夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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やあ、君が新しい狩人かね

本作はヒロアカ×ブラボのクロス作品です。
ヒロアカ1話を見てからだと状況はイメージしやすいはず。


プロローグ
夢の始まり


人は生まれながらに平等じゃない。

これが、齢11歳にして知った。世界の現実。

 

俺が、『狩峰淡輝(かりみねあわき)』が向き合うことになった、夢みたいな現実の話だ。

 

ことの始まりは中国、()()市。そこで発光する赤子が生まれたというニュースだった。

 

以降各地で『超常』は発見され続け、原因不明のまま時は流れる。超常さえ起きなければ、今頃は恒星間旅行でも楽しんでいただろうと言う科学者もいる。

 

たらればの話は意味がない。

いつしか()()()()に。

 

 

架空(ゆめ)』は現実に!!!

 

 

人類の八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在。混乱渦巻く世の中で。

 

かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が脚光を浴び……

 

そして今、その存在意義を問われていた。

 

 

 

来るんじゃね〜!!!

 

 

 

轟音と共に巨大な異形が、ささやかな日常を踏みつぶす。

 

広告が軒を連ねるビジネス街。そこに通っている高架線路には本来あり得ないはずの巨影があった。駅のホームから降りて線路上で暴れ始めたのだろう。彼が振りかぶり、腕を振るえば送電線が折れて落ちる。

 

 

その騒ぎを見ていた野次馬たちは十分に距離をとっているが、それでも火花を散らしながら落ちる鉄塔に足がすくんでもおかしくない。

 

あれが落ちれば道路はめちゃくちゃになる。そんな惨状が起きる寸前、その場所へと駆け込んできたのは良い体格をした常人離れした男である。

 

「パンチングヒーロー!!デステゴロだ!」

 

「腕っぷし一つで正義を貫く、パンチングヒーローだぜおい!」

 

凄まじい重量であろうに、落ちてきたそれを受け止めると周囲の喝采が彼を説明してくれる。

 

すると別の声が湧き上がる歓声に優しく水をかけるように語りかけ、その熱を抑えるように諭してくれる。

 

「はいはい。一応危険だからね。下がって下がって」

 

消防士のような、消火栓のような見た目の格好からまるで柵のように水を出して空間に留めている。両手を広げて観衆を押し留め、市民がこれ以上近づかないように抑えてくれていた。

 

 

「災害救助のスペシャリスト。バックドラフトもキタぁ!」

 

それぞれ名の通ったヒーローが集まることで人々は安心していく。目の前で7mはあろうかという巨体が暴れていてもその表情に不安はない。

 

「それにしても怪物化か?あれ。すげぇ個性だ」

 

「何やらかしたん?」

 

「ひったくり。追い詰められて暴れたんだと」

 

「あの個性でひったくりって……」

 

元から知り合いでもない者たちがこれを機に気軽に話し合う。まるでこの事件が日常の如く。

 

「すみません!駅でヴィラン犯罪が……はい。電車が止まりまして!ええ、はい。それはもう。ただ、はいすみません。会社に着くのはいつになるやら……」

 

そんな連絡をするサラリーマンの頭上を凄まじい速度で飛んでいく影がある。

遠目に見ていればわかったのだろう。キャー!という危険を全く感じない黄色い悲鳴が街へと響いた。

 

「「「がんばって〜!カムイ〜〜!!」」」

 

全身を濃紺のスーツに包み、木目の腕をぶら下げた男が軽やかに跳躍そのまま2階以上の高さを飛んで今まさに暴れている男の元へと駆けつけた。頭部も木目であり、それが兜のように顔を覆い隠している。

 

それは武士のように、いや忍者のようにも見えるのだった。

 

怪物と化したひったくりに着地を狙われるも、軽やかに回避。

 

「来るんじゃねぇって言ってんだろうが!!」

 

叫び散らす巨体は焦りを隠せていない。

 

観衆の中から、一人のボサボサ頭の少年が顔を出した。学ランを着込んだ中学生。手にはノートを手にして目を輝かせている。

 

「誰、たたかってます!?」

 

その声と同時に、再度振るわれる拳を忍者のような男は、腕を植物のように伸ばして遠くの支柱を掌握。同時に腕を縮めることで、高速移動しその攻撃を余裕を持って避け切った。

 

「シンリンカムイ!人気急上昇の若手実力派!」

 

誰に答えられるまでもなく、少年は語り始める。その姿は当然知っているのだ。

 

「聞いといて解説か兄ちゃん。オタクだな!」

 

横にいたおじさんの頭部には星が生えたような形状になっている。指さしをされつつも好意的なツッコミをしてもらえた。

 

「あ……いや……へへへっ!」

 

そうこうしている間にも、攻防は加速し激化しているようだった。

 

「通勤時間帯に能力違法行使および強盗致傷。まさに邪悪の権化よ」

 

そう言ってシンリンカムイが手を前に構えると。その腕は何かを溜め込むようにうねっていた。

 

「あ!出ますよ!」

 

「一発派手に見せろよ!樹木マン!」

 

少年は笑顔でその先の展開を予想する。周囲の人々もクライマックスだと盛り上がっている。

 

ここまでくれば勝利は確実だ。

 

「先制! 必縛! ウルシ鎖牢!!!」

 

その腕から迸る樹木の網が巨体を覆うほどに迸る。いくつも枝分かれしたそれを避けることなど決してできない。

 

「くっそ!!チクショウ!!ふざ、ふざけんじゃねえ!!!」

 

体に巻き付く樹木の拘束は巨人のような男の力でも引きちぎることはできないらしい。どんどんと拘束され、そして逃げられなくなっている。

 

「こんなとこで、捕まってたまるかヨォ!!!」

 

するとその姿が、一瞬で消える。いや、縮んだ!!

 

凄まじい負担なのだろう。しかし、捕縛を抜け出し即座に巨大化するも息も絶え絶えに先の半分ほどの大きさにしか戻れていない。3mほどの大きさになって高架下へと転がり落ちる。

 

「いやだ!捕まってたまるか!もう、逃げるには、これしかっ!!!」

 

血走った目には一切の理性が映っておらず、視線の先には獲物のように震える小柄な女性の姿があった。リスのような尻尾と耳がついている女性は買い物帰りだったのか、エコバッグに入れた食材を地面に落として腰を抜かしていた。

 

その女性を掴み、そして逃げてやろうとした時に誰よりも切迫した声がした。

 

「っそれだけは!ダメでしょうがっ!!」

 

先の異形を超える巨体が、高架下を潜り抜けるようにスライディングで乱入。それを見た人々の感想は巨大な列車、いや新幹線が突っ込んできたような光景というもの。

10mはゆうに超えると思えるその姿が、あまりに速く滑り込み3mぽっちの小柄な男を跳ね飛ばした。

 

それをしたのは全身をぴっちりとしたスーツで覆った巨大な女性。扇情的にも見えるその姿を知っているものはいない。

 

「ああ、もう!なんてこと!キャニオンカノンね。今の技名!全く、初日だってのに……」

 

彼女は冷や汗をかきつつ、どうにか救えた女性を避難誘導する。たらりと頬を伝う汗が地面に落ちると、バッシャンという汗とは思えない音が響いた。

 

「えーおほん。改めまして!本日デビューと相成りました。Mt.(マウント)レディと申します」

 

ゆっくりと立ち上がりつつ、完全にノビている暴漢を抑えて言った。努めてはんなりと女性らしく優美な調子を込めている。

 

とはいえ先ほどの悪態を聞かなかったことにはできないが……

 

 

「「「「キタコレ。キタコレ。キタコレ。キタコレ」」」」

 

どうやらどうでもいいらしい。カメラを持った集団がどこからともなく発生し、まるで一つの生き物のように動いている。

 

彼女が手をかざすだけで壁になり、歩くだけで地面が揺れる。それと同時に胸も揺れていたのだが、それを激写するのはいつの間にか現れた強制ローアングラーたち。

 

彼女を撮るならば下から以外のアングルは無理というものだから仕方ない。

 

ヴィランの横暴。ヒーローの活躍。聴衆の喝采。そんな超常の光景はすでに、この日本の日常になって久しい。

 

ヒーロー活動。それは誰が始めたのかも定かではない。

超常に伴い爆発的に増えた犯罪件数。法の抜本的改正に国がもたつく間、勇気ある人々がコミックさながらにヒーロー活動を始めた。

 

超常への警備。悪意からの防衛。たちまち市民権を得たヒーローは、世論に押される形で公的職務へと収まった。彼らは活躍に応じて与えられていた。国から収入を、人々から名声を。そんな風にこの日本という国は成り立っていたのだ。

 

たった5年前まではそうだった。

 

今ここで歓声を上げている者たちは気づかない。それが誰が作ったもので、誰が打ち砕いたのかも彼らは決して知らない。

 

 

それを他の誰とも異なる視点で見る人間が二人いた。彼らはその内情を知っている。それどころかその仕組みを世間に知られず壊した張本人ですらある。

 

一人は中学生だ。そのブレザーが所属を教えてくれている。

 

長すぎない黒髪は艶があり、そこそこの毛量があるが整えられている。理知的な目は青色で事件の光景を興味なさげに眺めていた。整った顔立ちではるが、皮膚の色や異形のパーツは一つもなく、ここまで特徴的なものがないというのはこの世代では少し珍しい。

 

けれどわかる人にはわかるはずだ。プロヒーロー、ミッドナイトに息子がいるならばこんな容姿だろうという想像をできる程度には彼女に似ている。

 

ミッドナイトに子供はいないが、彼は甥っ子としてその面影を色濃く残している。

 

もう一人は、長身金髪で痩せた男であり。ブカブカの服を着て咳き込んでいる。

中学生と大きめの病人。そんな出立ちの二人である。彼らは目の前の事件に対して興奮した様子はない。

 

「抑えてくださいよ?流石に。分かってますよね?」

 

「んん〜いやしかし、今のは無事だったから良かったけれどね。彼女がいなかったなら私は……」

 

「彼女がダメならバックドラフトが対応してました!大丈夫ですよ。というか俺がいるんですから、この状況でたらればなんてあり得ません。安心してくださいって」

 

「前から言っているが、その力は……」

 

「こちらこそですよ!前から言ってますけど、俺は全力でやります。これはサーの指示でもあるし。あなたが手を抜かない内は、自分も手は抜きません。俺を休めるためにも休暇が欲しくなりました?それなら歓迎ですけどね」

 

痩せ細った彼はまだ言いたいことがあるらしく、論戦を構えようとしていた。けれどどうやらこの場では中学生が主導権を握っているようだった。

 

「ほら、そろそろ行かないと銀行強盗はあと7分後ですよ」

 

「人に任せろと言った直後に、今度は私が行けと言う。まぁ言われなくても行くけども。まだ、話は終わってないからね?後で話そう。狩峰少年」

 

そう言って裏路地へと向かう病人のような男は、人々の視界から消えていく。

 

痩せた男を誰も覚えてなどいないだろう。その後に颯爽と現れた世界最高のヒーローの姿しか誰も見ていないのだから。

 

そんな世界を中学生が睨みつけている。強い想いを宿した目で少年はその光景をただ見ていた。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

その中学生、狩峰淡輝はこの後何が起こるか知っていた。

だから彼を向かわせたし、それで良いはずだ。あのヴィランには付近のヒーローでは対応できないだろうから。

 

しかし、ここから先は初見だ。この商店街で起きている騒ぎの理由は知らない。彼が動いたことで羽目を外した馬鹿でも出たのだろうか。

 

だから自分の好奇心に従って事件の方へと足を伸ばす。何かを知ったり、初めて見たものを拾ったりするのは昔から大好きだったから。

 

先ほどの事件現場からそう遠くない商店街。事件から1時間も経たないうちに先ほどのような人だかりが出来ている。いいや、先ほどより混沌としているようで、現場からは何かが燃えるような炎があがり、中心には不定形の何かがいる。

 

いやはや、どうしてこうなった?あいつが銀行強盗を起こすことは知っていたが、彼の介入でまさかこんな風になるとは。狩峰少年と言われた人物は呆れたように野次馬たちとそれを眺めている。

 

というか彼から逃げ切ったのか?一体何が起きればそうなる?

 

思考に沈んでいると、そのヘドロの中から別の若者の叫び声が聞こえてくる。

 

「こんなドブ男にぃ!俺が飲まれるかああああ!」

 

 

「人質!?」

 

「嘘だろ!?」

 

「中学生じゃねーか!おい、どうする」

 

 

金髪がツンツンと立っている目つきの悪い中学生が、ヘドロ状の何かに巻き付かれている光景が現れた。爆発する泥のような敵だと観衆が思っていたのそれは、爆発する個性を持った少年に絡みつく敵だったのだ。

 

うわ。やったなこいつ。

 

狩峰淡輝から見ればおそらく同級生であろう少年が苦悶の表情でその体を乗っ取られようとしているというのに、そこには恐怖も同情心もない。野次馬精神や嗜虐心の類すら一切ない。

 

ああ、この周囲の炎は彼由来だったのか。なんて納得をしながらそれを見ていた。どうなるのかもっと知りたいなんて思いながら見守っている。

 

集まってきたヒーローたちは手出しできないでいる。

巨大なマウントレディは二車線以上の道路でなければ活動できず、シンリンカムイは爆炎系が苦手であると人命救助へ。

 

物理的な攻撃は効かないらしく、他のヒーローも消火に人手を割かれている。

 

「ていうか嘘だろ!!?あいつ人質取ったのか!?()()()を知らねぇのか?それとも自殺志願者かよ!」

 

「今月、ていうか先月含めて初じゃねーの?ここにいたら流石にやばくね?」

 

野次馬たちが、異常事態に気付いて逃げ出し始める。

これは先ほどの娯楽のような事件ではない。人質を取るなんて!そう口々に呟いて離れ出し小規模なパニックが起き始める。

 

そんなことをすればどうなるのか。

よほどの常識はずれか、外国から来たのでもなければ日本国民はこの半年で嫌というほど知っていた。

 

 

野次馬たちが逃げる中、淡輝はそこで立ち尽くしている長身で痩身の男を見つけた。

 

咳き込み吐血する彼は悔しそうにその光景を見ている。ああ、もう活動限界なのか。

 

予定では彼はまだ動けるはずなのだが、どうせ内緒で人助けしたのだろう。また小言を言わなきゃいけないな。

 

だが彼も知っている。自分の判断ミスが何を生み出すのか、痛いほど知っているはずだ。

 

具体的にいえばあと長くとも3分以内にこの敵は死ぬと()()()()()()は知っている。彼だけではない。観客も人質になった少年もそれは知っているだろう。

 

だからこそ観客は逃げているし、人質の少年は必死に抵抗しているし。オールマイトは血が滲むほど歯を食いしばり、握った拳からも血が垂れるほど激情を堪えているのだろう。

 

オールマイトだって最強無敵の万能なんかじゃない。誰かを助けるということは、誰かを見捨てることと同義なのだ。

 

けれどそれは最悪じゃない。

彼が動かなくても大丈夫なようにするためにこの5年でこの社会をここまで変えてのけたのだから。

 

この後の展開を彼は知らないが推測はできる。犯罪者は死ぬ。人質の彼が無事であることを祈るだけだ。まぁそれにどうせこの状況ならばオールマイトは我慢できない。

 

そう思った時、パニックになりかけている群衆をかき分けて、それに逆らい爆発が頻発するその敵のど真ん中を目指して駆け出した人影があった。

 

 

 

「バカやろう!止まれ止まれ!!」

 

周囲のヒーローの制止も虚しく、中学生が飛び出して止まらない。

 

恐怖に駆られながらも、人質となった中学生と同じ学ランを着た少年が必死に迫る。

それに迎撃の様子を見せたヘドロの怪物に、周囲で悲鳴が上がる。誰もがその先の惨状を予見した。

 

しかし彼は、背負っていた鞄を投げつけると運よくその荷物が敵の目にぶつかり惨劇は少しだけ後回しにされたようだ。

 

 

「うおお!?このっ!!」

 

その隙に、彼は必死でヘドロを掻き分けておそらく友人であろう同級生を救おうとしている。

 

「かっちゃん!!」

 

いやしかしすごいな。きっとすごく仲が良いのだろう。命をかけることができるほどに。

 

だが先ほど武闘派ヒーローが全力で殴ってもほとんど散らばることがなかったのだから、非力な中学生にできることなどあるはずもない。

 

「無駄死にだ!自殺志願かよ!!」

 

急ぎ救おうとするヒーローたちも間に合いそうにない。

 

「っんで!てめぇが……」

 

「わかんないよ!!!でも!でも!! 君が……助けを求める顔してたっ……」

 

そして人を簡単に潰せる不定形の腕が振り下ろされる瞬間に、それは起きた。

 

ガン!という硬質な衝撃音が響く。

 

実は音が二つ響いたことを聞き分けられたのは、この場ではシンリンカムイくらいだろうか。

 

そこにいるのは2m近い巨体の男。

 

美術館にある彫像のような完璧な筋肉と、コミックのような盛大な笑顔が絶えない彼を知らないものなど存在しない。

 

筋骨隆々な左手で敵の一撃を防ぐと、相手は身じろぎ一つ取れないようだった。

 

そして大木のように太く雄々しい右腕は肘から先が金属の義手になっている。その手を明後日の方向へ。掌をどこかの中空へと向けている姿で止まっていた。

 

不自然な体勢だ。義手の右腕が特におかしい。まるで、()()()()()()()()()()を右手で防いだような姿勢であった。

 

 

「「「オールマイト!!!」」」

 

 

プロはいつだって命懸け。そんな言葉と共に放たれるのは『デトロイトスマッシュ』。

思いっきり衝撃波と風圧を叩きつけるように殴り抜く。

 

彼の拳で世界は変わる。

 

バカみたいな一撃。またしてもそれで人を救うのだ。

 

 

ヘドロは吹き飛び、人質はなぜか無事。その豪風と衝撃に周囲の炎は消えて、そして上昇気流によって天気が変わって雨が降る。

 

後に残るのは、無事だった人質と見守っていた群衆の笑顔と喝采だけ。

 

不利な条件など知らないと、あまりに綺麗に吹き飛ばす本物のヒーローがそこにいた。

 

何度見ても思わず笑ってしまう。意味不明、理解不能。理屈が通らない。そうはならんやろ。

理不尽なまでの力で人を救う。平和の象徴がそこに立っていた。

 

ああ、やっぱりすごいなオールマイトは。

 

そう思っているときだけは、年齢相応の純粋な笑顔が浮かんでいるが自分では気づけない。

憧れとそれに比例して願いは強まるばかりであるが、それはそれとして後で説教はしなくてはいけない。

 

はるか年上の憧れの対象に説教するのは気が引けるが、そんなことも言ってられないから仕方ない。彼は放っておくと自分を薪にして火を起こし、自分が燃え尽きるまで周囲の人を温めてしまうだろう。

 

サーも同意してくれるだろうそれは、確定的な未来予想でもある。

 

集められた破片を回収し、警察がそれを確保した。

護送車の中で、会話できる程度に体積を増やされた先ほどの犯罪者が本人確認や他の余罪がないかを問われていた。

 

しかし、その合間で警察官は大きなため息をついて先ほどの行為を咎めた。

 

「チクショウが!うるせえよ。仕方ねえだろうが!こんなとこにオールマイトがいるなんて知らなかったんだから!」

 

「そっちじゃない。お前、人質とっただろう。それがどういう意味か知らないんだな?」

 

「なんだよそれ。ちょっと海外で暴れて帰ってきたら随分お花畑じゃねーか。子どもを人質にするなんてってか?バカじゃねーの?」

 

「いや、だから違うんだよ。人質を取ったら即刻射殺だ。人質よりも排除が優先されるように決まったんだ。この国も変わったんだよ。だからお前みたいなバカか、自殺志願者しか今はもう人質を取ったりしない」

 

「はぁ!?何だよそれ!?どうなってんだ?ここは日本だろ?!」

 

「知らないじゃ済まないよ。人への危害を含む事件は即座に対個性特殊部隊に預けられるって、この半年これでもかって、それこそ海外でも言ってただろうに。あの子とオールマイトに感謝しろよ。本当に死んでたぞお前」

 

「いや、でも銃なんて俺には……」

 

「この前撃ち殺されたのは、毒ガス化している気体の異形型だったけどな。個性でできることには別の個性で対抗できるんだよ」

 

それ以来黙ってしまった敵は、拘置所に着くまで大人しくするだろうと確信できた。

 

凶悪犯に対しての武力行使は軍隊によって行われる。ヒーロー依存脱却を掲げた改革は進み続けている。

 

きっとオールマイトが来てくれなければ対個性部隊が処理をしていただろう。

ここ数年で法律上の定義も、その存在意義が大きく変わった。

 

ヒーローという職業は大いに揺らいでいたのであった。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

全てが終わった頃には、夕暮れがもう終わる頃合いでゆっくりと夜が始まりつつある。

そこを歩くのは、朝と同じ落ち着いた目をした中学生と、長身痩躯で()()の男だった。

 

今日は反省点だらけだ。最終的に助けることはできたが、大いに無理をさせてしまった以上、彼の活動時間はさらに減るだろう。

 

まぁそこで偶然出会ったヒーローの卵の輝きに比べれば、それは代償と言えるほどのものですらない。だからこのままでいくことにしたのだが。

 

「もう知っているのかもしれないが、彼を後継へと育てようと思う。彼は無個性でも、誰よりヒーローだった。それは見てただろう?」

 

「ええ、緑谷出久。正直驚きですが、彼は適任だと思います。助けた相手は自分へのいじめの加害者ですらある。なのに無我夢中で助けた。素晴らしいですよ彼は」

 

オールマイトは内なる決意を唐突に話したというのに、自分は既にそれを知っていた。

その理由をオールマイトも知っている。だからそんな対話になるたびに彼はひどく悲しそうに笑うのだ。

 

「少年。今更やめろとは言わない。けれど、あまり乱用はよしてくれ。ナイトアイが師匠だからとよくないところまで真似して欲しくないんだ……」

 

狩峰少年は笑顔で答える。その笑みは決して子供のものではなかった。

 

「でもこれは何より重要なことだから、手は抜けません。すでにリストアップされた後継候補は全滅してます。だからこそ望外の希望ですって!大丈夫!彼には可能性がありますよ」

 

彼は適任だった。無個性である事も含めて、最適だ。その精神性は()()()()()()()()

 

 

俺には決してできないことを、彼ならば果たしてくれるかもしれない。

 

彼は、本物のヒーローになれるだろうか。

 

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

ヘドロヴィランを運んでいる護送車の上を、音もなくヘリが飛んでいく。

内部には、ヒーローたちとは比べるべくもない地味な服装の大人が静かに座っている。全員が黒を基調とした戦闘服に身を包み、顔まで隠している。

 

「それで?言い訳はどうする?最善のシミュレーションよりスポッターの報告が10秒遅く。射撃はさらに5秒遅延。予定通り動けたのは『マーキング』だけ。これは呼び出しを喰らうかもしれないぞイレイザー。ナガンもだ」

 

「総合的に見てあのタイミングでの行動は合理性に欠くと判断した。文句があるなら、オールマイトにでも言ってくれ。結果的に正しかっただろう」

 

「私が今更上からの命令に怖がるとでも?それに、最後には撃ったじゃない。まぁ子どもごと撃ち殺す。なんて命令を喜んで実行する相棒じゃなくて一安心ってとこね」

 

説教のつもりが誰も悪びれもしない。本当に我が強くて困りものだ。

 

「ったく。俺の『消音』が消すのは音であって、上司からの雑音じゃないんだけどな」

 

「そろそろキツイんだけど。雲上に上がってよ。『迷彩』だって疲れるんだよ?」

 

このヘリの駆動音と姿は、周囲から見えず聞こえない。不可視のヘリ上からの狙撃が彼らの仕事だった。

 

「だいたい、俺はあと3ヶ月で転属だ。元からそうだが、評価なんて尚更気にならないね」

 

「教師よりこっちの方が向いていると思うけど?ホークスに言えば残留させてもらえるわよきっと。戻るよりもあなたが好きな合理的ってものじゃない?」

 

イレイザーと呼ばれた男はそれ以上は語ろうとせず、彼らは帰路につく。

 

かつての失敗を踏まえて一新された実行部隊はいくつもある。それに参加する全員が必要なことだと理解している。かつて解体された自衛隊は今は災害救助隊となっていたが、一部の特殊部隊だけはここ数年で新造されていた。

 

この対個性特殊部隊は非常に多忙かつ実績を上げている。

 

『消音』『迷彩』『抹消』『ライフル』そして人混みに紛れて仕事をこなした『マーキング』。

 

新制度が始まってから、始まる前からも大忙しの実行部隊。彼らは音もなく姿もなく象徴の裏から平和を守っていた。その活動は民意に支えられていて、もはや反対しているのは一部の人権団体と職を奪われつつある少数の武闘派ヒーローたちだけだ。

 

日に二度も街が壊れるような事件が起きる日本。そんな平和すぎる日本の光景を眺めて平和についてもっと考えるべきだ。

 

一体誰がこの平和を作ったのか、手遅れになる前によく考えるべきなのだ。

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

ああ、そうだ。

 

言い忘れていたけど、これは。

 

俺が最高のヒーローを救うまでの物語だ。

 

お前自身(狩峰淡輝)がヒーローにならないのかだって?

そんなのはあり得なさ過ぎる。冗談でも笑えない。ユーモアのセンスを磨いてこいと師匠だって怒るだろう。

 

 

夢は現実になる。いいや、夢が現実なのだ。

 

ならば当然、悪夢だけを都合よく逃れることなどできない。そんなことは嫌になる程知っている。いや、思い知らされたと言った方が適切か。

 

ああ、夢なら醒めてくれと俺が嘆く。

夜よ終わるな。いつまでも続けと狩人が凄惨に笑う。

 

二つに分裂した心が叫び、矛盾した願いを一つの体に抱えて、いつもベッドに入ってるんだ。

 

かつて悪夢を打ち破ってくれた()()()()()()()()()()()に、世界を救う。

5年前にそう決めた俺の物語が始まる。本当にようやくだ。

 

そろそろプロローグくらいには入れただろうか。




やれるところまで毎日19時に投稿です。
性転換イベントがあるのでタグをつけときますが、常に性別が変わるキャラはいません。

なあに、なにも心配することはない。
何があっても……
悪い夢のようなものさね……
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