって、君のため?」
「……どういう意味?」
「……君が戦っているのは、誰かに認められるため? それとも、自分のため?」
彼女は、少しだけ沈黙した。
通信の向こうで、かすかに息を飲む音が聞こえた気がした。
「私……」
彼女の声が震えていた。
「私ね……子どもの頃、家が狙われて……」
その言葉に、僕の心は、静かにざわめいた。
「爆破テロでしたわ。……母の仕事の関係で、私たち家族が標的になった」
彼女の声は、淡々としているようで、でも確かに揺れていた。
「その日、私はひとりで迷子になって、たまたまテロには巻き込まれなかった。でも、両親は…」
通信の向こうで、雨の音がしたように感じた。
「助かりませんでした。ほんとうに、あっけなく」
僕は、何も言えなかった。
「私だけが……生き残った。誰も私を責めなかったけれど、私はずっと……自分を責めていた」
──どうして、私だけが。私も一緒に…。
「その日ね、私……ひとりで泣いていたときに、男の子に出会ったの」
彼女は、静かに続けた。
「その子は、私に青い薔薇のブローチをくれて……大丈夫だよ、って言ってくれた。……私、そのとき初めて、ほんとうに救われた気がした」
彼女の声は、しだいに掠れていった。
「私……その子みたいに、誰かを助けられる人になりたかった。……誰にも弱いって思われない人になりたかったの」
──あの日の、青い日。
僕の記憶と、彼女の記憶が、静かに重なっていく。
強かな彼女はいなく、ありのままの言葉を放つ彼女はいつか見た彼女のようだった。
「……セシリア、君はもう、十分に強いよ」
「……」
「でも、強いだけじゃなくていい。君が、弱さを見せてもいい相手が……もしここにいるなら」
言いかけて、僕は言葉を飲み込んだ。
怖かった。
──もし、僕じゃなかったらどうしよう。
でも、彼女は小さく微笑んだ。
「……ありがとう」
たぶん、この時僕たちは、ほんの少しだけ、昔の二人に戻っていた。
あの日の、雨の中で、青い薔薇のブローチを渡した少年と。
あの日の、迷子だった少女と。
僕は、まだあの青い日を、忘れていない。
そして、きっと──彼女も。