夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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合理的で非合理な選択

これは流石に予想外であることは認めよう。友情に訴えるのも、愛情に訴えるのも想像できた。

 

けれど、まさか絵に描いたような学級委員長である脅迫されるということは思考の外だった。

百ちゃんは覚醒した雄英高校教育によって、強かすぎる。

 

思考は巡りリスクを検討して、結論を出した。落ち着こう爆弾発言ではあるが、そこまで動揺はしない。

 

「何を爆破するって?俺にとって重要なものがわかるのかな。それは本当に交渉できるもの?爆弾ってだけで怖がるとは思ってないよね」

 

家族を殺すぞなどと言われても交渉はできない。百ちゃんには絶対にやり切れないからだ。それは交渉材料とは見做せない。

脅迫をするならば、実際にやるんだと相手に信じさせなくてはいけない。変な話だが、テロにも信頼関係が必要なのだ。

 

「ハワイに行った理由は私も知っています。みんな知っていることを、知っているはずですわ。オールフォーワンとUAIが誰を巡って戦ったのか知っています」

 

……それはまずい。

 

『おいおい。分倍河原の保護は確実だろうな?二倍がなければどうなるか、わかっているんだろう。どちらが勝つにせよあれがなければ片手落ちだぜ』

 

万全の状態ではあった。あったのだが、オールマイトを殺すために脱獄をさせたあのイベントでその万全な状況に綻びが生じていたとしてもおかしくない。

それに、何を隠そうやったと言っているのは『創造』ができる百ちゃんだ。

 

『それでも、学生の良い子ちゃんが人を殺せるものかな?ヒーローには到底できないと僕は思うけどね』

 

「5年前にお前を焼いたデーモンコアは百ちゃん作だぞ。安心できるか?」

 

内心の魔王が汗をかいて黙り始めた。

 

一般市民なら絶対に無理だ。ただし分倍河原は世界破滅のトリガーにして本人も重犯罪者である。精神を病んで人を殺しており、今後殺すかもしれない危険人物である。彼女がやると決めた時、彼を殺すくらいならできるかもしれない。今まで通りの彼女なら無理だろうと思うが、ここまで予想外のことをされるとちょっと事前の幼馴染像を修正しないといけない。

 

交渉に合意するかは置いておいて、まずは内容を聞かなくてはいけないかもしれない。

 

「じゃあ、聞くだけは聞くよ。分倍河原を殺さない代わりに、要求することは何?」

 

これからやる仕事を止めろというのは、残念だが交渉にならない。そればかりは無理だ。あまりに失いすぎていて、今更戻れるところにはいない。それだけは譲れない。

 

「止まって戻って欲しいというのは、無理だとわかってますわ。あーくんのことです。選択の余地のある状態ならきっと最善を選んでいる。自己犠牲をするのが自然だとしても、それでもあなたを失って悲しむ人の表情を想像ができないほどではない。そうでしょう?」

 

全くもっとその通り。ぐうの音も出ないが、しかし。あとはどうするというのだろう。

 

「私も、一緒に連れて行ってください。あなたを一人にはさせません。それだけは絶対にしてはダメだって、それだけは断言できますわ」

 

「別に、一人ってわけじゃない。愉快な同居人もいるし、いろんな人の残響が聞こえてる。そこまで孤独にはならないよ」

 

「そこにはあなたを大切に想っている人がどれくらいいますか?いいえ、こんな話じゃあーくんは決して動きませんね。質問を変えますわ」

 

目を閉じて、深く息を吸い万感の思いを吐いた吐息に混ぜていく。彼女は一体何を覚悟し続けているのだろう。

確信と悲しみに満ちた目元からは、今まで見たことのない

 

「目的がなんであれ、私の『創造』がいらないとは言わせませんわ。こんなに万能でなんでもありの個性は他にそうそうありません。ここまでで異論はありますか?」

 

なんとか言ってみろと挑発されるが、ぐぬぬという表情をするしかない。

ぶっちゃけないでしょうと勝ち誇っているが、それを崩せる理論を探している。

 

『マリア、分倍河原の様子は?』

 

『首に何かをつけられている様子が動画で流されています。既製品ではなく素材の材質も不明です。危険度の推定は正確にできませんが、一般論として恋愛状態の前頭葉は普段できないリスクを許容する傾向にあり一か八かの勝負をする上では危険です…………。』

 

『……なんだよ。言いたいことがあるなら言え』

 

融合の影響だろうか、マリアが感情豊かになっている気がする。いや俺に対して堪忍袋の緒が切れたという状況だろうか。ああ、確かにこうしてみると見方は内側にいないのかもしれない。

 

『淡輝様。八百万様はやると思います。これは確率などではなく、根拠のない勘であり確信です』

 

『何を迷うことがある?創造がもらえるなら断る理由はないだろうに、私とこの女が賛成なら君は不利ということになる』

 

押されている。しかし、人の命をなんだと想っているのだろうか。これはそうそう認めていいものではない。

 

「いや、いやいやいや。それなら、最悪『創造』だけをもらうっていうのはどうかな?ここで一緒になってしまったら、死ぬより酷いかもしれない。そんなのはダメだ」

 

「『創造』は慣れていないと、くしゃみの拍子に何かを作ってしまうこともありますわ。慣れている私が制御するのが安心です。この感覚を培うには時間がかかりますから、今すぐ何かをしたいなら絶対に協力はしたほうが良いはずです!」

 

それにそれにと。一番強く、揺るぎない声で張り倒されるように宣言された。

 

「人でなくなるかもしれない?なら尚更ですわ。幼馴染の大好きなあなたを、そこで一人きりにしろというのは無理です。全く逆効果だとわかってください!このわからずや!!」

 

百ちゃんに叱られるのはいつぶりだろうか。懐かしさを感じつつ、いよいよ自分がロジックで追い詰められている。最後に頼るのは……。

 

「だから!俺が嫌だっていってんだろ!幸せに生きてりゃいいだろ!俺がやるから、男にかっこつけさせろよ!!」

 

「それがダサいって言ってるんです!!だいたい!今どき男ってなんですの!!その方向で言うなら、ここまで女の子に言わせるのが男のやることですか!?」

 

「それはっ!そうだけど……」

 

もうよくわからない。でも、嫌なものは嫌なのだ。

 

『ああ、弱ったね。これまでで一番の動揺だ。協力しろAI。創造を取り込むぞ』

 

『私の名前はマリアです。以後お見知り置きを。あなたと共闘できるとは思いませんでした。多数決とは時には良いものですね』

 

三つの決議システムが、一つだけ否決しても押されてしまう。

自分が動かしていないのに木々が伸びて百ちゃんの方へと伸びていく。抵抗を試みるが、どうにもうまくいかなかった。

 

なぜだ。いったいなぜ。

 

『くだらない感傷だ。この娘がよほど大事なんだろう。弱点は歓迎さ。一緒にいれば君のできることは爆発的に少なくなるだろうね。抵抗してるなんて姿勢だけさ。本心で拒否していればこうはならない』

 

自分もどこかで、一人になるのは嫌だったとでも言うのだろうか。捨てたはずのそんな気持ちを、人としてのその強固な理屈を立てていてもうまくいかない。

 

まるで助けを求める子供のように、何も考えず手を伸ばしてしまっている。大切な人へ近づいてほしくない枝が伸びるたび、その現実を見るほどに理性的な選択が否定されていく。

 

『淡輝様。人は、そのように正しいことばかりはできないのではないでしょうか。歴史を分析しても、皆さんを見ていてもそう思うのです』

 

優しく諭されるようにして。みんなの総意で大切な人へ魔手が伸びる。

それが到達しいよいよ融合が始まった。始まって、しまった。

 

「人の意思を尊重する。それも正しさの一つだと思いますわ」

 

近づく彼女をよく見れば震えている。そりゃそうだ。この違和感は、自分じゃなくなる感覚はそうそう抗えるものじゃない。なのに、なのにだ。

みんなして優しい言葉ばかりをかけないでほしい。これ以上揺れないほど、もう揺らぎきっているから今更だろうか。

 

「幸せにするなんて、約束できないぞ?逆の可能性がとっても高いし、それこそどうなるか」

 

「ええ。あなたはそれで良いですわ。そんな浮ついた文句を期待したことなんてありませんから。私が、あなたを笑顔にしてみせます。どれだけかかっても、何をしてでも。絶対ですわ」

 

「……ああ、もう。負けでいいよ。参りました……」

 

二人を包み込むように、木の枝と根が伸びていく。俺たちの未来を覆っていく、それは暗くて見通せなくて、窮屈で。戦いだけが約束されている。

 

二人して涙を流しながら、木の中へと溶け込んでいった。

 

最後に百ちゃんの腕だけが飛び出して、爆発を停止する信号を送り。そしてその手も、木々の中に沈んでいった。

 

バイバイと。何かに手を振ったその手を見送るのは人形だけ。

丁寧にうやうやしくお辞儀をする人形だけが彼らの旅路、その無事を祈っていた。

 

 

 

UAIランド。世界初の人工島から木が生えていく。

赤い月へと届くかのような巨木が、地球の中心に根付くかのような大木が、上にも下にも伸びていく。

 

融合が倍加が創造が他にも様々なものが止まらない。

個性という小さな特異点を集めた力が際限なく広がっていくようだ。

 

世界を覆う樹が赤子のように産声を上げている。

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