夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

126 / 166
世界大戦 第四次編 
戦いの中で


機内は思ったより静かだった。

 

静かというのは語弊があるか。マッハを超える旅客機にしては異常に静音であり、中にいる人間はそれはもう騒がしくはあった。心地の良い騒音に身をさらしながら、俺たち雄英高校生は北米へと向かっている。

 

先週は東アジア、先月はヨーロッパ。そして来週にはアラスカのあたりまで行く予定だ。

 

エンジン音は低く一定に続いていて、外の音が少ない。座席が三列で、雄英の生徒たちが固まって座っていた。窓の外は雲だけで、当然ながら地面は見えない。高度一万メートルの雲というのは、下から見上げる雲とは別物だ。白というより灰色に近くて、厚みがあって、その上に出てしまえば何もない青空になる。

 

観光を意識されて作られたこの超音速旅客機。『コンコルドJr』はなんと上部や下部に一部大きめの窓が設計されている。かつて人間の惰性という悪癖の名前にすらなったコンコルドという名前にどうにか新たな価値を上書きできないかというのがコンセプトだ。

 

込められたメッセージは『失敗から学び、次へと活かす』である。

 

そんな反省の中で作られた窓とそれを通して、外界の景色を轟が見ていた。

特に何かを見ているわけではなく、ただそちらに顔を向けていたのかもしれない。景色に興味があるのかどうかもわからない顔だ。隣の緑谷は何か読んでいる。手書きのノートで、細かい字がびっしり入っていた。移動中も書き込んでいる。ペンを走らせる音といつものブツブツ音がしっかりと周囲に響いているがそれを気にするものなどすでにいない。

 

「カナダって寒いのかな〜寒いよね〜きっと!」

 

葉隠さんが前の席で話している。

座席のヘッドレストから顔が出ていないので、知らない人間が見たら誰もいない席が喋っているように見える。隣の乗客が最初に気づいた時、少し固まっていた。

 

「この時期ならそこそこですわね。でもそちらの防寒具があれば確実に大丈夫だと思いますわ」

 

「ふっふっふ〜!そうなの!これまた新作でさ!生地が良いんだよね!よくこれを私から作れるなぁ。こんなにふわふわなところなんてないのに!」

 

「毛髪の細胞をそんな風に加工するのは世界初らしいです。その組成は私も勉強させていただきました。きっとこれで自分の個性によって服装が制限されてしまう人たちもきっと助かりますわ!ん?あーくんはどうしました?」

 

しばらくそちらを見てしまっていたらしい。ここは上手く話を逸らしておかないとクラスメイトがうるさくなる。主には女子たちが。こんな時にそっけなくする方が脈ありなんて判定になるらしいから難しすぎる。

 

「んーいや。なんでもない。葉隠さんとは目が合わないから自然と百ちゃんを見てただけ。日本の冬を経験してるし大丈夫だと思うよ。そういや、葉隠さんは特殊な光の状況下であれば透明化を無くすこともできるようになりそうなんだっけ」

 

「そうなの!この服とか靴もね。自分で透明ってわけじゃなくて私が触ると透明になるから、この仕組みをちゃんと理解して応用すればできるはずだって!物の性質を変えずにどうにか透明にするにはどうするかっていう研究なんだって〜」

 

「このコンコルドの一部にも採用されてるね。通常の物質に葉隠さんの個性をコーティングできないかってさ。コーティングで中身まで透明になるんだからすごいよ」

 

そう。彼らの個性は研究されており、機械や物質での再現なども進められている。

 

「そうか。すごいな!さすが雄英。そしてUAIランド!先端個性科学をここまで扱っていくなんて

、研究の速度が段違いだ!」

 

通路側の席でA4の資料を読んでいた飯田くんが反応する。基本はペーパーレスなのだが希望者にはいまだに紙が配られている。彼は書き込んでくたびれた資料を見るのが好きなようで紙派の重鎮だ。

ちなみにこのような遠出の際の資料は紙がいい!という生徒が多いので旅のしおりはみんなが持っている。一部は電子版で受け取ってブーイングを受けていた。大人になってから昔のしおりとかを実家で見つけるのがいーんじゃん!という人生何周目だ?と思える意見が割と賛成を集めていた。

ちなみに自分はもう何周目かはわからない。無限ループって本当に怖くね?。こええよ。

 

飯田くんが握りしめていい感じに馴染んでいる資料の中身は当然ながら把握している。

今回の任務の概要が書いてあるのだ。断水設備の修復支援、医療物資の輸送護衛、市民対応などなど。戦闘は予定にない、この半年間は苦難が続いていたが南米の時のような大規模に学生が巻き込まれる戦闘は起きていなかった。もちろん。一部は犯罪者や暴徒と戦いはしたが、それは殺し合いではなかった。

 

「護衛って言っても軍がいるし、いつも通りにやってりゃいいんじゃないの?」

 

上鳴が言った。シートに深く沈んで、足を前の席の下に突っ込んでいる。

 

「俺たちすることは変わんなくね実際」

 

「ああ。けど、いるだけでいいって話。最初は余裕でゲイル先生の嘘だと思ったぜ!」

 

切島が真面目な調子で答えると多くのものが同調する。そんな上手い話があるか、いつ「騙して悪いが抜打ちテストなんでな」と言ってガチのテロリスト対応とかさせられるもんだと思っていたらしい。

 

「笑顔で立ってたら市民が安心するって言われても、自信なかったもんなぁ」

 

「まあでも確かに。知らない軍人さんがいっぱいいるより、ヒーローっぽい奴らいた方が安心か」

 

「おい上鳴。ヒーローはヒーローだろ。学生でも外国でも俺たちがちゃんと自覚持ってりゃそう見てくれる」

 

「え、なんか頼り甲斐ある男っていうか。漢に磨きがかかってんな!ハンパねえ!」

 

「へっ。初回の前に自信ないっすってゲイル先生に相談したら数時間詰められたぜ。おかげでみっともない態度だけはしなくて済むように訓練してもらったからな!」

 

座席の列がいくつか挟まった後ろの方で、爆豪が一人座っていた。腕を組んで目を閉じている。寝ているのか起きているのかはわからない。話しかける人間はいなかった。近くの席の生徒たちが、無意識に少し距離を取って座っていた。

 

緑谷がノートから顔を上げた。

 

「現地のヒーロー事情、資料に少し載ってたんだけどさ。カナダは個性発現率が日本より高くて、でもヴィラン発生率は似たような感じで。だからヒーロー一人あたりの担当エリアが広くて、市民との距離が遠いらしくて」

 

「だから俺たちが行く意味がある、ってことか」と轟が窓から顔を戻して言った。

 

「うん。そうだね。きっとみんな不安になってる。オールマイトが来てくれればいいけど。世界中が待ってるから、僕たちも頑張らないと」

 

緑谷がまたノートに視線を落とした。ペンを走らせる音が再開した。

 

 

そうこうしているうちに機内食が配られる。

ワゴンが通路を進んでくる音で、前の方から順番に顔が上がっていった。資料を読んでいた飯田が栞を挟んで閉じた。轟が窓から完全に視線を切った。爆豪が目を開き、即座に食事の態勢へと移行。起きていたらしい。

 

トレイが並んだ。パンと温かいスープと、小さいサラダ。

 

「これ美味い。てか機内食ってなんかテンション上がるよな。カナダにも美味いものあるかな。あるよな」

 

「でも、おかしいだろ!CAさんがさァ!ビーフorチキンって聞くべきだろ!オイラはそれだけを楽しみに上空1万メートルに来たってのに!!」

 

「CAさんは男もいるだろうが」

 

「プーティン食べてみたいよ〜。カナダといえばあれでしょ!」

 

葉隠さんは割とグルメだ。現地の食べ物をちゃんとリサーチしている。そして峰田の叫びは当然のように無視して上鳴の話を繋いでいる。もうツッコミをするのも俺くらいだ。おいたわしや。

 

「それ、なんだ?」と知らないのだろう素直に聞く轟。

 

「フライドポテトにグレービーソースとチーズをかけたやつ!絶対美味しいよ!」

 

「メープルキャンディって日本で売ってるやつと全然違うらしいよ」

 

座席の背もたれに体を預けて、芦戸さんがスマートフォンで何かを調べている。画面を葉隠さんの方に向けた。どうちがうのー?と言いながら覗き込む気配がする。

 

「本場のはメープルシロップだけで作ってるから、香りが全然違うって。日本で売ってるやつって香料入ってたりするから、風味が薄いらしい」

 

「それ買いたい」

と葉隠さんが即座に言った。

 

「あとメープルタフィーっていうのもあって……」「え、それ食べたい」

「雪の上に熱いメープルシロップを垂らして固まらせたやつを……」「え、それ食べたい」

「メープルバターはご存知ですか?」「え、それ食べたい」

「俺、作れるようになるかな」「え、それ食べたい」

 

もう甘いものの話で女子たち+砂藤は着陸まで行くことにしたらしい。百ちゃんも個性の関係でかなりの食いしん坊であるし、リサーチは相当にしていたようだ。

 

男子たちはカナダのヒーローについて語り合っている。新しいヒーローが多く緑谷も楽しそうだ。しかし、引退したヒーローも多いようでオタクが悲しんだり、喜んだりして喜怒哀楽に忙しくしていた。

 

 

雄英高校ヒーロー科。一年生の終わりかけのこの時期であってもここには日常があった。

世界で巻き起こる戦いはあれど、学生には学生の日常がある。

 

いつもシリアスにはいられない。世界にはユーモアと美味しいものが必要なのだ。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・-

 

 

世界は第四次世界大戦の真っ只中。

内戦がない国の方が珍しく。アメリカですら内戦が始まっていると言えば世界の混沌は理解できるだろうか。

 

スターアンドストライプという特級の抑止力が出ていけばそれは鎮圧できるが、それでも毎月、毎週のように火種から火災が巻き起こっている。人が全体的に凶暴になっているようだと、権威ある研究者が話していたが。そんなこと見ればわかるとど素人のコメンテーターに喝破されていたのが、最近SNSで流行っていたっけ。

 

各地でヴィラン犯罪が多発し、そして人々の対立は激化している。それはどんな違いでも良いらしい。国民同士で、そして外国と勝手に国民が戦うということが起きてしまい、軍が出張って制圧すれば一方の国から侵略だと非難されて戦いが起きる。

 

個人から始まる紛争が多すぎた。そして、中には軍やヒーローを圧倒するほどの力を示すものすらいるのだ。新しい自治区が増えていき、そしてそのコミュニティと別の何かが衝突していく。

 

まさに『万人の万人に対する闘争』という言葉が適切なこの混沌は収束しそうにない。

リヴァイアサンという途方もない大きな赤い目の怪物が、夜になると睨んでくるようなそんな戦慄を覚えさせられる。

 

世界中へと支援をし続けるUAIと南極を拠点にしたWHOは、いまだ陰りを見せてはいない。戦いになれば景気が上向くのはどうにも気持ちが良くないが。世界から必要とされる莫大な医療を提供できるのは生産施設のある南極とそこからの流通網を持っているUAIの専門である。

 

無人潜水艦の群れによってUAIランドは物資を常に回しており、その力を世界へと向けて医療品を届けているのだ。UAI自体も人と物資を運ぶ方舟として世界中から待ち焦がれられている。

 

なぜなら、人は今暴力に感化され易くなっているから。

暴れて奪い、人を殺す犯罪者が発生した時。軍隊や別の暴力でそれを排除することはできる。各国がそうしている。けれどそうしてその日の夜になると、その地域は荒れるのだ。

 

人々の中の暴力性が覚醒し、街に出て互いを攻撃し合う。最悪の夜が世界中で起き続けている。

その後のケアと、継続的な保安によっていくらか予防はできるが人の心に影を生む行為自体があまり有効ではないらしい。

 

そこで再注目されたのがヒーローだった。ヒーローによって解決された事案やヒーローが軍と協力して解決した事案においては顕著にその後の治安回復の効果が確認されたのだ。

 

 

この戦争がどこでも起きる時代。人々は、平和の象徴をこそ求めている。

 

「もうすぐ着陸だ。甘い話は後にして、それぞれの席へと戻りたまえよ」

 

素早い動きで全員が自分の場所へと戻った。

お菓子の話と、現地のヒーローにサインをもらえるかという話を総括し担任が気を引き締める。

 

こういうところはやはり、前のような緩さはないなと少し寂しくなった。

まるで軍隊のような規律が求められている。我々が適当にするだけで、死んでしまう人たちがいるから。

 

そんなプレッシャーの中でも、どうやら人は慣れるらしい。それが良いことか悪いことかはわからない。

 

それでも、人は慣れるのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。