夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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夜を渡るものたち

オールマイトは内心で冷や汗をかいていた。複数の個性を持った達人というだけでも厄介なのだが、彼らはそれに加えて個性を宿した武器を使っている。

 

また彼らは目を一様に覆っており、レーザー対策も抜かりない。先ほどこちらの支給品と衝突した棺のような箱からは、予備の武器が出てきているようだった。

 

鷹の戦士もどうにか立ち上がるのは回復系の個性があるのだろう。そして新たな盾を装備する。

芯にダメージは蓄積されているようで、その動きは鈍いがそれでも獲物を狙う猛禽の目はこちらを見ている。

 

苦悶の表情の単眼の顔面。そうとしか言いようのない盾だった。内部で炎を溜め込んでいるようで、口腔から熱と光が漏れ出している。あれはきっと炎を吐くだろうな。なんて手数だよ全く。ホーリーシットだ。

 

 

オールフォーワンと戦うとこうなってしまう。どうしても後手に回らざるを得ないのだ。

 

けれど、今回は人質を取られていない。いや取られていたはずなのにそれは不発に終わっただけか。

 

「お互いに欠点をどうにかしようとしているらしいね。歳を取っても成長しようとする姿勢は良いが、やってることはやはり許せない」

 

何度か邪魔が入ったが、その度に思い出すのはこの国で飢えに苦しむ人たちだった。そして、彼らを虐げあまつさえ自分の囮として無差別に巻き込んで攻撃するなどという蛮行を決して許してはいけない。

 

そして戦闘が再開した。

 

「そういえば、その口笛は合図だろう?」

 

自分が動くたびに鳴る短剣女の口笛は、音程や長さで自分の行動を仲間に伝えているらしい。時折彼らは不可能と思えるほどの速度でこちらの攻撃をいなしていたり、カウンターを合わせていたりしたのは彼女に仕掛けがありそうだ。

 

予知系の個性は非常に珍しいが、それでも前例がなくもない。現在のナイトアイに比べればなんでも大したことないと語られることもあるがそれは違う。

 

1秒先でも知れるのは、こと戦闘においてあまりに大きなアドバンテージだ。そして相手がその系統の個性であるかどうかはわからない。

 

だけれどね。これも予測できるかな? 私は出来ない!

 

再び右の大ぶり右の拳の交換が再現される。壮絶な衝撃音の後、次に膝をついたのは大男の方であった。オールマイトの全身は装甲に覆われており、単純に硬さと重さが増しているが、相手も個性を使っている。ダメージは無効化されるはずなのだが。

 

「おいおい。そりゃあ、最強の漢としてどうなんだ?」

 

「言っただろう。君と殴り合うのは仕事じゃないんだ。でも個人的には申し訳ないと思っているよ」

 

拳が叩き込まれると同時に起こったことが二つある。杭が打ち込まれたのだ。

 

それも二つだ。

 

まず一つはオールマイトの足。エルクレスを纏ったその足の踵と爪先にはそれぞれアンカーがついていた。大地に根を張る大樹のように、地面と自分を接続し一切の衝撃を逃さない。

 

母なる大地に腰を深く据えた一撃というのはオールマイトの全盛期に匹敵するほどの威力をもたらした。

 

それでも倒れず、後ろに下がりもせずに殴り抜いた大男は流石であったが、その一撃が終わった直後に瀕死の状態で膝をつく。

 

「どうやら、殴る瞬間だけの耐久力とみた。決して倒れないが、ダメージはゼロじゃない。そしてその後にもらったダメージは通常通りに受け取る。そうだろう」

 

そして二つ目の杭は換装された右腕から打撃と同時に出ていたものだった。ガシャコンという音と共に薬莢が排出されて次弾が込められる。

 

『毒物と攻撃型ナノマシンの投入。再生系個性による回復の阻害を62%程度確認できました。彼の戦線離脱は2分後の想定となります』

 

口笛が途切れた。

 

「そしてどうやら、君は未来を見るんじゃなくて私の思考を読んでいたらしいね。うら若き乙女が、おじさんの心なんて覗くものじゃないよ」

 

相手はこれを予想できない。なぜならオールマイト自身、何が起こるのかは知らないから。エルクレスとしてサポートするマリアは事前の打ち合わせや示し合わせもなしに即興で有利を作っていく。

 

知らないのだから、心を読まれても問題ない。

 

「次は、誰だ?」

 

顔は隠れていても、その声と気迫は変わらない。

襲撃者たちは自らが襲う立場になく、ここにあるのが平等な闘争であるということを叩きつけられた。そしてそれすらも勘違いであるとすぐにわかる。

 

この英雄は、あまりに強かった。

 

光り輝く彼はまるで夜に馴染まない。どんな暗闇や絶望においても燦然と輝く、白夜の王とでも呼べるような風格を持っている。

 

それでも彼らは怯まない。また連携を発揮しながら、オールマイトへと果敢に挑んでいく。人形の少女が大男に近づいて何やら集中していると大男の傷が塞がった。

 

それでも消耗は二人とも激しいらしく、その動きからは当初の精細さは失われている。

 

『情報を更新しました。付近の後継者候補は目の前にいる4名で全員です。UAIへ二名。狩人へと2名が向かっています。それぞれ戦闘が開始されたようです。解毒も完了しました。時間稼ぎは十分です』

 

互いに手負い。隠していた手札は切って、応急処置も終わっている。ならあとは戦い抜くだけだ。

 

夜を渡る戦士たちと、光を放つ英雄の戦いはまだ続く。

 

 

 

 

オールフォーワンはそれを見ている。

 

見ると言っても、その人物には目がなかった。痛々しい傷跡に覆われた頭部は上半分に無事なところは見当たらない。繋がれた機器によって脳に直接投影される技術は他国から科学者ごと奪ってきたものだった。

 

「おいおいおい。それは君のキャラじゃないだろ。そんな風に、まともに成長するなんておかしいぜ」

 

オールマイトが道具に頼り始めた。これは彼を知る上で相当の衝撃である。仲間を頼ることを覚えて、あまりに広い範囲の人命救助を自ら動かずともできるようにしている。

 

 

さて、それは厄介だろうか。

 

ああ、そうだろうとも。

 

 

ミャンマーでの状況も確認した。人質を取られた状況を機械で打開し、今は読心や超再生を外部の装備に頼って解決しようとしている。あの融通の効かなかった究極の脳筋が搦め手まで使うとなれば予想がつかない。

 

素直に認めよう。厄介であると。

 

 

 

 

 

しかし、()()()()()()()

 

常識の範囲内での工夫など準備と手数で押し潰せる。対応する個性を出せば良いのだ。

 

恐ろしいのは理屈を超えたあの力だ。どう考えても勝てるはずだったのに負けた原因。あの不可解な状況と意味不明な奴の力。この僕が恐怖したのは得体の知れないあの理不尽である。

 

彼を最も長く見続けてきた因縁の相手は、その映像をリアルタイムで見ながら拍手を送った。

 

「どうやら本当に良い仲間に恵まれたらしいね。いや、良い弟子かな? でも、そうなった君は怖くない。流石に歳みたいだ」

 

どうやらもうワンフォーオールは彼の中にはないらしい。

 

それでも関係なく。死柄木を受け継ぐ可能性のあった戦士たちが倒れていく。この夜を渡り切ることができれば可能性を感じたが、あそこまで個性を与えて相手が弱っているのに勝てないのなら、それもまた仕方ない。

 

激戦をニヤニヤと見ていると最後の大楯が砕かれて、彼らは英雄の拳に沈んだ。

 

「はっは。無理してるなぁオールマイト。思ったより老い先短いんじゃないか?」

 

5年で掌握したこの国の動員できる遠距離攻撃を全て使って防がれた。そして集めた精鋭の個性たちを戦闘能力に秀でたものたちに与えて訓練し、そして負けた。

UAIに殺到している傭兵や北朝鮮の軍。そして世界から集めたヴィランたちも負けるだろう。

 

だから、なんだと言うのだろう?

 

「そろそろ温まったかな?」

 

魔王は態度を崩さず、笑い続けていた。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

激闘の余波で、平壌の一部は荒れ放題になっている。

とはいえそこに集中した戦力と本来あった破壊力を鑑みれば、これはあまりに被害が少ないと言わざるを得ない。

 

最初の衛兵を除けば、そこで死んでしまったものがいないのだから。

彼のことを思いつつ、倒れ伏す夜渡りたちに声をかけるのは立ち続けている人間の特権だ。

 

 

「なぜ奴の味方をする?戦えばわかる。君たちはまともだ。彼はいささか戦いが好きなようだが、それでも人殺しの目はしていない!」

 

「ああ、無頼漢は変人だな。あれは特に弱みなど握られていないのにここにいる。器とやらにも悪にも興味はないらしい。ああ、くそ。体が動かない。なんだ、これは?」

 

ひび割れた人形の体を軋ませて、どうにか顔を上げ手を動かすがそれが限界だった。

 

「君たちはそれで良いのか?最後はやつに奪われるか塗り潰されるだけだぞ?」

 

「バカが。良いわけがないだろう。何を言っている。我々は誰一人としてあいつの言いなりになるつもりなどない。しかしアレはあまりに強く、そして我らの大切なものを傷つけ、一部をその手中に収めている」

 

それは奪われたものの目であり、そこにいるのは復讐者だった

 

「だからこそ奴が器を求めてこちらに入ってきた時が最大の好機。あいつを喰らってこちらが奪う。それが私たちの覚悟だ」

 

彼らは何も諦めておらず、戦い続けることを全身全霊で示し続けている。誰一人としてすでに立てないが

 

「なにも知らないのはあの愚かな崩壊者くらいじゃないのか。あの腑抜けはとっとと死んだだろうがな」

 

オールマイトは油断せずに情報を引き出そうと工夫を凝らす。

 

「お嬢さん。お名前は?」

 

「名前など、人の体と一緒に捨てたさ。復讐者とでも呼べばいい。死柄木などとは呼んでくれるなよ。反吐がでる」

 

「まだ戦う気かい。君の雷は強いが、それでも私は倒せない。君はサポート役だろう?」

 

「ああ、その通りだ。私では火力不足。他の奴らは息絶え絶え。死んだらできることもあるが、誰一人瀕死だけれど死んでいない。なら、どうしようか?」

 

その人形が凄惨に笑った。口角など上がるはずもないのに笑ったとわかってしまった。

 

オールマイトは再び不意を突かれる。ついさっき同じ失敗をしたばかりであるのに、

 

周囲で倒れていた鷹の戦士が自刃する。

無頼漢は持っていたナイフを自らに突き立てて心臓を抉った。

目隠しの女は短剣を右目に突き入れて回す。

 

 

ああああああああ!

 

 

両手で頭を抱えた人形の復讐者が慟哭するように声を張りあげる。

 

そして迸るのは白くて黒い炎。それは周囲から熱を奪う霊炎だった。その炎の衝撃に炙られた襲撃者たちは同時に死に絶え、そして蘇る。

 

 

冷たい炎をその身に宿し、不死の行進が始まった。

 

 

「これで最後だ!やり合おうぜ。兄弟!」

 

特大の斧を叩きつけられ、そしてその威力にエルクレスが一歩下がった。

屍人が動きそしてダメージを無視して戦い始める。彼らはもう死んでいる。これは一時的に動かしているだけに過ぎないのだろう。

 

それでも彼らは全盛で、全てのリミットが外れている。

 

続く連撃。あの渾身の一撃よりも重いアッパーを両手を使ってガードするも、その衝撃は殺しきれない。

 

それだけならまだ耐えられたかもしれないが、なぜかその衝撃は二度起きた。目隠しの短剣女から時計の音が聞こえた気がした。その再演された衝撃によって耐久値の限界は超えられてしまった。間髪入れずの二連撃にエルクレスが軋み、そして右手の肘関節のパーツが動かなくなる。

 

周囲には巨大な髑髏が現れて、格闘する二人を纏めて潰そうとその腕を振り下ろしてくる。

 

『エスケープ』

 

エルクレスマリアの声がした時に、オールマイトは即興で対応する。

 

閃光と煙がその装甲から瞬間的に溢れ出し視界を塞ぐ。彼らは様々な方法で対象を認識しているようだが、それならそのセンサーに合わせた目潰しをばら撒けば良い。

 

各種電磁波を妨害する5種の追加ギミックが発動し、敵は動きを一度止めた。

 

そして、脱出という声とは裏腹に真っ直ぐ。とオールマイトは女へと向かい、突進する。

 

ニヤリと笑った女は、結晶を溜め込んで迎え撃つ。

 

こちらはもう死んでいるのだ。跡形もなく吹き飛ばされようと相打ちならそれで構わない。そんな不退転の覚悟から杖は光り、限界を超えた出力を実現する。

 

砕け散る結晶がエルクレスへと直撃し、そしてその剛腕が女を捉えた。女は吹き飛び、そして体を散らした。

 

しかし彼女も致命傷だ。深く刺さった結晶は確実に肉体に到達している深度である。

 

それを見た復讐者は一抹の違和感を覚えるが、それでも思考が追いつくより早く状況は進行していく。ほぼ同時に、無頼漢へと凄まじいリバーブローが放たれて大木のようなその胴体がくの字に曲がり、そして木々を薙ぎ倒しながら飛んでいく。

 

ヒーローコスチュームの通常オールマイトが拳を完璧に振り抜いた姿勢でそこにいた。

 

「開幕の不意打ちのお返しで同じところを打たせてもらったよ。さぁ。これでフェアってもんさ。ここからだろう!」

 

戦争の最中に、死闘が続いていく。

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・

 

 

そしてUAIランドもそれは例外ではなく、むしろ積極的な標的として襲撃にさらされているのだった。

 

魏漢から北朝鮮への一斉攻撃。そしてそれに呼応する形で伏せられていた多国籍の兵隊たち。民兵から傭兵から正規の軍人まで混ざっているそれは、統率もないがそれでも目的だけは同じなようで、一心不乱にUAIへと向かってくる。

 

空母とドローン群。そしてUAIの通常戦力としての地位を確立したACがそれに対応している。

 

中でも一機、オールマイトのような特別機がいる。ACCと呼ばれるそれは。継続した飛行が可能な唯一のACである。

 

 

ARMORED CAPTAIN(キャプテン) CELEBRITY(セレブリティ)

 

数年前に日本で活躍したアメリカのヒーローであり、彼の事務所は現在アメリカから派遣される形でUAIへと協力を行なっているのだった。実際のところUAIの内政に深く関わる塚内真はCC事務所の実質的な代表であり、彼女についてくる形だったのは本人が知ればヘソを曲げるから秘密だ。

 

あらゆる訴訟とスキャンダルに苦しんだアメリカのトップランカーヒーローだった彼は、女好きと拝金主義で評価があまりに低かった。しかし逃げ出した先の日本で塚内真という有能なブレインを獲得し(逆に捕獲されたという説もある)、現地の人々との交流を経てヒーローとして活躍するに至っている。今では全米のTOP5まで入っており、アメリカの顔として順調に売れ出して、家庭も円満になっていた。

 

そんな折に、米政府からの依頼でUAIにCC事務所が協力することとなったのだ。

 

彼の個性は『飛行』と言われているが、その実態はもう少し複雑だ。

 

エアロダイナミックフィールドと呼称される推進力を持つ特殊な力場を体表面に発生させ、肉体を覆うことで飛行している。そのフィールド自体がものを動かすため側から見れば凄まじい筋力を持っているようにも見えるし、その上で飛行しているようにも見える。

 

これはワンフォーオール7代目継承者の個性『浮遊』にも言える仕組みだ。

 

彼女はただ浮かぶだけで素のままの女性の筋力で殴っていたわけではない。しっかりとワンフォーオールの継承者として強敵と戦い勝っていた。

 

それは『浮遊』だけでは説明がつかないのだ。

 

研究者たちが出した仮説の一つ。それは『ベクトル操作』だった。個性はイメージによって成長も固定もする。最初にこれが『浮遊』であると個性の判定をしたものの罪はあまりに重い。

 

それでもオールマイトの拳から巻き起こる謎の衝撃と風は説明しきれないと、科学者たちは何度でも敗北し続けるのだった。

 

 

UAIの上空では、アメリカ国旗のような配色のACが浮遊している。

 

「オールマイトは確かにすごいよ。でも、僕だって負けちゃいないさ。特にこのスーツさえあればネ。スカイクロウラー!YOUも準備はいいかい?」

 

「全然ですよ!なんですかこの状況は!まぁでも、足りない部分は気合いでどうにかします。でも、戦争かぁ。やっぱ帰っていいですか?」

 

「おふざけできる余裕があるならよかったヨ。真にはコーイチが逃げた言っとくから、それでもいいなら退社しなよネ」

 

 

すでにUAIのやり方に対応した彼らは、この状況でも揺るがない。

 

「ヒーローを信じて待ってくれている人がいる。だから、心配ないよって言いに行かないといけないですね」

 

二人のプロヒーローは、戦いへと向かう。これまでで一番の難敵ではないが。最も難しい戦いへと身を投じていく。

 

人を殺すためではなく、一人でも多く救うために。この壮絶な夜を渡り、誰もが朝を目指していた。




本話以降は、タグにヴィジランテを含めなくては
ヒロアカスピンオフ作品からの出演です。前から真さんは出てたんですけどね!
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