夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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戦いの終わり、終わらぬ戦い

 

そう言えばと聞いてみたことがあった。

 

「なぜミサイルと誤認させるような愚かな行動をする者たちを殺してしまわないのか」と。

 

未来が見えるのならそれが最も手っ取り早く、そして確実だろう。世界は平和なままずっと殺し合いをし続けることができる。持続可能なレベルでの共食いを永遠に。

 

「だってそれだと、いつ起こるかわからないでしょう。今回破滅を寸前で止めてしまえば流石に世界も冷静になるわ。一度滅んだ自覚をした方がいいいの。痛みがないと人は変わろうとしないから」

 

はっきり言っておかしい。それはこれからの作戦が必ず上手くいくという前提がないと選べない選択だ。あまりにも傲慢で理解し難い。それはこの世界を生きる以上、自分すら例外でない恐怖に似た感情だった。そりゃあそうだ。僕だって死にたくない。

 

けれどそれが実現されるなら、自分がその根元で全てを抑えることができるのならこんなに簡単なことももない。

 

作戦のカウントダウンを無線で聴きながら、そんなことを改めて思った。

 

 

思ったより暗かった。

それが宇宙空間に浮かんで考えたことである。

 

地球がある方向だけが明るくて、それ以外の方向には何もない。星はある。あるが、遠すぎて光というより点だ。瞬かない。大気がないから揺れない不動の星たちが瞬きもせずに注視している。

 

下を見ると地球があった。

 

青かった。それは知っていた。写真で見たことがある。しかし実際に見ると青というよりも、光っているという方が正確だった。雲が白く渦を巻いていて、その下に青と茶色と緑が見えた。海と陸の境界が思ったより曖昧で、遠くから見るとこの星がひとつながりのものだとわかる。どこからどこまでが誰のものという話が、この距離からは滑稽に見えた。

 

その地球に手を伸ばせば、それが手中へと収まるような気がする。けれど地球は大きすぎて、そうだな北半球くらいしか手の中には入らなかった。そのうち、月にでも行ったら全部を自分のものにできるだろうか。

 

無意識に出た笑い声以外は無音だった。

耳に何も届かない。音が伝わる媒体がないからだ。知識としては知っていたが、実際に体験すると少し奇妙だった。これだけ何かが起きているはずなのに、何も聞こえない。

 

呼吸のための装置が顔に張り付いているのが煩わしい。

マスクというより、顔を覆う硬い構造物だ。縁がシリコンで密着していて、頬と顎に圧がかかっている。吸うたびに弁が開く音がした。小さい音だが、無音の中では大きく聞こえる。規則正しく、機械的に、一定のリズムで空気が来る。肺が膨らんで、また弁が閉じる。

 

決めた。いつの日か、なんの機械もつけずに月面に立ってやる。あらゆる個性をこの身に宿し、自分だけでそれを為す。

 

その音だけが聞こえる時間が過ぎ去って、無線が何かを言っていた。

いよいよ核が来るらしい。

 

不思議だ。ここに世界を終わらせる力がやってくるという。

最も多くの弾頭がここで大気圏へと再突入するから、そこに居合わせて欲しいと。それ以外を全員で撃ち落とすからと言われてここにいる。

 

核兵器は嫌いだ。これは人の力を超えすぎている。全てを支配する自分にとって、あまりに大きすぎる常人のための兵器というものは認め難い。だいたい、その星を台無しにするような兵器をこれだけ無鉄砲に作るなど、頭がおかしいとしか思えない。

 

科学というのは行きすぎてしまう。リンゴの落下くらいで身の程を弁えておけば良いものを、次から次へと手に負えないものを作りすぎだ。そうだ。これ以上の進歩はいらない。個性という生き物由来の力を中心に世界を作るべきだろう。

 

 

 

見つけた。最初は星の光かと思った。

遠い。方向としては斜め上、軌道の向こう側だ。動いていることでそれが星ではないと気づく。星は動かない。それが動いていた。

 

速かった。

見た瞬間には既に近づいていた。光の尾が後ろに伸びていて、大気との摩擦で表面が焼けている。プラズマだ。それが尾を引いてこちらに近づいてくる。この暗い空間の中で異様に明るかった。

 

音はない。

何も聞こえない。ただ呼吸の弁が開く音だけが耳の中にある。その規則的な音の中で、燃える何かがこちらへ向かって直線を描いていた。

 

炎が消えた。

大気圏を抜けたのだ。燃やすものがなくなった。尾が消えて、光が消えて、ただ暗い空間の中に何かがある状態になった。

 

見えない。

あるのはわかる。軌道がわかっていたから、どこにあるかの計算はできる。しかし目では捉えられない。暗くて、速すぎて、形がわからない。金属の塊のはずだが、光を反射する角度がこちらに向いていない。

 

それでも近づいてくるのがわかっている。各種レーダーのような機能を果たす個性をいくつも使っているから。

 

そして僕は、わざわざ何かを当てる必要もない。

 

両手を合わせて、二つの個性を混ぜて使う。

『エリア』『反発』の二つを発動させてその空間に触れたものを一定時間は重力が逆にかかる場所にした。

 

弾道計算というものは緻密であって、それには当然ながら地球が1Gの力で万物を引っ張り続けているという前提が存在する。リンゴが木から落ちることに気づいた時からの常識を、『個性』は容易く引きちぎる。

 

弾頭は凄まじい速度を保ったまま、自分の横を一瞬でまっすぐに過ぎ去っていく。

 

それは地球の重力を振り切るほどの速さはないはずなのに、もう落ちてはこない。そのまま宇宙のどこかへと向かい飛び続けるのだ。その行先を知っているのは自分だけ。計算のための個性はここまでは必要なかったかもしれない。大雑把でもこれくらいならできただろう。

 

世界を救うにしてはあまりにドラマがない一瞬の出来事。映画やコミックには使えないだろう。

男が一人。ただ浮いていて。手を合わせただけで、破滅が彼方へと消えていく。

 

そこで、とある宗教の祈りのポーズと同じであることに気づきまた笑った。

 

この僕が!合掌をして世界を平和にしたなんて!!

 

徐々に落下していくことを自覚しながら、その皮肉について笑っていた。

異常な女と異常な男に振り回された不快感はすでに忘れて笑いが止まらない。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

地上へと降り立つと、そこにあるのは極端な感情の連続であった。

 

最初の報復核を無事に宇宙へと送り出した自分は、まるで英雄かのように迎えられる。これでようやく作戦の土台が整ったのだ。それでも彼らは自分に心の底から感謝しているようだった。

 

政治家たちも脅す必要すらなく、涙を流してあなたに協力すると何度も手を握ってきている。

その光景に、人に感謝されるという特大の違和感に圧倒されながらあとは見守ることしかできない。

 

色めき立つ指揮所はしかし、追加の報復核発射の報告が入った時、静止した。

静止というのは比喩ではない。本当に全員が動きを止めた。キーボードを打っていた手が止まって、書類を持っていた手が止まって、立ち上がりかけていた人間がその姿勢のまま止まった。誰も何も言わなかった。

 

最初に声を出したのは若い隊員だった。

 

「核、発射、確認。複数。着弾予測時刻……」

 

いよいよ本当の戦いが始まる。

読み上げながら声が変わっていった。最後の方は読んでいるのか喋っているのかわからない声だった。誰かが椅子を引く音がした。立ち上がろうとして、立ち上がれなかったらしかった。また座った。

 

政治家が一人、窓の外を見た。東京の夜景が見えた。灯りがついている。無数の灯りが、今この瞬間もついている。それを見ながら口を開いたが、言葉が出なかった。もう一度口を開いたがやはり何も出なかった。

 

「……家族に、連絡は」

 

誰かが言ったが、誰も答えない。

 

答えられる人間がいなかったのではなく、答えた後のことを考えると何も言えなかったのだと思う。連絡して、何を言うのか。来るとわかっているものに対して、何ができるのか。

 

廊下で誰かが走る音がした。

自分が対処をする前から街中でアラートが鳴り続けている。その光景が作戦室にも映されていた。

 

街では人が出始めていた。夜中にもかかわらず、建物の灯りがひとつひとつついていった。窓から外を見る人間の顔が見えた。スマートフォンを持ったまま立ち尽くしている人間がいた。走り出した人間がいた。どこへ向かうかわからないまま走っていた。

 

コンビニに人が殺到していた。

何を買うのかは関係なかった。ただそこへ行かなければという感覚で人が集まっていて、棚の前で立ち尽くしている人間がいた。水を持ったまま床に座り込んでいる女がいた。

 

動いていない地下鉄の駅に人が溢れている。

どこかへ逃げようとしているのか、それとも家族のいる場所へ向かおうとしているのかは、本人たちにもわからないようだった。

 

老人が一人、ベンチに座っていた。

騒ぎの中で、動かなかった。スマートフォンも持っていない。鞄を膝の上に置いて、まっすぐ前を見ていた。何を考えているかはわからない。ただその顔は、諦めでも恐怖でもなく、どこか遠いものを見ている顔だった。

 

 

 

そんな恐慌は国を隔てていても、まさに反撃をした国の当事者である軍部においても同じである。

最初に気づいたのは追跡担当の兵士だった。中国の南部、農村からの出身で希望を持って士官していた若者である。

 

まさか自分が世界を終わらせる一助を担うなど想像もしなかった彼は、絶望の中その変化を報告した。

 

消えた。と言った声に感情がどうにも乗せられない。

 

「追跡信号が、消えました」

 

誰も反応しなかったから、もう一度言った。

 

「消えています。全弾、ロストしています」

 

作戦室の中が静止した。さっきとは違う静止だった。さっきは決意と戦意で満ちていた空気が、今は理解できなくて止まっていた。

 

「システムの障害なのか」

 

「複数系統で同時に確認しています。障害ではありません」

 

「では、どういうことだ」

 

答えられる人間がいなかった。

画面を何度も確認する手が止まらない。別の端末で同じデータを引き出して、同じ結果を見て、また別の端末に向かう。信じられないから確認して、確認しても信じられないからまた確認する。その繰り返しが作戦室のあちこちで起きていた。自分たちが撃ったものが消えた。撃墜されたのか、それとも別の何かか。どちらにしても、説明がつかない。

 

「アメリカからの初弾も落下せずに宇宙へと飛んで行きました。そして我が国の報復、その着弾予測時刻を過ぎました」

 

「一体何が……?」

 

それに答えられる人間もいない。当たり前だが中国の迎撃システムではなく、アメリカも違うだろう。そんな技術はどの国も持っていない。レーザー兵器か、あるいは未知の兵器か。情報部が持っていない何かが使われた。それだけはわかった。

 

「全て日本上空……」

「奇跡だ!」

「日本にそんな能力はない」

「一体なぜ?」

「よかった!助かった!」

 

泣き崩れる兵士も出るという混沌の中から、事態を把握しようと努めるものもいたが何一つとして上手くいかない。

 

報告が届いたのは、歓声と怒号がまだ収まっていない頃だ。作戦室の隅で、一人の兵士が受話器を持ったまま動かなくなった。

 

周囲はまだ騒がしい。弾頭消失の原因を追っている人間と、それでも生き延びたという事実に安堵している人間が同じ部屋にいる。誰かが笑っている。誰かが叫んでいる。

 

その兵士だけが、止まっていた。そして兵士が口を開いた。声が出ない。もう一度開く。

 

「同志、最高指導者が」

 

そこで止まった。

 

「何だ」

 

「暗殺、されました」

 

作戦室が、静止した。

さっきまでの歓声が嘘のように消える。笑っていた人間の顔が変わった。データを叫んでいた人間の手が止まる。誰も動かない。誰も喋らない。

上官が一歩前に出た。

 

「もう一度言え」

 

「最高指導者が暗殺されました。未確認ですが、我が国の空軍機が中枢に突っ込んでいったとのことです。避難をする直前だったと……。犯人が革命を扇動し、核からの避難をしていた民衆たちがそれに続いてるとのことです……」

 

その一言が落ちた瞬間、部屋の空気が変わった。

弾頭の消失と、最高指導者の死が同じ時刻に起きた。偶然ではない。誰もがそう感じた。感じたが、それが何を意味するのかの整理が追いつかない。

 

静観していた制服の一人が笑い出す。

 

「こいつはすごいな!!革命じゃないか!」

 

「最高指導者だけではない。常務委員会の全員が同時に消えた。命令系統が、根から消えたということだ。誰が核のボタンを持っているかわからない。誰が軍を動かせるかわからない。10億の人間が、舵のない船に乗っている。諸君!まさに革命だぞこれは!」

 

「おい!貴様何を言ってる!?」

 

「世界を破滅させようとした指導部に良識ある誰かが反抗した。そういう筋書きになるでしょう。ここからは泥沼の戦いになる。皆さんはどうします?」

 

目ざといものたちは戦いが起きることを知っていた。けれどまさか、そこから100年以上に渡って続くとは流石に誰も知らなかっただろう。

 

革命の先導者は、勝利を目前にその勢力を裏切ることを二度も行うことになる。

それによって三つに割れたこの国は永遠の闘争へと落ち込んでいく。

 

自分の前にいるものが先導者なのか扇動者であるのか。それは後になってしかわからない。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

 

オールフォーワンはかつてとは全く異なる身体で、それでも限界まで高い場所にいる。

あの時と同じように呼吸器をつけているが、その理由はまた違う。

 

第三次大戦が終わり、個性を与えられた日本の政治家たちは人が変わったように仕事をした。

実際に知能や身体機能が向上しているため別人と言ってもいい程のパフォーマンスが出ていただろいう。邪魔をするものは政治家を引退していき、『奇跡の内閣』と呼ばれる黄金期へと突入していった。

 

彼らの支配はあまりにも簡単で、というか自ら管理して欲しいと願い出るものがいるほどだった。慣れなかったが、彼らは本心からそう言っているようで余計に信じられないが、それでも全員が死ぬまでずっと忠誠を誓っているのだった。

 

日本を頼みますと。多くから言われて、その度に笑いそうになったけれど。それでも自分勝手に日本を繁栄させてきた。いずれ壊す砂の城。それでも仕上げに手を抜く理由にはならない。

 

慕われる。尊敬されるという支配の方法は初めてであったが、それが非常に楽であるということを同時に知れた。

 

恩や愛による支配という味を僕はここで認識することができたのだと思う。

 

だからだろうか、燃えていく世界を眺める魔王は不快を自覚している。

 

「僕のものを、勝手に壊すなよ」

 

この世界は、個性を生み出す人々は全員が自分の所有物だ。牧場に誰かが病気をばら撒いて、せっかく育ったものを荒らしまわっている。

 

丹精込めて育てた牧場を乗っ取ろうとしてくるヒーローも。

隙をついて荒らそうとしてくる謎の狂人も。全員死ねばいい。

 

人の所有物を奪うなんて理不尽を許せるものか。

 

世界が盛大に燃える四度目の大戦を大いなる不快感で眺めている。

伸ばした手は、またも世界を収めることはできていない。けれど、今は手を大きくすることができる。

 

ぐんと伸ばした歪な腕は、世界を包み込むように広がった。

 

「全ては僕のためにある」

 

支配者は再びこの世界を自分のものにするために、第四次世界大戦を終わらせて邪魔者を全て消すことを決意した。

 

そう。これは平和のためなのだ。




二日程おいてから、第四次編を開始します!
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