2章以降もよろしくお願いします!
Cクラスの先生
バッチリと目が開く。新しい朝が来た。
頭はスッキリとしており思考はクリア。
俺は、一日の中で眠りから覚めた時が最も状態が良い。一日というものはだんだんと性能が落ちていくものだと幼い頃から誰よりも体感していたのだった。
雄英生とその家族はUAI内にある居住区のマンションの一室を家族で使っている。この島の所有者にしてはささやかな、一般的に見ればセレブなマンション屋上階である。
だってほら。大型犬がいっぱいいるしさ。庭が必要だったんだ。これくらいは許してほしい。
基本的に家族がいるならば、全員がこちらに半強制的に移住、というかそれに事前に同意したものしか受験していないので家族と別れた学生はいない。
仕事が、家族の介護がと多種多様な理由のほとんどは圧倒的な財力の前では問題にならない。
仕事がなければこちらで斡旋するし、なんならUAIランドでは別に働かなくても生活をできる程度には援助もできる。やはり金さえあれば大抵の安全は買えるのだ。
これは当然の予防でもある。子供が立派なヒーローとして育って、勝ち目のなくなった敵対者はどうするか?
家族を人質に取るに決まっている。だって俺が敵ならそうするし。それを事前に防いでおくのはヒーロー育成機関としては必須だろうということでゴリ押しした。
有名ヒーローは家族を作らないか、関係を断つか、丁重に保護すべきとも思っている。UAIランドはみなさんの家族を受け入れます!まぁ、その場合の料金は少しお高めにいただくが。
なのでこの人工島においても狩峰家は仲良くみんなで暮らしている。
雄英高校は徒歩で10分かからない場所にあり、生徒たちはギリギリまで寝ていることができる。
モジュール型の部屋空間は、UAIランド内での引越しであれば部屋区画ごと移動が可能だ。
睡眠は大事。移動時間なんてものは可能な限り削るに限るぜ。
今日も目覚めは最高だ。ご機嫌で朝食作りを手伝い、姉を起こしに行く。
とはいえ、俺は扉を開けるだけでいい。
「ゆけ!獣たち!」
雪崩のように毛むくじゃらたちが駆けていく。
「むああああああああ……」
低血圧な悲鳴をこぼし、室内で遭難しかけている姉を見届けて淡輝は先に朝食を食べることにした。
こんな日常を過ごすことができるのも、個性『目覚め』による精神安定の賜物だ。
それは必須の行いであって、ちゃんと寝ないのは二日までと決めている。定期的にでも『目覚め』をしなければ自分は早々に狂うことを知っているからだ。
三日目は朝から、おかしくなり。夜になる頃には家族を殺していた。
ちょっとしたミスで姉を斬り付け、母を撃っていた。どうなるのか知りたくて友人を殺している自分に気づいた時には即座に自殺をしたが、それから精神を落ち着かせるのには本当に時間がかかったものだ。あれは二度とやっちゃいけない。最終的にはより強く『狩人』と『狩峰淡輝』の人格を切り分けることでようやく日常に戻ることができたのだった。
残虐非道な行いをしつつも、それについて苦悩していない自分の精神状態は全く普通とは言えないし、誰にも共感はされないだろう。どの口で世界平和を謳うのかという話だが、そんな批判は関係ない。
自分がやりたいから、やりたいことをするだけだ。それこそがヒーローもヴィランも関係のないただ一つの共通項ではなかろうか。
俺は、家族と親しい友人、愛犬たち。オールマイトを救えればそれでいい。世界平和は過程であって目的じゃない。
改めて考え事をしながら登校していると、徐々に同級生たちと合流できる。なんか、中学とか小学校のような雰囲気だった。
「狩峰くんおはよう!今日もすごく朝に強そうだね!」
「ああ、絶妙に嬉しくないお褒めをありがとうな。緑谷は緊張してないのか?」
「うん。ちょっとオールマイトとも話せてさ。色々と相談して、それで……頑張るって決めたんだ。もっともっと、やらないと!」
「あ、二人ともおはよう。朝から元気だね〜」
こうしていると、結構な頻度で話しかけられるのは麗日お茶子だった。受験の時からよく三人で移動している気がする。
「う、麗日さん!!おはよう!」
え、すごい。この子ったら普通に挨拶できるようになってる!?
「おはよう。気合い入っとるね!ウチも負けんように気合い入れようかな!同じクラスだし、よろしくね。そういえば狩峰くんはどこのクラス?」
「俺はギリギリの入学でCクラスだよ。頑張って追い上げないとだなぁ」
「え?Cクラス……?……いや、ごめんね。なんでもない。選択授業も多いしきっと会えるよね」
ちゃんと違和感を持たれてしまっているみたいだが、まぁそれは良い。ちょっと気を使わせてしまったのは良くないので後でカバーをしておかなくては。
「ウチは14位ギリギリでAクラスの一番最後だから落ちんように頑張らないと。一緒に頑張ろうね!」
本当にいい子だ。やはりヒーロー科に入るものたちは基本的に善人が多いし、明るく社交的な人も多いと思う。一部の例外(爆豪、轟、夜嵐)を除けばこの法則は結構当てはまると思う。あとコピーの個性を持ったものも性格に難があったな。あ、あと峰田は女に興味がありすぎる。
ダメだ。ヒーローの上澄にはそれ以上に変人が多そうだった。この際自分やトガちゃんのことは考慮しないものとするという簡略化条件を踏まえても反例が多すぎた。
「じゃあ、ホームルームはこっちだからまたね!」
彼らと別れ、Cクラスへと向かう。
日本人のヒーロー科は全部で45名在籍している。それらを15名ずつのクラスに分けてはいるが、それぞれが大学のように独自の授業をとっていくので普通の高校ほどはクラスに縛られることはない。
教室に入れば半数以上が揃っていた。席は成績順のためかなり後ろで端っこだ。
「うわお。よろしくね」
「んだその反応は。文句あんのか?」
当然ながら、成績下位者同士が近くなる。
「いや、刺激的な席順だなって。右には爆豪で、左にトガちゃんでしょ。日本のどこよりも治安悪いよ」
「七光りテメエ!どういう意味だオイ!!」
ブチギレて叫ぶ爆豪はしかし、緑谷に対してのように胸ぐらを掴んでくるようなことをしてこない。やっぱ、緑谷が絡まなければ結構冷静だし有能なんだよなぁ。
「おい、デクとやけに話してやがったな。あれはどんなインチキか言え。あれが普通に雄英に受かる個性を持ってるわけねえんだよ」
「本人に聞けよ。幼馴染なんだろ?仲良くできるならすべきだぜ。友達は多い方が楽しいしさ」
「戯言抜かすな!あのクソナード、理由をはぐらかして言いやがらねえんだよ。生意気に反抗しやがって」
「生意気っておいおい。よりによって45名中43位が、1位に向かって使う言葉じゃないだろ。誰にでもやめるべきだけど、100歩譲ってお前がその態度を取れるのは俺とトガちゃんだけだよ?あ、敬語使いましょうか?」
手塩を揉んで卑屈な笑顔で近づくと、それが最大の煽りとなって彼の目は釣り上がる。
すると横から、特にだるそうなやる気のない声が聞こえた。
「私はいやですー。乱暴で声の大きい人は嫌いですし、話しかけてほしくないのです。偉そうなこと言われたら、さしちゃうかも」
「指だよね?指差しで抗議するって意味で良いよね?」
「淡輝くんがそういうなら指で刺します!指立て伏せとかもしたほうが良いです?」
「クッソが!こんな頭おかしいやつらと一緒なんてありえねえ……。次のクラス替えの試験で
ぜってえAクラスに入ってやる」
あの試験はおかしかった。戦闘の一つもできずにヒーロー科の入学を決めるなんてと世間的にも結構なバッシングをいただいており、入学したけど評価の高く無かった学生たちは多少なり共感するところもあるのだろう。
戦闘もやろうと思えばできただろうに、できなかった自分を差し置いて何を言っているのだろうかいう話である。
爆豪が息巻くように、クラスは入れ替え制である。Aクラスほど実践的な専用のサポートや学びを得ることができ、他のクラスはそこに入るために必死で食らいつくという構造になっている。
一般的な学校でこれをすれば悲惨なことになるだろうが、ここは雄英だ。さらに言えば、いきなりクラス丸ごと除籍なんて暴挙よりはよほどマシだろう。そんなことをするなら試験で落としておいてあげようよと切に思う。
そんな時、目の前に大きな誰かがやってきた。
「自分、夜嵐イナサっス!実技での活躍見てました!冷静で、的確でめっちゃ尊敬するっス!以後、よろしくお願いしああああああす!」
床に頭突きをするほど深く頭を下げるのは、轟と揉めていた夜嵐だ。彼も大雑把な個性では実技があまり振るわず、筆記も点数はよく無かったようでCクラスへと入っている。個性は非常に強力で飛行すらできる機動性はプロを含めても圧倒的だが、人と喧嘩をするような人間は減点だ。
「よろしく。あんま喧嘩とかしないでね?二人の喧嘩とか止めれるやついないからさ」
「大丈夫っス!爆豪くんの目は綺麗っスから!喧嘩する理由はないんで!あれ、でも今日は曇ってるっスね?なんか嫌なことでもありました?そんな目つきでヒーロー目指すのは良くないっスよ?」
「うるっっせえんだよ!普通に喋れや!」
「はいはい。そこまでー。HRの前に乱闘なんてやめてよね。それこそ彼の言う通り、君たち二人の個性は止められないんだからさ」
巨大な手が二人の間に割って入る。さらに、手が浮遊して二人の方を掴んでいた。
ちょとやめなよ男子ーの時間だった。まともな女子がいてくれてよかった。
「そうだぞ。あとお前の大声も大概だからさ。一旦クールダウンしよ?な?」
「熱い漢気、悪くねえがデリカシーとかは俺以上になさそうだな!一緒に正面からぶつかって高め合おうぜ夜嵐ぃ!」
次々とクラスメイトがトラブルに参戦してくる。さすがヒーロー科。見て見ぬ振りなどそうそうしない面子が揃っている。
「ふっ君たちさ。僕の席なんだよねそこ。ちょっとどいてもらえるかな?煌めきのティータイムができないじゃないか」
最後にこの騒動で席に座れなかった男子がようやく自席へと腰掛けて、優雅にお茶をシバき始めたのは爆豪より一つ上の成績の男だ。
金髪をファサァとたなびかせて、青山優雅がそこにいる。
ちなみにだが、彼はスパイだ。
必死で逃げ延びている全一君、彼の駒の一つである。
無個性だったらしい彼は、個性を与えてもらう代わりに全一への協力を家族単位で行っている。逆らえば物理的、社会的に抹殺されるとの恐怖に縛られている。
なぜこれを聞けたかって?恐怖で縛られているのなら、その元凶を倒した上で、もっと怖いものがいればそちらに従うのが道理だろう。当然、悪い夢の一つとして無かったことにしているが聞き出した情報は自分の中に残っている。
ちなみに彼の個性は『ネビルレーザー』ともう一つ与えられており……
「はぁ……はぁ……それ断面どうなってんの?」
人の思考を中断する勢いと気迫。血走った目で問うのは峰田だった。
飛んでいる手のことを凝視して、息を漏らしながら女子を問い詰めている。
こいつは説明不要の獣である。最も小柄で可愛いシルエットをしているが見た目に騙されてはいけない。
いやはや、楽しいクラスになりそうだぜ。
コンコン。と何かが床を叩く音がした。
皆が注目していた教室後方ではなく、教壇の方を見た。
そこにいたのは、老人だった。杖を握った男が、それで床を叩いたのだと全員が気づく。一番に目を引くのはその洒落たシルクハットでも上質そうな革のコートでも、たなびく白髪でもない。
車椅子に乗っているその姿であり、その理由であろう失われた右足だった。
「やあ、君たちが新しい生徒かね。ようこそ、私の教室に。ホームルームを始めようじゃあないか」
妙に通る声が、やけに注目を集めていた。なんというか、雰囲気がある。
「ただ一時とて、ここが君たちの家になると言ってもいい。私は……ゲイル。担任という役目ではあるが教師なんて柄じゃあない、実際には君たち生徒の、助言者とでも名乗ろうか。今は何も分からないだろうが、難しく考えることはない 君たちは、ただ、己を鍛えればよい。 英雄とはただ逃げないでいれば、なっているものなのだから」
声は囁くような声量なのに耳に容易に入ってくる。
「直に慣れる… 私もかつては大いに戦った。人のために戦ったこともあるが、愚かなことをすることもあった。君たちには同じような過ちを犯さないでもらいたい。そのための教示はしていくつもりだよ。自らの足で立ち続けたいのなら、片足の老人の話は聞くべきとは思わないかね?」
車椅子の老人は、その全身から妙な気配をさせていた。生徒たちは気付けない。違和感を感じつつも、その迫力も同時に感じて何も言えない。
その感覚がヴィランを前にした時のような緊張感であるとわかるのは実践経験を経たものだけだ。
ゲイルと名乗った助言者は、静かにCクラスの名簿を読み上げた。
取陰 切奈
宍田 獣朗太
葉隠 透
鉄哲 徹鐵
拳藤 一佳
角取 ポニー
夜嵐 イナサ
切島 鋭児郎
上鳴 電気
芦戸 三奈
峰田 実
砂藤 力道
青山 優雅
爆豪 勝己
狩峰淡輝
渡我被身子
「ああ、着席をしてくれたようだね。さて早速だが本題を話そう。ここにいる時点で君らは日本の上澄ではあるのだが、雄英高校ヒーロー科においては他に遅れをとっている。なぜかわかるかね?」
「俺の個性が、弱いから……」
そう言って落ち込むのは、砂藤というプロレスラーのような体格を持った高校生。分厚い唇と学生離れした体から出てきた言葉は、あまりに弱々しかった。
しかし、それは事実でもある。彼の個性『シュガードープ』は単純な身体強化系。糖分10g(角砂糖約3個分)の摂取につき、3分間だけ通常時の5倍の身体能力を発揮するというものだった。
ちなみに使い過ぎれば脳機能が低下して凄まじい眠気や倦怠感に襲われるという副作用も抱えている。
反動ありで3分だけ身体能力が超人になるのは戦闘において弱いと言えるだろうか?
弱い。かなり弱い。
五倍の筋力を発揮できたとて銃弾には無力である。飛来する銃弾を弾けるか安定して避けるかできなければ戦闘をメインにヒーロー活動をすべきではないとすら淡輝は考える。
そして現在、ここにはARMORED技術が存在している。あれは無個性であっても五倍どころではない筋力をエネルギーの続く限り、実際のところ30分以上供給することができ、そして銃弾を通さない。あれがあるだけで下位互換になってしまう生徒が幾人もいるのだ。
「ああ、かの技術。『ARMORED』との比較によって打ちのめされているのかね。それは一部正しいが、同時に見識が足りていない」
切島、拳藤、鉄哲、庄田、砂藤。この辺りが視線をあげて熱を込めた。
彼らは如実に感じていた。個性自体が科学技術に追い越されていく恐怖に合格発表までは震えていたのだ。自分たちは落ちたかもしれない、そう思っていたのは彼らだけではなかった。それほどに、多彩な個性を試験で見てしまったから。
「このUAIはARMORED研究の最前線。事前に周知していた通り、Aクラスになればそれは与えられる。なのになぜ、君たちのような単純な強化型の個性が入学できているのだと思う?」
「個性は進化する。深化と言ってもいいが、君たちの力はまだ発展途上だ。それをどう伸ばすのか、そんな研究をこそこの島は最も重視しているのだよ。そして何より、英雄に求められるものとは何かね?」
「負けねえことだ」
「それも重要だ。しかし敗北を知らぬヒーローというのは、多くの場合自らの失点を数えることができなかった者を指すだろう。かのオールマイトもここで教えることはある。そのうち聞いてみるといい。彼はきっと敗北の連続だったと答えるだろう」
「ユーモア」
「はは。それは面白い。人を救うのに笑顔が要るのは認めよう。しかし、英雄に必ずしも必要と言えるかな?考えてみるといいだろう。」
爆豪と淡輝の言葉は柔らかに否定され、そして誰もいないはずの透明な場所から女子の声がした。
「やっぱ、明るい声かけとか。ポジティブシンキングじゃない?」
「ああ、葉隠くん。君と私では扱う表現が違うが、概ね同じことだろう。君たちはその精神性と、個性の発展性を認められてここにいるのだ。その点を重々理解し、心をこそ鍛えるべきだろう。そしてその精神を鍛えることで、個性を伸ばす方向性も自ずと決まっていく」
精神だぁ!?根性論かよ。俺は雄英まできてんなまどろっこしい真似するつもりはねえ。次の試験で昇格できるようなカリキュラムを組んで速攻で……。
爆豪勝己の思考がそこまで進んだとき、その杖が真っ直ぐに自分へと向けられていることに気づいた。
「ああ、君は特に焦っているだろうね。だが君こそ最も己の心と向き合うべきだよ。他の能力は軒並み高い水準であるというのに、なぜここにいるのか。それは、その態度と思考に表れている。嘘をつかなければ減点などしないから、正直に考えていることを言ってみなさい」
ゲイルの視線を真っ直ぐに受け止めて、そして睨み返して話し始める。
嘘をつくなというなら、正直に話してやるまでだ。
「その様じゃあ。もう戦いなんて教えられねえだろ。俺はプロヒーローに本物の強さを学びにきた。精神論に付き合うほど暇じゃねえ」
「ああ、君は戦い方を学びたいのかね?そしてその意見に私は賛成だね。肉体を蔑ろにして、精神の話をしようなどと、そんな傲慢はよそうじゃあないか。肉体とは大いなる理性であるのだから」
「何言ってる?この……」
いくら正直に言えと言われていても、流石に暴言を教師に吐くのはやりすぎだとブレーキをかけた。その時。
車椅子に座っていたゲイルの姿がブレた。
スウっと血の気が引いて、体を動かそうとするが間に合わない。首元に冷たい感触があってから、何が起きたのかを認識した。
先ほどまで教壇にいたゲイルが、片足で教室の一番後ろに立ち。爆豪勝己の肩へと左手を置いている。右手にはナイフが握られており、それを爆豪の首へと当てていた。
「おめでとう。君は障害者を見下すことで自らの弱さに一つ気づくことができた。みんな覚えておくように。『見た目で相手を判断してはいけない』この個性社会で戦うのなら基本以前の大前提だ。何、これは餞別だよ」
そう言って、ナイフをスッと引く。
「ぃっつ!」
教室がざわつくが出血はあまりに少ない。完璧に制御された切り傷は、一滴だけ血を流すだけに留まった。
「嘘でしょ!?」
「マジで切ったのかよ!」
「先生!それは流石に……」
「ここは日本ではない。そしてここは雄英だ。教師には裁量権が与えられている。認められないのなら、もちろん自主退学は自由だ。さて、この場合は自分より強いことを示し、学びを与えてくれたことへの感謝をする場面ではないのかね?」
正義感からの抗議の声へは一切耳を貸さず、爆豪へと問いかける。
「っなんで俺が、んなことを言わなきゃ……」
「普段はそこまでうるさく言うつもりはないのだがね。あまりに頑ななようだから、私へ一撃を与えるまでは、しっかりと敬語を使いなさい。敬意をもって一撃をくれれば、ちょっとしたお願いくらいは叶えてあげよう。元来、敗者は勝者にそんな態度を取れないものだ。大人の良識に甘えるのは今すぐにやめたまえよ」
淡輝は思った。意外に早かったなと。ゲイルは気合を入れて教師をやってくれる気になったようだ。爆豪は言葉を失って、二の句が告げなくなっている。多分あれだ。謝罪とか、負けた時の言葉とか。そういうのは彼の語彙にないのだろう。
「ああ、狩峰くんか。教えてあげてくれ。この場合、情けをかけて生存を許された敗者はどんな言葉で勝者におもねるべきなのかを」
「へっへ。そういうのは得意ですから、任せてください」
そうして爆豪に耳打ちするが、殺されそうな剣幕で睨まれた。
「いや、失礼なことした上で負けたんだから。これくらい言えないと。ヒーローどころか人としてやばいぜ?」
申し訳ないです。先程は失礼しました。そんな感じの崩れた敬語で、相当ライトな謝罪なのだが、果たして……。
そこから1分。まるまる時間をかけて、苦悶の表情をした爆豪は。この世の全ての苦渋を飲み込んだような顔をしてそれを言った。
「申し……いや、俺は……」
言葉ごと奥歯を噛み潰すようにしているが、続く言葉は出てこない。その様子を見て限界ということを察したのかゲイルが切り上げた。
「不敗の神話、英雄たる精神、そしてユーモア。それらも存分にこの学校で学ぶといい。プルスウルトラは結構だが、事前に準備ができていなかった者ほどそれを叫ぶという事実も覚えておくように。新たな価値を生み出したまえよ若人たち。さて、今日はこの辺りにしておいてあげよう。今のようにいくらでも甘えてくれていい。私は君らの担任なのだから」
波乱の高校生活。その記念すべきCクラスの第一日目は、担任教師が生徒を切りつけて始まった。
「さて、全体のガイダンスも間もなく始まる。移動して校長の話を拝聴しようじゃあないか」
その人物の異様な行動に誰もが目を奪われて、その体が普通の人間と違うことに気づかない。
事前に事情を知っている狩峰淡輝を除いて、ゲイルの異常性に気づくものは誰一人いなかった。
違うんだ!
膝にコントローラーを置いたら、R2ボタンが勝手に押されて全力の溜め攻撃になっただけで……
別に敵対したかったわけじゃ……