現在の北朝鮮の指導者、天雷将軍を名乗る。金 霆閣(キム・ジョンガク)は事前の宣言とは裏腹に一切の戦闘行為も、威嚇すらしなかった。これは異常と言える対応である。
面子を何より重んじるはずの北朝鮮指導部においてこの対応は不気味にすぎるが、戦闘がないとなればそれは歓迎すべきことだろう。
穏やかな波を越えて視線を向けると、灰色がかった山並みが海岸線に迫り出していた。まばらな緑に覆われた斜面は途中で途切れ、むき出しの岩肌が荒々しく海へと落ち込んでいる。 砂浜は狭く、ところどころに小さな漁村らしき集落が点在しているが、その家々の背は低い。どこか影を落としたように静まり返っていた。
歴史の教科書でしか見たことのないボロ屋。本当に電気が通っているのかどうかも怪しい場所が隣国にあるというのがどうにも現実味を失わせている。
遠目に見えるのは、風にさらされる古い防波堤と、いつ作られたのかもわからない錆びついた漁船。 その背後には監視のための塔が小さく突き出ており、平和に慣れきった日本生まれに200年以上の戦争の緊張感を滲ませている。
そんな風景を、UAIの展望デッキから眺めるのは緑谷出久と狩峰淡輝の二人である。
透明な強化ガラスで囲まれた展望デッキは、宙に浮かぶように海上へ突き出していた。床下には緩やかに流れる青い光のラインが走り、利用者が歩くたびに足元で淡い光が反応して波紋のように広がる。
高天井は白く滑らかな曲面で覆われ、外壁の一部はスクリーン化されており、訪れた者は指先で触れるだけで航路や気象の情報を呼び出せる。
静かな音楽と人工的な微風が流れ、まるで厳しい外の現実を忘れさせるかのように整えられていた。普段はそう感じないが、この光景を見ているとそう思ってしまうのだ。
「近いけど、日本から一番遠い場所だって。誰かが言ってた……」
入学試験前に同じ場所で、同じ姿勢で語ってはいるが目の前に広がる風景も感情も全く違う。それは当たり前だろう。
「ああ、そうだな。でも、今はほらこんなに近いよ。手を伸ばせばすぐに届くところまで来てる。日本からじゃ遠いけど、日本を出ればすぐなんじゃないかって思うね」
「きっと、苦しんでいる人がいっぱいいる。そうだよね?」
「それは間違いない。人の苦しみなんて比較するものじゃないけれど、飢餓状態の人間の数はミャンマーの比じゃないから、辛い状況を見ることになるのだけは決まってる」
ミャンマーはまだ、絶対的な女王のもとに統治が安定しており植生も豊かであった。災害とその後の悪政、そして疫病によって傷ついていたが、安定していた時期も長くその蓄えを使って乗り切るということはできる程度ではあった。
だがしかし、北朝鮮の飢餓状態の歴史はあまりに古い。250年以上も貧困状態を統治者が意図的に作り出しているこの国は、個人が力を持った個性社会になっても変わらなかった。むしろかつての金王朝の方がマシだったという側面が多い。権力の奪い合い、内戦というのは人々を大きく傷つける。
強い個性を持ったものがその地域の実権を握るのはよく見られる光景だが、北朝鮮ほど国全体が飢餓に苦しんでいる国はアジアに存在しない。
この国は、あまりにも痩せ過ぎているのだ。
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歓迎されていないと予想していたが、どうやら国内向けには強硬な姿勢を見せていなかったようである。国民たちが小さな旗を振って上陸するUAIの人々に満面の笑みと歓声をあげてくれている。
それはつまり、国際的な報道に国民が完全に切り離されていることを意味している。それも相まってひどく表面的な、それでも必死で切実な歓迎の声を聞いていると生徒たちは少なからず動揺をするのだった。
この豪華な歓迎の裏側で何が行われているのか。高精細な衛星からの動画によってそれは明らかになっている。
こちらが通るルート。宿泊を許された場所はごく一部であってそこに北朝鮮のすべての光を集めているみたい。光を集めるほどに闇は色濃く、ひび割れた溝の底。その落ち込んだところへと澱のように溜まっていく。
実際問題、電気は宿泊地の周辺に優先して配分されておりその分割りを食っている近郊の街はいくつか停電しているらしい。
歓迎区画から離れた場所。灰色のビル群に囲まれた広場では、人々が静かに列をなしていた。被災後のミャンマーのような混沌はここにはなかった。誰も声を荒らげることはなく、皆が俯いてゆっくりと進んでいく。
痩せ細った顔の子どもたちは、母親の手にしがみつきながら空の鍋を抱え、自分の順番を待っている。まだ食べられるものがあるという小さな安堵があるのだろう。彼らには規律があり、そこからはみ出るものは一人としていない。
雄英生たちはそれらの姿を今は見ていない。けれども、ドローンや衛生からの映像はあとでしっかりと共有されるだろう。声援をかけてくれた少年少女たちのうち、何かに失敗した子たちが後に叱責される光景もしっかりと撮れている。
彼らが笑顔の裏でどれほどの恐怖と向き合わされているのか知った時、ヒーローの卵たちは一体何を思うだろうか。
この北朝鮮では真の英雄性が試されることになるだろう。
さてここからしばらくは何事もないことは確定しているため、一度眠ろう。
日本を出てからどんな攻撃があるかと警戒していた。接舷から上陸して活動するまで限界ギリギリの二日目まで起きていたのだった。これ以上起きていると自分は何をするかわかったものじゃない。
昨日で刻む必要もないと慎重な検証の上で判断し。ここを起点にしようと思う。
ヒーロー科一年生45名の雄英生徒たちは2、3年生と違いまずは北朝鮮の歓待を受ける役回りである。実施に救援へと向かうのは少し先になる予定だ。
ベッドへと入り。すでに幾度も経験した北朝鮮での苦難を思い描く。次はうまくやれるといいななんて思いながら、眠りに入った。
はい。当然ながら眠れない。
16にもなって母と姉に眠るのを手伝ってもらうのってどうなんだよと思いつつ、自身の病気として家族は受け入れてくれている。
母に眠らせてもらい、カーテン越しに並べたベッドで姉と寝ることで初めて安眠できるのだった。
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翌朝、案内されたのは北朝鮮における最上のホテル施設なのだろうがそのサービスは贅沢に慣れ過ぎた日本人の若者たちを苦笑いさせる結果になっている。
「出された飯に文句言うなんて最低だけどさ、ご飯が美味しくねぇよ……。白い米が、なんか別物みたいだ……」
「なんか、こう何?これ何の味なんだろう。お国柄か?単純に好みの違いなのか?」
「ウチは全然この卵焼きとかは美味しいと思うけど、でもあれだね。出汁とか、あんまり使ってないのかな」
ミャンマーではUAIの用意したお弁当を食べていたから、現地の食文化と触れ合うのは初めてとなる。
「でも、このバイキングだってこの国じゃあ極一部の人たちしか、食べれない超豪勢な食事なんだもんね。ありがたく頂かないとだ!」
葉隠さんの無邪気な一声で、ヒーロー科の目に闘志が灯った。このバイキングを完食するというそんな使命感を帯びてみんながガツガツと食い始めた。
うおおお!!おかわり!と男子たちは立ち上がり、女子は別腹を発動とスイーツをガッツリ取っていく。
「砂藤ちゃんすごいわ。そんなにケーキを食べれるものなのね」
「ああ、まだ大丈夫だけどキッツイぜ……でも、個性の限界訓練よりはだいぶマシだからさ」
いや、これはおもてなしではなく多分国の豊かさを誇示する示威行為なのだが、彼らはまだ明る過ぎて人の悪い側面を想像できない。ほら、チラリとこちらを見た給仕のお姉さんが顔を引き攣らせているじゃないか。ちょっと面白いなこれは。
悪意からの親切と。善意からの略奪。皮肉な二つのぶつかり合いがここにはあった。ああ、やはりこの世界はすれ違いと争いに満ちている。無常を感じながらも北朝鮮料理を味わう。お、この冷麺はいける。普通に美味いわ。
北朝鮮にだって美味しいものはある。闇ばかりではない。そこで笑う人々はいるし、家族を思いやる人も当たり前に存在している。極限の環境がそれを忘れさせることはあるが、それはまた別の問題だ。
そして、その一部の光を意図的に独占するものたちには相応のリスクがあって然るべきだろう。
善因善果、悪因悪果。公正な因果応報なんてものは宇宙の法則のどこにも存在しない。
だけれど、人間にはそれを願い、実現に向かう意思がある。そしてUAIには能力もあるのだ。世界を平和にするというあり得ない願いを本気にしている化け物。UAIという怪物に目をつけられたのは不幸という他ないが、それもまた因果と言える。
熾烈なフードファイトを制した若者たちは笑顔で達成感に感極まって円陣を組んでる奴らもいる。体育会系のノリは結構彼らにハマるらしいがちょっと距離を置きたくなるぜ。
ともあれ、そんな熱い若人のノリについていけないものたちもいる。
「爆豪は食わないの?汗かくなら水分と塩分大事じゃない?」
「話しかけんな。コソコソしたボンボンが仲良しヅラしてんじゃねえ。嫌がらせしに来たわけじゃねえんだ。こんな飯食えるかよ」
「わお。オノマトペ使いまくりのいいリズムだな。でも、ちゃんと気づいてるやつが居てよかったよ。外国でのマナーとかみんな知らないみたいだしさ」
こちらが気にしていないと見ると、大きな舌打ちを一発かまして爆豪はその場を後にしようとする。しかし、その動きが少し止まった。
俺の方を見もしないが、視線は背中からでも感じる。
「おい。ここでは何が起きやがる?お前、多少は知ってんだろうが」
「言わない。悪いけど、これは諦めてくれ」
「っんだ!てめえ!ふざけてんのか?」
知らないでも、言えないでもなく、言わない。その言葉に怒りを感じるのは正当なものだ。
「ごめんごめん。怒らせるような言い方して悪かった。でも理由はある。言えば今後助かる人が減る可能性がある。だから、言わない。その理由もまた言わない。幼馴染にも言わなかったんだぜ。諦めてくれよ」
これだけ複雑に話しても、爆豪はすぐに理解する。彼は性格が捻くれているだけで頭が良いのだ。
「なら役立たずは話しかけんな。そこらへんで七色に光ってろ。ただでさえ不味い飯が、余計に不味くなりやがる」
「これは期末テストでもあるからね。お互いAクラスに入れるよう頑張ろうぜ」
視線だけで爆破をしようとしているのかと思うほどの剣幕で睨まれて退散する。やば、顔怖過ぎたろこいつ。写真撮ってあとで緑谷に見せたいが、我慢した。
後から思えば、非常に平和だったこの朝食は最後の笑い合える機会だったと言えるだろう。
調べたことと、実際に見るのでは違うという当たり前のことを。すでに学んだはずのことを再度認識させられることになる。
百聞は一見にしかず。この残酷さたるや、恐ろしいものなのだ。
「午後の最後はお墓?に行くんだってよ。古墳みたいな感じじゃないらしいけど、楽しみだな!」
無邪気な観光気分も抜けていないが、そこで何を見るのかを彼らはまだ、知らない。
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おはようございます(小声)
前世紀バラエティの鉄板であるこの寝起きドッキリの囁き声モノマネは、もはや今の若者に通用しなくなって久しい。
くっそ!なんでみんな見てないんだ!昔のバラエティは面白いのに!
人より暇な時間が10年以上なければここまで色々なものを見るのは不可能だとはわかってる。それにお勧めしてくれるような人がいないと膨大すぎる過去のコンテンツは見切れない。そもそも、みんな俺と違って忙しいから仕方ない。150年以上前のテレビ番組まで見ているのは本当に一部のマニアくらいだ。
現実逃避をやめて現状を整理する。
今の自分の状態はオールマイトの右腕である。比喩ではない。オールマイト専用AC『オールライト』の光学センサー及びレーザーなどの情報によってリアルタイムの彼の周囲をモニターしているのだった。当然、本人どころかオペレーターチームが見守っている中でである。俺はオールマイトが大好きだが、ストーカーではない。
体自体は北朝鮮観光ツアーに従っているが、別に興味ないね。授業中に隠れて別のことをする学生みたいに、自分はオールマイトの状況を細かく観察している。
招かれた宮殿の内部は、まるで時間が凍りついたように静まり返っていた。高い天井は荘厳な光に照らされ、磨き上げられた大理石の床が冷たく光を返す。壁には赤と金を基調とした装飾が施され、威厳と神聖さを強調するように大きな肖像画やモザイクが並んでいる。
空気は張り詰め、わずかな足音さえも過剰に響く。
広大なホールの中央には赤いカーペットが敷かれ、その先にガラス張りの棺が安置されていた。中にはかつての最高指導者の遺体が保存されていたはずだが、そこに今あるのは現将軍の水晶像である。
ここにいるのは二人きりだ。常であれば書記や警護など自然と賑やかになるはずであるが、男たちは二人きりで水晶像の前まで進んでいく。
回廊には長い列が続き、壁に設けられた展示室には指導者の遺品や勲章、豪奢な贈答品が整然と並んでいる。どの品も過剰なまでに誇張された栄光を物語り、訪れる者に畏怖と忠誠を強いるようだった。
宮殿には今、二人の男が並んで歩いている。
数々の勲章を飾り立て、それを当然のごとく胸を張るのは長身の男性だ。軍服越しにもよく鍛えられているその姿を見て、侮ることのできるものはいないだろう。
全身から好戦的な雰囲気を漂わせ、目が合えば襲われると錯覚するほどの眼光を光らせて威嚇していた。その横顔には細かい樹形図のような火傷跡があり、見るものが見ればそれは感電によるものだと一目でわかるだろう。
木の根のようなその模様を歪ませて、男は笑った。笑う彼の体格は大きく、そして鍛え上げられた筋肉による厚みによってより頑健な印象を与えるはずだ。けれども今はそうは見えない。
なぜなら、相対する男が大き過ぎる。
それはただの人と呼ぶには大きすぎた。
大きく分厚く重くそして大雑把すぎた。それはまさに
やっぱオールマイトはかっけえぜ!きっとドラゴンでも余裕でころせるが、彼はそんなことはしない。ドラゴンにすら当て身で済まして、ころがして終わりだろう。
オールマイトがいるこの場所は、厳密には行政施設ではなく霊廟である。
安置されていた過去の指導者の遺体はいくつかの革命ののちに打ち捨てられた。その後遺骨が再びここに葬られて利用され、そしてまた捨てられるということを繰り返していた場所である。
権力者がコロコロと変わっていく中で冒涜が繰り返されていったのがこの場所だ。
「朝鮮人民帝国へようこそ。歓迎するぞオールマイト。我が国を満喫してくれているかな?」
「歓迎に感謝するよ。将軍。よければ今後の予定も決めることができれば最高さ。それは期待してもいいのかな?」
オールマイトはすでに先を見据えている。目の前の人物も重要だが何よりもその先の人々を救うことだけが望みであるのだ。その強迫観念の如き狂気は見ているものを圧倒するが、ここにいるのは血で血を洗う闘争を勝ち抜いたこの国の覇者である。
その狂気を真正面から受け止めて彼は笑った。
「噂通り。やはり政治家とは言い難いようだ。人を助ける。それだけのために全てを投げ打つその姿は、為政者としては不適格どころか害悪ですらある。それで良いと思っているのはやはりその暴力を振るうことができるからだろうに。歪だなお前は……。いやお前たちは……」
その目が細まり、相手を値踏みする。
緊張感は首脳同士の対話というより、戦士同士の決闘前という雰囲気である。
「私の能力不足はどうでもいいんだ。私の質問が聞こえたのなら答えてほしい。この国の栄養失調の人たち。せめて子供達だけでも救いたい。そのための協力を改めて要請する。天雷将軍の命で協力してくれれば五日もかからずに終えることができる試算もある。さぁ、どうする?」
はっという笑い声が返され、挑発を滲ませる返答がくる。
「聞く耳持たず、傲慢で頑固。そして何よりあまりに個として強すぎる。交渉相手としては最悪だぞ。しかし私はお前の強さになど屈しない。つまり求めるものを差し出す理由がない。交渉というのなら何か持ってきているのだろう。さっさとそれをテーブルに出せ。不慣れな小細工などやめて、筋肉バカらしく振る舞ったらどうだ?」
嘲るように手札を見透かす将軍は確信を得ているようだった。そしてそれを見抜かれていることくらいオールマイトは織り込み済みである。
「インフラの整備と、土壌再生と改良の研究。それらを提供しようじゃないか。詳しくは資料を送るのでそちらを参照して欲しいね。意図はまぁ理解できないでもないが、やりすぎだよ。とても看過できない。彼らは、あまりに飢えている」
挑発には一切応じない。そしてもし決裂したとしてもやりようはある。傷つく人は増えるがより助けを求める人に手が届くならばそれをする覚悟がある。
以前までの自分なら積極的に北朝鮮軍とことを構えることなど考えはしなかったが、今はより切迫している。
なぜなら、このまま何もしなければ。惨劇が起きるからだ。彼らが短慮を起こすからというわけじゃない。それはするかもしれないが、わからない。
確実なのは一つだけ。時間をかければ、あの『狩人』が現れて手当たり次第に皆殺しにしてくるとすでに予告されている。
ならば自分が殴ってでも彼らを止めて、どうにかしなくては。オールマイトはそう固く決意していた。いや、させられていたという方が適切か。
味方から、敵を人質に取られているという異常事態に申し訳ない思いもあるが、こうでもしないとオールマイトはここまで強硬な態度は取れないのだ。
「他人の、しかも敵国の食糧事情を改善しにわざわざ来るとは、やはり実際に見ても信じられんが、そうなのだろうな。そんな態度はかけらも理解できないが、いいだろう。もらえるならば、それはいただく。そして追加の要求だ。金を払え。たっぷりあるだろう?あの世界一の成金にお願いをしてこい。あとは、そうだな……」
ああ、どうやらこの男もあのミャンマーの女王と同じらしい。きっとオールフォーワンに何かしらを吹き込まれているのだろう。ここでもまた、戦いを求めているようだった。良い機会だ。望むところである。あとそれはそれとして、オールマイトを馬鹿にする奴は全員殺す。こいつもリストに追加した。
どんな無茶な要求が飛んでくるのか、想像もできない。そしてそれはきっと決裂を決定付けるものであるだろう。こちらから開戦したという国際的な評価を得られればそれで良いのだきっと。
「日本にはあるんだろう。誠心誠意、心からのお願いをするときにする姿勢が。どうだ、ちょうど英雄に憧れる学生たちがここに見学に来る頃合いだ。先達が率先して、その勇姿を見せるべきとは思わんか?」
その意表をつく要求に、オールマイトは思わず動揺した。なぜならば。その要求は想像もしないほど、
こんな頭を下げて人を救えるのなら、何を迷うことがあろうか。
即断し笑顔で受け入れようとした時に、頼れるアドバイザーたちの声を思い出す。
「良いですか?相手の要求は色々想定できますが、こちらに都合の良い事を言ってきてもすぐに受け入れるのはやめてください。相手はいくらでも追加で要求をしてくるはずですから」
「私もそう思います。オールマイト。相手に勝ったと思わせなければ、この交渉は終われない。慣れないとは思いますが、がんばってくださいね」
そうやってトランプゲームで私をボコりながら狩峰少年や塚内(妹)さんたちが助言をくれたのは昨日の話だ。
本当に心理戦は弱かったなぁ。ブラフとか搦手は昔から苦手なんだ。頭脳チームああ、グラントリノ師匠の地獄の特訓を思い出す!あれだけしごかれても本質の部分は変わらなかった。
だからこそ、オールマイトは言い訳もせずにただ黙す。熟考して大いに迷い、決断の言葉に重みを増していく。
そしてこの時に考えることまでをも、彼は指示してくれていた。
「あなたにとっての一番の悩み。『狩人』とはこの国できっと会うことになる。その時にどうするか、どうしたいのか。その辺りを考え込むと良いでしょう。本気で考えこまないと、すぐにバレますよ」
助言の通りに、狩人について考える。彼の今後や今まさに積み上がっているだろう孤独な戦いについて想いを馳せる。
だめだ。彼を一人にしてはいけない。絶対に救うと決めている。だからこそ、ここは切り抜けないといけない。
「わかった。そう、しようじゃないか。私に、人を助けさせてくれ」
それを見るのは淡輝にとって辛かった。
万感の思いが籠ったその言葉は、聞くものを震えさせるほどの迫力がこめられている。懇願がなぜか脅迫に聞こえるというのは将軍にとって空前絶後の体験だろう。
言葉一つでここまで人を圧倒する怪物が、無礼に命令するだけで首を垂れるという事実に思わず笑みが溢れる将軍。めっちゃ嬉しそう。もうこいつは殺す。特にいらない個性だし絶対にぶち殺す。
「直前で撤回してくれてもいいぞ。その情けない話を世界中に流してやる事もできるからな」
将軍は上機嫌であり交渉はまとまった。UAIは救助へと人員を動かす準備を始めた。
英雄が頭を下げれば、GOサインが出ると信じて。
「さぁ、世界最強によるDOGEZAショーを始めようか?」
屈辱の先の命を優先して、多くの人が動き始める。