夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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実技試験⑤スタートラインの、その手前

緑谷出久の体から緑色の電気がバチバチと迸る。体の一部が熱を発しているように光ったかと思えばあまりに速く動いた。

 

まるで普通ではなかった。無個性でありどれだけ努力しても無駄だったはずの存在が、今はここで誰よりも素早く地面を蹴っている。

 

そんな光景を呆然と見守る自分のことが信じられない。いや、その前にそれ以上の衝撃に打ちのめされている。

 

「あいつ、この俺を……無視しやがった?」

 

なんでそんなことを気にしてんだ?俺は。

いや、それでこんなに驚いている方がおかしい。違う。勘違いだ。

 

個性を使っていることに驚きすぎて妙なことを口走った。

あのデクが個性を使っていやがる?これよりあり得ないことはない。

 

 

個性の発現は漏れなく4歳まで。あり得ねえ。でも、実際……

 

『言ってもらったんだ。君はヒーローになれるって。勝ち取ったんだって!』

 

受験が始まる前に脅してやめさせてやろうかと思ったが、その時にも許せないほど強硬に反抗してきやがった。

 

あれは誰だ?どういうことだ?

 

アイツはずっと、俺に嘘ついていやがったのか?

 

混乱し、視野が狭くなる。直前の注意すら頭から抜けて怒りに支配されていた。

 

「コラぁ!わけを言えデクてめえ!」

 

手から小規模な爆発を迸らせながら。個性を隠していた卑怯者に迫る。

 

ついこの間まで、道端の石ころだっただろうが!

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

救助活動をしている相澤は近くにいない。幼馴染のやり取り、というかこれから行われるであろう恫喝を遮るのは他人である淡輝だった。

 

あまり彼には干渉したくはないが、これは緑谷だけの問題じゃない。救助の現場でベストを尽くす学生ならば最低限は言ってやらねばいけないだろう。

 

「そこどけモブ。邪魔すんじゃねえ」

 

そこで憤怒の形相で緑谷を睨みつけ続けている爆豪に淡輝は声をかけた。

 

「ユーモアが人を救うってのは結構マジだよ。オールマイトの次に偉大なヒーローがそう言ってた。お前は子供を笑顔にできるのか?」

 

「何……を。何を言ってんだお前……。成金の七光りが!どけってんのが聞こえねえのか!?」

 

淡輝が勝手な行動をしていることは噂になっており、彼の父親が世界一の大富豪でありここの権力者であることも知られている。この罵倒はそれなりに事実でもあった。

 

そんな暴言に対して反応せずスッと、道を開ける。その態度が意外だったのか爆豪はさらに噛みつこうとして、そしてそれに意味がないと自分で思い直してから、邪魔者を押し除けて進んでいく。

 

説教や意見の対立というのは最低限のコミュニケーションであり、相手のことを少なからず思ってすることである。聞き分けの良い無関心が、何より冷たい態度であるなど彼はまだ知らない。

 

その時に相手を押す力が想像よりずっと弱くなっていることに気づき、大きく舌打ちをする。

 

何もかもイラつく。ムカつく。それら全てを実力で吹き飛ばしてやりたい。

 

自分の体は知らない異物みたいになって、見知った雑魚は自分より動いていて。周りは見たこともない地獄みたいな場所だった。

 

その全てが腹立たしい。

 

「道端の、石っころだっただろうがっ……」

 

消え入るような声が誰にも届かず消えていく。激情を爆発させて目に映るのは否定してしまいたい。

 

そうだ。救助ができないなら、いっそ銃を撃ってるヴィランを倒せばいい。そう思ってどうにか、足を前に進めていく。

 

「んなとこで終わって、たまるかってんだよ。俺は!俺の……」

 

緑谷出久、狩峰淡輝、爆豪勝己。この三人はあまりに在り方も考えた方も違うのだが、実は共通点があった。

 

その瞳の奥にある憧憬。オリジンの姿は同じだった。『平和の象徴』を目指して進むその歩みは、この程度では止まらない。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

あの調子ではまた何かをやらかすのではないか。そんな懸念があったから一応体裁として声はかけたが、止めずに向かわせることができた。緑谷にとっての負荷になるならそれは歓迎だ。

 

それはそれとして、今回で全てがうまくいく可能性だってある。自分はいくらでもやり直すつもりだが、それは手抜きを意味しない。

 

淡輝は付近の子供を抱えてどうにか走り切り、装甲車へと辿り着く。待機していた同級生たちに子供を預けると、最後の子供を運ぶためにまた戻っていく。

 

そこで受け渡しを任されていた一人、この売春区画に入ることを辞退した八百万百だった。

もちろん現地に行かないことを責めるものはいないし、それが正解だったと自分でもわかっている。自分が行っても立ち尽くして何もできないだけだろう。

 

けれど、それでも納得できるかどうかは別だ。あらゆる感情が溢れて止まらない。どうしてこんな傷を子供に負わせることができるのか。人はこんな傷を楽しんで人につけることができるのか。

 

こんな!こんな残酷なことを。

 

どうしてどうしてどうして。無力感と怒りと嫌悪感と心からの悲しみと内側でまぜこぜになって、そして疑問が口をつく。

 

「どうして、そんな風に動けるんですの?」

 

今聞くつもりはなかった。でも口からは思わず出てしまっていた。

どうして。幼馴染の彼は、ここまで遠くに行ってしまったのだろうとたまに思う。あの時の事件が彼をこうしたと理解している気がしたけれど、それだけじゃ説明できない。

 

なんで、どうして。あなたはそうなってしまったのか。

 

「後にしろ。いや、ごめん。あとで、いくらでも話そう。何にしても今じゃない。人を助けなきゃだから」

 

冷たく切り捨てた直後に思い直したようで、最後に優しく微笑む彼は完璧な笑顔を向けている。

 

こちらを安心させようとしていることが伝わった。それを見て浅はかにも安心し、嬉しいと感じる自分を殴りたくなる。これは、また彼に負担をかけてしまったということだ。

 

「ごめん、なさい。あとで話をさせてください」

 

それで八百万百はまた子どもたちに向き合い始める。拭っても消えない彼らの汚れを、それでもどうにか癒せないかと涙を堪えて子供たちと向き合った。

 

そして淡輝は現場に戻るため走り出す。そこに並走するのはトガだった。

 

「ねえねえ。淡輝くん。淡輝くん。どうします?私もこのまま救助してれば良いですか?」

 

彼女も五年前からヒーローを目指し始めたのだ。いや、正確ではなかった。彼女は淡輝の血を狙い続けて鍛え上げられている。雄英に行くなら自分もということで、人の血液が目的でついでにヒーローになるらしい。ダークヒーローでもこんなの聞いたことないぜ。

 

元から運動や戦闘のセンスはあったのだろう。その個性に可能性を見出した淡輝もその練習に支援をし始めていよいよその才能は開花した。特に精神性が素晴らしい。

 

こんな惨状を見ても特に動揺をしない程度には彼女は常識からズレている。その感性で普通の学校にいれば問題が起きるだろうが、適材適所という言葉がある。

 

「ああ、頼むよ。そういや、そのマスクどうした?やけに可愛いやつ付けてるじゃん」

 

そう言われると彼女は満面の笑みを作り、側から見れば猟奇的に笑う。口はマスクに隠れているため見えないが、歪んだ目元だけでも普通ならビビるだろう。

口元を隠すマスクにはピンク色の猫のイラストが描かれ可愛らしい。なんでもあるショッピングモールで役立つものを買っていたのはかなり目ざとく準備がいい。彼女は常識を持たないが決して頭が悪いわけではなかった。

 

まるでテーマパークに来たような猫耳のカチューシャまでつけているのはどうかと思うが、子供の緊張を和らげることができるのなら、合理的と言えるだろう。猫耳にはツッコまねえぞ。

 

背景も相まって、猫耳地雷系の中学生客引きという終わっている見た目になっているのだが、彼女はそんなことは気にしない。

 

「えへへへ。これは私が笑うと、きっと子供には怖いので、可愛いマスクで隠すのです」

 

「へえ。そりゃ配慮がすごいけど。それで良いんだ?」

 

「うん。いいの。そうしないと本当に欲しいものが遠くなっちゃうってわかったから。トガは我慢を覚えたのです。淡輝くんのおかげですね」

 

マスクの下で犬歯を見せて笑っているのだろうトガの言葉は自体は良いセリフだが、その目が明らかに自分の首筋。その下に流れる血液へと向けられていることを知っている。

 

どこ見てんのよ!体目的なんでしょ!というのは割とガチの感想だ。最初はビビったが、これもまた人助けの一環かもと思って色々と手間をかけている。

 

五年前に血を吸わせたのがいけなかったのだろう。あれ以来自分の血にあまりに執着してくるようになり、やけに冷静な言動とぶっ飛んだ行動力で驚かされる。今だにたまに殺されるので本当に強いのだこの子は。

 

猟奇的な欲望に歪められた無垢な笑顔は、自己分析の通りに見るものを怯えさせるだろう。

まぁ、自分はもう慣れたので特に感想はない。血を吸うために頑張ってみてほしい。絶対に無理だろうが。

 

「目尻やばいことになってんぞ。まぁ俺はいいけど。子どもにはもうちょい暗黒じゃない微笑で頼むな」

 

「そんな風に淡輝くんの言い方と目で、雫月ちゃんの顔されると、あんまりにカアイくて、今すぐ襲いたくなるんですけど、やってもいいです?」

 

誘ってるんですよね?と言った時にはすでに、ナイフを投げられていたが背中には刺さらない。

 

効かないねぇ。普通に防刃ベストだから。そのナイフは囮で、もう一つ小さな針が投げられていたのだがそれはマフラーで防ぎ切った。刺突に強いそれは針を弾いて通さない。

 

彼女との友情は特殊なもので、親愛からの加害行為を理由に俺は逃げないというものだった。自分を襲撃することはOK。それを理由に離れることもないことも約束している。

 

彼女の個性は『変身』。相手の血液を摂取することで、その相手の姿になれる個性だった。声も変わり、言動でしか見分けはつかない。だからこそ対象の人物をよく知ってから変身すればよほどのことでなければ気づかれない。

 

対象者から摂った血が変身のエネルギーになり、摂取量が多いと維持時間が長くなる。コップ一杯の量でだいたい1日くらい維持可能というものだ。

 

彼女の個性には未来がある。他人になり変わる個性は世界でも過去の歴史にもいたが、それらの一部は個性すら模倣することがあるのだ。

 

襲われるのを受け入れる代わりに自分に協力しろというのが紆余曲折あった自分たちの関係だ。

 

 

ヒーロー科を受験している者の中では3位と大差をつけて反社会的ではあるが、それでもまだ彼女は道を外れ切ってはいない。外道はヒーロー科に二人も必要ない。自分だけで十分だ。

 

そんな外れ値の二人にも、現場ではやれることは多い。目の前にはまさにそんな状況が広がっている。

 

次の救助対象者は年長の少年だ。錯乱して暴れる個性持ちの対応だった。

言葉も通じなければ聞く耳も持たない。優しさだけでは制圧できない。子供を殴ってでも止めなきゃいけないこの場面は、緑谷じゃなく俺やトガちゃんの出番である。

 

俺が目立って攻撃を誘い、気配を殺したトガちゃんが後ろから迫る。

 

渡我被身子が人を助けるために背後からチョークをかけて絞め落とす姿を見て。なんか感動する。自分の血の匂いを嗅いでからはいろんな人の吸血があまりしたくはなくなったらしい。普通への執着をなくした結果、普通に近づくとはこれいかに。

 

子どもに暴力を振るってでも命を助ける。そんな矛盾など一切気にせず仕事を進める。このエリアで保護できそうな最後の子供を抱えて、そして戻っていく。

 

最後に人々を救うのがよりによって、この二人とは少し笑えるじゃないか。

 

数多の死を前提に、試練を課し続ける傲慢な異常者である自分。

血に酔った執着者であるトガ。

 

二人とも、ろくなものじゃない。

その心の底にあるのは決して純真な正義の心ではないのだ。偽善どころの話でもない。しかし、今現実に人を救っているのは自分たちのような破綻者たちである。

 

皮肉がすぎるな。こういうのはヒーローにやってほしい。切実に。

 

そういえば爆豪は何も騒ぎを起こさなかったようだった。色々と予測から外れるけど仕方ない。どうなるかなんて、やってみないとわからないんだから。

 

 

ああ、早くヒーローが現れてほしい。一切合切を救ってみんなを笑顔にしてくれないかな。

 

幾度も考えた無責任な願いに行動が引っ張られることはない。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

七光りと猫耳地雷女が子供を保護している。

デクがもう13人目を運んできて、この地域での活動は終わった。

 

ヴィランを求めて歩いていたが、爆豪はついに出会うことはできなかった。

高速移動をして銃撃をしていた個性持ちはすでに試験官の相澤の一睨みで動けなくなり、軍の部隊に射殺されていた。

 

だから、自分にできることはもうなかった。

 

爆豪勝己は彼らが人を救う光景を目立たぬように下がって見ている。

 

それらの仕事を眺めるだけ。手を伸ばせば子供は逃げる。邪魔になるとそれくらいはわかっている。掌から可燃性の汗が滲むが、そんなものは何一つ役に立たなかった。

 

いつもなら絶対の自信の裏付けをしてくれるフィジカルさえも今日は頼りない。上手く力が入らない。なんだこの体は。なんだこの状況は。

 

何もいえず、何も聞けず、目を向けるだけで怖がられるから、見ることすらできず。

 

ただただ無力感を噛み締めて、爆豪勝己は立ち尽くす。

 

まるで道端の石ころ。それこそ木偶(デク)の坊みたいに、ただそこに突っ立っているだけしかできなかった。

 

 

名前:爆豪勝己

君には少し暴力的な過去がある。

愚かだったが、力はついた。

 

個性『爆破』

その手は壊すことに秀でている。

出来ることをただ行うのなら、それは獣と何が違うのだろう。




かっちゃんは本作品の主人公の一人です。
末長くよろしくね!
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