夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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双児

 

繰り返し。繰り返した。

 

UAIの試作品工房から持ち込んだものを一つずつ試していく。ひいばあちゃんはその全部に付き合ってくれた。初見の武器に対しても一度喰らえば対応してくる。

 

技術が追いついてきた頃、武装を変えて修練を行い、それらも使いこなすことができた。

 

思えばそれで十分だったとはいえ、何かの対策をするためにループすることはあっても自分を強くするためにループすることはしていなかった。

 

繰り返す。繰り返す。

そして、ある試みで致命を入れた時。相手の動きが止まった。

 

「すごいわ」

 

すごいのは土手っ腹に腕が入っていて、横隔膜がズタズタにされているはずの状態で話せるそっちだろうに。

 

「……とても長い時間を感じる。私はもうあなたに勝てないわ。ちゃんと参考になっていればいいけど、そろそろ枯れているんじゃない?」

 

感嘆しつつ観察するような声。武器を下げて、こちらを見ている。

 

「今の私にはできないわ。一度では無理。何度も繰り返さないと私たちは成長できない」

 

「これが狩人の限界よ。どれだけ技を磨いても、どれだけ繰り返しても。狩人は人間の器を超えられない。だから皆、別の何かを求めた」

 

「ええ。そう思います。それができるのがヒーローだ」

 

「私たちはどこまでいっても爽快なヒーローじゃない。でも、それでもよく頑張ったわね」

 

首を横に振った。悔しそうではなかった。ただ正確に、事実を言っている。

 

「この先の、井戸の奥へ行きなさい。あなたならもう通れるはずよ。私はあそこに行けていない。怖くてね。きっとマリアと同じなのよ。あの浜辺にあるものが怖いの。あの時にはなかった。もう一つの気配があるのがわかるから、一度も近づいていない」

 

「そういえば、あなたもしかして双子だったりするかしら?」

 

「はい。姉がいます。異常な俺に巻き込まれただけの、ごく普通の人間ですけどね」

 

「あなたは私に巻き込まれただけよ。その子にも注意してあげなさい。双子というのはほとんど同じ存在なの。あなたの動きから、私とずっと戦っていることはわかる。でも、そこまで莫大な血の遺志が感じられない。これはおかしいわ。もしかして、二人で分けてしまっているのかもしれない」

 

コクリと頷き、姉についての懸念が高まった。どう足掻いても助けなければいけない。どれだけ危険性がそこにあっても構わない。雫月が死ぬのは絶対にダメだ。

 

「もう知っていると思うけど、最後の手合わせといきましょうか?」

 

そうして腹部から大量に出血をしながら空中へと舞い上がる。

そして爆炎と共に、周囲へと血を飛び散らした。

 

まるで流星群が大気にぶつかった時のような、大量の火が周囲へ注ぐ。

これは彼女と、その形を借りたマリアの最後の切り札なのだ。以降全ての攻撃に出血が伴い、その血は爆発的に燃えていく。

 

攻撃範囲も殺傷能力も桁違いのそれが連撃として叩き込まれる前に動くのが最適な動きだ。

一度も起動していなかった全身のブースターを起動。100年前の人間から見てあり得ない加速を果たしてその懐に潜り込む。

 

右手に仕込んだ。致命の一撃を放つために。

 

奇しくも水爆によってアイデアをもらうことになった。あの水爆は放置しているとどんどんとUAIの方へと近づいて勝手に起動するため、これの開発と調整はギリギリになってしまったが元から試作品はあったのだ。

 

言ってしまえばこれはレーザーパイルバンカーなのだが、それは銃で言うところの撃鉄のことを説明しているだけに過ぎない。

杭の先端にマイクロペレットが入っていて、射出と同時に内部のレーザーが圧縮点火する。着弾の瞬間だけ一億度を超える。超高温の針で刺す、そういうイメージだ。まぁ爆発はするが。

 

防げない理由はシンプルで、装甲は熱と運動エネルギーを受け止めるものだから。でもこれは接触面の原子構造ごと蒸発させる。受け止める前に消えてしまう。ノコギリ鉈にもプラズマは使われているがあれは溶断する形である。

 

これはそれよりも桁がちがう。

 

欠点は制御だ。点火のタイミングが着弾の数マイクロ秒前でないといけない。早すぎればプラズマが散る。遅すぎれば核融合が起きない。失敗すれば普通のレーザーパイルとして機能するだけ。まぁそれでも十分強いんだが。マリアであっても戦闘中という条件下では成功率は3割を切る。

 

事前の相談では久々に正気を疑われたものだ。

 

『それは不可能では無いでしょうか。人の感覚で制御できるものではありません。サポートを途中で切れば失敗する確率がほぼ100%です。推奨できません』

 

「マリアに任せても3割だ。普通なら無理だけど、同じ条件で煮詰めたこの状況なら俺の方が上手くやれる。人の感覚ってのも馬鹿にならないだろう。職人技ってやつだよ」

 

『承知しました。合わせて考案されたこの防御機構についてご説明は?』

 

「若干の変更入れたから教えて」

 

『着弾を検知した瞬間、該当箇所のプラズマを高密度で噴出して衝撃を打ち消します。爆発反応装甲と同じ発想ですが、爆薬の代わりにプラズマを使います。常時展開ではなく瞬間起動なので、自己干渉の問題は発生しません。実弾に対しては運動エネルギーを熱変換して分散させます。ビーム系に対しては同質のプラズマをぶつけて干渉させる形になります』

 

杭を構えさらに加速する。

狙いはその血の発生源、振り抜かれる刃の根元だ。避けた先で合わせるのではなく、振り始めた瞬間に割り込む。タイミングは一つしかない。

 

踏み込んだ。

ブースターが全開になって、血の爆炎の中を真っ直ぐに抜けた。刃が振り下ろされる直前、懐に入った。

 

杭を押し当てる。

自分が上手くやれるという根拠はない。ただ、この数千回の修練の中で積み上げてきたものが、今この瞬間に全部乗っている感覚があった。

 

世界が白くなり、時計塔の時が止まったような衝撃が広がる。

 

あまりに小さく、短い太陽。それがその場を照らせば人や獣など、等しく立っていられるはずがない。

 

人の知恵によって作られた翼は溶けるだろうが、この鎧はいまだ動いている。

 

 

「いってきます」

 

「いってらっしゃい。淡輝」

 

 

振り返る必要も、自分を殺す必要もない。あとは前に進むだけだ。

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・-

 

 

 

時計塔の奥、扉の向こうに風が来た。

潮の匂いだった。時計塔から接続される場所としてはおかしいが、どこかから海の空気が流れ込んでいる。燃料と排気が混ざった現代の港の匂いとは違う。もっと生臭く、もっと冷たい。

暗いどこかを抜けると、村があった。

石造りの家が斜面に沿って並んでいて、屋根が低く窓が小さかった。装飾がなく、壁に苔と藻が這っている。道は石畳で、石と石の隙間から雑草が伸びていた。中央の広場に井戸があって、港には木造の船が放棄されていた。帆柱だけが斜めに残っている。

 

何より全てを小さな貝が埋めていて、それだけで背筋に泡が立つ。集合体が苦手な人ならこれだけでUターンするだろう。

霧が出ていた。

海の方から這い上がってきた霧が村全体を薄く覆っていて、どこまでが村でどこからが海なのか分からなくなる。

人がいない。完全に無人のようだ。それでも浜辺には何かいるらしいが。

使いかけの網が桟橋に置かれたままで、干してあった魚が干からびたまま残っていた。いなくなったのではなく、消えたような痕跡の残り方だ。壁に引っ掻いた跡があって、扉が内側から壊されているものもある。外に出ようとしたのか、中に入ろうとしたのか分からない。

壁の至る所に貝殻が張りついていた。床も濡れている。もともとここは水気の多い場所で、それが自然な光景に見えていた。

そしてその石畳の間に、コンクリートが混ざっていた。普通に制限速度を表示する日本語の標識も生えている。

一九世紀の漁村の路地に後の時代の素材が当然のように敷かれていて、石造りの家の隣に波板トタンの倉庫がある。木造の船の向こうに錆びた漁船が半分沈んでいた。古い年代のナンバープレートがついていて、どこかで見た形をしていた。

茨城の、自分の一族の漁村だ。

両方が同じ場所に重なって、どちらも無人で、どちらも朽ちていた。石の井戸の隣にプラスチックのバケツが転がっていて、それが自然な光景に見えてくるのが一番おかしかった。

 

『不思議な光景ですが、どこかざわめきを覚えます。淡輝様、このまま先に進むのですか』

 

「たぶん、やらなきゃいけないことがあるんだ。ひいばあちゃんにはできるけど、やらなかったことを片付けないときっと悪夢は終わらない」

奥へ進むと小屋が密集してきて、路地が狭くなった。どの小屋も扉が開いたままで中は暗い。覗くと食器、寝床の跡、何かを祀っていたらしい棚。棚のものは全部落ちて床に散らばっていて、割れた器の形が床の染みと重なっていた。

一軒、床に何かが描いてある家があった。

チョークのようなもので同心円が描いてあって、中心に向かって小さくなっていく。その中心に何かを示す印があった。祈りなのか呪いなのか記録なのか。描いた人間がどういう気持ちだったのかは分からない。ただ何度も描き直した跡があって、消そうとした跡もあった。

小屋の壁には記号が刻まれていた。繰り返し同じ形で、村の奥に向かうほど密になっていく。

「ビルゲンワース……ビルゲンワース……」

ふと、声がした。

人の形をしていたが人ではなかった。背が高く、皮膚の色がおかしい。顔の造りが変わっていて目が多い。魚と人間が混ざったような見た目で、こちらを見ていなかった。ただ歩きながら同じ言葉を繰り返している。

 

ああ、きっとこれは先の実験棟でもあった幻影に近いものだろう。血の残響(Blood Echoes)とでも呼ぶべき現象はここにもあったのだ。

「貪欲な血狂い共め……奴らに報いを……母なるゴースの怒りを……」

敵意はなかった。ただ歩いて呪詛を吐き続けていた。声が疲れ切っていた。どれだけ前から続けているのかは分からない。どう見ても茨城県民ではないことは確かだが。

放置して先へ進んだ。

広場の井戸を確認してから、その先へ向かった。路地は下り坂で海に向かって傾いていた。両側の壁が近く、肩が触れそうな幅しかない。石畳が濡れていて足元が滑った。

途中で洞窟の入り口があった。

暗く、中から潮の臭いが強く流れ出てきている。奥に向かうほど天井が低くなって、腰を曲げないと進めなくなった。壁が柔らかかった。石ではなく有機的な質感で、触れると少し動く。貝の殻が重なったようなものが洞窟全体を覆っていた。

洞窟を抜けると浜に出た。

灯台が丘の上に立っていて、光は消えていた。灯火の部分が黒ずんで見える。村の中で一番高い建物だが、登る必要は今のところない。

浜から振り返ると重なり方がよく見えた。石造りの家の屋根の上に電線が渡っていて、電柱が石壁に食い込むように立っている。電線の先は海の方へ伸びて途中で切れていた。どちらの時代のものも等しく朽ちている。

岩場に向かった。

大きな岩が不規則に並んで、その間を海水が満たしている。波が来るたびに岩の間で音が跳ね返って、どこから来ているのか分からなくなる。巨大な帆柱が海面の上に斜めに突き出ていて、その周囲に難破船の破片が散らばっていた。腐食の程度がまちまちで、新しい部分と古い部分が混在していた。

砂浜の上に、何かがいた。

白かった。

人間よりもかなり大きい。横たわっていて、最初は鯨の死体か何かに見えた。近づいて初めて、それが既存のどの生き物でもないと分かる。あるいは生き物だったもの、と言うべきか。

それが、二体いた。

似ているが違う。片方はもう少し大きく、もう片方は四肢の形が少し異なっていた。どちらも波打ち際で動かず、霧の中でただそこにある。古い死体のような、しかしそれにしては朽ちていない。

近づいた。

片方の腹が動いた。

内側から何かが押している。規則的ではなく、探るような動き方だ。もう一体も同じように動き始めた。タイミングがわずかにずれていて、でも連動している。

両方が同時に蠢いて、中から這い出るものがいた。

 

白く細く、しかし腕が長かった。まるで老人のような生まれたての存在は浜の奥の海のずっと奥お見ている。まるで瞳のような空からは決して暖かい光はさしていない。

 

赤子がぐずるような声が聞こえて、それがその老人のあたりから聞こえる事実に耳を傾ける。

 

 

二体が別々の死体から生まれたのに、臍の緒のようなものが繋がっていた。右手と左手から伸びるへその緒のようなものが、硬質な刃のような胎盤に繋がり互いを繋ぎ止めている。

 

そのまま二体が立ち上がって、同じ動きをした。

繋がったまま、二体がこちらを向いた。

双児だった。

片方が動くと、もう片方がわずかに遅れてついてくる。自分の意思なのか引っ張られているのか、区別がつかない。二体の間でたるんだ繋がりが波に揺れていた。

 

海風が来て、霧が少し晴れた。

その一瞬だけ、二体の顔がはっきり見えた。どんな感情ものっていない。決して理解し合うことのないその目の中に一つだけ、共感できるものを見つける。

 

殺意という共通の衝動を見つければ、あとのコミュニケーションは知っている。

 

『ああ、ゴースの双児。あの子達を。どうか海へ。還してあげてほしいのです。狩人様』

 

呪いと海にそこはなく、故に全てを受け入れる。

 

そんな言葉が聞こえた気がした。




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