夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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ゲームスタート

傍若無人、いや暴虐無尽とでも言葉を当てた方が似合うのがオールフォーワンという存在である。

 

そんな彼の人生において、これほど弱っている瞬間は生まれた直後以外にないだろう。それほどに無防備で、多くの個性を失った状態で休眠していたはずだった。

 

「今お前は、生存ギリギリの状態だろう。強くなるには個性を取り込んでいくしかない。その体が器として耐えきれない場合、さらに寄生を繰り返すリスクを負いながらあらゆるものを喰らい続けないと自分を保てない。お前はまだ最強じゃない。最強だったとしても、俺はお前を確実に殺せる」

 

個性因子の急激な上昇があれば調べればわかってしまうから、彼は厳選した個性だけを携えて相手に寄生するしかない。

 

「ああ、そうさ。僕は今はとても弱い。その上で君の言うとおり。無数の失敗が許される相手と戦闘するなら、どれだけ準備をしていても大して差はない。今が一番勝ちの目があると思っているけどね」

 

「謙遜するなよ。お前の力は反則だ。それこそ伸び代しかないもんな。ジジイのくせに一生成長期ってのが一番怖い。ていうかそれだけ多くの個性を抱えてなんで正気でいられるんだ?色々聞こえてくるんだろ?」

 

他者の記憶や意識が自意識を侵食してくる感覚は、自分がこの世で一番経験していると思っていたがこいつに軍配が上がってもおかしくない。常に増やし続けているのはあまりに狂気だ。

 

相手の得意分野の話をしているはずなのに、非常に嫌そうに顔をしかめて悪態をつく。

 

「誰に話してもいない。個人的なことを知られているというのは本当に嫌になるね。ああ、そうさ。強い個性や人物であるほどに顕著だった。あまり僕は言葉には興味がないが、魂の残響とでもドクターは例えていたかな。笑えるぜ、結局僕が負けるわけないのにさ」

 

「曽祖母はそれを血の遺志(blood echo)と呼んでましたよ」

 

「ああ、ぴったりだ。そう呼ぶとしようか。ともあれ僕は、無数の『血の遺志』を踏み躙り続けて自我を保っていただけさ。毎度、戦って勝っていただけ……。一方的に奪っていたなんて言われるのは傷つくね」

 

ここだ。オールフォーワンという魔王の最も異質なところはここにある。

個性を奪うということは、自我を薄めさせうるリスクある行動だった。だけれど無数にそれをして、毎回勝ち続けた異常者がこいつでなのだ。

 

「お前は、自我の化け物だ。それだけ混ざって移って、それでも自分を保てるほどの異常なまでに強い自我。それがなきゃ無制限の簒奪なんて個性は明らかにオーバースペックだった。お前の脅威、強さの源はそこにある」

 

彼は今、死にかけだ。まるで生まれたての赤子のように死にかけている。

それでも人類を支配できるし。また救うこともできるほどの力を持っている。それはこいつのあまりにブレない精神だ。

 

「話が逸れている気がするね。結局のところ、どうするんだ?私を信頼して手を取るのか。私の決心を疑って無数の可能性を探る無為な旅に出るのか。君が答える番だぜ」

 

この精神性の化け物に全人類は勝てない。それはおそらく事実だ。

だから、だからこそ。ここに付け入る隙があると思った。

 

「まだ問題はあるぞ。お前も気づいてるんだろうが、協力を選んだとしてそんなことが可能なのかって話がまだだ」

 

「おや。そこは僕を全面的に信頼してくれるんじゃないのかい。人類の命の恩人で、曽祖母からの友人なんだぜ?」

 

旧友と言われればあまりにしっくり来るくらいには自分はこいつと向き合い続けているが、それでも冗談じゃない。そんなことは原理的に不可能だと誰でもわかるだろうに。

 

「あんま面白いこと言うなよ。プレイヤーの良心を信頼して作られたゲームなんて成立するわけがあるか。ゲーマーと向き合い続けたゲームデザイナーが格言を残してる『水はひび割れを見つける』だってさ」

 

「それは確かに。あのゲームは面白かったよ。平和主義者に核を撃たせることができる自由度がいいね」

 

知ってるなら話は早いな。ていうかここまで話が合うのがちょっと癪だ。

しかしこいつとはプレイスタイルが合わないだろう。魔王は当然武力による制覇勝利を目指しているだろうが、俺は最初からずっと科学的勝利を目指し続けていこうと思っている。

 

「俺たちはお互いに信用なんて絶対にできないだろ。ゲーム理論的には共倒れ間違いなしのジレンマだ。だから、お互いが最終的には安心できる方法を用意した」

 

ほう。と目を細める

 

「普通の方法だったらビビってお前は乗ってこない。だから、お前に有利な勝負をしてやるよ。北朝鮮でオールマイトを襲った死柄木候補のあいつら。彼らがやろうとしていた方法さ」

 

オールフォーワンは獰猛に笑う。

 

「まさかまさか。僕を受け入れるとでも?」

 

夜を渡る戦士たちは全員がオールフォーワンに勝つつもりでその上で与していた。彼らの気概にヒントはあった。

 

「そのまさかだよ。俺の中に寄生しろ。そして、耐えられなくなった方が負けだ。自我領域の塗りつぶし合いといこうぜ。精神世界でナワバリバトルだ」

 

互いの自我を食い合って殺し合う。軍配が上がれば相手を支配し、負ければ全てを奪われる。非常にシンプルなゲームになる。

 

「……それはそれは。ちょっと予想外だぜ。そんなことを提案されるとは思わなかったな」

 

心の底からの驚愕が現れているのだろう。さっきばあちゃんのモノマネをした時とはまた違う反応だった。あれは何度も想像し恐れていたことがついに来たという表情であり、これはまるで考え付かなかった出来事が起きたような。……鳩が教会砲を食らったような顔である。

 

「お前の土俵で、願ってもない状況だろ。まさか逃げないよな?」

 

「見え透いた挑発も、ここまで真っ直ぐだと疑うのも難しいな。今まで気づかなかったが、君は今はまるで若者みたいだね。体感の人生は長いだろうに、未知への経験が薄いから動揺している。あまりに老練で摩耗した部分と、柔らかい部分が混在している精神。こんなチャンスを逃すのは惜しい」

 

こいつは絶対の自信を裏切れない。自我という土俵であれば確実に勝てると確信している。

繰り返すがそれは事実だ。そうでもなければこいつは逃げる。勝負自体が成立しないから。

 

改めて、オールフォーワンについて考える。どうにもこいつは憎みきれない。

死柄木全という人類の特異点は、平凡な人間からは決して理解されない性質を持って生まれ人類社会とは相入れない最も異質で強い存在。

 

彼は道徳的ではないし、最善なんかでもない。目指したいとは思わないがそれでも。

 

それでも、こいつは世界を維持してくれていた。

より良くする可能性を繋ぐには生きていないといけない。人類種が生きていて初めてその可能性が紡がれている。

 

皮肉にすぎるが、彼のおかげでオールマイトは生まれたし、自分だってこうして生まれ育つことができた。

 

ヒーローとは。どこからともなく自然に生まれるものではない。

 

自然に生まれるのは人が勝手に認める悪の方なのだ。

 

天災や疫病などは荒ぶる神や悪しき神のせいにされ、それを克服する英雄が生み出されてきた。

自然なのは悪であり、それを正そうとする英雄こそが不自然というのが真実に近い。

 

自然なものが善であり、不自然は悪であると感じる価値観は結構普通だと思うが、よく考えるとそれはおかしい。

 

宇宙にとって自然な状態とは、全てが平らになっている状態だ。

宇宙は均衡を目指して均され続けている。エントロピーという考え方はこの宇宙における自然とは何かを定義している。

 

水は低きに流れ、火はいずれ消える。元素は安定した状態を目指し、複雑なものは単純になって、分解されていくのだ。いずれ世界は鉄だらけになって暗く閉じていく。

 

そう考えれば、人間という存在は不自然なものだ。いいや、生物とは宇宙から見て不自然に尽きる。

バラバラになるはずの物体が結びつき、複雑に入り組んでエネルギーを蓄える。

 

この営みの、なんと不自然なことか。俺たちはそんな不自然から生まれた。生き物はみんなそうなのだ。一部、全てを破壊したいと願う人物もいるがあれこそが真の自然派と言えるかもしれない。

 

不自然で不条理な英雄に救われた。だからこそ俺はそれを救いたいと思ったんだ。

死柄木弔とは握手はできない。けれど、死柄木全とは握手をする余地がある。

 

 

あらゆる決意をもって、手を差し出した。その余地があるなら利用してやる。

 

「勝った方が世界を手にする。半分こなんてせこいことは言わない。丸ごと総取りだ」

 

「当たり前だ。オールインだぜ。全部は僕のものになる」

 

オールフォーワンは獰猛に笑う。

寄生先であるためメガネには慣れていないのだろう。かけているそれが傾いてしまうほどに口ごと歪ませている。

 

ふと気づく。この部屋でこんな話をしている状況に笑えてきた。

 

窓から街の光が入っていて、赤い月の色が薄くなった分だけ部屋の中が青白く見える。

部屋の真ん中には仕切りがあり、隣り合うように二人分のベッドがある。

 

壁際には本棚がある。俺はほとんどを読んで覚えてしまっているから、新たに追加したものはこの数年で一冊もない。追加するのは姉ばかりで侵食されるのもそのままにしている。日本の実家にあったものをそのまま持ってきているから、思い出もそのままだ。

 

昔に二人で読んだ本が並んでいて、背表紙が色褪せている。引っ張り出した跡があって、戻す時に雑に戻したのか斜めになっているものがあった。誰がそうしたかは覚えていない。

 

自分にとっては遥か昔の体験になってしまっているから。

 

そうだ。もう双子とはいえ違う人間になっている。体の線も違えば、考えも体験もまるで異質。

窓からの光が二人を照らして、影が壁まで届いていた。同じ身長で、向かい合っている。

 

()()()()()()()()二人。

それは互いに自身の勝ちを確信し、勝負を始める時の笑みである。

 

()()()()()()()()は、内側に別の人格を含めて笑い合う。

手を差し出して、触れ合えばゲームスタートだ。もう後戻りはできない。

 

「ああ、ところで。その体はもう少しで取り返しのつかないことになる。とっととこちらに移って殺し合おう。やるべきことは多いけど準備はしてあるから」

 

「不安を感じているね。安心するよ。あの女とは大違いだ。生まれて初めて、勝負を対等に受けてやろうと思える。存外、ワクワクするじゃないか」

 

狩人と魔王を宿した双子はそこで固く手を握り、笑顔を交換し合った。

 

「「 殺してやる 」」

 

双子の姉に巣食っていた異物を自分に受け入れる。

今更人間離れしようがどうでもいい。本当に今更だもんな。

 

殺意という、生物が交わせる最小単位の意思を交換し、相手の遺志を踏み躙るために手を結んだ。

 

 

 

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