夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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大人の交渉

ミャンマー到着の初日。

上陸した男性たちが女性化し、それでも子供達を助けるために奔走するその前に大人には大人の戦いがあった。

 

「はぁ。なんで私がこんな大役をやってんのかしら。いつの間に出世しちゃったんだろホントに……」

 

「それはあなたの義理のお兄様が新たな雄英高校及びUAIランドの実質的な所有者であり、世界一の資産家であるからです。オールマイトを除けばUAIランドの中で最も高位権限を持つ人物となっているのも理由になるでしょう」

 

「はいマジレスありがとね人形ちゃん。わかってるんだけど、信じられないっていう感慨からくる鳴き声みたいなものだからあまりに気にしないでね」

 

「信頼できるヒーローが雄英教師であったというのは淡輝様にとっても幸運でした。彼の事情を知るものは少ないですから」

 

それこそデリケートなとこだから、あんまりズバッと言わないで欲しい。しかしこのAIにそれを求めるのは無理だろう。

 

香山睡。夜にミッドナイトとしてヴィランに鞭を叩き込み、今はお昼に雄英高校での教鞭をとっている。

 

女性の色香が代名詞であるのだが今のミッドナイトは、コスチュームでなくマスクもつけず、真面目なスーツ姿の外交官スタイルである。露出は抑えて、長い黒髪もある程度は纏めている。

 

彼女は自分の親族について思い出す。話題に上がった甥っ子だ。狩峰淡輝。

 

彼について考えることはとても多い。昔は明確に嫌われていたと思う。

まぁ、そりゃそうだろう。18禁ヒーローなんて呼ばれる人間が親族にいるなんて、子どもにとっては格好の標的だ。相当に嫌な思いをさせたと思う。

 

当時はそんな気配りなどできずヒーローコスチュームの限界を攻めてルールを作らせるくらいには際どい服装をしていた。本当に若さって怖い。

 

そこまでならまだ思春期前の反抗としても良かったかもしれないが、義理の兄さんがヒーロー関連の仕事で忙殺されるようになってからは彼は明確にヒーローそのものを嫌っていた。

 

たぶん生活に大きな影響がない地味な個性というのもあるのだろう。個性を自由に扱って喝采を受けるヒーローは劣等感を刺激したはずだ。彼がヒーロー嫌いになるまでには十分な理由があったというだけだ。

 

五年前の大事件はあまりに狩峰家を変えてしまった。頭は良かったけど生意気で、普通の男の子。そんな甥っ子がまさか事件に巻き込まれ、そして人が変わったようにヒーロー育成を始めるなんて姉さん含めて誰も予想しなかっただろう。

 

彼に普通の青春はもう訪れないように思える。そう考えると大人のため息が出そうになるが、そんなんじゃいけない。大人がやる事をやって子供たちに青春させてやるべきなのだ。

 

義兄さんが世界一の大富豪に駆け上がる間に、彼に会うと別人のようになっていた。ただの子供の成長では片付けきれない変化をすでに家族は受け入れているようで、私も必死に受け入れたものだった。

 

だって私はプロヒーローだから。ヒーロー名はミッドナイト。個性『眠り香』。自身の肌から放たれる香りによって、吸い込んだ周囲の者を眠らせる力だ。

 

本名は香山睡(かやまねむり)。姉がいるのだがこれはあまり知られていない。えっちなお姉さんキャラでやっているから、実際は妹だということは隠していたのだ。

 

姉の名前は香山微睡(かやまどろみ)、個性『眠り声』を持つ12歳上の姉である。彼女が産んだ双子は大層可愛く、甥っ子と姪っ子が同時に生まれて最高に嬉しかった。

 

眠りに関連する個性が発現する香山家と、義兄さん側の家族も睡眠関連だった。

だから双子のあの子たちも眠りに関わる個性になったはずだったのに。事件をきっかけに一体何に目覚めたというのだろうか。

 

ナイトアイの協力を得る事で『予知夢』のようなものを見ることができると言われたが、どんな個性テストでも個性判別でもそんな話はひとつもない。

 

だからこそ狩峰家の株式投資が認められたのだが、彼が実際のところ何をしているのか自分にはわからない。

 

 

でも、やりたいことには心の底から共感できたし自分よりも余程ヒーローだと思えた。その夢の実現に自分も助力できるならとこの役目も請け負った。

 

外交なんてヒーローとしても自分個人としても範疇外だと思っているが、でもやれることはやらないと。形だけとはいえあのオールマイトだって必死に一国の代表を果たしているのだ。

 

ヴィランを倒す以外で平和に貢献できるのに、やらないんですか。甥っ子にそこまで煽られればヒーローとして断るという選択肢は消滅した。

 

出来らぁ!とほとんど勢いで了承していくといつの間にか一国の大使的な仕事まで引き受けていたのだった。

 

「お待たせしてしまいすみません。ミッドナイト。手続きが意外と時間がかかってしまって……」

 

「来てくれて助かるわ。塚内さん。あ〜これだと塚内警視と混ざっちゃうか。真ちゃんって呼ばせてね。いや〜人形ちゃんと私だけでは心細かったから助かるわ。特に政治と交渉ごとに関してはね」

 

「嘘を見抜くのは個性を抜きにしても得意ですから。任せてください!」

 

塚内真。彼女はオールマイトと懇意にしている警察官。塚内直正の実妹である彼女はワンフォーオールを巡る全一との戦いの事情を把握してる数少ない人間だった。

 

ストレートの黒髪に黒目。スラッとした美人社長という印象を人に与えるだろう。目が怖い、輝きがないと言われてカラコンなどをしていたが今はそのままにハイライトなしの裸眼で挑んでいる。

 

印象を変えようと思えば、秘書くらいに存在感を抑えることもできるあたり相当に万能だった。

 

非常に聡明な彼女は大学生の時からアメリカでマネジメントの辣腕を振るい、隙だらけで訴訟地獄だったヒーロー事務所を立て直すなど逸話を残している。

 

UAIランドを運用するにあたって、そのヒーロー事務所ごと吸収し今はUAIの重役としてその力を振るっている。

 

「ふふ。ええ、頼りにしてる。さて、ミャンマーの女王。もとい首相様がわざわざ時間をとっていただいたんですもの。そろそろ時間かしら」

 

 

用意された客室を出ると、廊下は重く暑い空気が立ち込めていて虫が飛び交っている。

首脳がいる建物であっても全館冷房を稼働できないというこの温度と湿度が、この国の現状を伝えるようだった。

 

「ま、虫に集られても問題ないけどね。だから私が交渉役なわけだし」

 

彼女の近くを通った虫は地面へと落ちていく。眠らされた虫たちは、無力化されて動けない。

どんな妨害が入ろうと、切り抜けられる実力がある。それはUAIランドという光に群がる何かにも有効だ。

 

「行きましょうか。真ちゃん。人形ちゃん。タフな交渉になるわよ」

 

そんな覚悟はその直後の交渉において、大いに試されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……なるほど?」

 

「ええ、ですから。全面的な支援をお願いいたしますね。インフラの復旧および、医療設備の提供。教育もできるならいただきたいわぁ」

 

「聞き間違いでも翻訳違いでもなさそうですね。最低半年単位でのUAIランドの寄港をお望みと。その上で対価は一切なし。開発支援として行えというのはいささか横暴では?」

 

怒りではなく困惑で表情筋が引き攣りそうになる。何を言っているのだコイツはという気持ちが止まらない。

 

「発展途上国の支援というのは先進国の掲げるお題目でしょう。我々持たざるものたちは富める方々の慈悲を賜るだけですよぉ。私にも守るべき国民がいるもので〜」

 

言葉と表情が一致していない。こちらを嘲るような上からの態度。そもそもオールマイトを男性だからという理由で拒否するところから本来ならあり得ない話なのだが、そんな見え透いた挑発は無視しろとのお達しだ。

 

サポートの真ちゃんも、抑えてとアイコンタクトを送ってきている。

 

大丈夫。問題ないわ。ムカつくけど、全然大丈夫。帰ったら浴びるように酒を飲んでやる。

 

なぜか相手がこちらを怒らせ交渉を打ち切らせようとしているのであれば、そこには思惑があるはずだ。それには乗ってやらない。

 

青筋を立てたヒーロースマイルで乗り切ってやる。

 

そこからも畳み掛けられる交渉の体をギリギリ保った嫌がらせをいなし、そしてどうにか相手の考えを読み取ろうと質問で返す。無駄なようで重要な、大人の女性たちによる空中戦が繰り広げられるのだった。

 

 

普通の感性を持った男子がいれば、例えば緑谷出久などが同席していれば5kgは痩せたであろう地獄のような交渉は終わり、一旦の解散となる。

 

「それで?私はブチギレずに最後までどうにか自我を保っていたけれど、二人の所感はどうだった?これで収穫なしなら、今から戻って昏倒させようかしらね。全然やるわよ、やっぱやろうかしら。あ〜!まだ腹たつ!」

 

ふんすと鼻息が荒くなり、その怒りはいまだに煮えたぎっているようだった。

 

「国力及び軍事力、生産力などあらゆる点でミャンマーは比較になりません。本来ならこちらに気を使うのが自然な対応です。しかし、そうではなく心からの自信があって挑発をしていたと各種のセンサーが検知していました。隠し事は間違いなくあるでしょう」

 

「すごい!見てるだけで嘘発見器できてるなんて、私の個性の上位互換なんて怖いなぁ。まぁ冗談は置いといて、私からは一つだけ。これは感覚なんですけど、多分彼女は何かを期待していました。何かを得るためにこんな行動をしている。こちらに敵対的にさせることが彼女の利益に叶う確信がありそうでした」

 

「まぁこれ以上は、データを含めて戻って相談ね。これからしばらくは腹の探り合いになるでしょうし、いっぱいご飯食べて寝るわよ!お酒も!」

 

「付き合いますよ。良いお酒出すお店を知ってますから予約しておきますね。今後の相談もしましょう〜」

 

「ご一緒いたします。香山様。塚内様」

 

ミャンマーに到着した初日の夜の試練は終わり、ここからは憂さ晴らしの時間である。

UAIランドの繁華街において、でかい声で愚痴るミッドナイトが目撃されたというが、それに近付くものはいなかった。なんか変な酒を作って真に飲ませようとしていたが、全て躱されていたと人形が淡輝に報告していた。

 

酔わないサポートAIが介助してくれるのだから安心して酔い潰れることもできるというものだ。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

「なにこれ?どういう状況?」

 

実際のところそこまで深酒はしなかった。連日仕事があるし当たり前なのだが、それはそれとして朝起きれば惨状がUAIランドを、というか特定のものたちを襲っていた。

 

「昨日現地入りした男性が、次々に女性化しています。おそらく原因はミャンマーにおける非公式な特産品。例のあの影響ではないかと既に分析をしていますが、なぜそれがここまで拡大しているのかについては調査中です」

 

性転換(trans sexual)どころか。種転換(trans species)までやれちゃうって噂のやつね?ガチのTSができるって話。あれは事実ということで裏は取れたの?」

 

「昨日の現地入りで世界中で失踪していた人々に似た特徴を持ったものたちを多数確認しています。ただし彼ら彼女らは一様に、元の性別から変わっていたり、パートナーの種族に合わせて体を変質させており特定には至りませんでしたが状況証拠は揃っています」

 

「あの女王様気取りの個性がそれっていう話だったわよね?広がっているのは別の個性でしょうけれど、厄介だわ」

 

「既にこちらは無力化しているため報告が遅れましたが、性別が変わった彼らにはいくつかの伝染病にも感染していたようです。UAIランドおよびWHOが誇る最新のワクチンと抗生剤によって全て発症もせず無害化されていますが、最新医療がなければ崩壊していたと予測が出ています」

 

「何それ、普通にテロじゃないの。それで、方針としては?」

 

「ただいま、決定いたしました。予定と変わらず全ての業務をそのまま遂行とのことです」

 

「マジで言ってる?」

 

「この判断はサー・ナイトアイからの承認も先ほどされたようです。UAIランドの決定事項として既に通達されています」

 

「はぁ。まーた無茶する予感しかしないわ。月に何回プルスウルトラすれば気が済むわけ?こちとら10代じゃないっての」

 

そこに駆け込んでくる音がする。たいして高くないヒールの音で相手のことは見なくてもわかっていた。

 

「ミッドナイト!先ほどセイン・ミャ・ルイン首相から連絡がありました。武装組織の蜂起が計画されているらしく、国民の安全確保の要請です。UAIランドと雄英は、いえオールマイトは絶対にこれを受けるはずです」

 

「へぇ。白々しいわね。これ全部自演だろうに。その上で被害者ヅラして支援要請か。ほんっとに舐められたもんね。こっちのことケツの青い子供とでも思ってるのかしら」

 

「予定通りに進行するため、生徒たちへと説明とケアを行なっています。滞りなく進んでいますので、会談は予定通り夜となりそうです。治安悪化による生徒の自主的な辞退が増えていますが、これも問題ない水準です。むしろ予測より少ないかと」

 

「引き際の見極めができる子たちは有望ね。絶対減点してあげたくないわ。無茶した上で結果が出るなら文句はないけど、それでも失敗した時は覚悟してもらわないと」

 

UAIランドの冷徹とも言える合理主義、いや合理主義ですらない結果至上主義は正直肌に合わなかった。もっと泥臭く、青臭い青春の匂いが好きなのだ。甘えのなくなったカリキュラムに納得はすれど共感はいまだにできていない。

 

致命的なミスや死者などが一人も出ていない現状では常識的な反対の声は日に日に小さくなっている。

 

いつか破綻するのでは。そんな懸念がありつつも方針に従っている以上同罪だ。

 

やはり今自分にできることをやるしかない。

 

「じゃあ、夜のお仕事に向けて準備しましょうか。今夜もホットになる予感がするわ」

 

 

生徒たちがミャンマーの闇に打ちのめされ、それでも救助に奮闘したその晩。

 

意外にも早めに面談は実現した。まだ夜の一歩手前、夕方になった時には再びの首相官邸。というより宮殿と言った方がしっくりくるが、そこで会談を再開したのだった。

そこで再び相談をしていると、今度はやけに聞き分けがよかった。

 

「あなた方の支援には感謝しています。今日も多くの国民が救われたと聞きました。彼らを救っていただきありがとうございます。つきましては先日相談していた諸外国への取次など、我々にできることは極力協力させていただいてぇ……」

 

誰だこいつは。こっちがツッコむこともできないでいるとそれは起きた。

違和感のある現実を埋め合わせるように、不本意な状態だというのになぜか納得してしまった。

 

 

アサルトライフルを持って、ガスマスクで顔を覆った女がそこにいる。

 

「この施設は我ら『カレン・タアン解放同盟』が占拠した。個性を使ったり通信機器を使えば即座に射殺する。理解できたら拘束を受け入れろ。余所者が」

 

所作と口調はどこか男っぽく、違和感がある。きっとこいつも最近まで男だったのだろう。

 

「ええ、降参。しっかりガスマスクまで着けてくれちゃって、対策バッチリって感じね?」

 

ミッドナイトの個性『眠り香』の対策だろうが、それだけでやっているほど甘くはない。

銃を構えたテロリストの制圧自体はおそらく可能だ。しかし、同行している一般人の真を守り切れるかどうかが怪しい。ここは素直に従っておく。

 

「ああ、恐ろしい。反体制の武装組織がこんなところにまで来るとはねぇ。誰か助けてもらえないかしら。ねえ。世界一のヒーローは今どこにぃ?」

 

ああ、なるほど。こいつらの狙いはオールマイトか。本人を遠ざけたからそうではないと思ったけれど、このタイミングで呼び寄せようとするなら彼が本命なのだろう。

 

手を拘束され、そして広間に連行される。

銃を構えて脅す態度をとっているが、拘束されているのはこちらの人員だけである。あまりに露骨で、その意図を隠そうという気概が見えない。

 

こいつらは明らかに手を組んでいる。

広い演説の会場に集められたものたちは落ち着き払っているようで、まるでテロリストに奇襲されたようには見えない。

 

『香山様。現状の敵勢力と武装であれば制圧することも可能ですが、いかがしますか?』

 

インカムや通信機器は取られたが、体内に入っているデバイスまでチェックするという近未来的発想はなかったらしい。骨伝導で音が伝えられ、人形からの確認が入ってくる。

 

だが、それはやめさせた。なぜなら奴らはオールマイトを誘い込んでいるという事実は無視できない。彼相手に人質を取ったヴィランは星の数ほどいた。その全てを打ち砕き吹き飛ばし、流れ星にした結果、頂点に君臨しているのがオールマイトなのだ。

 

奴らにはきっと人質以上の手札がある。

 

「さて、英雄はいつ頃来るのだろうね?」

 

「心配しないで、もうすぐよ。彼がこんな状況を許すはずがないんだから」

 

どれだけ相手が万全で対策を練っていようと、彼は正面から現れてあの言葉をかけるに決まっている。

 

「ほう。どうやらそうらしい。外が騒がしくなってきたな」

 

「ところで、人質のロールプレイはもうやめたのかしら?下手くそなメイクが剥がれてるわよ」

 

「不敬ねぇ貴様は。先に殺してあげようかしらぁ」

 

その次の瞬間には、会場の上部壁面にあったステンドグラスが弾け飛び、金色の何かが飛び込んでくる。

 

「もう大丈夫。なぜかって?」

 

ああ、くるぞ。いつものだ。世界の誰もが安心する魔法の言葉が……ん?いや今の声は一体……

 

 

 

あ た し が来た

 

 

 

????

 

なんか違くない?

 

透き通る大声、しかし決して不快ではない荒々しさはそのままに、それでも線の細さをどこかに感じる声がした。

 

圧倒的な自信がみなぎるその声の主は大柄な女性だ。

 

線は太く、筋骨ががっしりとした。日本人離れした骨格。

 

多くの人が、まるで米国NO.1ヒーローのスターアンドストライプと瓜二つと、いや彼女の母親みたいだなんて言うかもしれない。

 

たなびく金髪と透き通るような紺碧の瞳は以前と何も変わらず敵を見据え、その先の救うべき人を見つめている。

 

ダイナマイトなボディを揺らして、オールマイト(♀)が人々を助けるためにやってきた。

 

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