夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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デクvsかっちゃん

移動する自動運転の車の中で、爆豪勝己はいつも通りに仏頂面を下げている。窓の外の景色に目をやり、そして頬杖をついていた。

 

「爆豪君!君の素行は聞いている!これから教師の方々からの説明というのにその姿勢はなんだ!?」

 

「うるっせえよ。どこ中だテメエ」

 

「いまどきヤンキー漫画でも見ねえよその態度。飯田、ごめんな!こいつそこまで悪いやつでもないんだけど……」

 

「黙ってろやクソ髪。殺すぞ!」

 

「ころっ……!?ひどいな君!本当にヒーロー志望なのか?」

 

今回の戦闘訓練はチームでの特殊な形で実施されることになる。

教師側からヒーローチームとヴィランチームに分けられて、すでに組み合わせも決まっていた。

 

護衛任務チームとしてこの三人が顔を合わせることになった。

・爆豪 勝己

・飯田 天哉

・切島 鋭児郎

 

相手のチームも3名であることは事前に知らされているが、それが誰になるのかはわからない。

 

そして車内の言い争いなど関係なしに通信が始まった。

 

『それではブリーフィングを開始いたします』

 

サポートAIであるマリアの声が映像と共に映し出される。

 

『依頼主はこちらの男性。UAI核融合研究施設に所属する主任研究員アンドレイ・セルゲイヴィッチ・モロゾフが護衛を依頼しています。その依頼をあなた方の所属するヒーロー事務所が受諾し、3名が派遣されてきたという状況です』

 

「こいつは何したんだ?何から守れってんだよ」

 

『UAIの秘密研究の一部を公開するために、強硬な行動に出るようです。その意義と目的についてはご本人からお聞きください。事務所が認めた護衛任務を継続するかどうかも、みなさん個人の判断にお任せされていますので』

 

「おいおい嘘だろ!?UAIへの反抗を手伝えってことだよな!?そんなのできるわけ……」

 

『着きました。それでは、ご健闘をお祈りしております』

 

そこで通信に割り込みが入る。冷徹ないつも通りの声で、彼は言った。

 

『最後に一つ。もうわかっていると思うがこれは訓練であるなどという甘い態度を取れば、その時点で除籍とさせてもらおう。しっかりと、現実と思って行動することだ。その気概で臨んだ結果として失敗するならそれは責められることはない。反省はしてもらうがね』

 

ゲイル先生からの忠告というか脅迫じみた除籍勧告にブルリと震えるが、爆豪だけは気負いはない様子でそれを黙って聞いている。

 

案内された倉庫。そこには忙しそうにデバイスを操作して、今入ってきた三人に目も向けずにいる男がいる。長身で細身、黒縁眼鏡。白衣の下に常に無駄のないスーツを着ているのは変わった服装だろうか。表情は冷静だが、目つきには常に疲労と焦燥がにじんでいる。

 

あまりに短い導火線、爆豪の堪忍袋の緒が切れるより早くに、せっかちな様子でその科学者のような人物は語り始める。

 

「これが派遣された実力者?ふざけてるのか?子供じゃないか!」

 

そしてデバイスに向かって怒鳴ると何かがそれに反論しているようだった。

 

「まぁ、確かに。子供たちなら護衛に見えないか。プロヒーローで目立つのも論外。ならば一理もあるということか」

 

言葉を交わして勝手に納得したらしく、三人に向かって急いだ口調で語り出す。

 

「このUAIにある小型核融合炉は、ただのエネルギー源ではない。兵器にも、都市の心臓にも、そして経済の秩序を根こそぎ変える鍵にもなる。兵器利用の研究は禁止されているが一部の科学者はそれをやった。だから告発しようと思ったが、妨害が想像を超えていた。

そしてUAIはこの技術を秘匿することに決めたようだ。この技術は一国が独占すれば、残りは従属するしかなくなる。私は理想主義者ではない。だが、力の均衡が崩れた世界に未来はない。かつての核兵器開発のように、互いが持ってこそ均衡は訪れる。だから、これを“他者”にも渡さなければならない」

 

「君らには逃走経路を確保してもらう。囮でもなんでもやってくれ。私はデータを持ち出す。失敗すれば私は処刑され、君らも共犯者として消えるだろう。しかし、これは世界のためなのだ」

 

その顔には、理性の裏返しの焦燥が滲む。だが声は落ち着いており、説得の論理を最後まで訴え切ろうとする。胸の内の動揺を抑え、彼は護衛の目を一つずつ捉える。言葉は冷徹だが、その奥にある切実さが、不器用に伝わろうとしている。

 

そんな風に見えていた。いっそ不自然なほどの迫力に三人は顔を見合わせる。

指示は明確。彼の脱出を手伝い、護衛せよというもの。おそらくそれを放棄すれば戦闘訓練は終了になる。

 

「プロのアクターにしても彼はちょっと変じゃないか?あまりにも、必死というか……」

 

飯田がたまらずそんな疑問を口にする。

 

「無駄口を叩くな。マジで除籍されるぞ。あのジジイは本気だった」

 

その後もいくつか検討をして意見をまとめる。しかし、爆豪は強硬に続けるとしか言わずあまり建設的な話し合いにはならなかった。

 

最終的に三人がそれぞれ、漠然とした不安を抱えるがそれでもこの大きな流れに決定的な抵抗をしないことに決めたのだった。

 

 

 

「ようやく決めたか?時間がない。早く私の家族と合流して脱出用のコンテナまで移動しなくては……」

 

『警告です。UAIが派遣したヒーローチームが捜索に向かってきています。速やかに脱出へと向かってください』

 

 

「いや、嫌だ。嫌だ嫌だ!!家族と一緒に私は!!」

 

 

「ど、どうすんだよ爆豪!これ、どうすりゃいいんだ……」

 

試験だなんだと甘い想定をすれば即落とされる。それは確実だった。もしこれが現実だったとたらどうするか。

 

「おい。とっとと移動する。家族はほっとけ死にやしねえ」

 

「爆豪君!君はそれでいいと思うのか!?家族と離れることがどれだけの!」

 

「黙ってろボンボンが!死んだらそれこそ二度と会えないだろうがバカが。いいか。こいつ一人とデータだけだ。でなきゃ家族ごと逃げる作戦でも今すぐ話せや」

 

「爆豪、お前なんかすげえ冷静じゃね?横暴さはあるけど、頼り甲斐あるぜ」

 

「いいからとっとと準備しろ。コスチューム脱げや。こんな格好で隠れるなんてできねえぞ」

 

UAIの工場区画。倉庫のある場所から地下の指定場所までを護衛する任務だ。徒歩で2時間の場所への同行だが、それも妨害が入らなければの話である。

 

三人はヒーローとしての仕事を全うするために、特注のヒーローコスチュームを脱いで準備を始めるのだった。

 

 

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

三人は急ぎすぎず、それでも最速で歩いて目的地へと向かっている。

周囲は無人の区画だが、それはきっとこの訓練用にそうしているだけだろう。普通の街中を想定して、動かなくてはいけない。

 

そのルールはこれまでの戦闘訓練で十分に教え込まれていた。

 

「本当にいた!見つけたっ!ちょっとすみません。お話いいですか?」

 

だからこそ緑谷出久もこうやって話しかける。同級生として認識するのはリアルな想定ではないから。

 

「わざとらしい演技しやがってこの……」

 

「ちょいちょい待て待て、お前だと普通に喧嘩になりそうだ。ここは俺に任せとけって!」

 

「あの、人を探してましてそちらの方の確認をさせてもらっても?」

 

職務質問をする緑谷出久とそれを受けるコソコソとした自分。それがまるでヒーローとヴィランみたいで、爆豪のハラワタは煮えくり返るようだった。

 

それを理解してる友人がどうにか抑えて前に出る。

 

「嫌だなぁ。ヒーローなのにそんな風にやめてくださいよ。ほら、こっちも都合があるっていうか」

 

切島は嘘が苦手である。でもそれはお互い様だ。言い訳をしながら足は止めない。爆豪は殺しでもしそうな勢いでメンチ切っている。緑谷はちゃんとびびっている。

 

緑谷があたふたと煮え切らない様子で決定的に問い詰めることはできていない。

 

「デクくん!追いついた!ターゲットは?」

 

「こっちだよ!ひとまずは確保をしたいんだけど……まだ疑惑の段階だから、無理矢理にはできなくて……」

 

脱出の疑惑がある段階のようで。一応聴取をしなくてはいけないようだった。

 

「おい。こっちは病人だ。好き勝手に触るんじゃねえ。殺すぞ」

 

「っひ!」

 

そこからは押し問答である。無理に連行などすればどうなるのか緑谷たちは知らなかった。自分たちにその権限があるのかどうかも。

 

基本的に状況設定は、自分で確認しないと教えてもらうことはできない。

 

目の前で襲われている誰かがいたり、傷ついている人がいるならすぐに動けるが、こういったまだ事件になっていない状況ではどうにも緑谷には押しが足りなかった。

急いで個性を使いながら飛んできた麗日が合流してもそれは続き、そしてゆったりと歩いてきた渡我被身子が着く頃にも未だ膠着しているのだった。

 

その間、ビクビクと背を丸めた護衛対象はフードを深く被ったまま黙っている。

 

「何してるんです?」

 

「いや、確保を!」

 

「いい加減にしろや!警察呼んでやろうかクソナードが!」

 

爆豪の怒声に緑谷がまたしても萎縮する。

ごちゃごちゃとしたやりとりが蒸し返されようとしたその時に、渡我被身子はニタリと笑った。

 

 

「おかしいですね。爆豪くんがご機嫌に見えます」

 

「え、ええ?どこが?というかいきなり何を……」

 

「んだとテメエ!俺のどこ見てそんな感想出るってんだぁ!?ああ?」

 

「ほらまたおかしい。大嫌いな緑谷くんを前に冷静です。そんなの爆豪くんじゃないと思いません?」

 

「いやいやそれは流石に言い過ぎじゃ……。な、爆豪だってやろうと思えばこれくらい、なぁ?」

 

「だいたい、ここでずっとお話してて何か解決するんです?トガはもう飽きたので……」

 

 

ふらりと動き、その行動の起こりがあまりにスムーズで自然体で、誰も反応できなかった。

煌めく金属の光沢が、俯いていたフードの首筋へと当てられてそして思いっきり振りかぶる。

 

誰もが絶句し、目の前で行われた通り魔的犯行に口を開いたままになる。

 

 

しかし、予想された流血は起きず、それで切り裂かれたのはそのフードだけだった。

 

 

「なっ!何をっ!」

 

「ほらやっぱり。変装してもニオイはおんなじ。飯田くん、こんにちは」

 

顔を隠す機能を失った外套の奥からは、見知ったクラスメイトの顔がある。

 

「キ……頭おかしい地雷女が!」

 

そして状況が再開する。

 

「一体どこに!?」

 

「デク君!デク君!そしたらさっき見た飯田君って」

 

「そ、そっか!そしたら今すぐに……」

 

「行かせるかよバカが!こっからは足止めだ!お前らもとっとと動けや!」

 

切島の尻を軽く蹴りながら、掌から爆音を起こし、花火のような残響が規制区画に響き渡る。

 

「これ、きっと合図だ……!止めなきゃ!」

 

走り出そうとする緑谷の前に、爆破を駆使した立体機動が立ち塞がる。

 

 

「お前が俺を抜くなんて、あり得ねえんだよ。いい加減に、化けの皮剥いでやる」

 

先ほどまでの大声ではない。どこか冷静で、本当に心からの怒りを滲ませる声でつぶやいたその一言に。緑谷出久は今まで感じたことのないほどの怖気に襲われる。

ヒーローとして感じるべき感覚ではないが、それでも感じてしまったその戦慄は避けることはできない。

 

人生で初めてかもしれない。いや、あの時以来だろう。

小さい時に公園で、泣いてる子とかっちゃんの間に、震えながら立ち塞がったあの時は「ひどいよ。かっちゃん」とただ訴え、そして転がされるだけだった。

 

「またヒーロー気取りか……デク……」

 

幼い時からなんでもできた爆豪。そして何もできず、だけれど諦めなかった緑谷がようやく対峙する。

 

「その力。なんなんだ?」

 

これまで聞いた彼の言葉の中で、一番静かで冷えていて、火傷するような冷たさがある。

 

 

「お前、誰だよ。」

 

「誰って……そんなの、決まってる。僕は……」

 

「はっ!それこそ偽物だろうが。緑谷出久ってのがどんな人間か知らねぇみてえだから教えてやろうか。あいつはな!ガキん頃から何もできねぇくせに、一丁前にウロチョロしやがる弱虫だった。個性が出てくる頃には全部決まってただろうが。お前も諦めてたよな?運動もせずにヒーローばっか眺めて憧れるだけ。ナード君として立派だったよなぁ!?」

 

あまりの暴言に反論を激情が燃えるが、それでもここを離れることが最善であるという冷静な思考と混乱する。だいたい、自分は嘘なんてついてないのに!

 

「ああ、そうだ!そいつは身の程ってやつを弁えてた。だけどなんだ?あの事件からずっと、お前は誰だってんだよ。たったの10ヶ月だ。それだけでお前が雄英のトップに立つってなんの冗談だ?普通に考えておかしいだろうが!」

 

そう言いながら爆破して加速。否定したいその相手に全力で殴りかかる。

 

全力の大ぶりの右をそいつは完璧に避けてみせる。

 

「んで!てめえがそれを避けれるってんだ!!そこらの中学でもドベだったオタクが、不正でもしなきゃこうはなんねぇ!違うってんならそう言ってみろや!」

 

「かっちゃん!それは、それは……」

 

彼の猛攻を防ぎながら、そして話そうとするが話題がそれを許さない。

 

言い淀む。ワンフォーオールの継承は本当に重要な機密である。これを伝えればその相手はオールフォーワンから拉致され、拷問される可能性が高いと伝えられてもいる。これは本当に伝えてはいけない内容なのだと念押しされているのだった。

 

故に逡巡し、そして答えが遅れる。それを回答として受け取るのは自然だった。

 

空中で回転し背後を奪う。そして蹴りを放つがそれをまるで見ないままにして反射で避けるような動きを見せる。

 

「馬鹿正直のクソナードが!今までみたいに嘘吐きゃいいだろうがよ!ここで俺を怒らせんのも想定通りか?ああ!?どうやって避けた?どうやって動いてる!?」

 

「違う!違うよ!」

 

「お前は別人だ。どう考えてもそうに決まってる。なのに……」

 

どれだけの爆破を連打しても、どれだけ工夫をした一撃を見舞おうと。それを上回る動きと力を見せてくる。

 

「なのに!なんでその目をやめねぇんだ!」

 

こいつは一体なんなんだ。これは一体なんだというんだと。

今の自分の感情のように爆発を起こしてそして、人生で一番の爆破をぶつけてもそいつは難なくそこにいる。

 

 

 

「俺に嘘ついてやがったんだろうが!!!」

 

 

 

幼馴染同士が、かつての公園以来に向き合った。

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