夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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囚われる

 

家族の手が無くなってから、大事なものをなくしている気がずっとしてた。

 

何かが欠けている確信だけがあって、でもそれを思い出すことはできなくて。いや、違う。思い出したくないんだ。それを考えないように自分の敵のことを考えてた。

 

だから目の前の景色からも目を背けようとするが、360度を囲まれていて海からは逃げられそうにない。海は崩壊させることもできない。だから目を閉じて不快なものを無かったことにする。そして月はやけに嫌いだった。見てるとイラついてくる。

 

そう。どこを向いても水平線で、その向こうに陸地の影もない。夜は特に空と海が境界で溶け合って、自分がどこにいるのかもよくわからなくなってくる。絶海の孤島というのはこういう場所のことを言うのらしい。

 

誰かが住んでいた痕跡があった。それを見ると、なぜか頭痛がひどくなる。何かが引っ掛かる。気持ちが悪い。壊してしまいたくなる。

 

砂浜から少し上がった場所に小屋が数軒、まだ形を保って建っている。中に入ると生活の匂いがした。食器が棚に並んでいて、毛布が畳まれていて、壁に子供の絵が貼ってあった。姉と弟がいたんだろう。クレヨンで描いた犬で、赤い色をたくさん使っていた。犬小屋はあったが犬はおらず、動物はあらかたいなくなったあとらしい。ひどい匂いのする裏庭はわざわざ見に行く気は無かった。

 

そこにカラスが一羽飛んでいった。食べるつもりだろう。それはなんだか気分がいい。そうすべきだ。

 

……そういや、なんでカラスがここにいる?こんな離島にいるのは違和感が……

 

「ギャハハ!めっちゃ食うじゃん!いやいや、すごいよねえ。あの軍用機に引っかかっててさ。バードストライク寸前のとこよ。あんまりにもラッキーだし、しぶといから治してあげちゃったけど、本当にイイ生命力してるわ。この島で一羽だけの黒い鳥ってのはかっこいいよねえ!いっぱい食べて、元気になれよぉ!」

 

狂ったやつの意味のない話は聞くに耐えない。再び目を瞑ってやり過ごす。

 

こいつと話すたびに体が痒くなっていく。

首のあたりから始まって、腕に広がっていく。掻いた。爪を立てて、皮膚が赤くなるまでやった。血が出た。それでも止まらなかった。止める気にもなれなかった。

 

この島のせいではない。自分を拉致したこの男のせいでもない。もっと前からずっとそうだった。何かが体の内側で詰まっているような感覚が続いていて、掻きむしるとそれが少しだけ和らぐ気がした。気がするだけで、実際には和らいでいない。

 

 

あいつを壊したい。

全部台無しにしてやりたい。ヒーローとかいうものを根底から崩してやりたい。笑顔で現れて、笑顔で助けて、それで全員が喜ぶあの構造が気に入らない。ずっと気に入らなかった。

 

オールマイト。あいつだ。あいつが全部の。

 

「それまじ?全部が全部オールマイトのせいってわきゃないでしょ〜。常識的に考えて、さ!」

 

耳障りな声で瞼を開けると、そこには音以上にうるさい存在がいる。常識などどうでもいいが、こいつにだけは言われたくはない。

核兵器ごとヴィラン連合の数名を拉致したこいつに常識を説かれるなんてのは我慢がならない。

 

そして、なぜかこいつは俺の心を読んでいるらしい。そういう個性を持っているんだろう。

もう、限界だった。もう一週間以上はここにいる。ここで殺さないと、もう逃げる余力も戦う力も底をつく。

 

「ギャハハ!いいじゃん!盛り上がってきたねえ〜!!」

 

衝動を抑えることはせずに殺しにかかる。けれど、その動きは捉えられず、相手は生身で身体強化などは使っていないにもかかわらず触れることはできなかった。これでもう何度目かもわからない。逃げようとしたり、反抗したりするのがヴィラン連合だ。そして俺たちは隙をみて全員がそうした。こんなやつはとっとと殺して、先生のところへと合流するために。

 

今日が最後と覚悟したけれど、今日も殺されかけて転がされる。ここまでの暴力による支配は初めてで、だんだんと反抗したくなる気力が削がれているのがわかる。勝てないものに殴られ続けると、動物はこうなるのだとわざわざ解説しやがった。誰が無気力なネズミだ。そう思うが、体が動かない。

 

いよいよ限界だった。

 

奪われ続ける自由と気力。けれどそれに反発してずっと大きくなっているものがある。それは体の痒みと、あとは何かを失っているという喪失感。それを探さなきゃいけないっている焦燥感だった。その感覚に体を焼かれるような毎日で、連合の奴らがいなけりゃ食事もできなかったと思う。

 

「あの狂人の言っていることに耳を貸すな、死柄木弔。聞くに耐えん戯言だ」

 

スピナーが一番俺の世話を焼いている。先生にもらった個性もまだ慣れてないだろうに、なんでこいつはこんなに性格が良いくせに犯罪者集団にいるのかもよくわからない。

 

「狂人だって!そりゃそうだけどさ!でも関係なくない?オールフォーワンだって大概だ。ドクターに関しては俺なんかよりイっちゃってるね。そこんとこどう?仲良くしてほしいなぁ〜!モルヒネくんみたいにさ!」

 

「死柄木弔。彼とことを構えるには実力が足りていない。協力したフリをして、脱出の機会を伺うのが合理的です。子供のように暴れるのはやめてそろそろ切り替えては?」

 

実際のところ、向かってくるなら素手で殺さない。逃げるようなら武器を使って重傷を与えると宣言されその通りになっている。逃げようとした奴らは死なないところを撃ち抜かれ、今はベッドに横たわっていた。

 

「死体ぶら下げる狂ったピエロが今はその調子ってのが一番おっかねえんだが……」

 

スピナーの文句は正しい。何をハキハキと喋ってるんだこいつは。ムーンフィッシュと同じ系統の破綻者じゃなかったのか。

 

「あれは職務上の演出です。個性を最大限活用するための小道具でしかありません。彼には勝てないのだから、今は耐えるべきだ」

 

「ちくしょう!狂った奴らから正論聞かされるのはもう十分だ!黒霧はどこだよ!」

 

「死柄木弔を送り届けろ。その命令を実行できないから止まってるなんてロボットよりロボットみたいじゃん?すんごいよねえ!ここまで人間って調整できんだって感じ!もう人間じゃああないか!ハハハハ!!」

 

黒霧は意識を失っているらしい。移動手段も奪われ、生殺与奪も握られ。今やられていることは、何か。それこそ理解し難いものだった。

 

「じゃ、あとよろしくね。ヴァルち〜ん」

 

俺を運び込んだあと、そいつはそれだけを言って黙りこくる。

日課となった治療室へと運ばれての時間が始まる。それは、先ほどのように軽薄で狂った様子を保っている主任を自称する男から、連盟の長を名乗るものへと意識を切り替えるらしかった。

 

 

ちゃんとこいつは狂っている。

 

 

さっきまでのふざけた調子が消えていた。同じ人間のはずなのに、声も同じはずなのに何もかもが違う。立ち方が違う。さっきまでそこにいた軽薄な男がどこかへ消えて、別の誰かがそこに立っていた。

 

「また、手ひどくやられたようだな。死柄木弔。これは、血が流れすぎだ……」

 

「やったのは、お前だろうが」

 

「それはいい。それで、思い出したことは?」

 

杖を立てて、腕を置いている。紳士然とした佇まいで、こちらを見ていた。その姿にも殺意が湧いた。

 

「ねえよ。俺が何か忘れてるとして、なんでお前にそれがわかるんだ」

 

「心当たりがあるからさ。お前が受けてきた調整に、心当たりがね。それに心を読んでいる相手がそう言うんだ。それには根拠がありそうなものだろう?しかし、そろそろかも……しれないな」

 

何かを取り出した。

いつもの治療で使うものではなかった。形が違う。色が違う。見たことがない。

拷問に使うのだろうか。それは嫌だな。痛いのは嫌いだ。壊すのは好きだが、壊されるのは別の話だ。

 

「やめてくれよ同志。そのように意味のないことを私は決してしない。使命のための行動以外は決してな。お前と同じように、虫を踏み躙るためにだけ私はいるのだから」

 

診療台は冷たく、背中から冷気が伝わってくる。天井が白くて、照明が眩しくて目を細めた。横に点滴のスタンドが立っている。袋の中身が赤いから輸血だろう。

 

男が何か小瓶を取り出して、中に液体が入っていた。透明ではなかった。なんだか嫌な匂いがした。意味がわからないが、月みたいな匂いだ。それを入れるのは嫌だ。

 

「それ、何だ」

 

「必要なもの。誓約を行うために、まずは悪夢と向き合わなければ」

 

必要。誰にとっての必要かは言わなかった。こいつにとっての必要と、俺にとっての必要が同じとは限らない。

 

「考えたことはあるだろう。死柄木の後継者。あのオールフォーワンが、全てを自分のものだと言う男が、なぜ後継を育てるなんてことをする?」

 

針が管に刺さる。薬品が流れて溶け合っていく。

 

「ありえない。そう。絶対にそれだけはあり得ないと断言できる。何かを譲る?誰かに託す?オールフォーワンという言葉とそれだけで矛盾していると気づけるだろう。後継候補には、全員に植え付けられているのだよ。因子の殻。器と呼ぶべきものがね。それは予備の蛹だよ」

 

天井を見ていた。白い天井だ。

 

「そこに個性はない。しかし、オールフォーワンの記憶と器だけは複製している。自我が曖昧になり、過度なストレスによって孵化する寄生虫の卵。そんなものを植え付けられていると聞くと、どこか納得するだろうに。そして器を持つものは、オールフォーワンから思考まで全て握られている。この体にもな、流れているんだよ。なぁ兄弟!」

 

何もない。波の音はもう聞こえない。ここまでは届かないらしい。

 

「この体は、主任という男の体は。継承どころか生き残ることすらできなかった失敗作さ。でもだから、だからこそ。死体の積もる、腐り果てたあの山で俺たちは出会えた!一つになれた!散々探していたものが、自分たちが捨てた死体の血の中にあったなんて、知ったらどんな顔をしてくれるだろうか!」

 

カラスの鳴き声だけが聞こえた。

 

「血は、継承される。血の意志は残る。それは残響のように世界へと残るんだ。俺がここにいるのが証明さ」

 

ガァと。満足そうにないている。

 

「お前はこれから、悪夢を見るだろう。しかし、決して逃れることはできない。全てが植え付けられ、移植され、虫たちに寄生されている。それでも血の中から、自らの使命を見出すのだ」

 

体が燃えるように痒かった。

 

「なぁ。同志、そして兄弟よ。なぁに心配することはない。何が起きても、それが悪夢であっても誰であっても。全部壊して、潰してしまえばいいのだから」

 

最後の声は聞こえずに、そして意識が消えていく。

 

 

 

 

「みんな、嫌い、だ」

 

 

 

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