私は、ずっと彼女を見てきた。
小さな頃から、いつも一人で、けれど誰よりも強くあろうとする、彼女の背中を。
──セシリア・オルコット様。
オルコット家のご令嬢であり、現在はイギリス代表候補生。
周囲からは気高く、誇り高いお嬢様として見られている。
けれど、その誇りは、ほんとうは彼女自身を縛り続けてきた鎖だったのだ。
***
あの爆破テロの日、私はオルコット家をお守りすることができなかった。
屋敷が崩れ、セシリア様の家族が失われたあの日。
ただ、私は遠くから駆け寄ることしかできなかった。
まだ幼かったお嬢様は、血の気の失せた顔で、ぼんやりと青い空を見上げていた。
震える肩にそっと手を置いても、彼女は私の方を見なかった。
──私は、あのとき、彼女の隣にいなかった。
あの日の私の失敗は、私の人生のすべてになった。
だから私は誓った。
二度と彼女を一人にしないと。
彼女がどんなに強がっても、その強さの裏側を、私は見逃さないと。
***
成長したお嬢様は、美しく、気高く、誰よりも負けず嫌いになっていた。
私のような身分の者にも、きちんと名前で呼びかけてくれる優しい方だったけれど──いつしか彼女は、孤独を隠すのがうまくなっていた。
まるで、その在り方こそが、セシリア・オルコットであると周りに知らしめるかのように。
「チェルシー、私は、負けないのよ」
そう言う笑顔は、あの日のままだった。
私には分かっていた。
彼女は、今でもあの爆発音を、あの焦げた匂いを、両親を失った痛みを、心の奥でずっと引きずっているのだと。
──いつかの日、ブローチをくれた少年の話を、お嬢様はたまに口にした。
「私ね、いつか、あの人にまた会える気がするの」
そう語る瞳は、まるで少女のように、どこか遠くを見ていた。
***
ある日、学園から送られてきた写真に、一人の少年が写っていた。
セシリア様の隣で、静かに微笑んでいる黒髪の少年。
──ああ、この方なのだと、私は直感した。
私たちの知らないところで、彼女は、ようやく自分の過去と向き合い始めたのだと。
お嬢様が、泣くことを許された相手。
お嬢様が、ようやく心を預けられる誰か。
私が、ずっと見守ってきたものの、最終的には与えてあげられなかった、優しい居場所。
***
きっと、私は、彼女の「大切な人」にはなれない。
私は、彼女のメイドであり、影であり、彼女の人生においてはほんの脇役なのだ。
だけど、それでいい。
私は、これからも彼女を見守り続ける。
彼女が、自分自身で幸せを選べるように。
彼女が、泣いて、笑って、誰かを愛して──そんな、あたりまえの日々を歩いていけるように。
──私は、ずっと、貴方の味方です、お嬢様。
貴方が見上げる青い空の、そのずっと下で、私は今日も貴方を見守っています。