夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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雄英高校入学試験編
ただいま


あと2ヶ月も経てば、この場所へ来てから一年だ。

自動化された床が動いて、その上を歩きながら思い返していると風を感じる。

 

10ヶ月前のあの日、ヘドロのヴィランにかっちゃんが襲われた日に全てが変わったんだ。

 

憧れだったヒーローと出会い、現実を突きつけられた。夢にまでみた人に直接無理だと言われるのは堪えたけど。いやまぁ、今思えばその通りだってわかる。だってあの時の僕は、ただ調べるだけで何もしていなかった。体を鍛えることすらせずにヒーローになれますかなんて、ふざけるなと叱られてもおかしくなかった。

 

わざとではないとはいえ、その後もバカなことをしてしまったけれど、それが原因でオールマイトに言ってもらえたんだ。

 

「君はヒーローになれる」って。

 

人生が変わる瞬間のあの時の風は今でも鮮明に思い出せる。ここで体を撫でる潮風とは感触が違う風があった。あの時はオールマイトから風が吹いているようだった。

 

そういえば潮の匂いを感じたのは久しぶりな気がする。

馴染んだ鼻はすでに海への感慨を失ってしばらく経っていた。潮風が日常であり、それを意識することもなくなってしまったのだ。

 

独特の加速感に身を預けて歩いていくと、大きな窓のある展望デッキから外が見える。

 

穏やかな海。晴れ渡る空。ここは南半球ではないと冷たい冬の風が季節を思い出させてくれる。

 

 

遠くに見える日本列島を中学生が見つめている後ろ姿がある。彼はこの10ヶ月で一番深く関わった人で今もお世話になっている。きっとこれからもなり続けるんだろう。

 

彼の名前は狩峰淡輝(かりみねあわき)。恩人であり、同じ志を持っている仲間?のような関係だと思う。多分、友達だと思ってくれているといいけど。流石に友達でいいよねこれは。いや待てよ。友達の定義っていうのはそもそも……。

 

ブツブツと考え込んでいるのを中断してくれたのは、グウと抗議の声を上げたお腹だった。

このところいっぱい食べれるようになってきた。空腹感と同時に淡輝君の姿を見ると最初に食べたご飯を思い出す。

 

初めて日本を離れた不安と緊張で、自分でもよくわからず落ち込んでる時にこういう時は日本食を食えばどうにかなると言われて振る舞ってくれた。

 

「いいか。プロの和食料理店じゃダメだ。適当な家庭の味を求めてるはずだから、俺がなんとなくで作ったやつをおあがりよ!」

 

出てきたのは炊き立てご飯とインスタント味噌汁。豚肉とキャベツともやしを雑に醤油で炒めたもの。味の素を少しふりかけてそれで終わり。

もちろんお店で食べる方が美味しんだろうけど、僕にとっては食べづらい大きさの豚肉が最高だった。振り返れば、あの時に友達になれたんだと思う。

 

あれは美味しかったな。ああ、でも今は母さんの料理が食べたいな。

 

日本の景色を眺めてそんなことを考えていると、振り返った彼と目が合った。

 

にこやかに手を振る彼の髪が風に揺られて、なんだか様になっている。こういう風に人を見ることはあまりなかったけど、彼はきっと容姿が整っている方だ。なのにどうにも友達はあまりいないらしい。

 

「腹減ってそうな顔してんな緑谷。でもお腹減らして帰らないと母ちゃん泣くぞ?我慢しろよな」

 

「あはは。やっぱお見通しだね。うん、ありがとう。家で食べるよ。久しぶりだし楽しみ。でも、張り切りすぎてる気がするぞ……ちょっと怖くなってきた」

 

「外に出て、初めてわかるありがたさ。飯さえあれば、だいたいハッピー」

 

淡輝くんはちょっと変だ。

 

いや面白いんだけど、唐突に色々仕掛けてくるから対応しきれないのが申し訳ない。いきなり字余り短歌を仕掛けてくるぐらいなんでもない。というか色々と察しが良すぎることが多くて、なんというか不思議な感覚だった。

 

「確かに。美味しいご飯って大事だよね。本当に今ならわかるよ。現地のご飯を食べるのも大事だけど、結局は戻ってきちゃうんだなって……」

 

海外に行って自分探しはできなかったが、大事なものは発見できた。日本はご飯が本当に美味しい。

 

「昔は日本には『食』と『四季』があるって自慢してたらしいぜ」と、そう教えてくれたのも淡輝くんだ。

 

『でも日本には四季があるから』という格言も過去のもの。2175年の現在、温暖化しすぎて夏と冬の二極化が進んでいる日本にはもうかつての四季は存在しない。

 

四季はなくても飯はある。

 

こればかりは日本は間違いなく世界一だと思う。まぁ自分にとってはという話なんだけど、でも日本食を食べた人の反応も良いし、そこまで個人的なものではないと信じたい。

 

第三次世界大戦の傷跡が異様に少ないこの国はもっと他に注目する点があるのだが、最大の恩恵が食というは仕方ないだろう。それも海外に行ってからしかわからない。

 

なにせ10ヶ月も海外にいたのだから。ソワソワしてしまう。あまり落ち着いていられない。家族に会えるのは楽しみだ。

 

「お〜いどうした?本格的にホームシックか?」

 

「あ、いやいや!それもあるけど、違うよ!だって、だって一週間後には雄英試験が始まっちゃう。今から緊張してさ。もうほら、指が震えてるんだよ」

 

「ええ…?マジかお前。いや大丈夫だよ。頑張ってきただろ。この10ヶ月すごかったじゃん。オーストラリアでも、ハワイの海岸清掃なんて特にすげえよ。親御さんに言えないくらいには無茶したし、個性も使えるようになったんだから。自信持っていいと思うけどなぁ」

 

彼はいつも落ち着いてる。動揺しているところを見たことがないと言っても良い。同い年なのにとてもそうは思えないっていうか。大人な感じがすごいのだ。

 

でもたまにその目を見ていると、どうにも気になってしまう。

なぜかたまに。()()()()()()()()()()()()()()ように見えるのだ。絶対に気のせいだと思うんだけど、そう見えてしまっている。

 

「狩峰君は、不安じゃないの?その、個性ってあんまり試験向きじゃないし……」

 

「いやまぁ俺に関しては大丈夫。普通に通ると思うし、最悪は裏口入学できちゃうかもだし?」

 

「やっぱりすごいなぁ……っていやいや!ちょっと待ってよ。それってダメじゃ…?ヒーローにあるまじき柔軟性っていうか、それ犯罪じゃないの……!?」

 

「日本なら一発アウトだろうけど、残念ここは日本じゃありません。法律は守るよ。当たり前だろ?」

 

指を真下に指して笑う彼の言うことは事実だ。この場所は日本という国ではなく、世界の覇権を握る日米英の3カ国が共同で作った移動する独立行政区である。そこには日本とは異なる法律が当たり前に存在している。

 

できてから2年も経っていないこの新国家の代表はあのオールマイトであって、そして淡輝くんのお父さんが最大最高のスポンサーでありこの島を維持して発展させている。

 

彼らからの支援を一身に受けて僕たち二人はヒーローになるべく、この10ヶ月を訓練に費やしてきた。

 

それもようやくひと段落。視界には、もはや懐かしの故郷。横浜の景色が映っている。

 

「複雑そうな顔してる割にはいつものブツブツもないし。本当に調子悪いのか?大丈夫?」

 

「え!あ、ごめんね。なんか、こう。ちょっと説明しづらい違和感というか感慨というか、なんか色々考えてて。むしろ考えることは増えてるっていうか、何がわからないのかもわからない状況になっちゃったっていうか……」

 

僕のブツブツというひとりごとが始まり、彼は笑ってそれを聞き流す。実際のところは巨大なスクリーンに映った光景を眺めているらしかった。

 

映像を見ればこの人工島が横浜へと接岸し、接続の準備が最終段階へと進んだようだ。

 

もはや船と呼んでいいのかわからないほど規模からして、驚異的な巡航速度なのだがあまりにスケールが大きすぎてその異常に誰も気づかない。海上で時速60kmをゆうに超えるこの人類史上最速の海上移動施設はその凄まじさを全く感じさせず静かに日本へと寄り添う。

 

報道のヘリが上空を飛ぶことを許可されたようで、嬉しそうにブンブンと飛んでいる。施設内の巨大モニターにその一つが写り、キャスターの興奮した声を響かせている。

 

『こちら、横浜新湾岸エリア上空です! ご覧いただいているのは、今まさに接舷態勢に入った、移動型人工島であり独立が認められた都市国家でもある『UAIランド』!その巨大な姿が、午前7時45分、ついに姿を現しました!』

 

直径14km、海に浮かぶ人類史上最大の構造物である移動可能な人工島は、その巨体を横浜沖1km以上離れた地点に静かに停泊させた。

 

『ご覧いただけますでしょうか!こんな光景は見たことがありません。あまりに広大な円形の船。中央にはドーム状の指令塔、そして外周部には無数の港湾施設に空港まで備え。さらに高層居住ブロック群が軒を連ねています。それを迎える横浜の南本牧ふ頭の湾口施設も『UAIランド』専用に新たに整備され、受け入れを待ち侘びているようです』

 

鋭い眼差しと美貌で人気を博する美人キャスターは自身の髪の毛が逆立つほどに興奮していた。髪がヘビになっている彼女のファンサは体が固まるようだとファンでは大人気である。彼女もその全身全霊を使って現場からの興奮を日本中へ。いや、世界へと喧伝している。

 

『ご覧ください。空母が並んでいます!世界初の連結式通路システム。世界で唯一残った空母たちが地上への架け橋として利用される光景は、軍事マニアでなくても感動を覚える光景でしょう。現在、横浜本土の臨海特設接続口との接続を行っているまさに最終段階です。等間隔に配された空母群が整然と並んでおります』

 

映されるのは『UAIランド』自体ではなく、そこから本土との間の海に変わる。

 

『残った各艦の両端に格納されていた可動式ブリッジが、次々と展開を開始しましたね。特殊合金製の橋が海上を這うように伸びてゆきます。現在、4隻目までが接続完了、それぞれが400m近くある上で延長をしているため本当にすごい長さになっています。2kmを超える橋が繋がれ、都市と本土を繋ぐラストブリッジもまもなく展開されるとのことです』

 

巨大すぎるこの施設の寄港は従来の港湾構造では不可能であるため専用の接続機構が展開されている。それは、まるで都市と大陸を結ぶ人工の脊椎のように全てが同時に伸びていくのだった。

 

接続される橋は4車線にもなる車両用の大橋と、ありえないはずの列車用の線路がそこにある。

 

『信じられません。船を繋いだ橋なのに微動だにしていない光景をお伝えできているでしょうか?』

 

十分に伝わっているようで、緑谷は無意識に握り拳を作り、感動を叫ぶ。。

 

「すごいすごい!初めてこんな角度で見たけど、さすがUAIランド!やっぱり個性科学の研究はすごいや。本当に魔法みたいだよ」

 

「本当になんでも使ってるからね。『流体操作』『水流』『潮』海面と水流の制御くらいできないとこんなでかいものを浮かせて移動するなんて無理だもんな。あ、そういやこれ。ほら見て、記念硬貨だって。全12種類のオールマイト刻印だぜ?いいだろ!」

 

「す、すごい!!それ、どこで買えるの!?」

 

「ほら、観光客向けの店だったらそこら中で売ってるよ。オールマイトオタクとしては抑えとかなきゃな。パーカーも3種全部買ったぜ」

 

ちなみに彼もオールマイトオタクだった。これが一番仲良くできた原因かもしれない。同じレベルでオールマイト談義をできる友達なんていなかったから本当に嬉しい。

 

「ほら、こっちは接舷の時の号外の新聞オールマイトの横顔だぜ。普段新聞なんてないのに、アナログ向けの配慮だよね。それとこっちは落ちてたチラシ。あとこれはよくわからんおもちゃ」

 

「あ、それは全然いらないや。前から思ってたけど、その収集癖ってオールマイトとか外国限定じゃなかったんだね」

 

狩峰君はやはり変だった。

 

世界一お金持ちの家なのに、ものを拾うのが好きらしい。家は変わらないけど、倉庫を借りるほどものを拾ってしまうのだとか。生ゴミを拾ってるのを見た時にはさすがに引いた。

 

「いや、いつか使うかもしれないだろ!」

 

「多分、使わないと思うよさすがに。壊れた怪獣のおもちゃって、落とし物かもしれないから届けよう?」

 

嫌じゃ嫌じゃ届けとうないと駄々をこねるがここで引く緑谷出久ではない。ちゃんと治安機構まで届けてスッキリするまでやり切った。もうオドオドしているだけの自分じゃないんだと、少しだけ自信がついている。

 

まだ知らない人とか強面の人にはビビってしまうが、友達には割と突っ込んだ話もできるようになっていると思う。友達って響きがすごくいいな。

 

 

ちなみにもう一つだけ淡輝くんの、僕の友達の変なところを言っておくと。やけに昔の本や映画。アニメや漫画などその辺りを異常に知っている。平気で100年以上前のサブカル用語とかを使ってくるし、ましてやネットで流行った言葉なんてわかるわけがない。

 

あんなに忙しいはずなのに、なんでそんなに博識なのか。21世紀のコンテンツオタクにも負けないその知識量。それも彼の謎の一つだった。

 

 

そうこうしていると、報道番組は終わりに近づいているようだ。

 

『これらの技術も規格外のエネルギー。世界で50年ぶりの実用化された核融合炉による膨大な電力の賜物でしょう』

 

2070年には実用化されているだろうという21世紀初頭の予想は個性の登場とそれに伴う世界情勢の不安定化によって大幅に遅れ、そして三度目の世界大戦によって可能性は閉ざされたかに思われた。

 

それでも諦めず、アメリカに建設された実験炉は2108年にテロリストによって破壊されることになる。石油を主産業とする国々からの工作と言われるがその実態は定かではない。そんな歴史を歩んだ『核融合』という夢の技術は理論は存在して洗練されていっても大規模な施設と実験ができず日の目を浴びることはなかった。

 

全てが変わったのはだいたい4年前。そこから今までの妨害や問題が嘘のように消えていきそしてあり得ないほどの短期間で実験機を実用へと生まれ変わらせた。

 

「聞こえますでしょうか?大きな歓声です。UAIランドは以前の計画で『Iアイランド』として科学と観光を主要産業として開発運用が始まる寸前でしたが、組織委員会は方針を転換し、科学と医療の島として生まれ変わりました。その全貌は長年秘匿されてきましたが、今日、ついに市民の目の前に、その神話のような姿を現しています!」

 

『なお、この移動型人工島は特別行政区であり、この接舷は事実上、『国家が国家へ寄港する』という前例なき事態です。国際法上の扱いも現在協議中とのこと。以上、現場から、記念すべき第一次UAIランド接舷の実況をお伝えしました。』

 

 

連結された橋を列車で通り抜け、JRまで直接合流していく。未来都市から普通の日本へシームレスに移動していくのは違和感がありすぎて面白い。

 

空母を過ぎると、そこは島国だった。

 

普通列車に乗り換えるとあら不思議。10ヶ月程度じゃ何も変わらない日本です。

 

みんな相変わらずデバイスを見て電車に乗っていて、どの電車も事件による遅延がないのは変化と言えるだろうか。

 

憂鬱そうなサラリーマンやおしゃべりに命をかけている女子高生。赤ん坊をあやす母親や、口をもぐもぐしているお爺さんの鼻からは白い鼻毛が挨拶している。

 

二人の向かう先は別なので横浜駅で別れ、そしてそれぞれの帰路に着く。

 

「「 ただいま 」」

 

緑谷出久と狩峰淡輝は、10ヶ月の海外ボランティア修行を終えて家に戻る。

彼らは雄英高校試験のために、懐かしの日本へと帰ってきたのだった。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

名前:緑谷出久

 

君には何もない、無能力者だ。

ただそれでも、生まれるべきではなかったとは言い難い。

 

個性:ワンフォーオール(現保有者)

その力は受け継がれてきたものだった。

君は選ばれた。次は、君だ。

 

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劇場版ヒロアカ一作目。『二人の英雄』をチラリと見てもらえれば舞台のイメージがしやすいかと。魔改造されたIアイランドで好き勝手していきます。

https://youtu.be/LaH0UUo8-C8?si=dX5ciTcMQag_3PZV

こちらの動画の16秒〜に全景があります。
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