夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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スタートライン、それぞれの

 

爆豪勝己は考え始める。

 

 

憧れのヒーローであるオールマイト。その強さにずっと追いつきたかった。追い抜きたかった。

 

誰にも負けず、常に勝者として立ち続け、全ての人にあの感動と興奮を届けるあの姿をずっと追いかけていた。

 

だけど、どうやら。強さは先じゃないらしい。

 

強ければヒーローになれると思ってた。実際みんなそう思っていたし、世間だってそうだったはずだ。だけどこのところは教師どころかニュースやメディアですら論調を変えてそう言ってくる。

 

ちょっと前までは万年NO.2だったエンデヴァーだって強いから持ち上げられていたくせに。今ではその精神性だとか品格だとかよくわからないものが重要だなんだと訳知り顔で語ってた。

そういやエンデヴァーの逮捕事件の後からだった、この流れは。

 

強ければなんでも許されるという世界はいつの間にか終わっていて、そこに取り残されてたってことか。

 

バカみてぇだ。そうだ。バカだ。

 

ミャンマーでもただ突っ立っているだけしかできなくて、自信しかなかった自分の強さをどこにもぶつけられなかった。例年通りのロボット撃破だったらなんて恨み言も言えずに、心のどこかで雄英に落ちることを覚悟してたと思う。

 

それでもなぜか受かり、あのデクが首席で入学してやがった。それで何より許せないのはその状況をどこかで認めてる自分が最悪で、どうにかそれを否定しようと足掻いてもがいて、それでここまで落っこちた。

 

最後の訓練は最悪だった。何が最悪か。それは俺が何もできなかったのに、こっちのチームが勝ったことだった。

つまりは俺は何もできずデクに負け、クソ髪とボンボンがそのデクに勝ったという事だ。

 

ここまで無様なことがあるものか。絶対に許せない。

 

だけど、だからこそ。こっからだ。

 

 

自分は何かを間違っていたのだろうかと。直近の出来事から順に生まれて初めて自問し始めている。その工程ははなんとも気色が悪くて、どうにも慣れない。すぐに目の前の他の用事に目が行きそうになる。

 

だけれど、それでは勝てないのだと言われ。それだけでは信じられず戦って負けた。見るも無惨な大敗をしたが、まだ生きていて意思は折れていない。

 

だからこっから勝ってやる。自分じゃ気付けない欠点も何もかも。全部飲み込んでヒーローになってやる。

 

 

デクを追い抜いて、そんでオールマイトも抜き去って。最高のヒーローになってやる。

 

 

そんな風に意気込んで、また授業に出てあのジジイの話を聞く。

 

殊勝な態度から伝わったのか、問われた。ちょうど二人しかいないタイミングで話しかけてくるのもウゼェ。気配りが鼻につくんだよ。クラスメイトの前じゃ言えないだろうってか。

 

「君はまだ何かに縋っているのかね。緑谷出久やオールマイトが明日死んだらその志はもぬけの殻だぞ。そんなに空虚なヒーローは必要ないだろうに。雄英で圧倒的な一位となったとてそれが良いヒーローであるなどというのはあまりに考えが足りていない」

 

「……んだよ。それ……」

 

「どうすれば良いかわからないかね。しかし雄英はすでに問うている。最初の設問を思い出して向き合いたまえよ。『ヒーローとは何か』それこそが君に必要な問いであり、誰もが考えるべきことなのだ」

 

 

新たな決意を一蹴されて、ポツンと教室に取り残された爆豪勝己は考え始める。

 

まだ足りない。何もわかっていないということだけを何度も思い知られる。

 

ここでようやく内省的な思考をし始めた。

 

自分は一体、どこから間違えた?何から疑えば良いのだろうかと。

 

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

 

 

ヒーローとは何か。その問いに向き合わなくてはいけない者は一人ではない。

 

麗日お茶子は悩んでいた。

 

元々ヒーローを志したのは、誰かを救いたいとか世界を平和にとかそういうのじゃなかった。

 

大好きな家族に楽をさせたい。お父ちゃんとお母ちゃんに何かを返したいというところからだった。その一念で雄英を受験に応募してみたらなんと書類選考が通った。ヒーロー向きの個性だとは思ってなかったけど、自分でもなれるんじゃないかと胸が高鳴った。

 

そこに影を感じた瞬間は明確にわかる。ミャンマーでの実地救助の時のこと。いきなり現地でなんて絶対無理だと思って後方支援を願い出た。

 

運搬する荷物の重量を無くしていっぱい運べるようにしただけで不安だったけど、合格した時にはそういう地味な活躍も評価してくれるんだって嬉しくなった。

 

でもやっぱり人が病気でボロボロになってたり、怪我をしてたりするのを見ると心が張り裂けそうになる。

 

ヒーローになるってことはこういう事とずっと向き合うって事なんだって気づいてすごく迷う。迷いに迷い続けている。

 

あの雄英に受かったのに、辞退しようかなんて悩んだ事は喜んでいる両親にも言えなかったから心の奥にしまい込んで。

 

入学してすぐに相澤先生から言われてた言葉。あの時はまだピンと来てなくて答えられなかった。というより、考えが追いつかなかったっていうか。そういう感じだ。

 

「金銭的な動機が不純とは言わない。金も大事だ。ただ、金が稼ぎたいなら他に方法はある。合理的な道はいくらでもな」

 

でも私はバイトもした事ないし、出来ることなんてまだなんにもないから。他に方法があるなんて考えられない。

 

進路について考えるのなんて2年生以降なんじゃないのって思う普通の私と、ヒーローになりたいって根拠もなしに思ってる変な私。

 

そんな内心の迷いは棚上げになってしまって時間が過ぎる。

 

雄英高校のあまりに普通じゃないカリキュラムで余計に考える時間はなくて、そのまま日々が過ぎていくものだって思ってた。

 

だけれど決断は遥かに早くやってきた。

 

それも想像を超えるというか、言われても理解できない金額でやってきた。

 

なんやねん。億って……。

 

父ちゃんと母ちゃんが、あんだけ頑張って年に数百万円を必死に稼いでいるのに。

 

私がここでちょっと物に触るだけで、両親の30年分のお金が貰えるって何?

 

怒りすら覚えるけれど、それが誰に向かう怒りでもないとわかるとただただモヤモヤしているのだった。そんな大金貰うかは置いといて、でもお金は本当にヒーローになるより稼げるかもしれない。

 

かもじゃない。たぶんそうだ。

 

じゃあ、あんなに辛くて厳しくて泣きそうになるような体験からは逃げてもいいんじゃないのかって思う。

 

逃げる。逃げて…いいんだろうか。

 

私は逃げたいんだろうか。私は何をしたいんだろう。

 

そんな風に悩んでいたから、この前の戦闘訓練は失敗してしまったのかもしれない。

爆豪くんを捕まえるところまではデクくんが上手くやってくれたのに、結局ターゲットは逃してしまった。

 

切島くんのガッツと、飯田くんの逆に真っ直ぐすぎた奇策に騙されたのだ。

 

ターゲットに飯田くんのコスチュームを着せていると思ったけれど、それを捕まえたら中から出てきたのは汎用のサポートロボットだった。

 

対象は普通にスーツでその場を切り抜けてまんまとコンテナまで辿り着いていたらしい。これ以上嘘はよくないという飯田君のアドリブだったらしいが、見事に騙されてしまった。

 

デクくんが後から追いついてすごい速さで追いかけていったけど、それでもギリギリで捕まえることはできなかった。

 

渡我被身子ちゃんは自由すぎて協力できなかったし、全くどうすればいいかわからなかったよ。

でもなんかやけにくっついてくるから、仲は良くなったと思うけどどうお願いしても彼女は走ってくれなかった。

 

 

「ダメダメやぁ……」

 

ため息と共に、悩みをぶり返す。

 

私はいったい、どうしたいんだろう。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

八百万百は恐れていた。

 

戦闘訓練は過激さを増していて、この前はついに腕を撃たれた。実弾を使った訓練の有効性を説かれれば理解できるが、それでもあれは恐ろしい。

 

雷が走り抜けるような衝撃と、遅れてやってくる経験した事のない痛み。

 

鼓動はこんな風に動いているんだって初めて知った。脈打つ度に痛みがあり、そして体から血が流れていく恐怖。すぐに止血手当をしたけれど、自分の意思で動かない腕という異物はあまりに重いのだと痛感させられた。

 

あまりに当たり前のことであるし、それでも体験するまで知らなかったが、私は暴力が怖い。死ぬのが恐ろしい。痛いのは嫌だった。

 

銃弾が肉を抉ったあの時、死にかけたという感覚が確かにあった。

 

心の底から嫌だけれど認めざるを得ない。あの訓練は有効だった。現に私は今悩んでいる。ヒーローになる道をこのままに進んでいいのかと悩んでいる。

 

自分で提案して却下されたコスチューム案。なぜそんなことをと悩んでいたし、却下の理由も全く納得できていなかったが、今ではその理由が十分に理解できていた。

 

『ヒーローにそぐわない装備のため』の一文に感じるところは、1ヶ月前と今では全く変わっている。変わりきっている。

 

見た目の話かと思い抗議していたが、今思えば私のコスチュームはあまりに身を守ることを考えていなかった。防弾防刃のマントと胴体を守るスーツは確かに安心感がある。背中は大きく開いているし、各部に『創造』したものを出すことのできる場所はあるがそれでも初期案よりはだいぶ肌が隠れているのが今のコスチュームだった。

 

震えながらそのコスチュームを掴んで引き寄せる。

 

肌触りの良くないその堅牢な感触を確かめて、少しだけ安心した。

 

それでもヒーローを諦めるという選択肢は自分の中にない。だってもう決めていたから。

 

5年前にいなくなってしまった幼馴染を連れ戻す。狩峰淡輝という人の笑顔を昔に戻したい。

 

私はそのためにヒーローを志したのだから。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

戦闘訓練の10回目が終わり、一学期のカリキュラムはこれで消化されたというタイミングで職員たちは会議をしている。

 

議題は一つだ。それはこの結末を予想できた者がいたかどうか。ほぼ全ての教師が反対し、そして今すぐにでも助けに行こうとしていたことも両手で数えることすらできないほど起きてきた。

 

しかし結果としては生徒たちは一人の死者も、後遺症を持つものも、脱落者すら出さずに一学期を走り切ろうとしている異常が結末である。

 

これは誰一人として予想していなかった結果であり、唯一の正解はゲイルのみ。ほとんど近い回答は相澤だった。

 

「皆様、先ほどより説明をしておりました二学期のカリキュラムについての各自の影響度は表示の通り、より現実に即した考え方を優先するという約束は守っていただきます。これはUAIの首脳陣からの通達です」

 

「異論ないぜ!無いけどよぉ!あんまりにもパンクがすぎんじゃねーのかって話は避けられねーだろうがよ!」

 

プレゼントマイクと呼ばれるプロヒーローは持ち前の大声を響かせる。

 

「異論ないなら黙ってるべきだろうが、一文で矛盾してるぞ」

 

元は同級生でもあり、親交の深い相澤が嗜めるがそれこそいつも通りと意に介していないようだった。

 

「黙ってられるかっての!プロですらこんな頻度でここまでの難事件に出くわすなんてあるわきゃねー!やりすぎだよ明らかに!」

 

その言葉にUAIの頭脳たるAI、マリアの端末人形は深々と頭を下げた。

 

「そのご意見はお伝えしておきます。オールマイト様も似たような懸念を表明されておりましたので、すでに検討はされているはずです」

 

「またナイトアイとスポンサーの判断ってか。二人ともほとんど会話もできねーし、実際シヴィーだぜ。どうやって信頼しろってんだよ!」

 

雄英教師陣のフラストレーションもまた相当なものであり、彼の暴言とも言える言葉に反対する人間はいなかった。

 

「その点に関しては僕の顔に免じて欲しいのさ!そして何より、彼らが積み上げた実績をね。私たちの想像を超える結果を出している彼らと生徒たち。その現実を受け止めて我々もまた変わらなければいけない時が来ているんだと思うよ」

 

コミカルであるが、道徳や人道的な配慮については誰よりもうるさい校長すら彼らの横暴を止めず、応援すらしている。それが教師たちには理解ができていなかった。

 

そしてその矛先は決まって最も異端であるものへと集まっていく。

 

「というかまた子ども達に怪我をさせたと聞きましたよ!ゲイル先生。あなたいい加減になさっては?」

 

「いい加減にというのなら君たちこそいい加減に気づくべきだろう。君らが『子ども』と呼ぶ彼らは見ようによっては大人などよりよほど強くしなやかさもある。そのことは1ヶ月もしないうちから証明し続けていただろうに。私のやり方でクラスの大半が落第していないどころか、成績が大きく上がっている現実がある以上は一定の敬意を払っていただきたい。むしろ参考にすればどうかね」

 

ニヤリと笑う車椅子の老人は、決して誰かに庇護されるような人間ではない。

 

「他人に情けや同情をかけるというのは、相手を人間扱いしていないことと似ている。もっと端的に重要な部分を伝えるだけで、生徒達は勝手に育つと思うがね」

 

「それでも、教師が切りつけるなどしてはいけないでしょう!」

 

「文脈に依るだろうに。無差別で切り付けているわけでもない。そもそも苦労や苦痛を経ていない学びなど人間にとって無に等しい。流した血こそが精神となる」

 

これは助言だが、と前置きして挑戦するように言い放った。

 

「私は生徒を傷つける。私の暴力によって彼らは身を守る術を知るだろう。しかし君らは、君らの徳によって生徒達を殺すことになる。優しさが通用するのは、優しい世界だけの話なのだから」

 

そこからはブチギレた一部の教師とそれらを一切気にしない老人の勝負にもならない議論だけが続いていった。

 

「さて、時間だな。ではご機嫌よう諸君。定時なので上がらせていただくよ」

 

終わりの終わりまで、人の神経を逆撫でつつも正しさを押し通していくその姿。そこにはある種のヒーロー性があるのだと、見抜いているものだけが知っていた。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

狩峰淡輝は感動していた。

 

「砂藤のケーキ美味すぎだろ。あいつケーキ屋でもいけるんじゃないの」

 

砂藤のケーキはちょっと前に行った食事会からたまに振る舞われるようになっていて、Cクラスの恒例になりつつあったのだった。

 

「やっぱヒーローってのは人を笑顔にしてなんぼだよ。あいつはマジでヒーローだわ」

 

安全を守る。腹を満たす。安心を与える。楽しませる。

 

最終的に誰かを笑わせられるものこそがヒーローだと俺は思う。だから壊れながらもユーモアを大事に、食事に命をかけて生き死にしている。

 

この点、砂藤はヒーローに向いているかもしれない。最後の期末試験にはきっと彼が活躍してくれるだろう。

 

そういえば、爆豪と緑谷の対決は無事に終わったようで良かった。あの回は一度もやり直しをしていない。初回そのままの結果である。

 

彼らの心の中まではわからないので、重大な事故がなければそのままにするつもりだった。結果オーライじゃなかろうか。緑谷も爆豪もそれぞれ吹っ切れているように見える。多分成功しただろう。

 

「期末試験までにどうにかなったな」

 

ゲールマンの目も捨てたものじゃないとちょっとだけ評価を持ち直し、そして少し不機嫌になりはしたが砂藤印のケーキで即座にそれは直った。

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

緑谷出久は一つの決心をした。その決意は誰にも知られていない。

 

 




これにてこの章はおしまいです!

感想や評価などいつもありがとうございます。
誤字も多くお手数おかけします。けれど恐れずにこのペースで更新できているのは直してくれているみなさんのおかげです。

次章は一週間後。そこからまた毎日お届けさせていただきますね。
少しばかりお待ちください〜
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