夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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夢の夢

「え……?」

 

この困惑は自分の声で、体を誰かに乗っ取られていたというわけでもない。

 

 

手にしていた頭蓋は、その指に力を入れると驚くほど容易にくしゃりと潰れ、青い光を放って消える。ああ、なんだか懐かしい気分だった。

知っていること、知らないことがいっぱいあるが。どうにも何かがわかった気がした。

 

へその緒もなんの抵抗もなく握りつぶすと、体に衝撃が響く。

物理的なものではない。青々とした赤い光が渦巻いて、自分の中へと染み込んでいくのだ。

 

それは得るべきではないものであると同時に、絶対に必要なものであって。なんというか、昔から焦がれるように望んで、避け続けてきた悲願なのだ。

 

 

中空を漂っていた視点は、焦点が目の前に戻ると同時に、曖昧だった意識を取り戻す。

 

今、自分は何をした?

 

握りつぶした。もらった謎の物体を。

 

その気色の悪いアイテムを両手に持った時、衝動的に体が動いてしまっただけだった。

絶対にすべきではないのに。これからサンプルとして分析しなくてはいけないのに。当たり前のようにそうしてしまった。

 

右手の頭蓋と、左手のへその緒。それらを握り潰すなんて意味がわからない。

 

「ギャハハ!!マジ!?いきなり握り潰すとか、そっちも連盟遊びみたいなことしてんの!?ヴァルちんも喜んでるよきっと!あっははははは!!」

 

狂った笑いと共に弾丸が撃ち出され、戦闘が始まる。

 

先ほどの衝撃に現実味を奪われているが、その砲火によって目が覚める。そこで気づいた。

すでに自分の手には残骸もなく、何一つ握っていなかった。何かが入っていたであろうずた袋だけを持っている。

 

ここは果たして現実なのか?それとも夢か?

 

いいや、どっちでもいい。

どちらにせよ。相手を殺して自分が生き残るのが最善である。死ぬのは取り返しのつかない何かを失ってからだ。

 

「まずは殺す。話はそれからだ」

 

「いいじゃん!見せてみな、お前の力をさ」

 

鋼鉄よりも頑丈な合金をぶつけ合い、命を削る戦いが始まった。

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

死柄木弔は、学生たちに任せている。これまで培った攻略法を実践してくれれば勝てるはずだ。

緑谷がいて、他に数名戦えるメンバーがいれば問題ない。問題は目の前の主任であり、何よりの脅威は化け物と成り果てたモルヒネだ。

 

やつの個性は相手の夢の中で、相手の想像通りの姿や力になって動けるという能力のはずだ。

 

つまりあいつをあそこまで魔改造してしまったのは俺の認識であり、想像力ということになる。俺がトラウマを忘れ、そして羽虫程度の認識をあいつに持つことができればそれだけで無条件に勝利できるとも言える。

 

しかし、現実問題としてそんなことは不可能だった。

 

記憶をいじる個性も探しはしたが、5分ほど直近の記憶をいじるだとか。何かをランダムで忘れさせるとか。そういうものばかりだった。悪いが危険すぎて、記憶のランダム消去の個性持ちは冷凍睡眠してもらった。それなりの犯罪者ではあったが、自分に通用する個性をそこらに放置することはできない。

 

だが、アメンドーズとは違う。個性にはしっかりと理屈が通る。

そして個性の可能性というのは無限だ。なんと言っても南米での一件はこちらにとっても有意義だった。世界中の犯罪者たちの上澄みが溜まった澱のようなあの場所ですでに可能性は見つけてある。

 

モルヒネと次に会った時には試すべき方法があるのだが、それは確実な方法でもない。

問題は、モルヒネ対策を実行すれば自分が無防備になってしまうということだ。

 

この主任という人物は殺せないこともないが、片手間に殺すには強すぎる。誰かに任せれば、その人物は高確率で死ぬことになる。

 

そして、モルヒネの性質上。失敗のイメージを持ったままやり直すことは非常に危険だ。

まだこれは成功すると思えているが、一度ミスすればそこから良くない方向へとあいつを変異させることになるかもしれない。悪い想像は得意なだけに、そこは大きすぎる

リスクだった。

 

言ってしまえば一発勝負。負けてOKではない当たり前の戦いだ。

手足が震える気がするが、南米での体験を思い出し。集中を取り戻す。仲間たちや恩師たち。全てを背負って逃げないと決めたから、もう怖くはない。

 

……嘘だ。めっちゃ怖いが、逃げたりはしない。

 

『ノーベル。エンデヴァー。協力してくれ。私があの化け物を消すまで、あのACを抑え続けろ。それまで自分は無防備になる』

 

すでに主任の対応は最適化はできている。それに呼応するのは二つの熱だ。

 

驚異的な加速で空中を直角に移動しながら、制動全てを爆発的に行う男が目の前にきた。

 

白を基調としたパーツを体と馴染ませて、以前とは比にならないほど。まるで自分の体のように加速のための装甲を着こなしている。

 

いや、開発部の狂人たちは爆豪がなれると見れば速度を上げようとするのでイタチごっこのように安定はしていないらしいが。総合的な出力は上がり続けていた。頑張れセンスの塊。お前ならできる。

 

 

そして継続的な豪炎が足から伸びて、その巨体を安定して加速させるのは別のACである。

UAIに所属してから、凄まじい戦果を出し続けているエンデヴァーだ。息子である荼毘の確保に動いていたが、この半年の消息は不明。ここでの再会は彼にとって暴走する危険性すらあったが、今はしっかりと指示に従ってくれている。

 

熱を変換し、動力へと変える新素材で可能な限り組まれたACは、他と異なりコアとなる燃料部分の弱点が存在しない。その分装甲や武装なども自由に積むことができるため彼には専用のACがすでに作られていた。

 

ジェネレーター不要の彼のACは他の設計とは全く異なる進化を遂げているらしい。

エンデヴァーの全力の熱量をエネルギーに変えていくが、変換と消費が追いつかないらしく。熱がこもってしまう弱点はそのままだ。

 

エンデヴァーが全力で戦闘した場合、3分間しかその出力は維持できない。その姿はヒーロー科の小大さんを初め、日本人が大好きな昔ながらのヒーローに似ていた。

 

「全力で合わせろ!!ノーベル!!」

 

「言われなくても、わかってるわ!」

 

エンデヴァーが前に出た。砲口が向く。放たれた砲撃を正面から受け止める。装甲が軋む音がする。熱変換が間に合わず、機体の各所に赤が滲んだ。

 

それでも止まらない。止まる気もない。

 

足から伸びる豪炎が地面を溶かしながら、巨体を押し返さず、その場に固定する。盾になったその一瞬の静止を、爆豪は見逃さなかった。白いACが砲煙の中を突っ切る。直線ではない。空中で二度折れ、死角から滑り込むような軌道だ。砲撃の余波など意に介さず、速度を殺さないまま自身を敵ACの懐に叩き込む。そして爆破。爆破。爆破。

 

彼らの戦闘にはリズムがあった。怒りではなく、計算でもなく、もっと本能に近い何かで刻まれるような間隔で、爆発と爆炎が続いていく。

 

この二人以外にも主任を排除する上で相性の良い個性はいくつも思い付いていたが、試した中では彼ら二人がベストだ。

 

彼らには覚悟がある。相手を殺してでも止めなくてはいけないという覚悟が。

 

それがオールマイトのような真のヒーローにはなり得ないものだとしても、彼らがいないと死んでしまう人々は多くいるのだ。一切の甘えのない猛攻に、主任も防戦に傾いている。

 

「良いじゃん!ヒーローなのに、ここまでやれるやつもいるんだねえ!!」

 

 

白熱という言葉を体現する高速戦闘。赤熱した鉄が殺意という刃となってぶつかり合う戦場に、人間やドローンが介入できる余地は少ない。

 

さて、俺はもはや人類を逸脱しているこのモルヒネという化け物と戦わねばならないが、その戦闘は無駄の一言だ。こいつは殺しても殺しきれず。悪化し続ける悪夢のような存在だ。

 

「そろそろ決着をつけようか。俺と親の仇討ちといこう」

 

「戻せえええええ!!人に!俺は人なんだぁあ!!」

 

無駄を自覚しつつ、迫る巨体のタックルを避けて、それを機械式の鉈で叩き割る。

 

血が吹き出して、傷つく腕。そして、そこからもう一本、二本と腕が生えてその脚はむしろ強化された。そうだ。自分がこうなってほしくないと思ったからこうなる。最悪の強化でもなくて助かった。

 

「無駄、だ。俺は、死ねない。死なないんだよ!どうしてくれる!?お前の、お前のせいだ!」

 

吐き捨てるような呪詛には、渾身の憎悪が込められていて。それが本心なのだろうとわかる。モルヒネというヴィランの心からの声を初めて聞いた気がした。

 

「無駄は承知だ。どこまで悪化するのか、見ものだよ」

 

ノコギリ鉈のプラズマが唸りを上げた。刃の縁に沿って青白い光が走り、熱ではなく、断つための温度になる。前腕に当てる。さっきよりも太い。新しく生えた分だけ、余計に太くなっている。それでも関係なかった。プラズマが食い込み、焼くのではなく、灼き切る。抵抗があった一瞬だけ手首に力を入れて、そのまま引き抜く。

 

前腕が落ちた。機体が前のめりに傾いた。制御を失ったわけではないだろう。それでも重心が崩れ、亡者の塊がゆっくりと沈んでくる。

 

ようやくだ。

手が届く位置まで降りてくる。ためらわなかった。外から壊すのではなく、中から止める。指を腹部へと差し込んで、内側から静かに、確実に動きを殺していく。

 

「戻せ……戻せよ……。俺は幸せなのに……」

 

くだらない呪詛が続いていた。少なくとも幸せそうでないことだけは確かだ。

 

だからその音が出てくる中心へと腕をぶちこみ、そして周辺ごと握りしめてやる。

 

指が沈んだ。

装甲でも皮膚でもない、その境界が曖昧になった何かを押しのけて、手が内側へと入っていく。装甲ごしでもわかる。異様なほどに。生きているものの熱が、そのまま手のひらに伝わってくる。

 

掴んだ。

 

何かが脈打っていた。不規則に、必死に、それでも確かに動き続けているものが手の中にある。内側で繋がっているものが千切れる感触が指に返ってきて、それを無視して引き抜こうとした。

 

「ああ、お前には致命できないんだっけか。忘れてた……」

 

けれど核心は抜き出すことができず、大きな傷を与えただけで終わってしまう。なんで知っているのかが論理的にはわからないが、さっきの頭蓋の光に触れたからだと理解している。

 

知ってたはずのことを意識できずにミスすることが多いな。いい加減にこの気持ちの悪い状態から脱したい。

 

「ぃぎゃああああぁぁぁぁああ!!!!」

 

赤子のように泣き叫び、すると亡者のような死体が降り注いでくる。その死体はよく見れば蜘蛛が混ざっており、あの南米での地下の情景から生み出されたと想像するのは難しくない。

 

それをステップで回避して、そして敵を見れば。また膨張しているように見える。

 

「戻らないんだ!戻れないんだよ!!!意味がない!悪くなるだけ!もう諦めて死んでくれ!頼む!頼むから!!家族がいるんだ俺だって!!」

 

「ああ、大丈夫だよ。戻してやれる。ほら、見てみろ。人間のような肌になっているだろ」

 

先ほどまでは枯れて腐った死体と言う他なかったが、今は皮膚になっている。剥き出しの骨も、窪んだ眼窩もすでになく、そこには人のような目玉がしっかりある。

 

「……え?」

 

「避けるなよ。戻してやるからさ」

 

そう言って再びの渾身の溜め攻撃をお見舞いすれば、その体勢は大きく崩れる。きっと踏ん張ればどうにかなっただろうに、自身の変化へ対応しきれず呆然としてしまっている。

 

内臓を荒らす攻撃の動作をせず、肩を掴んで引き抜いた。

 

「……ええ!?なんで!?す、すごい!!」

 

簡単をあげるのは今攻撃を受けたモルヒネ本人だ。

引き抜いたところには、小綺麗なスーツを身に纏った男がいる。ピエロの化粧はしているが、それでも間違いなく人間だ。

 

こうなることに違和感はない。

 

当然ながら殴れば人に戻るし、致命攻撃をすれば人になって引き抜ける。この世界の当たり前だ。なんでここまで驚いているのか、逆に興味が出てくるほどだ。

 

コーラを飲んだらゲップが出るくらいに当たり前のことを、なぜこいつは知らないのだろう。

 

 

「これは、そうだ。確かめねば。回さないといけない!!」

 

急いで懐から取り出したのは、鉄製のコマだろうか。それをおもむろに回し始めるモルヒネ。

良いじゃないか。面白い。コマ対決なんてのも良いだろう。

 

ちょうど、改造済みのコマが手元にある。応募者全員サービスのオールマイトドラグーン。コレで負けるわけがない。そうだ。これで勝負を決めてしまえば世界平和はもう直ぐなのに……。

 

 

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

 

「な、何よこの難易度。何重の世界観を持ってるわけ?意味がわからないわ」

 

そう汗を垂らすのは、激化する戦闘領域の中で、ひっそりと透明化し、音すら遮断している場所で震えているのはつば広帽子と紫色のドレスを身に着けた女性。デボラ・ゴリーニである。

 

彼女の個性は『ブレイン・リモード』。対象者ひとりに幻影を見せ、感情、行動を支配するという強力な催眠効果を持っていたが、とある個性『過剰変容』によって強化され複数人同時に幻影を見せることが可能となった彼女は、ヨーロッパ最大のマフィアで活躍をしていた。

 

南米で全てが崩壊するまでは。

 

『俺の認識を変える幻覚世界を作り、その中でモルヒネを無力化する。協力しろ』

 

そう言われて、世界の終わりのような化け物の前に立たされている。

都合の良い幻覚世界を作れと言われて、必死でやっていた。

 

「もうやだ……。帰りたい……」

 

個性はあらゆる可能性を孕んでいる。不可能などほとんどない。

しかし、それを扱う人間には限界があり。そして可能なことの方が少ないのだ。

 

世界のどこかには必ず、望まなくても全力で戦わされている人間もいる。

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