創世神の友創り *強者求むる   作:永射氷

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3 邪神の品物/創世神?の設定

「私がハストプルウに関する品物を持っているって言えば、研究チーム……彼らの興味は惹けるかも知れないね?」

「さっすがー! そんなものまで集めてるなんて古物屋の鑑だね!」

 

 もちろん、そんな都合のいい事はない。持っている事にしただけだ。再現して、店の倉庫に置いて……と。本物はもう無くなっているから、なんの問題もないだろう。

 

 かの邪神は以前、人間に魔道具を作り与えたことがあった。

 確か……瞳を褒められたのにたいそう喜び、贈り物をしたくなったのだったか。何が欲しいか聞いたところ、魔道具を要求されたのだ。その願いに応えるべく、作ったこともない魔道具作りに挑戦。凝り性が発動し、納得ゆくものができるまで10年の時間を要したが無事完成させた。

 それは風を吹かせて周りを知るランタン。その道具の名は『通り風』。

 魔力を流すと風が放たれ、その風が届く限りの物体の形を把握することができる。つまり、周りの地形の立体図を知れるということだ。知れる範囲については込める魔力の量によって調整できる。自分の周りに何があるか誰がいるか瞬時に把握することができるため、危険な地へ行く際には大いに役立つ代物だ。

 方向音痴でも道に迷わなくなるし、盲人には目の代わりになる。ドアの隙間や小さな穴、換気扇など風が通れる先にある物なら把握できるこの道具はスパイ活動にも最適であると言えるだろう。

 だが、貰った人間は早々に魔族に売り払ったみたいだ。その後も沢山の人の手に売られ譲られ奪われ渡ったが、最後の持ち主の死亡によって森の中に取り残されそのまま壊れ朽ちた。

 過去の持ち主達はこれを十二分に扱えなかったらしい。こんなに便利なのに何故かって? ひとえに情報量が多すぎたせいだ。地形をおおまかに把握できる、なんてものじゃない。風が届く範囲は()()に把握できるのだ。樹木に成っている数百枚の葉っぱ、そのふちのギザギザや葉脈の凹凸に至るまでまさに完璧に造形を知れてしまう。風を自身の触覚として扱うからこそ得られる情報量なのだが……あまりの膨大さにクラッと来てしまうのだ。多用すると頭痛や眩暈を引き起こすという副作用があるため、数分から数十分時間をおいて使うべきだ。

 まあつまり、盲目の人間がランタンを常に発動させて目の代わりにする、なんて使い方はできない。便利なようでいて制約が大きい道具だからこそ、売られに売られたわけだ。

 最後の持ち主の死にざまはなんともあっけないものだった。危険生物を木々の先に目視できたので、頭数の把握や逃走経路の確認のために『通り風』を発動したところ、強烈な立ち眩みに襲われ呻きながらその場に倒れこんでしまったのだ。結果相手方に気づかれてしまい、捕食された。何もせずじっとしていた方が助かったかもしれない。無念な最期である。

 最後の持ち主が死んだ森。あそこの近くには行ったことがあるから、その時に拾ったことにしよう。外国に出向いて仕入れをすることは私にとってはよくあることだ。怪しまれやしないだろう。

 ちなみに、ハストプルウの瞳を褒めた人間は一帯の村々から救世主扱いされた。魔道具作りに熱中している10年の間は周りに出歩く事はなかったためだ。人間を気まぐれに守ってやることもあった彼の神だが、おおむね厄介者扱いされていた。

 

「なるほど、『通り風』。面白い道具だねえ。効果は大きい、デメリットも大きい! まさに邪神の品物ってかんじ!」

「では、上手い具合に私のこと説明しといてくれよ。あちらにコンタクトを取ることさえできれば、研究に一噛みできる公算はあるんだ」

「そしたらアタシにもコッソリ教えてくれるよねー?」

「もちろんだとも」

 

 お互いに悪い顔で笑う。幼馴染の悪友って、こういう時に便利だよな。

 

 

 メイナと別れ、なんともなしに道を歩く。話がつくまで時間がかかるだろうし、それまでどうしていようか? 同業の店に冷やかしに行くのもありだが、クウトチカを調べてみるのもよさそうだ。しかし、あの布教隊長はまだカーワの街にいることだろう。次の馬車はもう少し先であるし、私のように走ってやってくるわけはない。今王都にいる同志は、活動拠点を用意し下準備を整えている少数の人間だけらしい。幸いなことに場所は教えてもらっていたので一度訪ねてみようか。

 

 人の往来が多くも少なくもない通りに堂々と立つ2階建ての建物。手前に立っている看板には『クウト教会』の文字。緑に塗られた両開きの扉、その両隣には五角の形をした広い窓が設けられている。カーテンは垂れておらず、中を確認できるようになっている。三角屋根の天辺には羽の生えた魚の風向計が立っている。風見鶏ならぬ風見トビウオである。1階部分の天井は高めに作られており、なかなか立派なものだ。この立地にこれほどの建物を拵えるとは、金回りは悪くないと見た。

 中に人の気配が3つ。アポのない客など迷惑かもしれないが、布教隊の到着が遅れているのだからきっと暇に違いない。トビウオの形をしたドアノッカーを叩くと、キンと金属的な音が響く。

 応対に出てきた壮年の男性はにこやかな顔であいさつをしてくれた。

 

「こんにちは。私はセクモ・アメワリと申します。ハナさんからここを教えてもらいやってきました。こちらの教義についてお話を聞きたいのですが今お時間大丈夫ですかな?」

「おお、ハナさんのご紹介ですか! わたくしはミゾウと申します。どうぞ中へお入りください。興味を持ってもらえるのはこちらとしても嬉しい限りでございます」

 

 長テーブルと椅子が並んでいる1階部分を通り過ぎ、2階の応接室へと案内される。飲み物と茶菓子を用意してもらったが、この茶菓子もなんとトビウオの形をしていた。

 

「ありがとう。しゃれたお菓子ですね。いただきます」

「これはですね、この世をお創りになったクウトチカ様の姿を象ったのですよ。そうだ、クウト教についてはどこまでお聞きに?」

「祈りを捧げよき行いをすれば楽園に行ける、とだけ」

「そう! その事実が一番重要なのですよ。今までは死すればみな試練をこなさなければなりませんでした。この試練とは生半可なものではありません。大変な苦行であります。生前の行動が良きものであればこの試練を免除してもよいとクウトチカ様はおっしゃいました」

「それはそれは、魅力的ですが。気になるところが」

「なんですかな?」

「そもそもがなぜ、そのような試練を設けたので?」

 

 真に強い精神を創り出す、そのために試練を設けたのだが。クウトチカは果たしてどう説明しているのかね。

 

「世界を存続させるための礎となる存在を育てるためです。まずはこの世の成り立ちから説明いたしましょう。クウトチカ様は世界を創り、星を創り、我らを創ってくださった。そしてありとあらゆる生命に魔力をお与えになった。が、これに大きく力を使ってしまったために、その後の世界の運営が困難になってしまったのです。世界の罅を直し、澱を流し、ズレを戻す。おひとりで全てこなすことは出来ませんでした」

 

 冊子を取り出し、絵を指し示しながら説明をしてくれる。宇宙や星、さまざまな種族の絵が乗っており、今話している内容の文が挿し込まれている。これは布教誌として配るのだろうか。

 

「そこで、自分と同等の存在を創るために試練を設けられたのです。助手となって世界の運営を共に行える存在を求めておられました」

「同等の存在……その試練を乗り越えれば神になれると?」

「ええその通り! 見事乗り越え、クウトチカ様と同じ視座に立つことのできる者が複数現れました」

 

 まーったく。そんな簡単に乗り越えてくれたならこんな苦労してないぜ。

 

「助手を無事手に入れ、世界の運営は安定したということですか?」

「いいえ、まだ不安定です。骨組みを強化し安定した居所にするには、これまた多量の魔力が必要なのです」

「世界を存続させるために、魔力が必要……?」

「ええ。クウトチカ様と今いる助手の方々だけでは安定には足りません。ですので、試練を撤廃して助手創りをやめるわけにもいかないのです。今はまだ」

 

 なるほどもっともらしい理由であるな。

 試練があるのは世界のため。試練を超えれば神になれる。そのような考察は大昔からあるものであるし、人々から受け入れられ易いだろう。

 

「うーん、それならやはり試練は必要という結論になりますね? なぜ免除してよいと心変わりなさったのかな?」

「余裕……ですな。助手の神様方は増えました。魔力を都合する方法もいくつかございます。クウトチカ様のために良き働きをする方になら、お慈悲を与える余裕ができたのですよ」

 

 ミゾウはグイと身を乗り出し、私の目を見据えた。

 

「あなただけではありません。あなたの親御さんやお子さんの受ける試練も、働き如何によっては免除していただけますぞ」

「たいへん……たいへんに興味がそそられるお話でしたが、まず……今のが本当の話かどうかが、私には判断できない。創世神だとか、世界がどうとか。私だけでなくここへやってきた全ての人間が疑念を持つでしょう。なにか証明する手立てがおありなのか?」

「ええ、そうでしょうな。最初から信じてもらえるとは思っておりませんです。証明する手立てはございますが、簡単なものではありませんのですぐにとはいきません。クウトチカ様に認められた者にだけ真実の鏡は差し出されるのです」

 

 聞いたこともない神の名前に、根拠のない神話。そして証明はできない、と。さすがに怪しすぎるだろう。はたしてこれで布教が成功するのだろうか、他人事ながら心配になる。

 

「我々の考えに賛同してもらわずとも構いません。ただ、我々を見ていただきたい。善き行いをクウトチカ様に捧げるところを、彼の神がお優しい神であると我々が証明するところを見ていただきたい。あなたの信用を得られるよう努力いたしますのでな」

 

 物腰柔らかでいて、信念のある強い眼差しを受け私は頷いた。少なくとも、王都へ出てこれる程度の組織力はあるようだし上手くやる自信があるのだろう。無用な心配かもしれないな。

 

「では、あなた方の行い見させていただく。これから長い付き合いになりそうだと私の勘が言っていますよ。どうぞよろしく、ね」

 

 お互い微笑み合い、茶をすすり一息つく。

 

「ハナさんがこちらへ着いたらまた、顔を出させてください」

「ええ! 大歓迎です。しかしなにやら賊の襲撃にあったと魔通が届きまして、無事だそうですが到着が遅れるようなのです。いつお着きになるかは定かではないのですな。魔通番号を教えていただけるなら彼女が来た時に一言送りますぞ」

「おお! 感謝します。ありがとう。ではこれを」

 

 魔通とは電報のようなものだ。各地に魔通局があり、魔通局間でメッセージのやり取りができる。局へ行き送り先の番号あるいは住所を伝えると、メッセージを届けてくれる。魔通受け取り専用の魔道具、魔通録。これがなければ住所に配達されるし、あれば魔通録へ直接届けられる。

 ちなみに、電報はこの星ではまだ開発されていない。とある星では魔法も科学も高い水準で発展しているのだが……あの域に達するにはまだ時代を経る必要がありそうだ。

 

 番号を教え、しばらく談笑をしてからクウト教会を後にした。この教団がこれから何を行うのか、楽しみで仕方ない。いつかはクウトチカに直接会ってみたいものだ。

 

 陽は傾き、暖かい色に空が移り変わってゆく。塔の陰に隠れるころになると、通りに一定間隔に設置されている魔灯がともりだす。大きな通りには例外なく魔灯が立っているため、王都の夜道はとても歩きやすい。

 今日の活動はこれくらいでいいだろう。適当なところで夕飯を食べ、宿へ帰ろうか。

 

「やあ、お嬢さん。ごきげんよう。失礼、君があんまりにも美しいから、輝石(キセキ)へ群がるヒカリエのように私も惹かれてしまったよ。どうかな、お食事でも。あなたを満腹にする権利を私にいただけないかな」

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