夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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リスタートだ!


期末テスト前編
再出発


入学からすでに3ヶ月が経っている。そう、夏休みを目前に控えた今の季節はズバリ、期末テストの時期である。

 

とはいえすでに「学校っぽい行事キタァ!」と無邪気に喜ぶ生徒はいない。そろそろ生徒たちも気づいているのだ。

 

UAIランドは前回のミャンマー行きの後はアメリカとイギリスに行くのみであり、創設に深く関わった同盟国にのみ訪問。日本との往復が主でありそれ以外の国へは行っていなかった。

 

ヴィラン犯罪の発生率は日本と天と地ほどの差があるが、それでも治安は維持されておりその他の国よりは比較的マシと言える。

 

入学試験の時にあれだけの苦難をぶつけてきた雄英が、このまま安穏?で平穏?な学生生活を送らせるなどあり得るか?

 

「否!絶対に否ですぞ!」

 

「期末テストこえええ!!人生で一番怖えよおい!座学のテストも嫌だけど、それ以上に何がくるかわかんねえ。鉄哲!お前どう思う?」

 

「不安なんて情けないこと、普段なら言わねえけどよ。俺も正直びびってるよ。あれを体験したあとじゃ、なんでも来いやとは言えねえな」

 

「自分もっス!でも次はもっと役に立つっスよ。二人もそうだよな!?」

 

おおー!!と気炎を上げる男子たちの温度は高い。

 

『熱血バカ三連星』として呼び声が高い彼らであっても、あのミャンマーでの体験は心に大きな影響を与えていたようだった。雄英生であれば、いや日本人の若者であれば大抵はあの光景に衝撃を受けるのが当たり前である。

 

「私はなんでもいいのです。淡輝くんが限界まで追い詰められて欲しいなぁ」

 

「おい縁起でもないこと言うのやめろよトガちゃん!あんなのもうオイラはゴメンだぜ!?」

 

「でも、それ。無理じゃないです?」

 

「くっそ!いやオイラだってわかってるよそれくらい!じゃあもういいわ。なんなら同じようになっちまえ!また女体化イベントこい!!こい!!」

 

叫び出した峰田は膝をついて天を仰ぐ。この場は室内で、今日は晴れで、ここはショーシャンク刑務所ではないのだが。

 

「オイラ、あの時はどうかしてたんだ。今思えばやるべきことがいくつもあったのに、バカみてえに自分の貧相な胸揉むだけで終わらしちまったからさ……。あんな失態は二度としてたまるかよ。おいおい、爆豪。何睨んでんだよ。よかったじゃねえかお前胸デカくてさ。それに比べてオイラは……」

 

「来ねえわ!二度と来てたまるか!どこ見てんだコラぶっ殺すぞ!!」

 

加害予告にセクハラ宣告。殺害予告を一瞬で揃えてくるのは、『人でなし四天王』の三人だ。

席が近くなっているので、峰田はそこそこに爆豪へと対応していた。いや、セクハラ中は無敵というだけかもしれない。

 

彼らが想像するようにこのUAIランドは日本に寄った後、新たな目的地へと進んでいる。期待通りにとびきりの危険地帯が待っている。

 

これまでよりもずっと近い場所へと進路を定めており、翌日には到着予定である。

 

「何度見ても、日本を出る時ってなんか寂しい感じがしちゃうよ〜」

 

「hey!ワタシもアメリカを出た時に同じhome sickを感じてマシタ。トオル。どこにいますか?」

 

寂しさを口にした透明少女に共感し、そしてスキンシップを図るために葉隠さんがいそうな場所を角取ポニーが手探りをしている。

 

どうやら見つけたようで、ぎゅっとハグをしているが、側から見ればパントマイムにしか見えない。ちなみに葉隠さんは完全に透明で衣服も見えないが服を着ている。

 

「あの画角に誰か一人でも入ってみろ?オイラはそいつを許さない」

 

キマシタワ!と騒ぎ立てる峰田のことをすでにクラスの誰も相手にしていない。いや、たまに爆豪が突っ込んでくれるか。あいつ結構優しいところあるんだよな。

 

先週はすでに恒例となっている個性伸ばしの地獄が開催されていたが今週はなしだ。3ヶ月が経ってみんな入院することなく日常生活を送れるようになっているので、個性受容体の増加も順調ということだ。

 

「正直個性伸ばしがないの嬉しかったけど、実際ないと不安になるね。狩峰君はいつも通りに見えるけど、そわそわとかは……しないっぽいね?」

 

拳藤さんはちょくちょく話しかけてくれるようになっている。浮いてるやつのフォローという委員長の責務で話しかけているわけでなければ嬉しい。そこまで孤立はしてないと思うけど、正直人の気持ちはわからない。

 

「まぁ結構予想つくし、たまに先の話も聞いちゃうからね」

 

「高校生なのに悟っちゃってさー!冷笑系とかってやつだ!」

 

何の裏表もなく思ったことを言ってくれる芦戸さんには結構救われているが、これはそこそこ恥ずかしい。一歩引いた態度については結構指摘されていたけれど、わざとじゃないからどうにも直せない。

 

「おおう。まぁそうだよなぁ。そう見えるよなぁ」

 

積極的な虚無主義だと自分では思っているが、傍目には冷笑系の痛いやつに見えていても不思議じゃない。いや実際そういうところもあるし。いやでも、苦労はしてるんだけどね!

 

「そういう時に怒ったり反論したりしないから、そう言われるんじゃねーか?でも、お前が料理に熱い男だってことは俺は知ってるからよ!心配すんなって!」

 

砂藤君の株が最近上がり続けている。美味いものを作れるやつは素晴らしい。それだけで尊敬できるぜ。

 

この辺りは積極的に自分に関わってくれようとしてくれる人たちだった。一定の距離を置いているのに詰めてくるのはさすがヒーロー志望だろう。

 

先生たちはすでに自分への教育は手放してくれており理解があって助かる。唯一の例外はミッドナイト。親戚であるからだろうか、かつて険悪だった時期があった反動だろうか。かなり積極的に関わってくれるのだった。

 

結構深いところまで話してはいるが、それでもあなたは青春なさいと言って聞かない。

 

 

いや、流石に青春は無理だって。人格が分裂してようやく日常を謳歌できるほどに安定しているが、それはそれとして日常的に友達を追い詰めて殺したり、殺しかけたりする相手と真っ直ぐな友情など育むことはできないし、恋人なんて論外だ。

 

性欲は相変わらず絶無。だからこそ、実はあの峰田の醜態と痴態は、ちょっと羨ましかったりする。あれこそが俺の失った青春の一部なのかもしれない。

 

別にこれは解決しようとも思わないから、大きな問題でもない。恥ずかしいのともちょっと違う。

 

少しだけ、寂しい感じがするだけだ。

 

さて、自分のどうでもいい悩みは置いておこう。これによって世界がどうこうなりはしない。今はというかこの5年間はずっと喫緊の課題に追われ続けているのだからいくらでもある優先度の高い事柄に注力するべきなのだ。

 

 

 

 

 

期末テストに相応しい場所はすでに選定してあった。表向きはナイトアイ事務所からの報告という体で情報が齎され目的地が決められた。

 

事前の計画などを世界へと告知することもなく最高の武力を備えた国家が移動するというのは、本来であればあり得ないことだが、抗議することのできる実力のある国は軒並みUAIの支援国でもある。災害や人災を予測して即応することを宣言しているため、人道的に無計画な一手を打てるのだ。

 

 

現在UAIは二日前に発表された国へと向かっている途中であり、移動は一日と少しあれば事足りる。

 

 

空き時間にUAI内にあるナイトアイ事務所へと顔を出すことにする。緑谷も一緒に行って先輩たちに紹介したいという考えもあったりするのだ。

 

新生雄英高校は学業に支障がない限り活動を一切制限しない。起業するなり戦争するなりなんでも自由にすればいい。自分が責任を取れる範囲であれば文句はない。

 

「ミリオ先輩、今日はよろしくお願いします」

 

「ああああ!あの!緑谷です!何度か、挨拶だけはさせてもらったかと思うのですが、改めてよろしくお願いします!雄英のBIG3に案内してもらえるなんて感激です!」

 

深々と斜め45度で頭を下げる緑谷は古き良き日本人の規範を示すかのように、ガチガチにかたくなっていた。

歩いているだけで擬音がもうガッシャガッシャと聞こえるんだもんこれ。右手と右足が同時に出ている。本物のナンバ歩きだ!武士かな?

 

「お堅いね!そんなんじゃナイトアイ事務所でやってけないぞ!緑谷くん!」

 

そう言ってはっはっは!と笑うのは、雄英でNo1のヒーローであり、オールマイト除けばプロを含めて最高のヒーローになるのではと言われている男。

 

そう彼こそは!

全ての攻撃を無効化! 無敵のハイリスク"個性"!!正義感 実力…プロ含めもっともNo.1ヒーローに近い男『ルミリオン』だ!!

 

「やめてくれよ淡輝くん。そんなおだててくれたって何も出ないよ?」

 

えへへと鼻の下を掻きながら、そう言って万札を渡してくるのは全力のギャグであるのだが緑谷はその光景にフリーズしてしまった。

世界一の大富豪を金で動かしているという、個人的には爆笑なのだがナーバスな緑谷には高度すぎたか?

 

金額が足りなかったのかなと追加で金を渡そうとするミリオ先輩を止めて。話を再開する。

 

「でも実際、ユーモアは大事だぜ?ナイトアイ事務所に入りたいなら、人を笑わせないといけない。オールマイトモノマネは確かに武器だけど、それって一般人が見ると結構ギョッとするからね?」

 

コクコクと頷きながら分厚いメモを取り出す緑谷はいつも通りのデータキャラだった。

 

「サーナイトアイ。元から露出は少なかったけど、5年前の事件からは完全に表舞台に姿を現さない方針に変更した後が本当にすごい。安楽椅子ヒーローなんて呼ばれてさ。オールマイトだけではどうしても届かない人も助けるなんて、本当に理想のサイドキックだよ!」

 

サーは姿を隠してはいるが、結構情報発信はしているため存在感は一定以上示している。そのどれもが重要な未来の情報とあってはそれを無視することなど誰もできない。

 

そのミステリアスなスタイルから様々な憶測が流れているが、どれも荒唐無稽な陰謀論の域を出ていない。

 

曰く、全てマッチポンプだとか、全ての黒幕はサーだったとか。超高性能なAIがサーを名乗っているだけとか、宇宙人だったとかが王道だ。好き勝手言ってくれるわ。

 

その全てを否定せず、淡々と災害や事故を未然に防ぎ続けている。

 

「サーは悪意ある人災は予知できないけど、他のことならわかるからね。実際問題、大規模な事故や災害の犠牲者はここ数年で1/100以下にまで減ってるらしいし、これってもうヒーローどころの騒ぎじゃないよね」

 

平和の象徴として活動し、その姿を見せるだけで犯罪率を低下させる真なる英雄。オールマイト。

 

未来の悲劇を予知し、それを回避させることのできる英雄。サーナイトアイ。

 

この二人が世界最強で最高のヒーローコンビであるというのは世界の常識である。バディの解消から復活までを描いた作品がハリウッドで映画化企画が進行中だ。全米どころじゃない、彼らの勇姿に全人類が泣くだろう。俺はもう脚本の時点で泣いた。号泣である。

 

ちなみにヴィランは全一君がモチーフだが、さらに黒幕も用意して噛ませにしておいてある。これが作れるというのは平和であるという証拠だ。とはいえUAIの製作委員会でなければ安全に公開までは漕ぎ着けることは不可能だろうが。

 

 

「サーナイトアイ。どんな人なんだろう。一度会ってみたいなぁ……」

 

嘆願でもなくただ願望が溢れただけの呟きであったが、ミリオ先輩は少し寂しそうにそれを聞き入れた。

 

「いつか会えるといいよね!でもその時は俺も会いたいな!」

 

「ええ!?ってことは、先輩も会ったことないですか!?」

 

「そうなんだよね!そしてサーが今どこにいるのかは、誰も知らないんだ。オールマイトすら知らないってんだから徹底してるよ。それでも人を救うために日々活動していろんなメッセージを送ってくれるんだぜ!オンラインでの面接になると思うけど、気張らず行こう!」

 

先輩はワンフォーオールについても、緑谷が継承していることも知らない。継承者として挨拶がしたいのだろうが、それはきっと叶わないだろう。

 

サーナイトアイの信念は絶対だ。彼ならば継承者だから一目見たいなどという感傷に流されるわけがない。この体制をリスクに晒すことは絶対にしないと確信できる。

 

ピコン!と通知音がなると、ミリオ先輩が笑顔になった。

 

「噂のサーから連絡だ!いつもどっかで聴かれてるんじゃないかって思うほどタイミングがいいんだけど、今日も変わらないみたいだね!」

 

ナイトアイからメール。そこには重要だったり重要じゃなかったりする未来の情報が気軽に書いてある。

 

 

 

『ミリオ。お前は今日事務所へ行くまでに、転んだ女児を助けることになる。

予定より15分早めに移動を開始しろ。彼女の名前はエミリー・デイヴィン。お腹を空かせているため軽食を与えて自動タクシーまで送り届けるんだ。そしてバブルガールがご機嫌斜めだ。軽食と一緒にスムージー専門店で限定品を買ってくることを勧めるぞ』

 

 

ふんふんと読んだあと、ミリオ先輩はこちらに助けてと叫んだ。

 

「どうしよう!スムージーってどこで買えばいいんだろうか!俺ってそういうの全く知らないんだよね!」

 

「二番街のチャムチャムってとこが人気らしいですよ。バブルガールも好きなはずですし、横に子供向けもいけそうなサンドイッチが売ってるパン屋さんもありますよ」

 

「いつも通り、仕事ができるね淡輝くん!助かるよ!あ、そういえばまだヒーロー名を決めてないって?」

 

「ええ、ちょっと迷ってまして。そのうち決めますよ。多分無難なやつにします」

 

色々言いたそうだが、時計が時間を知らせてくる。メールに書いてあった時間だ。

 

「じゃあ、一旦俺はここまでで!あとで事務所で会おう!まったね〜〜〜〜!!」

 

そう言って、先輩は地面に落下した。

 

あれみたいだ。あの昔のバラエティ。細かすぎて伝わらないモノマネのやつ。ちなみに見てみたが、あまりに環境と時代が違いすぎてマジでわからなくて面白かった。あれは掘り出し物だったぜ。

 

「いつみてもすごい個性だなぁ。あれで移動するってどうなっているんだろう。複数の個性?一つの応用?移動と透過にはどんな関係が……」

 

ブツブツと始まった緑谷を引き摺りながら、移動を開始する。これに付き合ってると日が暮れる。実際やってみたからわかる。割と楽しかったけど。

 

 

訪問をすれば何も問題は起きなかった。ナイトアイ事務所の先輩方は優しくて、緑谷はすぐに打ち解けることができたのだった。

 

ナイトアイ本人からは二、三個の質問があるだけでアルバイトを許可されたのだから彼にとっては拍子抜けだっただろう。

 

本人が来れていたらと思うが、こればっかりは仕方ない。そういえば麗日さんはUAIの宇宙局へと行っているはずだった。あちらもどうなるのか楽しみだね。

 

 

そうこうしていると、目的地が見えたようだった。

 

曇りがちな天候は心境の不安を投影しやすい、すでに区分としてここは日本海ではないが少し感じる荒々しさと冷たさはどこか近いものがある。

 

 

UAIランドおよび空母護衛群は、かつて『朝鮮民主主義人民共和国』と呼ばれた国。

 

北朝鮮へと接近を果たす。




しばらくまた毎日投稿です。やったるで!

淡輝のヒーロー名は何になるでしょうね
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