夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

127 / 166
「最後」を告げる。評決の日。


VERDICT DAY

 

現場は思ったより静かだった。

断水が続いて三日目の地区だ。パイプが二箇所で破裂していて、修理班が入っている。

 

水を巡っての争いもあったらしい。雄英高校の医療科も現場入りしており、おそらく姉の雫月も来ているはずだ。このところ寝る時にもほとんど会話はない。向こうも相当に忙しいらしい。倒れるようにして眠っている。

 

軍の車両が路肩に並んでいるがそこの上に立つのはヒーロコスチュームの学生たちである。彼らを住民が遠巻きに見ていた。その表情はどこかホッとしているように見えた。

 

向こうでは百ちゃんが修理班の脇で何かを作り出している。

工具だ。修理班が持ってきた規格と合わない部品があったらしく、その場で出力している。水に濡れる作業はこの寒さの中で辛いだろうと、おそらく防水ホッカイロを創造して持たせたのだろう。修理班の一人が最初は驚いた顔をして、次の瞬間には笑顔で作業へ戻っていった。

 

声をかけるでもなく、邪魔するでもなく、必要な時に必要なものを出す。それ以上に人を幸せにするような『創造』をしていく。彼女もかなりヒーローとして成長したのだと思う。ああいう発想は自分にはないから。

 

隣に立っていることで安心させる役割と、実際に作業を助ける役割を、説明なしに自然と両立している。今の時代のヒーローというのはああいうことができる人間のことを言うのかもしれない。

 

少し離れた場所では爆豪が立っていた。

腕を組んで、仏頂面で、周囲に話しかける様子がない。それだけ見れば威圧しているように見えるが、違う。住民の方に身体を向けていた。軍の車両の方ではなく、人の方に。

 

すると彼は歩いていく。それに呼応するように子供が一人、爆豪に近づいていった。

四歳か五歳くらいだ。母親らしい女性が少し後ろで見ている。止めるでも促すでもなく、ただ疲れ果てて見ている彼女の疲労だけが伝わってくる。

 

子供が爆豪のユニフォームの裾を引っ張る。

 

爆豪が下を見た。膝をついた。子供と目線を合わせる。それだけの動作だったが、周囲の空気が少し変わった。

 

子供が何か言った。英語で、小さい声だった。

 

「パパ。帰ってこないの……それで、それでね。ママがね……」

 

「なんて名前だ。探してやる」

 

爆豪が短く、しかしはっきりと答える。そして子供の拙い言葉を遮らなかった。最後まで聞いてから答えていた。

 

マリアが爆豪からの要請によって調べた内容を伝えてくる。

 

『彼の父親は先日の内紛に職場が巻き込まれ、ヴィラン組織に拉致されたままです。現在の所在は現地政府では握れていません』

 

「ナイトアイからの情報。24番区の廃倉庫の地下室。そこに彼の父親はいる。見張りは少数で戦闘能力は低い。この後爆豪を向かわせれば解決できる」

 

UAIの最先端技術を使っても一日二日とかかる捜査も、自分がいれば短縮できる。ある程度はすでにやり直しておりこの地区の困りごとは粗方対応できているだろう。

オールマイトは不在だが、まるでオールマイトが来たようだと多くの地域でUAIと雄英高校の訪問は歓迎されている。

 

ところで、爆豪の変化にはもう驚きはない。という自分に少し驚いたくらいだ。

 

子供扱いをしていない。話しかけてきた相手として、正面から受け取っている。

父親を助けると伝えたのだろう。喜びはしゃぐ子供を止めて、重要なことを伝えているようだ。

爆豪がまた声をかける。今度は少し長かった。子供が不安そうな、それでも真剣な顔で聞いている。頷いた。それからようやく笑った。先程のような何も考えない表情ではない。

 

きっと、まだ父親が無事でいるかはわからない。けれどそこにいるなら自分が必ず助けると約束をしたのだろう。

 

爆豪は立ち上がって、爆発的に飛んでいく。彼の任務は変更。救助へと割り振られて飛んでいった。

 

『もっと早くに情報寄越せや!!』というのが以前の彼らしい正論の文句である。

だけれど、彼が子供と接するのは必要な時間だったと思う。これはまさに結果論でしかないが、父親はどのみち助かるから急ぐ必要はなかった。

 

もう子供の対応も慣れたものである。辛抱が求められる場面ではいまだに血が頭に昇りがちではあるが、そんなことは問題ではなかった。

 

爆発ヒーロー『ノーベル』は、今ではちょっとした人気者である。

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

 

緑谷と麗日さんは修理現場の端で住民対応をしていた。

翻訳アプリを使いながら、不安そうな顔をした住民の話を聞いている。水がいつ戻るか、食料は、避難所は。答えられるものと答えられないものがあって、答えられないものは正直にそう言っていた。それでも話を聞き続けている。

 

老人が一人泣きながら、麗日さんの手を両手で握った。

何かを言った。本人の発音が甘く、翻訳が追いつかなかったらしく、少し困った顔をする。それでも握られた手を握り返した。笑った。そうやって、人を安心させていく。彼女はそういうのがうまかった。

 

そして、緑谷がそれを横で見ている。

ノートを開いていたが、何も書いていない。ペンを持ったまま止まっていた。お茶子の方を見ている。

 

ただ、一瞬だけだ。すぐに視線を切って、ノートに向かった。意識した顔ではなく、切り替えた顔だった。今はそういうことを考える場面ではないと、自分に言い聞かせているような。世界がこの状態で、目の前に助けを必要としている人間がいて、それでも、という一瞬が顔に出て、それをすぐに閉じる。

 

 

離れたところから俺も見ているが、別の一団もそれを遠くから見守っている。

 

「もう付き合っちゃえよ!!」

 

ダンっと壁を叩くのは芦戸を始めとした女子たち。そして一部の男子たちも頷いている。

 

「いーや。許さねえ!それこそ世界が平和になるまではみんな恋愛禁止で行こうぜ!!なぁ!?抜け駆け裏切りなんてヒーローらしくない行い、雄英生としてできるわけないよなぁ!?犯罪率0%になってからだよなァ!!!??」

 

峰田の戯言は本人ごと転がされているが、実際のところ雄英高校の一年の間で恋愛云々のやり取りはあまりないらしい。ていうかそれ、女にモテたい自分にとっても不利だろうに。恨みは人をおかしくするようだ。

 

激務すぎるというのがほとんどだろうが、命の危険が近づくほどに男女は惹かれ合うものだと本で読んだ割には恋愛話がなかった。それぞれが胸に秘めた想いはあるだろうが、どうにもそれを言い出すような状況ではないし忙しすぎると遠慮をしている感じもある。

 

多分だけど、二月のバレンタインデーあたりには動く奴もいるんじゃなかろうか。その辺りが決戦の日かもしれない。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

そうしてようやく上手くいったカナダ訪問を確定させて、一日を終えようとしていると初めてのことが起きた。

 

どうやらこの時間まで無理して起きていないと遭遇できなかったことらしい。

 

オールマイトからの呼び出しという緊急事態に、すでにギリギリだったがどうにか体を動かして屋外へと出て、彼を待つ。

 

 

「私が、緊急で来たぁ!!!」

 

大迫力の顔面と共にヒーローはやってくる。久しぶりのオールマイトの実物である。かっけえ!!

しかし彼はもう1日に2時間もマッスルフォームを維持できなくなっている。最大限療養してこれだ。今後伸びる見込みもなく低下の一途を辿るだろう。

 

「こんな夜にいきなりごめんな!けれど緊急さ。異能解放軍のリ・デストロを名乗る人物が私個人へとオファーを送ってきた。こちらを見てくれ。というか初見かな?」

 

そんな憧れへの興奮と切羽詰まった感覚は、全く予想をしていない言葉によって遮られた。

 

始まったのはどこかの無駄に広いオフィスからのビデオレターである。

柔和な表情で少しだけ額が広めの男が、自分が異能解放軍のトップであると挨拶をしている。なんだこりゃ。

 

異能解放軍といえば、確かあれだ。一時期流行った思想の一つで、個性への抑圧を解放せよとデモをしているイメージだった。扱いは新興宗教や過激な政治団体といったもののはず。

 

疑問符を隠しきれないでいると、マリアが即座に補足してくれる。

 

「異能解放軍について説明します」

 

淡々とした声で説明が始まる。

 

『組織の起源は超常黎明期に遡ります。当時、能力を持つ人間はまだ少数派でした。その時代に『デストロ』を名乗る人物が、個性の自由な使用を人間としての当然の権利と主張し、法整備を進める国家と数年にわたって対立しました。その後逮捕され、獄中で自伝『異能解放戦線』を書き残し、自決しています。主張の骨子は単純です。個性は自由に使う権利があるというもの。既存の枠組みを破壊し、再建することを目的としています』

 

まぁ、言っていることはわかる。だからこそ全一君から奪った影響力を行使して、日本を個性抑制ではなく活用と研究へと舵を切らせたのだ。

 

『後継者、リ・デストロを名乗るこの人物はサポートアイテム企業の『デトネラット社』代表取締役社長、四ツ橋力也です。大企業や政治家にも思想を支持するものがおり、以前までは決起のために武力革命などを想定していたようですが、UAI発足の流れに合わせた個性の規制緩和。現状の世界情勢を踏まえて、強硬な動きはしないと公安に判断されていた組織です。現在の構成員数は約11万人と推定されます』

 

そんな説明を尻目に、録画の男は話し続ける。いや、リ・デストロか。

 

「……つまり我々は世界の命運を左右する男を確保した。これはワンフォーオールと、オールフォーワンの両方へと送っている。よーく聞いてほしい。私からのメッセージはこうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()。これだけだよ伝えたいことは」

 

ニコリと笑った。その目は一切笑っていない。ストレスに慣れきった大人の目だった。

その対象は拘束され、顔に何かを被せられている様子だった。体つきから見れば男なのだろう。こいつがなんだと言うのだろうか。

 

「こいつの名は、分倍河原仁。個性は『二倍』。一つのものを二つに増やすという個性さ。人や物を倍にできる。国民的なアニメは知っているかな。5分に一度倍になる栗饅頭があるのなら、1日で宇宙を崩壊させることすら可能だと多くの日本国民なら知っているだろう。彼はまさにあれだよ。彼の力を手に入れれば私でも世界を容易く破壊することができる。なんといっても5分なんてインターバルは必要ないらしいからね。今は不調らしいが、精神的な問題など君らにはないようなものだろう?」

 

「ホーリーシットだ。そんな個性が、本当に?」

 

「……っはは」

 

思わず乾いた笑いが出た。マジか?本当に?『新秩序』のことを知った時と同じような、いやそれ以上の驚きだった。これは反則だろうに。

 

同封されたデータが即座に検証され、マリアがその脅威を推定する。

 

『人体の体積を約70リットルと仮定した場合、地球全体を人体で埋め尽くすために必要な複製回数は約94回です。2の94乗体。理論上、100回に満たない増殖で地球が人間で覆われます。観測可能な宇宙全体の体積を基準にした場合、必要な複製回数は約267回です。267回の倍増で、宇宙全体を埋められる計算になります。個性の性能が本物ならばですが』

 

「実際はコストや制約ががあるのかもしれない。でも個性は応用できるし、オールフォーワンに至っては合成すらできる。たぶん、脅威度は変わらない」

 

「おいおい。核兵器より厄介じゃないか?」

 

「核なんて比べ物にならないですよ!彼を殺すために、宇宙人が深宇宙から殴り込みに来たっておかしくない!ていうか利用価値が高すぎる」

 

慌てるこちらをよそに、男の演説は続く。

 

「当然だが宇宙ごと世界を破壊するなど本意ではない。私は人々が自由に生きて欲しいだけだ。だからこそ残念ながら。非常に、残念ながら認めよう。我々には彼を活用するほどの技術も個性もない。そう。UAIランドほどの個性科学は他になく。オールフォーワンという存在に匹敵するような手駒もいない。だから、君らにあげよう」

 

「判定の方法はシンプルさ。2月10日から私はハワイで休暇をとっている。真珠湾沖でクルーズを楽しんでいるから、そこに交渉へと来てほしい。無事に交渉を終えた方へと私は彼を引き渡そう。まぁ早い話が、より強い力を示した方へと私は彼を提供するということさ。君たちはどちらでも異能解放の世界を実現できるだろうが、互いが邪魔をしていては『二倍』を洗練させ研究し運用する前に共倒れになることもありうる。それだけは避けねばならない」

 

ペシっと額を叩いて愛想笑いを浮かべる男は、ビジネススマイルを絶やさない。

 

「私はストレスに敏感な上、怒りを溜め込む性質でね。見てくれこの額を。だからこそ住み良い世界で異能を解放したいと願っているのだよ。お互いに牽制し合うのは終わりにして、世界の覇者を決めてしまおうじゃないか。どっちでも良いから解放された世界を平和にしてくれ」

 

まさかこんな展開が起こるとは。不安はあるがそれでも好機だ。それほどまでに『二倍』はおかしな性能である。

 

一週間後。ハワイで集まるその時に、お互いを潰して交渉の席に座らなければいけない。

オールフォーワンを排除し、そして『二倍』を手にいれる。

 

彼はまさに、UAIが血眼になって探していた個性強度の特異点だ。彼さえ手に入るなら、世界平和なんて夢物語が一気に現実を帯びてくる。

 

 

オールフォーワンとの因縁を終わりにして、時代を前に進めることができるかもしれない。

 

決戦の舞台は思いがけず用意された。そこを最後にしてやりたい。それだけは全一君と同じ気持ちになっているだろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。