夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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奇襲攻撃

改めてになるが。不確定要素がないのなら俺の後出しはほとんど無敵と言ってもいいと思う。無限のやり直しができるというアドバンテージは有限の手札を持った敵に対してあまりに強い。

 

理不尽を糾弾されてもそりゃそうだと同情すら覚える。それこそ精神的な負担は個人としては想像を絶するものがあったがそれでも、得られるものが大きすぎてどんな苦労すら損得計算をすれば報われてしまうことになる。

 

そこが負担に感じることもあるのだが、目的を達成する上で成功するまで再挑戦できるというのは構造上負けがあり得ない。

 

最初のオールフォーワンとの戦いでは、こちらの手札と精神があまりに未熟すぎてそれらが揃うまで死に続けたが、それでもいつかは成長したのだろう。無限の猿がいればいつか適当にシェークスピアを書き上げるだろうから、狂気の果てに正気のような状態を引くこともあるかもしれない。

 

そこから北朝鮮までは無敗だった。オールマイト相手だって狩人は捕まることはない。毎度人を殺しかけたり殺したりしていたから、彼の良心につけ込む形で逃げてはいたがそれでも捕まりはしなかった。

 

まぁ、アメンドーズのようにちゃんとやり直しが効いているのか微妙な存在がいると話は変わってくるのだが。あれらはおそらく自分の精神を参照しているのではないかと予想を立てていた。

 

モルヒネも個性がその類なのだろう。相手の悪夢のように自分を強くする。だとか、相手の悪夢に入り込むとかそんな感じの個性のはずだ。

 

まぁ、つまりは何が言いたいかというと。

 

 

無数のやり直しが許されていて、万全の状態のオールマイトがいて、奇襲のタイミングさえわかっているのなら。その状況を打破すること自体は容易いということだ。

 

 

モールはハワイで数少ない稼働している施設の一つだ。レジはほぼ自動精算で、接客ロボットが棚の間を動いている。人手が必要な場所だけUAI側の人員が入っていた。避難区域の中でここだけが動いている理由は残っている人の生活のためだったけれど、今となってはここを動かしておくことで相手の奇襲のタイミングを限定できるから継続させている。

 

魔王は降ってくるが、それを友人には伝えない。彼女たちの無邪気さ、警戒のなさが前回と同じであることが重要だから。

 

しかし、気になるのは襲撃の瞬間まで用意していたどの検知網にも引っかからないことだった。

あらゆるセンサーが沈黙している。熱源も、電磁波も、個性の反応も。完璧に消している。どんな個性を使っているのかは今は関係ない。見えないまま来るなら、見えない方法で対処するしかない。

 

タイミングと場所。そして大体オールマイトの勘だ。

やはり筋肉とオールマイト。意味が重複してしまったが、つまりはこれで全てが解決する。

 

 

誰からも認識されずに、それは直下で落ちてきているのだろう。

 

「私と会いたいのなら、そんな寂しいことするなよ。ホームランを打った仲だろうに!」

 

誰にも見えない脅威を捉えることを世界で最も任されている男が、まるで弾道ミサイルの迎撃を

するかのように飛んでいく。

 

そして、落ちてくるものと正面からぶつかった。

 

遅れて来た衝撃が、地面を揺らす。

空中で光が重なって、熱と弾けた。風が広がって、耐久性の低い窓ガラスが全部吹き飛ぶが、それ以外の被害はない。ちなみにショッピングモール周辺は朝から掃除のフリをして、強化加工が施されている。施設内に被害はない。

 

粉塵が上がって、数秒間だけ何も見えなくなった。

埃が晴れてくると、そこには何もない。まるで隕石が落ちてきて空中で爆発して消えたかのようである。

 

オールマイトは上手くぶつかることができたらしい。

 

「敵襲!だけど、買い物してから帰ってOK。ナイトアイがそう言ってるよ」

 

淡輝はそれだけ言って、状況を見守るためにクラスメイトを置いて駆け出した。まだまだ、敵の手札は揃っていない。手札どころか、プレイヤーが一人しか見えていないのだ。威力偵察であることは間違い無いだろう。

 

何度言ってもこの言葉は空虚に聞こえた。あのオールマイトの最後に、言う言葉がこれだけなんて。いやどんな言葉でも足りやしない。

 

襲ってくる近距離特化のオールフォーワンというものは悪夢だった。そのスペックは非現実的なレベルの強さである。全力どころか残り火を全て使い切った後のオールマイトでしか打倒し得ない。それこそアメンドーズのような反則加減である。

 

でも、これは倒せる。その可能性があるのなら、実現はできるのだ。

そのために取っておいた彼の力でもある。けれど、これは世界を照らす一つの光がついに消える瞬間でもある。

 

 

「それでも、生きていてくれれば……」

 

その一心だけで、どうにか動き続けることができる。恩人を憧れを何度潰えさせたのかもう覚えていないが、狩峰淡輝はもう止まることはできない。

 

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

 

 

山肌が抉れていた。

直径十メートルはあるだろうクレーターの中心に、二人がいた。煙が上がっている。木が根元から折れて、岩が砕けて、土が露出していた。

 

その中心で、二つの拳が静止している。お互いに、右の拳を相手の左の掌で受け止めていた。

 

拳という穂先を持った、腕の鍔迫り合いだ。どちらも動かない。どちらも押し切れない。地面にひびが入って、二人の足元から放射状に広がっていた。

 

オールフォーワンの腕はこちらに拮抗するため、いや凌駕するために変わっていた。

スーツの袖が内側から破れて溢れ出している。複数の腕が束ねられたような形で、関節がどこにあるかわからない。血管のような何かが表面に浮き出て、脈打っていた。複数の個性が同時に宿って、それが物理的な形として腕に出ていた。棘や鱗、筋繊維や骨が露出していて生命の坩堝の如き腕がそこにある。

 

個性の蠱毒は鳴動している。触れれば悲鳴が伝わってくるような圧があった。

 

けれどそれに負けじと、体内の熱を全て振り絞り、燃え上がるようにして押し返す。無数の命が雪崩のように潰しにかかってくるが、こちらはそれをたった一念のみで耐える。

 

「僕らの戦いも、そろそろ終わりにしよう」

 

オールフォーワンが言った。押している力が、言葉と同時に増した。

 

「それを返してもらうよ。ワンフォーオールは僕のものだった」

 

受け止めたまま、相手の顔を見ていた。見て、少し間を置いた。

 

「やはり別人か」

 

「前にこの話はしただろうに。しかもその時はもっと見抜いていたと思うけどね。若返ったと思ったけど、さてはボケてるな?」

 

自分の中にすでにワンフォーオールがないことなどわかっていると思ったが、こいつは知らされていないらしい。相手がすでに一枚岩でないようで安心だ。

挑発を受け、沈黙がコンマ数秒あって、その間に空気が変わる。何かが切れた音がして、巨腕が動いた。

 

掌から離れて、横に薙ぎ払う。オールマイトが後ろに跳んで距離を取った。着地と同時に前に出て同じように拳も解き放つ。

 

「HAHAHA!」

 

燃えるような笑い声が山に響いた。

 

「反論しなきゃ、負けって言葉もあるんだぜ!」

 

右、左、右、また右。間隔は不規則に、リズムを読ませない。一発ごとに地面が揺れた。風圧だけで岩が動いた。当たっていても回復できる範疇ではある。それでも押していた。ラッシュは止まらない。

全てを燃やしながら、全身の細胞全てを叫ばせながら全力で殴打を繰り返す。

 

オールフォーワンが後退後退してく。

一歩、また一歩。クレーターの端に向かって、少しずつ押し込まれていった。巨腕で受けるたびに、受けた腕のどこかがひしゃげて震えていた。威力が芯まで通っている。これまでの世界を背負った重さを込めてひたすらに殴り抜く。

 

「いつもの遠距離で弱らせてからの接近のパターンはどうした?あれは厄介だったのに、脳筋の私みたいなスタイルじゃないか!!」

 

言葉を弾丸にして連射していく。機関銃のように拳が叩き込み続けて休ませない。回復の隙を与えるな!今までの数十年間がここにかかっているんだぞ!

 

「……そっちこそ。っ様子見しなくて、良いのかな?……準備が、これだけとでも?」

 

体からは蒸気が出ている。エネルギーが溢れ出して、それが空気を歪ませていた。

連打が続く、止まらなかった。山が掘削されていく。小刻みに揺れて、穿たれていく。

 

「関係ない!どんな策があろうとも、目の前のお前を見逃す理由は一つもないんだよ!最短で、最速で殴ってしまえというのがナイトアイからの助言さ!」

 

脳筋コンビが過ぎるかもですが、これが最適だと思います。すこし迷った様子はあれど彼は

そう言った。だから信じる。

連打は決して止まらない。それは熱湯の大瀑布に押しつぶされているようなプレッシャーだ。

 

「見てみろ。あそこに家族がいるだっ……」

 

言葉ごと叩き潰すようにして、正中線を四連続で叩き潰すように縦拳による突きを放つ。

 

「ああ!私の同級生の!鏑木君の!ご一家だね。息子さんも!大きく!なった!孫までいるんだからな!」

 

言っている間も鉄槌のような拳が重く重ねられている。人質を使われれば必ず止まるのがこれまでの平和の象徴であったのに、彼は止まらない。ともに燃え尽きるまで決して止まらない。

 

「私は、ナイトアイを信じている。彼が信じたヒーローたちも同じように信じているのさ。彼らがきっと周りの人は助けてくれる!!」

 

そう。ハワイの市街地。一番高いビルの上で銃を突きつけられ、爆弾を飲まされていた彼らはすでに保護されている。胃ごと即時摘出されて、すでに胃を交換させられている。それをすでにやってくれている人物がいるから信じて突き進む。

 

無軌道に伸ばされた拳の一つがカウンター気味にこめかみに入れられる。

頭が揺れ、視界が一瞬白くなって、膝が折れかける。それでも相手を殴る腕を止めない。

 

相手の左腕は潰れている。ただの肉の塊になってもそれが数秒で戻っていく。骨が戻って、筋肉が張って、皮膚が閉じる。また動く。また来る。それがわかっていても、手を止める理由にならなかった。再び、強打をお見舞いする。

 

「っ!!ぐっ!動いたのは雄英の生徒、かな?彼らは本当に全員がヒーローであるとでも?」

 

笑いながら再生している。言葉を紡ぐのをやめない。

 

「一家を助けるために動いたのは青山少年もだよ。君に送り込まれた家族思いの少年は、友情に背を押され、そして罪と向き合い、無事にヒーローへと成った。素晴らしい人選だったよ。感謝する」

 

肘がこめかみに沈んだ。これは謝礼だ。

 

「死柄木、弔を覚えているか?君たちが虫ケラのように蹴散らし続けた若者さ。彼が誰だか、知りたくはないか?それにもう、個性の残滓も限界なんだろう。もう壊れているんじゃないのか?」

 

それは事実だ。そして、そんなことはどうでもいよかった。

 

「お師匠のためにも、彼も救う!私が貴様に向けたこの拳を下げる理由になりはしない!!!」

 

全部知っている。その衝撃はとっくに済ませていた。大きく落ち込んだが、それでも若いヒーローに言われてしまったのだ。

 

「全部救うんでしょう。なら、止まっている暇はない。アイツが笑っているのを止めるのが先です。人質がいても殴るのを絶対にやめないでくださいよ。あ、あと。いい加減にあれは直して下さい」

 

「アレってなんだい?何か指摘をくれるのかな」

 

「人質が目の前にいないと本気を越えられないのをやめて下さい。苦しんでいる人はいる。世界に今も目の前にいる人の数百倍いるんです。わかっているでしょう。そうしないと、俺はあなたの目の前に傷ついた人を用意しなくちゃいけなくなる。それはもうしたくない」

 

恥ずかしかった。いつも自分はそうだ。目の前で助けてと言われてから力が湧いてくる。それでは遅いというのにだ。

 

だからずっと、この半年は自分の直接的な人助けを我慢して、できるだけ多くの現場を見回った。世界というものをしっかりと魂に焼き付けるために。

 

 

誰かの声が聞こえる。助けを求める声が、勝利を願う声が。生きたいと叫ぶ声が聞こえてくる。

 

 

 

 

その声に押され拳を出し続ける。顎に六回、ほぼ同時に叩き込んだ。やつの首の補強が砕けた。感触でわかる。足が動かなくなっていくのが見えた。追加の個性の発動が乱れ始めているのだろう。チャンス。チャンスだ。ここで決めねば。

 

すでに抱えていた残り火は消えている。いるのは吹雪に晒されている自分だけ。けれども自分はそこにいる。私は別に個性があったから戦っていたわけじゃない

 

 

私は、まだここにいる。

 

 

オールフォーワンが倒れた。

障壁が展開した。意識が曖昧になった時、自動で発動するのだろう。相手との間に三枚、立て続けに生成された。

 

「個性もなしに!なぜそこまでの力が出せる!?」

 

「貴様はそうやって人を弄ぶ!壊し!奪い!つけ入り支配する!」

右拳で叩く。一枚目が割れた。

 

「お前は、一体なんだ?何なんだ!?」

 

「日々暮らす方々を!理不尽が嘲り笑う!」

左の手刀で切る。二枚目が裂けた。

 

「私はそれが!許せない!!」

両手を組んだ。筋肉が隆起。三枚目に向けて、全力を振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。ヴィランが笑う。

 

「「本当にバカだな。お前は」」

 

 

 

 

 

満身創痍の敵は、それでも嘲笑いそしてどこか遠方にいる自分を声を重ねる。

 

攻撃に全てを使い切るこの一瞬だけを狙っていたものがいた。振り下ろす直前、全てを一撃へと預けるその瞬間に、遠距離からの狙いが絞られている。

 

 

「ああ、バカだよ私はさ」

 

「なっ!!?」

 

そして、疑問の通りになぜか何の妨害もなく。その隕石のような祈りのような一撃は叩き込まれる。

まるで山の中腹から噴火したような粉塵がそこで荒れ狂った。竜巻のようなものが生まれて、視界の全てを埋めていく。

 

 

「でもね。私の仲間はみんな強くて賢いんだ。私たちが紡いだ可能性たちを、ヒーローをなめるなよ」

 

最後の力を使い切り、その上でもうなぜ立てているのかもわからず立つ。それでも、立って空を殴った。

 

「これじゃあ、かっこ。つかない、からな」

 

天を衝く拳を掲げると、そのチリが吹き飛んで世界に透明感が戻った。

 

 

 

 

 

最後の最後。スタンディングのための力を使い切り、体は細枝のような体躯に縮む。

火はとっくに。灰も熱も、もはや何も残っていない。でもこれでいい。

 

全てを預けて託したのだからそれでいい。

 

視線を海の方へと向けた。もう一人のワンフォーオールがいたはずの場所を指さして。その狙撃を阻止してくれたかけがえのない仲間に向けて。

 

「次は、君だ……」

 

オールマイトというナチュラルボーンヒーローが終わり、時代の節目が変わる日となる。

それだけはどれだけやり直しても避けられない事実だった。

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