夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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緑谷出久 chosen

 

「初めましてだ!緑谷出久!やっと人の話を聞いてくれて嬉しいよ!」

 

「あああああああ!!!!」

 

衝突するのは黒を纏った緑谷出久と、飛行型の脳無だ。腕の部分が翼になっている改造人間が、複数の個性を持って様々な攻撃を放ってくる。

 

吐き出した炎の中に鋭い刃が飛ばされており、熱とその鋭さで殺しにかかっている。

 

関係ない。

 

それを正面から、腕の負荷を無視して全て吹き飛ばす。

豪炎はかき消え、刃は逆に戻っていくつも刺さる。その戻る刃物を追い越すような加速をして、蹴りの姿勢で飛び出した。

 

刺し傷から血が流れるその前に、敵の頭部が足裏で爆ぜる。

 

「俺のことも殺せるかぁ!?」

 

殺す気で力を込めた左腕が、赤熱するように光っている。

全力の左が相手の顔面へと突き刺さり、そのまま殴り抜けてしまう。

 

「がぁ!!?」

 

瞬間、衝撃を腹に喰らって錐揉みしながら舞う体。そしてこの身で街を破壊しながら転がっていく。

 

「真っ直ぐ馬鹿正直な攻撃が、そのまま返される想像はしたことなかったか。いや、わかってたのに忘れてたのか。冷静じゃないなぁ。親の仇に会ったみたいな形相だぞ」

 

ひらひらと手を振る文字通りの仇が、笑っている。それを見るだけで全身の血が沸騰するような怒りに体が動かされ、折れているだろう肋骨の激痛を無視して足を踏み出した。

 

あのワープで拳をそのまま自分に返されたらしい。どうでもいいが。

 

「やっぱ怒るやつはゲームとかしないんだろうな。真面目にやってりゃ親殺すぞっていくらでもチャットくるってのに。まぁ俺はもう殺してるから関係ないけどな。お前ももう気にしなくてOKだな?一緒にゲームでもするか?」

 

あの口をどうにかして黙らせないといけない。

絶対に許さない。許しちゃいけない。

 

「しぃがぁらぁきいぃ!!」

 

 

こいつを殺すのが間違っているなんて、そんなことはありえない。

 

 

 

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

キレたヒーローというのは普通精彩を欠くものだが、どうやらこいつはそこまで崩れそうにない。

 

むしろ相手を殺して良いという思い切りによって、できる攻撃が増えている。

 

「黒霧ぃ!よく見とけ!殺すか殺されるんならそれでいい。もし、ここまでして俺を殺せない腰抜けなら、その時は回収しろ!」

 

 

黒鞭が複数伸びて、それぞれが違う角度から来る。ワープで位置を変えながら捌いていくが、さっきまでと軌道が違った。読みやすかったものが読みにくくなっている。殺す気で打っているから迷いがない。迷いのない攻撃は軌道が単純になる、そう思っていたが違った。

 

すでに脳無を全部潰された。

 

在庫が切れた。黒霧と自分だけで凌ぐしかない。

 

『あらら。殺される覚悟ってやつ?全部壊すんじゃなかったの。ガラキン?乙女心みたいに言うこと変わってない〜?』

 

黒鞭の先に瓦礫がついていた。

 

そんな動きは見たことがなかった。鞭として伸ばすのではなく、先端に重さを乗せて振り回している。軌道が変わる。重さが乗っているから速度も変わる。ワープで位置を変えながら捌いていたが、一本の軌道を読み違えた。

 

瓦礫が当たった。

 

俺の体が枝葉のように飛んだ。面白いくらいに回転しながら吹き飛んで、建物の外壁が見えて、それを手で弾いて方向を変えた。着地した。崩れかけた膝を立て直して、前を向く。

 

緑谷がこちらを見ていた。血走った形相で、俺のことをしか見ていない。ざまあみろ。今のでさっきの老人が一人怪我してたぞ。それをこいつは見逃した。

 

「何も変わってねえ。今のままでも世界は終わる。ヒーローなら何してくるかわかったもんじゃないが。今ここでオールマイトが死んで、ワンフォーオールの後継が落ちるなら全部がゆっくり壊れてくに決まってる」

 

『そういうもんかね。全部殺せば確実だと思うけど、まぁ。今の連盟の長はお前だ。若人のご自由にどうぞ〜』

 

「そうさ。今までずっと人が変わって受け継いで、しぶとく形が変わって生き残ってやがった。先生はワンフォーオールを奪えば終わると思ってたが、アレはそんなもんじゃない。ヒーローの矜持ってやつは。それもさ、触れれないものすら壊せるんなら壊してみたいだろ?」

 

自分の衝動を見つけることこそが、その人生の意味を見つけることなんだとどこかで理解した。

衝動によって動き続ける先生を見ていたからかもしれない。

 

俺の衝動とは何か。それは破壊だ。

 

壊したいんだと気づいた。ヒーローは手始めってでだけ、壊したいのは全部をだ。

まぁヴァルトールのやつには世話になったから、全部を握り潰すってことにしてやってもいい。

 

あいつもやけに踏み躙ることを大事にしていたが、こっちに合わせてくれたからな。それくらいの譲歩はしたっていい。俺だっていつまでも子供ではいられないから。

 

「なぁ。俺もさ。先生の思惑は握りつぶすけど、別の意志を受け継いだんだよ」

 

「俺は、全部を壊して。殺したい。だから、だからさ。全部を救いたいっていうお前の願いはさ。俺が存在してる時点で無理ゲーなんだよなぁ!」

 

 

言いながら笑えてきた。

 

なにせこれは本当のことだったから。ヒーローみたいに格好いい嘘をつく必要もない。先生みたいに賢い嘘もつかなくていい。ただやりたいことをやっているだけで、人は幸せになれるんだって実感できる。

 

「俺は死んでも、何をしても全部を壊してやる。人の淀みを根絶してやるよ。これが俺の幸せだ!俺の幸せを否定するか!?」

 

「僕は、お前を、許さない!!!」

 

この戦いはライブ映像で世界中に公開している。雄英主席で実績もありオリンピックでも大活躍をした緑谷出久。彼こそがオールマイトの後継だろうと世界は認識しているから意味がある。あのスターアンドストライプだってお墨付きをくれたもんな。

 

さっきより速い。黒鞭が壁のように広がって、逃げ場を塞ぎながら来る。右が来て、左が来て、上が来た。

 

背後には壁があった。崩す時間すらない。

背中が外壁に当たる。左右に黒鞭が刺さって動けない。上に黒鞭が来た。

 

「黒霧」

 

声に出す前に闇が裂けた。

体が引き込まれながら、緑谷の顔が見えた。追いかけようとしていた。霧が閉じる。

 

別の場所に出た。

 

膝をついて、整える。息が荒いし、心臓がバクバク言っている。何度も死にかけた。それでも、生きているって感じがする。

 

ああ、ダメだな。もっと色々考えさせないと、止められない。タガが外れたヒーローってのは獣と同じだ。罠で動きを鈍らせてやらないと、正面からやるのは危なくてしょうがない。

 

 

「じゃあどうする。俺を殺してその次は?お前の理想に合わないやつは皆殺しってことにならないか?俺らヴィラン連盟だって、善人から応援されてたりするんだぜ」

 

黒鞭が、衝撃波が、打撃、瓦礫が、あらゆる攻撃がやってくる。

避けた、と思ったら掠った。肩口に当たって体が回転する。体勢を立て直す前に次が来る。

 

それでも俺は死んでいない。戸惑いが攻撃の速度に枷をつけていた。緑谷の動きが鈍くなっている。でも止まらない。止まれない何かが彼を動かし続けていた。

 

「この世に同意なく勝手に生み出しておいて、酷いことする大人がいるよな!!親を殺してくれって願っている子供はいっぱいいるぞ?そいつらからさ、泣ける連絡がいっぱい来るんだよこれが!案外俺らのヒーローに見えてるのかもな!?」

 

指で弾いた衝撃波がまた襲ってくる。

 

今度は避けきれなかった。腕に当たって、そこから痺れが走る。次が来た。脇腹に掠った。また来た。肩に当たった。一発一発は致命的じゃない。でも積み重なっていく。

 

「地球温暖化を本気で止めたいけど無力だったって奴らからテロの依頼を受けたこともあったっけな!人は増えすぎなんだとよ!ちょっと減らしてやるくらいが、将来のためって思ってるやつは意外と多いんだぜ!緑谷!!」

 

着地した瞬間に右足に何かが走った。

 

骨だ、とすぐわかった。ひびが入った感触がある。踏み込もうとしたら体が言うことを聞かない。ワープで位置を変えようとしたが黒霧の展開が間に合わなかった。また衝撃波が来た。今度は正面から来て、避ける方向がなかった。

 

「ちょっとでも人と違えばヴィラン扱いだよなぁ!?異形型ってだけで差別しやがる。直接しなくても守りもしない。お前らが守ってる無辜の市民なんて本当にいるのか?全員卑怯な、事なかれ主義の加害者だって思わないのか?」

 

体が落ちた。

建物の外壁に当たって、そのまま滑り落ちた。地面に膝をついて、右足が動かない。腕の痺れが消えない。首をかこうとしたら腕が重かった。

 

立ち上がろうとした。立てなかった。

それでもどちらが辛そうか。負けそうかと見ている人に聞けば、相手を圧倒している方が負けそうだと答えるんじゃないだろうか。

 

そうさ。それでも俺は笑い続ける。だってこんなにおかしなことはないから。

自分が言葉で語りかけ、ヒーローのはずだった方が全てを無視して殺しにかかってくるなんて最高だ。

 

「俺を殺せば、それが証明される!殺してみろよ。オールマイトの後継者!!そしたらお前が、世界中の日陰者にとって、次のヒーローさ!!」

 

これで全てを壊せる。『崩壊』ですら崩せなかった。世界の希望ってやつを握りつぶして踏み躙るんだ。

 

「次は、お前だ。緑谷出久……」

 

もう、指一本しか動かない。

いつぞやのオールマイトみたいに、刺すように指を向けてやる。

 

スタスタと歩み寄り、殴り殺せばいいのに首を締め上げてくる。最後まで殺すのは慣れていないらしい。それとも……。

 

「ぁが……」

 

苦しいが嬉しい。笑顔が止められない。抵抗する気ももはやない。

 

「お前は、お前だけは。絶対に……」

 

 

世界が反転していく。白が黒に。黒が白になって羽ばたいていく幻覚が見える。

黒い鳥になった緑谷出久が、世界をどんな風に焼き尽くすのか。それを見れないことだけは心残りかもしれない。

 

 

「……死ね」

 

「ああ、殺せよ」

 

やっと分かり合えた気がする。そして満足に包まれて。世界の崩壊する音が……。

 

 

 

中断された。

 

 

 

一気に空気がやってくる。死んでいいと願う精神を嘲笑うように、体は酸素を求めている。

 

肺が動いた。喉が焼けるような感覚と一緒に息が入ってきて、それから周囲の音が戻ってきた。爆発の音、遠くの叫び声、風の音、呼吸音。全部が一度に来た。

 

視界が戻った。一体何が起きた?ゲホゲホとえづきながら、それを見る。

 

 

緑谷出久に殴りかかった女がいた。

何かを話しているらしい。とっとと終わらせて、選択してほしい。

 

最後に全部壊すことは決まってる。俺はどっちだって構わないから。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

 

両親は いつも疲れた顔をしていて

 

それが辛かった

 

初めてヒーロー活動を目にした時

活動よりも周りの人々の表情に目が行った

 

人の喜ぶ顔が好きだった

だから 困ってる人を助ける事は 当たり前だった

 

その当たり前が いかに大変なことなのか

余裕がなくて 必死に助ける彼を 見てきたから思う

 

ヒーローが辛い時

誰がヒーローを守ってあげられるだろう

 

 

 

 

世界中に配信されている中継を見た時、一瞬でも迷った自分が信じられなくて殴りたくなった。

だから思いっきり両頬を叩いてから走り出した。

 

校庭で戦ってるみんなも誰一人迷わず送り出してくれて、必死になってここまで走れた。

 

それで誰より辛そうに人の首を絞めてる姿をみつけて、自分の首が絞められてるよりよっぽど辛くなったんだ。

 

「ごめん。あとでいくらでも償うから。でもあいつは、今、殺さなきゃ」

 

こっちを見ようともしないで、そんなことを言うから。もう一回殴ってしまった。だから自分のことも殴っておく。すると、ようやくこっちを見た。

 

自分が殴られるより、人が傷つくことを見逃せない。良かった。彼はまだここにいる。

 

「嘘やん。デクくん。殺そうなんて思ってない。デクくんは、そんなこと思ってないよ」

 

「もう、間違えすぎたんだよ。僕は間違ってた。きっとみんなが僕を正しくしてくれてただけだ。運が良かったんだ今までは。それが今、ようやく理解できただけ」

 

「そんなん!そんなのおかしい!デクくんは誰より頑張ってて、強くて……。一生懸命で……」

 

「無理だったよ。僕はもう。戻れない。やっちゃいけないことをされて、僕もやり返すから。僕はもうヒーローじゃない」

 

心に届かないかもしれない。そんな迷いが一瞬だけ生まれて、すぐにどこかへ消しとばす。

ここが、この瞬間が。私がヒーローになろうと思った理由だと思ったから。

 

その顔を両手で掴んで、それで目を合わせて真っ直ぐに見据えた。

 

「最後まで、聞いて。デクくんは誰より頑張ってて、強くて……。一生懸命で……。それで誰より」

 

「誰より怖がってて、臆病で!人が傷つくのも嫌で、見るのはもっと嫌で!戦うのだって好きじゃなかったの知っとるよ!そんなあなたが戦ってるから、みんなが応援してたんだよ!」

 

 

「いつもみたいにやり直せる!一度も負けちゃダメなんて、思わないで!そんなこと絶対にない!」

 

「親を殺されて!同じことなんか言えない!!絶対無理だ!僕は今まで何も分かってなかった。復讐のために人を襲う人を止めてきた!!自分で失わないと、こんな気持ちには絶対っ……!」

 

彼が指差す方向には、デクくんのお母さんが転がっていた。それを見た時に、感じたのは。もっと強い確信で。死者の声を代弁することなんてできないけれど、それでも聞こえた気がした直感を無かったことにはできない。

 

「それでも!お父さんとお母さんが、オールマイトが!何よりあなたが!頑張って育ててくれたデクくんを殺さないで!ううん。私もヒーローだから、殺させたりしない。絶対に、私が殴ってでも止めるんだって決めたから」

 

「デクくんがさ。殺そうと思えば、もっと早くに殺せてた。私だって無視して、今すぐにだってできるでしょ。今、デクくんは私と話してくれてる。それが、それだけが大事でさ。他は全部うそやん」

 

「うららか、さん……」

 

「デクくん。私たちは、守られたいわけでも。君を否定したいわけでもない。一緒に、戦いたいんだよ。一緒に戦おう?一番大変なことをしようって、そう決めたんだから」

 

そうして抱きしめた彼の体には、思ったよりも色んな血の匂いがついていて、泣きそうになる。

でも、そんなことは全部後。今は支えることだけ。

 

 

二人がそうしていたのはごく短い時間であったが、何かがきっと救われた。

 

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

「ああ、そうか。そのくだらない茶番でまた俺を無視することにしたんだな」

 

吐き捨てるように、心底くだらないと呪いを込めてそう言った死柄木弔は何かを確信したようだった。

 

「じゃあ命を助けてくれたお礼にさ。この世界を壊してやるよ」

 

闇に沈みながら、黒い鳥がそう言って消える。

 

 

「緑谷出久。お前はまた、間違えた」

 

 

麗日お茶子も同時に、足元に沈んで消えていく。

咄嗟に動いて、飛び込むが。その目の前に別の黒い裂け目が生まれて、すぐ横に吐き出される。

 

戻って周囲を見た時には、そこには自分と。片腕のない両親の亡骸だけが、残っていて。

緑谷出久の心には、彼女たちが残してくれた炎だけが灯っている。

 

ただ、それだけしか守れなかった。

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