夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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狩人の終着点

 

改めてその部屋を見渡すと、かなり広い空間だった。

 

両側に棚が並んでいて、何が収められていたのかはもう分からない。扉は開けた瞬間から軋んで、奥まで光が届かなかった。天井が高く、その上に時計の文字盤がある。文字盤の隙間から光が差し込んでいて、床に縞模様を作っていた。

 

荘厳な鐘の音がする。

 

上に鐘があったらしい。さっきまで聞こえていた音の出所はここなのだろう。吊り下げられた鐘が、この空間全体に音を充満させていた。反響するせいで音の方向が分からなくなる。どこから来てどこへ行くのか、音だけが迷子になったみたいに部屋の中を漂っていた。

 

奥に椅子がある。小さなテーブルと一緒に置かれていて、誰かがここで過ごしていた痕跡だけが残っていた。広さの割に遮蔽物がない。まさに戦うための場所なのだろう。

 

こちらが構えた機械式のノコギリ鉈が起動音を響かせる。

コツコツと歩み寄り、そして死域へと踏み込んだ瞬間、人影がブレた。

 

速い。反応できたのは音だけだった。刃が空気を切る音が複数重なって、自分の体がどこを斬られているのか整理が追いつかない。一回転か、二回転か。数えようとしたが無駄だった。

 

かろうじて合わせたノコギリ鉈が、弾かれた。

指の感覚が飛んで、武器が手から離れかける。しかしACが反応し武器は手放さずに済む。体勢が崩れる。踏ん張ろうとした足が滑って、緊急脱出の動きをマリアが勝手に実行する。

 

「また、会いましょう」

 

声が、真上から聞こえた気がした。

もう一度人影がブレる。今度は追えなかった。首に何かが当たったと思った瞬間、視界が横になった。倒れているのではなく、頭だけが床に転がっているのだと気づくまでに少し時間がかかった。

部屋が回っていた。

 

時計の文字盤が、鐘が、棚が、差し込む光の縞が、全部まとめて回っている。時計塔そのものが動き出したような回転で、それがだんだん遠くなっていく。

 

 

目を覚ますと、そこはUAIランドの自室だった。

 

 

二度目の戦いは、そこで終わった。

戦いというかそれはまさに紹介だったのだと思う。

 

その武装を見れば二振りの刃が振るわれるだろうとは思ったが、それがここまでの速さで。そして重さで行われるというのは外見からは想像がつかなかった。

 

「そういえば、他にも聞きたいことがあったな」

 

覚醒後は一番脳みその調子が良い。その明晰な思考で考えれば懸念すべきことはあった。あの場所で何度もやり直し、訓練をするとしてそれにリスクはないのだろうか。時間は気にしなくていいが、アメンドーズなどに見つかれば大変なことになる。

 

水爆起動と赤い月が登ったあと、UAIがどうなっているのかはまだ知らない。

けれど、あの悪夢を突破すれば何かが変わるだろうか。

 

今度は普通に飛行機で入国し、また戦いへと身を投じた。

 

最初の一撃を避けることができればまた対話は可能である。しかし、何度もやり直すのはこちらが辛い。こちらの状況を圧縮して伝えるにはどうすれば良いか考えた。

 

それは、空っぽになったポケットが教えてくれていた。

 

 

時計塔で、先ほどまで死体だった祖先と向き合う。

 

「あの子のへその緒は託されました。少しだけ質問を終えたら、あとはもう戦うだけです」

 

その言葉にハッとして、彼女は懐を探る。そしてそれが実際にないとわかり、全てを噛み締めるようにして笑顔を向けた。

 

「そう。そうなのね。お話ししたのが私じゃないのは残念だけど、戦えるのは嬉しいわ。それにしても頭が良いのね。最後には名乗ってちょうだい。それで、聞きたいことっていうのは?」

 

「ここで繰り返しても物理的な現実世界には影響はない。同じことを繰り返すだけ。でもアメンドーズは?上位者たちはループの中でも別の動きをしてました。ここでずっと過ごせば彼らに気づかれるのでは?」

 

以前ループを繰り返すことでアメンドーズに執着されたことを話すと、なぜか笑われてしまった。

 

「この夢は、メンシスが作って私が一部を悪用している夢なの。メンシスが関わる何かはいるかもしれないけれど、アメンドーズのような。言ってしまえば野良の上位者は排除されていると思う。それにもし、ここに出てくるなら、私が一瞬で殺してあげる。幾千幾万というのは例えじゃなくて、それくらい殺しているのよ」

 

なんだそれは。ちょっとどころではなくおかしいが、事実なんだろうな。

 

「あと、もう一つ。この悪夢に自分以外を巻き込むことはできますか?仲間に来てもらうことも考えてるんですが」

 

「鐘は持っていないかしらね。お互いに持っているなら呼べるかもしれない。それでも、あまりお勧めはしないわ。ここで殺し合えば血の遺志がその仲間にも蓄積されていく。十分に高まったとき、何が彼らを見つけてしまうのか。私なら一人でやるけれど、でも十分に強い仲間がいるなら試してみてもいいかもね。まぁなんにせよ、私を倒してからにすれば?」

 

南米で押収された鐘はいくつかあったはずだ。それを持たせれば、この状況に入ることは可能かもしれない。

 

「ありがとございます。じゃあ、やりましょうか」

 

そうして三度目が始まった。

前回より一秒か二秒、長く戦えた。前回は見えなかった体の動かし方が、少しだけ見えた。成長はしている。確実に。ただ死んでいる。

 

繰り返す。

速さはわかった。対処できるかは別の話だ。ACの装甲が何度目かの一撃で軋む音がして、マリアが警告を飛ばしてくる。無視して前に出たら死んだ。

 

繰り返す。

そもそもベースの動きがおかしい。技量や経験の話ではなく、物理的に速い。ACの機動性とマリアのサポートがあってようやく戦いになっているという現状は、純粋に意味がわからなかった。

 

『先ほどから計測しているのですが、彼女の加速に生物的な反応速度の上限を超えている箇所が複数あります。また、これは光学観測の話になりますが。跳躍時に髪が上下する速度が、重力加速度と一致していません。落下が速い。物理的におかしいのです。また、明らかにヒットしているにも関わらず、攻撃が干渉していない瞬間があります』

 

マリアが分析してくれるが、聞けば聞くほど理不尽さが増す内容だった。何かをして物理法則をぶっちぎった動きが可能になっているらしい。ていうか無敵フレーム持っていないかこのひいばあちゃん。

 

通常攻撃が致命攻撃で、無敵フレーム付きのひいおばあちゃんは好きですか?俺はあんまり好きじゃないです。

 

 

繰り返す。

白刃取りをされた。次の瞬間には武器を奪われていた。手の中が空になってから状況を把握したので、完全に後手だった。床に転がったところで止めを刺された。

あまりに理不尽で、思わず聞いた。

 

「ちょっと上手すぎませんか。強いのはわかるんですけど、なんでここまで対人戦が。達人というより超絶技巧になってる。その身体能力とループがあればそこまでしなくても殺せるでしょうに」

 

ヤーナムにいたのは獣と化物のはずだ。なぜここまで人を殺すのが上手い。

 

「たまにね、変な狩人が乱入してくることがあったの。鐘の音は仲間だけでなく、敵対者も呼んでしまうことがあるから気をつけなさいな。呼ばれた彼らはループにはない異物だから予想できないの。まぁ私は途中からは寂しくて、いつもと違う変化を与えてくれるその鐘を自分で鳴らし続けてたわ。極々稀にジェスチャーとかで意思疎通できる人と会えるまで、永遠に殺し続けていたのよ」

 

「……そうすか」

 

納得するしかなかった。

三百年、人肌恋しくて鐘を鳴らし続け、来た相手を全員殺し続けた狂気の刃だったらしい。その経験が今、自分に向いている。勝てないのは当然で、むしろよく持っていると思う。

 

繰り返す。繰り返す。

本当に気が遠くなるほど強いが、それでもダメージについては割と入るようだった。攻撃されれば大抵回復されてしまうが、耐久や回復がチートというわけじゃない。攻撃が当たって避け続ければいつかは勝てる、と思う。

 

というか勝つだけならば難しくはない。殺すことだけを考えるなら、UAIにある必殺の武器を持ち込むか、なんなら作って持ち込めば良い。ここに来るまで準備の時間はあるのだから。

 

彼女ほどの達人でも未知の攻撃は基本的に避けきれない。驚異的な勘で避けられることもあるが、そもそも避けれない範囲攻撃を持ち込めばそれでいい。今まで彼女への有効な攻撃はどれも未知の手段だった。

 

けれど、この戦いの目的はそうじゃない。

南米の遺跡のような状況に陥ったら?その時には道具に頼ることはできない。自身の戦闘能力だけで敵を打倒しなくてはいけないのだ。

 

なら今ここで、想像を絶する達人に対してある程度渡り合えるようになるまで鍛えるべきだろう。幸いにも相手は自分の戦闘スタイルを隠すことはせず、可能な限りを伝えてくれている。

 

幾度も挑戦すれば、きっと前には進めると信じる。

 

 

繰り返す。繰り返す。

二刀流への対応がようやくできたと思ったら、銃撃を混ぜ込んできた。双刃を混ぜてこられると対応しきれない。これはまた酷いことになるな。ほとんど全部やり直しだクソが!などと叫びたいところだが、付き合ってくれているのは相手の方だ。

 

学ぶことをやめはしない。体の動かし方。自分より早いものへのマリアとの連動の仕方もだいぶ仕上がってきている。最初よりは遥かにいい。

 

 

繰り返す。繰り返す。

うん。やっぱクソだわ。何がって?新しい武器が来た!!

 

一目見て、そう思う。剣というよりレイピアに近い細さで、刀身が真っ直ぐに伸びているように見える。けれど全体的に大きいため騎士剣をレイピアに仕立てたものという表現の方がしっくりくる。

相当な重量があるだろうに、フェンシングのように素早く細かく使ってくるのだから厄介極まりない。

 

持ち手も装飾も、カインハーストというらしい特定の意匠で統一されていて、貴族が腰に差すものとしての格が全体に漂っていた。

 

そして厄介なポイントとしては、変形させると銃剣になるということだ。

 

刀身の根元に銃の機構が組み込まれていて、引き金を引けば射撃もできる。剣で斬りながら銃で撃つ、両方を同時にこなせる設計だ。技術を要求する代わりに血に頼らないと聞いたが、血に頼るってなんだよ。

 

どこからともなく取り出されたこれが厄介で、組み合わせが無数に広がってしまう。

 

そして嫌な予感、発狂しそうなアイデアロールに成功しその事実に気づいてしまう。

 

彼女はまだ左手の武器を一つしか使っていない。

 

左手の短銃は今のところ固定だが、他に銃器を持っていないと思う方がおかしいだろう。あちらはこっちの習熟度を見抜いているようで、甘い所を的確にえぐって殺しに来てくれる。

 

多分だが、これに対応できたなら新しい武器や組み合わせで殺しにきてくれるように思う。

まだまだ先は長そうだ。

 

 

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

 

相当な期間を戦い続けている。心は消耗しているというより、昔の知識を重ねていった頃を思い出した。司書先生はいつも新しい話をしてくれたし、彼女はいつも新しい方法で俺を殺してくれる。わーい!ありがたい!!

 

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

ここで判明したことがある。超スピードでの武器の入れ替えは驚異だが、それをできるのは二つまで。その武器自体を変更するには少し溜めがいるようだった。

 

右左で二つずつ武装を一瞬で変えながら、その武器自体を変えていくという変幻自在の戦法である。

 

右手は26種あり。左手は16種程度である。素手を含めれば一つ増えるが、それはすでに対応しているし武器に比べて脅威ではない。何度も殺されて驚かされただけだった。

 

しかし、徐々にだが確実に対応してきていいる。

 

意味不明なほどの威力の教会砲やガトリングにも負けず、爆発するでかい金槌という狂器も乗り越えて、3分間の超高速戦闘を生き残った。相手にはまだダメージがほとんど入っていない。

 

「驚いた。もう全部知ってるのね。こちら側の視点っていうのは新鮮だわ。じゃあ、ここからは別のアイテムも使うわね」

 

この数の分だけやり直したわけではないが、39000通りの武器の組み合わせを突破したと思ったら、今まで加速のアイテムしか使っていなかったらしい。それこそ意味不明な触手や光の爆発が手札に追加されていき、死体が量産されていく。

 

世界は驚きで満ちている。コスモの光に消し飛ばされながら、深淵な宇宙について考える淡輝であった。

 

 

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

繰り返す。繰り返す。繰り返す。

 

 

そして、繰り返しの先に。ようやく致命の一撃を入れることができたとき。右手に握っているのはノコギリ鉈である。左手にはシンプルな銃だ。

 

敵によって最適は変わるが、自分が最も力を発揮するのはこの二つである。全部試したんだから断言できる。

 

「じゃあ、ここからは。俺の試したいことに付き合ってもらいますよ」

 

「あらあら、これで満足しないのね。良い目をしてるわ。じゃあ、私が死ぬ前にやり直してまたきなさいな」

 

「そういえば、俺の名前は淡輝です。淡く輝くと書いて、淡輝です」

 

「良い名前。満足するまで付き合うわ。何度でもやりましょうね」

 

そうして、勝利した後に自分の頭を撃ち抜いて、別の武器を試すことにした。

以前なら使いこなせなかった武器たちが、きっと今なら使えると思うから。UAIにある試作品武器工房。あそこには淡輝とゲールマン。さらにはマリアの要望やアイデアから生み出された特殊な武器の試作品が並んでいる。使いこなしてみないことにはその真価はわからない。

 

無限に続くようなループでも理解者となら辛くない。成長しているのなら楽しめる。

夢に対してこんな印象を持つなんて、いまだに信じられないがそれでもこれが事実である。

 

「やっぱパイル使いたいな……」

 

狩人たち二人の研鑽は、続いていく。繰り返されていく。

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