夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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名は体を現す

南米の夜が、壊れていく。

 

弱く光を放っていた街灯が倒され、そこに繋がっていた電線は長年積み重ねてきた靴と一緒に地に落ちる。

 

どこかで火が上がっている。煙が空を塗り潰して、星の輪郭を滲ませていく。ついさっきまでそこに人の生活があったはずの場所が、もう別の何かになっていた。

 

 

南米において唯一活動できているのはUAI所属の報道官だ。世界各国から志願してUAI所属となった記者グループは多いがその中でも最初から今まで続けて報道をし続けることのできた記者は多くない。

 

世界最高のセキュリティ。最高のヒーローたちに守られているというのに。この半年間で何度死を覚悟しただろうか。

 

「現在、私は旧サンパウロ郊外の国道に立っています」

 

風切り音がマイクに混じる。カメラが揺れた。レポーターの声は平静を装っているが、その呼吸が浅い。

 

「背後に見えているのは、およそ一時間前まで市場として機能していた通りです。現在は、確認できるだけで十数名が道路上に倒れています」

 

カメラが左に振れる。燃えている車。砕けたガラス。その向こうで何かが動いていた。人間の形をしているが、走り方がおかしい。膝が曲がりきらないまま、それでも速かった。

 

「今、画面右手に映っているのが遺跡の出口のひとつです。現地時間の深夜零時を境に、南米各地の地下遺跡から人が溢れ出しているという情報が入っています。それも地元の人々すら記憶に無い遺跡であり、地図に無いどころか、街から今では見えているにも関わらず我々取材班も先ほどまで遺跡群があることに気づけていませんでした」

 

遠くで悲鳴が上がった。カメラがそちらを向く。暗くて何も見えない。

 

「これは市民による暴動ではありません。組織的な犯行でもないと見られています。遺跡から出てきた彼らは、まるで、何かに突き動かされているように見えます。目的も、標的も、関係なく。ただ、人を襲っているように見えます」

 

銃声。カメラマンが屈んだ。映像が大きく揺れて、しばらくアスファルトだけを映し続ける。

 

「へい。レポーター!気合い入ってるのはいいけどさ。もうちょっと下がっておかないと、可愛い服が台無しになっちゃうよ」

 

空を飛ぶヒーローが、炎を上げながら飛んできた自動車だったものを空中で支えながら声をかけてくれる。

 

「ご覧の通り、キャプテンセレブリティを初め、ここには帯同してくれているヒーローもいます。安全とは言い難い状況ですが、それでも取材は続けます」

 

レポーターの声が一オクターブ上がっていた。息を整える音がマイクを通して拾われる。カメラがゆっくりと持ち上がった。

 

「今、私の目の前を」

 

声が止まる。数秒の沈黙。

 

「子供を抱えた女性が走り抜けていきました。転びそうになりながら、それでも離さなかった。今、他のヒーローが彼女たちを保護しました!追いかけている彼らは反社会的な組織の一員に見えますが、なぜそうしているのかは分かりません。彼らは何か錯乱している様子であると私の目には見えています」

 

路地の奥から声がした。助けを求めているのか、叫んでいるだけなのか、判別がつかない。カメラがそちらを向いたが、暗くて何も映らなかった。やがて声が途切れた。途切れた理由を、レポーターは口にしなかった。

 

「しかしヒーローが守ろうとしていても犠牲者は出ています。この通りだけでも数名はすでに……。ただしこれは、私たちが直接目視できた範囲に限った話です。正確な情報はまだありませんが、南米全土での被害は広がり続けているようです」

 

風が強くなった。どこかで火が大きくなっている。

 

そしてまた銃声。複数。重なり合って、それから静かになった。静寂の方が、爆発音よりずっと怖かった。

 

「今、何かが」

 

カメラが空を向いた。反射的な動きだった。何かを見たのか、音を聞いたのか、レポーター自身もわかっていないようだった。

 

「あ」

 

それだけだった。一瞬、映像が静止したように見えた。実際には動いている。ただ、何も変わっていないように見えた。街灯が揺れて、煙が流れて、それだけだ。

しかし次の瞬間、路地を走り回っていた人影がいなくなっていた。

 

「えっと」

 

レポーターが周囲を見渡している。カメラもそれを追う。右、左、正面。さっきまで火を背負って走り回っていた男たちが、いない。倒れている。全員が、同じ方向に。

 

「何が、起きたんでしょうか」

 

「今、この通りで暴れていた、およそ三十名ほどだったと思いますが、ほぼ同時に倒れました。私には何も見えませんでした。音も、ほとんど。あ、キャプテンセレブリティが。犯人たちを保護している、ようです」

 

カメラマンが何かを指さす。レポーターが振り返る。建物の屋上に、人影があった。そこへキャプテンセレブリティが近づいて、大声で何かを抗議しているらしい。

 

「彼らは操られているだけかもしれない!確認もせずに全員というのはあまりに野蛮だ!麻酔でも毒でも使えばいいだろう!」

 

「彼らはおそらく、UAIの連合軍の部隊でしょう。テロリストたちが撃たれたようです」

 

UAIの軍隊が、所属のヒーローと言い合うことは日常的に行われてはいる。けれどここまでシビアな状況はそうそうない。

 

理由も元凶も何もわからない。しかし、人に危害を加えているものたちをひとまず最も簡単で早い方法で無力化をしていく。それがUAIの判断であるらしかった。

 

争う彼らが、一斉に黙った。

 

それぞれが耳に手を当てて、そして何からの指示を聞く。それだけで、その諍いは一度止まる。

ヒーローたちが寄ってきて、そして深刻な顔で撤退の指示を与えてきた。

 

「これから一斉攻撃が行われることになった。先ほどのような凶暴化したヴィランが各地で溢れている。もう安全な場所はない。避難を」

 

報道陣に与えられた機材はUAIの許可がなければ使えない。そして記録ができなくなれば戦場に記者がいる意味というものは大部分が失われてしまうのだ。それぞれがカメラなどを持ち込んで勝手にやろうと思えばできるのだが、そうするものはいなかった。

 

いや、すでにそれをした気骨のある記者たちは、大概が怪我で。少なくない数が亡くなっている。

彼らが危険だと言えば、本当に危険ということなのだ。それを軽視したものが数名、北朝鮮でいなくなってしまった。

 

彼らの犠牲はUAIの保護の外ということで問題にもならない。それぞれが家族のことを思い出しながら、離脱するヘリの中から可能な限りの映像を撮影していく。

 

せめて抵抗しようと、この惨状を記録しようと懸命だった。

 

けれどこの南米で起きていた凄惨な出来事の、ほんの表層でしかないことは時間が経たないとわからない。空から見えることには限界があったのだ。

 

血のように赤い悲惨な現実は、地下にあったのだから。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

 

「百ちゃんと口田くんは当然ながら撤退。暴れまくったトガちゃんも戻ってもらう。轟と緑谷は治療が必要だから戻ってもらいたいんだけど……」

 

「下がってられないよ。もう少しで動けるようになると思う。彼女たちを見たのは僕らだけだし、きっとできることはあると思うんだ。ほら、回復の速度も早くなってるしさ」

 

緑谷の継承したワンフォーオールの個性の中で、淡輝が計画して本来なかった個性が混じっている。強すぎもしない因子強度。その上で彼の活動を支える基盤になると思ったから世界中から探し当てた個性『再生』は日々進化していた。

 

あれだけ怪我をしまくっていればそうなるだろうが、今の彼の治癒速度は常人の10倍では効かない。ワンフォーオールに習熟するほどにエネルギーを注ぐ術を身につけている。

 

寿命が削られていそうだが、その点は医療技術で後程カバーしていきたい。

両足が痛ましい状態であった筋繊維の断裂は、もう繋がっているのだろう。その回復力は驚異的だった。

 

「俺は、そろそろガス欠だと思う。個性使えなくなったらお荷物になるから、引き時だってことはわかってる……。爆豪、お前はまだやれるんだろう。頼んだぞ……」

 

「勝手に頼んでんじゃねえ!俺は勝手に残って勝手に助ける。てめえらは関係ねーからな」

 

「狩峰くん。僕は諦めないよ。絶対に……」

 

「ああ、わかってるよ。だからほら、頼んでおいたやつが落ちてくるぞ」

 

起きて10分ほど、そして連絡をしてから5分しか経ってないが。現在UAIの宇宙開発はそこそこのスピードで進んでいる。軍事衛星は日々強化され、そして物資や機材は麗日さんのおかげでありえないペースで打ち上げ続けられている。

 

「……へ?」

 

流星が、落ちてくる。

 

 

流れ星が、自分たちの方へ炎の尾を引きながら落ちてくる。白く灼けた軌跡が空を裂き、一直線にこちらへ伸びている。

 

その物体は、地上およそ二百メートルの高度で姿勢を変えた。落下の角度が緩み、両側面が展開する。鋼板が割れるように開き、内側から翼が伸びる。墜落は、滑空へと変わる。

 

燃える尾を引いたまま、空を掴んで水平に移行する動きは、重力に任せたものではない。制御されている。

 

ただの輸送箱の落下にしか見えなかったそれは、空中で器用に姿勢を保ち、腹部のハッチを開いた。内部から三つの影が放たれる。ミサイルのような軌道で、こちらへ真っ直ぐ降下してくる。

 

 

三つに分かれたそれぞれが、地面へ向けて角度を固定したまま加速する。

 

「ちょちょっ!なにこれ!?」

 

衝撃。

 

地面が跳ねる。土煙が噴き上がり、遺跡の石片が跳ね飛ぶ。着弾はそこそこの速度だが、爆散する様子はない。鈍い音を残して、三つの物体は地面に突き刺さるように停止した。

 

この程度の衝撃で壊れるような中身ではないと、わかっている。それでも運送手段としては乱暴が過ぎる。最短距離で最速を取った結果なのだろうが、もう少し穏便なやり方もあったはずだと、誰かが思う暇もない。これの担当者は悪名高いUAI兵器開発部のアーキバスチーム。中でも異端の『火薬庫』たちだ。

 

空を滑空していた本体のコンテナは、そのまま地上へ降下し、淡輝と緑谷、そして爆豪の前に着地する。重い金属音が響き、砂煙がゆっくりと沈んでいく。

 

目の前にそびえ立つのは、無骨な鋼鉄の箱。

側面のロックが自動で外れ、圧縮空気が吐き出される。扉が内側から押し開かれた。

中身が、勝手に歩み出す。

 

人の形をしている。二メートル近い巨体。装甲に包まれた四肢が地面を踏みしめるたび、砂利が軋む。ヘルメットの奥で光るバイザーが、こちらを正確に捉えた。

 

2体のACがそこにいた。

 

一つは緑谷もよく知る。内部まで見たことのある世界的なお尋ね者。

 

AC『ハンター』であった。そして通信が添えられている。それはナイトアイの合成音声である。

 

『ナイトアイ事務所からの贈り物だ。狩峰淡輝はこれを纏って囮になってもらう。私も同じものを着て戦場へと出ている。学友たちは安心してほしい。彼は無事に帰ってくる。これは決まっている未来だ』

 

ナイトアイであればこういうことを言うのだろう。ということを残して、そしてナイトアイがハンターであるという示唆に、彼らは驚愕をするはずだった。けれど彼らは、あまりに強烈な体験をしすぎていて。そこまで余裕がなかったらしい。もっと言い訳とかそれらしい理由づけとか考えてたのにな。都合はいいが、ちょっと寂しくもある。

 

『そして、緑谷出久。君には専用のACが与えられる。すでにプロトタイプでの操縦は経験があるだろう。問題なく使えるはずだ。AC『ユアネクスト』は専用の機体だ。期待を裏切ってくれるなよ』

 

まず目に入るのは、緑だ。

深いエメラルドを基調にした装甲は、光の当たり方で黒にも見える。軍用の無機質な塗装というより、意志を宿した鎧のような色味だ。その上に走るのは、ところどころに差し込まれた赤と白。肩部の縁取り、前腕のフレーム、胸部中央のエンブレム周辺に、あの男を思い出させる配色が自然に溶け込んでいる。露骨ではない。だが見る者が見れば、一瞬で連想する。

 

全高は2mほどとそれなりにある。だがオールマイトの圧倒的な体躯と比べれば、明らかにスリムだ。胴体は引き締まり、腰回りは細く、脚部は跳躍と加速を前提とした構造になっている。重装甲というよりは、高機動型。分厚い鉄塊ではなく、研ぎ澄まされた刃物の印象を与える。

 

脚部は特徴的だ。太腿から脛にかけて流線型の外装が覆い、膝関節には過伸展防止と瞬間加速用の補助ピストンが内蔵されている。踵側には短距離ダッシュ用のブースターがあり、踏み込んだ瞬間に地面を抉るほどの推進力を生むだろう。跳ぶことを前提に設計された脚だ。

 

そして、何より目を引くのがヘルメット。

額から後方へと伸びる二本の突起。まるで触覚のようなシルエット。実際には高感度アンテナ兼センサーアレイで、電波、赤外線、微細な振動まで拾う複合型ユニットだ。だが形状は明らかに意図している。平和の象徴を受け継ぐという何より思い意思が見える。

 

『これは立体高速機動を実現するための非常に挑戦的な機体だ。君とその個性群があって初めて機能するだろう。これで多くの人を救ってくれ』

 

「……っはい!」

 

 

そして、ここにはACが二体。『ハンター』『ユアネクスト』がいるが、ここに降ってきたものは三つである。

 

「おいクソ七光り……これ。なんだ?」

 

爆豪がうまく悪態をつけない程度には混乱している。そう。彼の前には外骨格が立っていた。

それはACに見えなくもないのだが、あまりにスケルトンというかなんというか。

 

両足と両腕。そして肩にかけて重装備が白く光っている。銃火器が備え付けられていて、それを振り回すために全身を接続しているという意図が見える。そう背骨のような骨組みがそれらをつないでいるのだが、全身を覆うACに対して、あまりにも取ってつけた印象が拭えない。

 

なぜなら、人体において守りたい重要な部分だけが一切守られていないのだこれは。

 

殺意すら感じるデザイン。これを作ったのは確実に『火薬庫』だとわかる。あいつら頭おかしいよ。腰から伸びる翼のような機構は全てがブースターである。

 

肩にも足にも付いていて、全部が加速のためという狂気を体現していた。

 

『強化外骨格型ACのテストタイプ。中でも機動力のみを追求した狂気の一作だ。爆発的な進行方向の切り替えなどは君の戦闘スタイルも参考にしたらしい。『火薬庫』のシュナイダー研究員からのプレゼントだそうだ。……生きて帰ってこい』

 

「確定した未来って言えや!!」

 

未来視ができるはずのヒーローに無事を祈られるというのは流石に爆豪といえど抵抗があるらしい。

 

『冗談だ。爆豪勝己。君のセンスならば使うことができるだろう。個性由来の液体燃料を追加することで爆発的な加速が可能だ『ノーブルグリント』という仮名称が付いている。これは開発されたはいいものの、君の精神的な安定性を問題視して凍結されていたのだが、この度、私が許可を出した。『ノーベル』には最適だろう?』

 

そこまで言われて断れるかっちゃんはいないらしい。

気づけば全身をACで覆っている二人と、ブースターに取り憑かれている爆豪勝己がそこにいた。

 

「「「うわあ……」」」

 

「具体的にコメントしろや!殺すぞ!」

 

人体と機械のギャップがえぐい。彼の爆発や衝撃の耐性。加速度に対しての評価は十分にされているだろうが、こんなんで人を空に飛ばして良いのだろうか。いや、ありえない。

 

『その機動力を活かして、まだマッピングできていない地下構造のスキャンをしてもらう。その道中で要救助者を見つけることができるだろう。まだ私でも把握していない深部に潜入してもらうことになる』

 

「いまさらですし手遅れともわかっていますけれど。でも一応、聞いておきますが。彼らも学生ですのよ?」

 

『関係がないな。彼らは最も遺跡の構造を理解し、そして早く移動ができる戦力であり。ヒーローだ。人を助けるのに年齢も身分も関係がない。知っているだろう。八百万百』

 

 

機体がうなりを上げている。戦闘特化の『ハンター』と違い、彼らのそれはまるで翼である。

ブースターが点火して、そして加速が始まった。

 

『超高速戦だ。目を回すなよ』

 

バン!という爆発音の後には、彼らはすでにそこにいなかった。

南米の奥底。深淵のその先までを切り拓き、手を差し伸べるために。

 

ヒーローは地中ですら飛んでいく。

 




ホワイトグリン子で検索してくれたら、今回のかっちゃんの装備のイメージができると思います。
当然服は着てますからね!
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