夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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新入生ガイダンス

刃傷沙汰が起きた波乱のホームルームを終えて、Cクラスだけでなく他のヒーロー科も含めて会場へと移動を始めている。普通科やサポート科。経営科や医療科など他の生徒も集まってくるのだが、それぞれが一つの高校として成立するほどの規模である。

 

この人工島における高校という機能を雄英高校は一手に引き受けており、マンモス高を超える何かという規模にまで膨れ上がっている。同じように例えるならばシロナガスクジラ級の高校とでも言えば良いだろうか。

 

日本人の生徒だけでも3万人規模であり、そして米英も含めれば4万人もの高校生が集まっている。通常の体育館などには当然収まらないため運動場にて開会されている。

 

広大な運動場は、まるでオリンピックの会場のように生徒たちを迎える舞台に変わっていた。

8万人を収容できるほどの観客席が円形にぐるりと取り囲み、ひな壇のように段差をつけて並んでいる。その一つひとつが光沢を帯びた椅子で、座ると自動的に角度が調整され、視界のどこからでも中央の光景を見渡せるようになっていた。

 

会場の中央には、青く透き通った合成素材のステージが広がり、その真上には幅50メートルを超える巨大ホログラムスクリーンが浮かんでいる。スクリーンには新入生ガイダンスなどのと輝く文字が映し出され、時折、映像演出で花火や光の粒子が弾けて空に溶けていった。

 

観客席の最上段をぐるりと囲むように、さらに無数のモニターが設置されている。

 

頭上には透過式のシールドが展開され、快晴の青空をそのまま映しながらも外気温や天候を完全に制御している。心地よい光と風が運動場全体を包み込んでいた。

 

 

時間となり、壇上に上がるのはあまりに小柄なシルエットだった。

 

白い毛並みのネズミのような見た目の人物がそこにいる。異形型の個性であればそこまで珍しくもない。既存の動物に近い見た目の人は結構いる。しかし彼の場合は少し事情が異なっている。

 

彼は人ではない。純粋なネズミであって、それに個性が発現しているという順番だった。

 

個性『ハイスペック』。人を超える知能をもつネズミとして彼は昔から有名であり、今では雄英高校の校長までを務めている。

 

狩峰淡輝にとっては理解ある協力者であり彼がUAIの実現において果たした役割は大きい。

 

 

「新入生諸君は入学おめでとう。そして在校生のみんなも生まれ変わった雄英にようこそ。太平洋の潮風にも負けないふさふさ毛並みの校長さ!ここで長話をする予定だったけれど、時間になったらAIのマリアに退場させられてしまうから、さっそく簡潔に進めようね」

 

在校生からどよめきが起きた。それは教師陣も同じである。校長の話は長いことで有名で、割とためにはなるのだがそれでも負担は大きかった。それが短くなるというのは確かに変化ではあるが、ここまでどよめくのは流石に失礼ではなかろうか。

 

「今、嘘だろ?って言った君たち。特に教師のみんなの顔はチェックしているよ!私の話がそんなに聞きたいのなら今後順番にティータイムに呼びつけるから安心してくれたまえ。特別行政区長官にして我が国の代表。彼から言葉をいただくのさ!」

 

そう指をさした先、そこには何もない。

 

いや、ドラムロールの音ともに何かが演台から飛び出した!

 

「私が、下から来た!」

 

壇上から生えて来たかのように射出されたオールマイトが空中3mあたりの最高到達点でポージング。そしてそのまま、登壇ならぬ。着壇した。ビューティホー!

 

 

満点間違いなしの跳躍で颯爽と登壇するのは我らがオールマイトだ。今日も決まっている。世界に太陽が昇るように彼はまた輝かしい笑顔で人々の前に現れた。やっぱ最高だぜ!

 

まるでライブ会場のような演出だがこの演台にそんな仕掛けはない。

 

タネと仕掛けを明かしてしまえば単純だ。セメントス先生に言って単純に穴を掘ってもらい、そこを彼の筋力任せに6mほど垂直飛びしただけだ。

 

大抵の筋肉は役立たずで信を置くことなどできない。けれど彼の筋肉はほぼ全てを解決する。

 

 

「ご紹介に預かった上で恐縮だけれどね。私は政治家って柄じゃない。平和の象徴だってまだまだだよ。だから未熟な代表としてではなく、ヒーローとしての先達。そして人生の先輩として。

私からいくつか君たちに話をしたいと思う」

 

 

「善とは。善き事とはなんだろうか。それをひたすらに考え続ける人生だった。いいや、考えていたわけじゃないな。私も少しばかり舞い上がっているらしい」

 

HAHAHA!と笑いながら白い歯を見せつけている彼は緊張しているようには見えないが、実際のところ結構慣れないことをするときには彼は動揺するタイプだった。

 

「私はただ行動をし続けていただけだ。正しいと思うものに向かってひたすらに走っていたらこんな場所まで来ていたよ。そんなに考え込んではいなかったと白状しよう。それにしても一国の代表とはさすがに自分でもびっくりだ。オーマイグッネス!って感じだな!慣れない役ではあるけどね。やると決めたからには私は全力ですべき事を全うしよう。みんな私のことを見ていてくれ」

 

握り拳を上げれば、歓声が一緒になって上がっていく。そして聞くものの心が落ち着くまでに少しの間を置いた彼は続ける。

 

「さっきの話が途中だったね。善き事とは何か。大事だけど難しい話だ。歴史上の賢者たちはきっと答えを出してくれているのだろうが、私はそれを知らない。受け売りで語りたくはないからちょうどいい。だからこそ、伝えたい。私の考える善い事を!ヒーローとは何たるかを!」

 

 

そして世界でもっとも平和の実現に寄与した個人が自らの善を語った。

 

お腹が減っている人がお腹いっぱいになること

 

眠れない人がぐっすりと安心して寝られること

 

離れたくない人たちが一緒にいられること

 

怪我や病が治り、苦痛から解放されること

 

多くを語ったが、その内容は至ってシンプル。誰もがそうだよなと納得することだった。陳腐で聞いたことがある。それでも彼の口からそんな簡単な言葉が出てくることに誰もが迫力を覚えている。

 

「今言ったこと。それを実現するための人生だ。だから私はここにいる。どんな所にも行こうじゃないか。飢えて眠れず。家族と離れ病んでいる人にこそ『もう大丈夫。私が来た!』と、そう伝えたい!」

 

 

「だが私にも限界はある。だからみんなに助けてほしい。私にできることは非常に限られている。一番得意なのが誰かを殴ることなんて決して自慢にならない。それでも自分の信じる善を貫くために、力が必要な時もある。善いことについて考えて、そして力をつけてくれよ若人たち」

 

 

「次は、君たちだ」

 

 

その宣言に込められた熱は少し行きすぎているほどだ。狂気に近い平和への強迫観念。それが遠慮なしに叩きつけられ高校生たちは言葉を失い、そして心を震わせた。

 

観客席を埋め尽くした新入生とその家族、そして見守る教師やスタッフからは、途切れることのない歓声と拍手が湧き起こっていた。運動場全体が震えるほどの熱気に包まれる。拍手はまるで波のように広がり、止むことなく次から次へと押し寄せてきた。

 

その音は圧倒的でありながら、不思議と重苦しさはなかった。

明るく、前向きで、心臓を高鳴らせるリズムのように、未来を祝福する音の洪水。平和の象徴が巻き起こしたそれは、確実に世界を明るくしていく。

 

新入生たちは、そのやまない拍手と声援に飲み込まれながら、自分が大きな舞台に立ったことを全身で実感していた。

 

 

 

「さてさて、偉大な英雄からの言葉のあとに、平凡なネズミの言葉で恐縮だけれどお耳を拝借したいのさ」

 

熱気もある程度霧散したタイミングで校長が意識を戻してくれる。

 

「みんな忘れてはいないだろう。実際に現地まで行ったヒーロー科はもちろん。医療科のみんなはまだずっと戦い続けてくれているね。そして科を問わずにボランティアで動いてくれた人たちもいた。まずは感謝を伝えさせてもらうのさ!

 

ミャンマーでの災害支援をUAIは全うしたのさ。3万人を一時的に収容して治療を施し、2万人を三日で家まで返すことができたね。そして1000万人分のワクチン配布。それらをこの短期間で行うにあたってドローンをフル活用した上でみんなにも協力をしてもらったわけだけど、これは歴史上でも類を見ないほどの規模と速度での災害支援。確実に教科書に載る内容さ。本当にありがとう。みんなのおかげで救えた命があったのは間違いない」

 

 

「みんな気づいてくれたかな。さっきオールマイトの語った善いことに、武力や強い個性なんて出てこなかったことに。パンを届けるのに強い個性は必要ない。誰かを寝かせるのに殴る必要なんてない。あたたかい毛布をかけることができれば十分なのさ。ヒーローでなければ打開できない困難もあるけれど、そうじゃないなら誰でも人を救うことはできるんだ」

 

「『次は君たちだ』この言葉はヒーロー科に向けたものじゃない。みんなが善いことを願い、そして何かをすることで世界は確実によくなっていく。我々雄英高校は、その活動すべてを応援しそして実際に世界を変える人材を育てていく教育機関になる。一緒に雄英高校を作り上げていこうじゃないか!」

 

「ここからは警告をさせてもらおう。UAIおよび雄英高校がこれから何をするのか。人を救うために無茶をやっていくことになるのは決定事項だね。できることを全力で行い、その評価は後世に委ねるとするのさ。形骸化した国際法や権力者の都合の良いように変わり続ける一部の法律を我々は重要視しない。災害や戦争。紛争や争いにも必要があれば介入しよう。人を救った後に問題に取り組むという順番にしていくべきだと結論が出たからね。今までぬくぬくと私腹を肥やして人を虐げていた人たちにとっては我々こそが災害さ」

 

 

「人の可能性を、人類の歴史にしっかりと示すこと。これがこの島の存在意義であり、今までの国家という仕組みができていなかった事への挑戦になる。我々は諦めない。あらゆる手段を使って、人を助けていくよ」

 

最後の言葉は三人だけがわかっていた。

 

根津校長の一言に合わせて、オールマイトも思わず声を張り上げた。

 

「次は、君だ!!」

 

この演説は世界中で流れ、雄英高校の新生を世界へと喧伝していった。

敵対者への宣戦布告として、そして助けを求める人たちの希望として。世界に波乱を巻き起こすことだけは間違いない。

 

最後に一人、その一言を知っていたものが同じタイミングで呟いていた。

 

狩峰淡輝はこの言葉も、世界の反応も知っている。けれどその行く末はわからない。

自分たちが大いなる愚行を世界を巻き込み行っているのか、それとも本当に人類の希望になるのか。

 

明々後日(しあさって)、そんな先のことは、わからない。

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