夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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送る言葉

聖職者の獣が、本来は教え導くべき若者たちを喰らっているその時。誰もが膝をついても仕方ないような地獄でも立ち上がるのが本物のヒーローなのかもしれない。

 

そんな絶望の最中でも即座に動ける生徒が二人いる。

 

まず一人は緑谷出久。彼は憧れであり敬愛する師としてオールマイトのことを敬っており、もっとも大きな精神的なダメージを与えられてしまう。しかしそれでも、それでもだ。

 

彼の中にはすでにオールマイトというヒーローの魂とも呼ぶべき熱が継がれている。

 

その炎は逆境でこそ燃えるもの、その姿を見た瞬間に彼は限界を超えてヴィランへとより強くなって立ち向かうことができる。それこそ、オールマイトのような動きと力で学生たちを救うことができるのだ。

 

彼こそが本物のヒーローだ。

 

 

 

そして動けるもう一人は現在どこいるのか。ヒーローではないが動ける彼は、花の中に立っていた。

 

周囲には花が咲き誇っている。この状況では場違いに美しいそれらは、人とは違う理で生きていることを感じさせる。

 

ここはUAIランドの観光エリア。見事な庭園が並ぶ場所である。

 

その一つの屋上庭園には整備された花壇が続いている。季節の花が色別に植えられているが、周辺は白い花の群生地であるらしい。照明が整備された花壇を照らしている。普段なら写真を撮る人間が並ぶような場所だった。

 

今は非常事態宣言と避難誘導影響で人っこひとりいない。

 

そこを歩む爆豪勝己は花など見ていない。

 

まだほんのりと赤い月が公園の上に出ていて、本来白いはずの花壇を赤く紅く染めている。

街の騒ぎから風に乗って逃げてきているのだろう。高いビルの頂点であるこの場所には鳥たちが多く逃げ込んでいた。彼らだけがこの公園の光景を見ている。

 

ヒーロー『ノーベル』は前だけを見ていた。

対峙する人物を、ただ見ている。

 

「おい。このクソみてえな指令が間違ってると上に報告しろや。俺はこんなことしてるほどヒマじゃねえ。バカども、クソガキども。手間のかかるドブさらいで忙しいっての知ってんだろうが」

 

爆豪勝己にしては、その声色はどこかにやわらかな感情が乗っていたのだ。それを目敏く見落とさない彼は、それに決して合わせてはくれない。

 

「やれやれ。嘘はよくないとそう言っただろうに。君は私の危険性を確信し、わざわざここまできたのだろう。なぜ対話などという勝利に直結しない行動をしているのか理解に苦しむね。奇襲をせよと教えたはずだが、そんな昔のことは忘れてしまったのだろうか」

 

 

ノーベルはもはや、世界でも有数の戦闘力を持ったヒーローである。

それが危険視をしていると、合理的な動きができていないと指摘するその男は、車椅子からそれを指摘する。

 

しかし、若きヒーローはその応対にこそ希望を見出した。だって会話になるのなら、まだまともだ。

 

「俺は、あの月にやられる感覚を知ってる。お前のそれは違うだろうが。んな風に賢ぶって、わざわざ中枢まで静かに移動してから発狂なんて器用なことはできねえって知ってんだよ」

 

「なるほど。君は確か、獣の性を知りその上で人であることを選べたのだったね。その経験から指摘をされるのならば認めよう。嘘をつくなと言った手前、これくらいは守りたいじゃあないか」

 

「じゃあてめえはこのクソ忙しい時に何してやがんだ?連絡もできねえからってお前の捜索。どこころか殺害までの指令が出てやがる。何しやがるつもりだって聞いてんだよ!答えろカス!!」

 

対話で正気を確信し、語気にいつもの覇気が宿る。

 

「なあに。囚われのマリアをね。救ってやろうかと思ったのさ。獣狩りの夜はもうすぐ終わる。しかしそれは、決して解放などではない。せめて、せめてと。そう願うことは私の最後の

理性でもあった」

 

いいや、違う。相手はまさに今。狂気と戦っているのだろう。

 

 

「私という存在は、元から曖昧なものだった。大元のオリジナルですらその存在は一定でなく。私は再現の再現さ。狩人の血。その残滓に宿った、誰とも知れぬ記憶の断片。歪に分けれられた培養脳と言っていい。それが『加速』の個性を持つ脳死患者と適合した。ただそれだけなんだよ」

 

「っチ!頭おかしいんじゃねえのか?わかるように話せや!」

 

「まさしく。私は気狂っているのだよ。頭がね、おかしいのだ。なぜなら私は、この人工島の心臓部であるマリアの生体コンピュータを破壊しようというのだからね。それも、解放という意味もわからずに。それが道中で、その後にも多くの人間を死に追いやることであると知りながら、そうしている」

 

「意味が、わからねえ。それならなんでここにいる。これ自体が矛盾してるってのがわかんねえとは言わせねえぞ。散々説教くれやがったお前が支離滅裂なこと言ってんじゃねえぞ。あ゛あ゛!?」

 

 

そう。ここは観光用の屋上庭園である。中央の制御塔ではない。相手の言い分はまるっきり矛盾してしまっていた。

 

「本来の衝動に抗うほどに、血が沸き立つのだよ。だからこそ、余計なことはできなかった。だがなぜだろうね。終わりの夜に花畑にて、来るとわかっている若者を車椅子に座って待つ。という行為についてはなぜか衝動に許されている。ああ、その意味すら私は知らない。愚かな狩峰淡輝は何も知らないのだ。束の間の安息と、か細い希望に縋るためにここにいた。そう言ったなら信じるかね?」

 

「俺が、てめえの希望だってのか?冗談も休み休みいえや。そこまで耄碌しちゃいねえだろ」

 

 

「君となら、こうして少しは私らしく話せると思っていたよ。『助言者』であるうちは、衝動に飲まれずに済んでいる。しかしそれももう、限界に近いようだ。最後の助言を聞きたいかね」

 

ゆっくりと車椅子から立ち上がりこちらを見るのは、入学からここまでずっと彼を見守り助言をしていたゲイルという教師の表情で間違いなかった。

 

「いらねえよ。あとでいくらでも聞いてやる。夢遊病みてえなもんなら、まずは確保してからだ」

 

「言い得て妙だ。その表現はまさに正しい。病みながら夢を歩くもの。それこそが私なのだろう。そして、その歩みはどこまで不恰好さ。君たち若者に教えている時には、いくらかマシだったかもしれないが」

 

そう言って、億劫そうな態度を崩さぬままに義足を含めた両足で立ち上がる。

 

「おい。やめろ」

 

不安定さを一切感じさせない足取りで、その手に仕事の道具を握った。

圧縮技術で展開するのは長い長い房である。その先には曲がった刃がついている。

 

「やめろって言ってんだ」

 

過剰なまでの金属音がして、その変形が終わったとわかる。鳥たちが気配を察知して、どこよりも危険なこの場所から我先にと飛び立っていく。街では今だに炎と爆発が続いているが、ここよりはマシだと飛んでいく。

 

車椅子についていた。大型の散弾銃を左手に抱えて、老人がそこに立っている。

 

「やめろや!!」

 

 

「若人が老人のために死ぬんじゃあない。殺してでも生き延びろ。そしていつか、老いた時には殺してもらうといい。それこそが自然というものだ」

 

曲がった葬送の刃を背負い、獣と人を等しく屠る銃を持って。最初の狩人がそこにいた。

 

その目は何かになりきっていて。恩師の影は見当たらない。

 

「君はよくやった。長い夜は、もう終わる。さあ、私の介錯に身を任せたまえ。君は死に、そして夢を忘れ、朝に目覚めることもない。それでも、解放されるのだ……。この忌々しい、狩人の悪夢から……」

 

それでもその声色からは、相手を思いやる。どうにか助けたいと願う。自己犠牲を当たり前とするような、ヒーローのような声がした。彼はずっとヒーローじゃなかった。でも、こんな風に。そんな目をすることもできるのだ。

 

 

「ゲイル、先生……っ俺は……。あんたもっ!」

 

 

爆豪勝己は動けない。

 

 

目の前まで来て、そして背後からその刃が首に向かって振りかぶる。

慈悲深いその目線を信じたい。今まで通りに、その助言へと身を預けるのが正解だ。

 

 

 

加速する刃の終端は、目で捉えることもできない速度になっていく。

相手がいつ切られたかも自覚せずに、解釈を終えるという優しさの速度である。

 

そしてその刃が首を刈り取るその寸前に、彼の中で今までずっと溜め込んでいたものが爆発した。

 

 

ドォォォン!!という爆発は、彼が起こしたものにしてはささやかで。小さなものだ。

 

それはキラキラと輝く無数の小さな爆発が、一度に何度も起こって一つの爆発に見えるほど凝縮されていた。

 

ずっとずっと。追い求めていた『爆破』という個性の次の使い方。起爆する汗を粒のように凝縮し、それを一斉に爆破させるという新たな放出方法である。『クラスター』と名付けられてその片鱗を掴んでいたが、今の今までどんな助言でも訓練でも実現していなかった。

 

爆発の残滓が散っていく。無数の小さな光が空中に漂って、まるで花びらのように花壇の上でゆっくりと消えていく。

 

爆豪勝己はその中心に立っている。

煙が体の周りを流れて散って全身から熱が出ていた。手のひらだけじゃない、背中から足の裏まで全部が燃えているような感覚があって、それでも体は動いていた。

 

つまり自分は、信じられない速度で移動をして、花畑の中心に立っている。

 

この感覚が体に馴染み、そして破滅へのカウントダウンが同時に進んでいるのがわかる。手のひらだけではない。全身が下手をすれば爆発して死にそうだ。失敗などしなくても長くは続けられないという確信がある。これはまるでロケットのようなものだ。

 

出久(いずく)は、こんな調子でいつも戦っていたのかもしれない。

 

普段なら絶対に認めたくない唾棄すべきその感覚も、今は心地が良かった。

 

「なるほど、君も何かにのまれたか。狩りか、血か、それとも悪夢か……。まあ、どれでもよい。そういう者を始末するのも、助言者の役目というものだ……」

 

 

なぜ動けたのか。それに答えるならば、溜めに溜めたものがあったからという回答になるだろう。

 

彼からもらった、助言という言葉の数々。無数の苛立ちと、反動で生まれた感謝と尊敬。

 

ようやくわかった。あらゆる激情をエネルギーにして爆豪勝己は爆発しているのだ。

 

 

そう。爆発とは、エネルギーの瞬間的な解放である。その本質は目立つ解放にいきがちであるが、『溜める』という動作もまた爆破という個性の一面だった。

 

「轟の野郎の個性、もっと参考にしとくんだった」

 

燃えるような体に反比例するように、その心はひどく穏やかだった。全てがわかったような気がした。鋭くなった感覚と、持ち前の推測能力。そしてヒーローとしての直感。

 

相手が何を求めているのか。どんな助けがいるのか。今はそれがわかっている。

 

 

敬愛する師は心の底から、死を願っているのだと。もう自分には否定ができない。だって嘘はつけないから。

 

 

彼は戦い続けることに心底疲れてしまっている。それでも、人を殺してでも戦いの輪から外してやる歪な慈悲を見せ続けていたのだ。それが幻覚なのか、過去の記憶なのか。実際にあったことなのかはこの際重要ではない。

 

 

互いに銃を向けて、互いを完全に理解しあった師弟がそこにいる。それだけだ。

だからそれがどんなにしてはいけないことでも、やらなくてはいけない。

 

「ゲールマンの狩りを、知るがいい」

 

「そんなに戦いをやめてえんならよ。来世はこの俺が世界を平和にしてると信じて……今は、一旦死ねや!」

 

 

起爆もしなければ、相手を溶かしもしない。脱水が早まるだけの、何の意味もない水分が目を伝って視界の邪魔をする。

 

手の甲で拭い去り、そんな感傷はそこにおいていくことにした。

 

その一雫が、地面に落ちる前。彼は爆発的に加速して、恩師を殺すために突っ込む。

罪も感謝も。助けたいと思う気持ちと暴力の衝動も、何もかもを抱えて飛び出した。

 

 

爆豪勝己の師を救う戦い。最後に殺してくれるのは自分だけだという信頼に応える戦いなのだ。

 

 

それは、屋上からの一縷の望みを受けた(ワンチャン)ダイブで始まった。

 

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