夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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世界ヴィラン連合

魏漢からの単純な砲撃は平壌にほとんど集中しており、元から対空能力の高いUAIには主に個性持ちの兵士たちが向けられているようだった。海上からの接近が主であり、それほど距離のないUAIに対してはそのアプローチが最適ではあった。

 

漁港では、普段は網と氷を積んでいる小型漁船に幌付きトラックから人々が駆け寄り、老いた船長からそれを軍人が奪って舵を握る。旅客フェリーは満員の通勤客を運ぶ顔ぶれではなく、荷物を抱えた軍服の列で埋められ、スクリューの低い唸りがUAIから一望できる沿岸全体から響く。

 

「空母群と人工都市に、漁船で突撃ってマジかよ……」

 

最新鋭の未来都市から見ている誰か、誰がつぶやいたとも知れない絶句のような感想はしかし、UAIにいる多くの人の代弁でもあった。

 

それでも命令を受けた彼らは止まらない。

沿岸警備艇や海軍のコルベットは作業船の間を縫うように出港し、古びたタンカーも燃料補給のために係留を解いた。漁網がぶら下がった小舟の横を、黒いゴムボートが滑る。漁師の帽子と傭兵のヘルメットが隣り合って見える光景は、もはや日常の延長ではない。

 

人々の動きは雑然としているが、どこか一定のリズムを帯びていた。ブイのロープがきしむ音、甲板下で点検する靴音。誰かが低く命令を叫ぶたびに、群れの中で身振りが連鎖する。

 

 

これだけの個性持ちが行けば、どんな要塞でも攻略できるだろうというのは希望的観測ではなく事実だった。タルタロスであってもこれほどの物量には突破を許してしまうはずだ。艦船たちは一斉に速度を上げ、そこに点在する小さな光は、大きな一つへと向かって集まっていくようだった。

 

当然UAIの防衛機構は機械的に反応し、それらを撃墜していく。軍用の船、大型の船から順に集中砲火を浴びせて丁寧に落としていく。

むしろ商船や民間の漁船が防衛線を突破できているという状況になっていた。

 

「へっ!北のオンボロに乗り込まなくてよかったぜ。あっちが貧乏くじだってんだな」

 

中国語を話し銃を持つ彼の目は自分が勝つことを疑っていない。自身の幸運を確信し、追い風を感じて気分が上がっているようだった。

 

「それに今頃、もう先行している奴らが中で暴れてるはずだ。こっちへの対応はどんどん薄くなるって言ってたな」

 

答える男は他の乗員と違って、一般人のような服装をしていた。武器を持っておらず、その手は拘束されていた。

 

UAIまであと1kmもないというタイミングでそれはきた。

 

「ヘイ!君たち!そこで止まりなって言っても、聞かないよネ」

 

あり得ないところから声がする。船の真上にいつの間にかいたそれは、見たこともない最新のロボットのように見える。

 

「クッソ!出やがったな!!でもな。こっちにゃ人質がいるんだぞ!おい、こら!」

 

「ハハ!違うでしょ。人質のふりして確保したら中で大暴れ。そういう算段だって聞いたけど」

 

「そんなのは嘘だ!ヒーロー!助けてください!お願いです!」

 

「馬 鎮海。中国の港湾都市の密輸・人身売買ルートに関わる海賊行為を20年以上続けているベテランだってデータにあるからさ。諦めてよ、ネ!」

 

全部バレていやがる。見せかけだけの拘束を振り解いて銃撃しようとした時には、船がひっくり返されていた。

 

横転する漁船。ロボットが少しだけ船体に触れただけなのに、船はどこも歪みもせずにクルッと回って海に底を晒すのだった。

 

ガボガボと必死にもがいて水面に顔を出すと、すでにヒーローはいなかった。

周囲にはひっくり返された船が量産されており、そして今まさに増えているところだった。

 

「なんだ、アイツ……やっぱバケモンかよ……」

 

接近の際に個性や銃で撃たれるも、速度は一切落ちず、まるで小雨でも払うかのように銃弾の豪雨の中を切り裂いてく。

 

 

転覆しても船は浮いている。みんなそれに捕まっているが、その中で追い詰められた表情をしている何人かは、まだ何かをできるような迷いを顔に浮かべていた。

 

「クソっ!こうなりゃ、使うしかねえ!」

 

そのうちの一人が取り出した注射器を、震える手で自らの首筋に刺そうとするが何かに弾かれ注射器が砕けた。

 

「はい、それダメだよ〜」

 

そこにいたのは、全身が強化装甲に覆われてはいるが先ほどのACよりもだいぶ軽装のヒーローだった。

 

よいしょと言って船底に降り立つ姿を見るに、ACC(キャプテンセレブリティ)よりは飛行に制限があるらしい。

 

「てめえまでいやがるのか!クロウラー!」

 

「懐かしいなその薬も、呼び方も。苦労マンに戻らなくてよかった。でも、他にも持っている人がいるなら早く壊さなきゃ」

 

そして両手足を船底につけたと思ったら、凄まじい速度で次の船へと飛翔していった。

リズミカルに、一切速度を落とさずに。そして一瞬で注射器を持つものを何かで撃って怪我もさせずにそれを壊していく。

 

「ホップ、ステップ。ジャンプってね」

 

そんな独り言に思わず自分で笑ってしまうも、まさか聞こえる距離に人がいるとは思わなかった。

いつの間にか並走というか、並んで飛んでいた上司兼相棒が、ため息まじりに声をかけてくる。

 

「何言ってんのさコーイチ。でもま、冗談言えるくらいには大したことないネ。空間移動の敵を捕まえるのが最善だってさ。僕はすぐ行かなきゃだからここはYOUに任せるよ」

 

 

第1波をあらかた抑えることができたと判断し、本土からUAIに敵を転送し続けている謎の個性持ちを探しにいくらしい。であれば、ここは自分がなんとかしないと。

 

「トリガーっぽいやつを持ってる人たちがいます!気をつけて、キャプテン!」

 

「僕を誰だか忘れたの? またサインしてやろうかな。もち油性でネ」

 

笑いながら行動を開始しようとした時に、光が唐突に夜の闇を吹き飛ばした。青か緑の光が通ったところは先ほどまで空母があったはずの場所である。

 

 

あまりの閃光に一瞬だけ目を閉じる。そして開けると目前には、燃えて沈み始める残骸しかなかった。

 

UAIの外壁が崩れるほどの爆発がいくつも起こり、そして光がU()A()I()()()()()()外へと。もう一度到来する。

 

再び外壁をぶち破り、青光の奔流が夜を照らした。もう一隻の空母が縦に撃ち抜かれ、そして光は終わらない。そのままの状態で横なぎにされる。

 

彼ら二人はすでに体を動かしていた。あまりの咄嗟の出来事で何も考えていなかったが、二人とも最速でそこまで辿り着く。

 

『A.D.フィールド、全展開!』

 

エアロダイナミックフィールドが最高強度で展開される。彼のスーツに圧縮格納されていた自分の毛髪をベースに作ったワイヤーが展開され、蜘蛛の巣のように目の前に展開される。自身の体表に発生するフィールドを拡張するための装備だった。その強度は数年前よりもはるかに高まっており、そしてブーストまでされている。

 

『トリガーmark2、両名へと注入。3分後に活動限界です』

 

彼らが深く関わった日本の事件。そこで個性の暴走を誘発していた個性増強薬がトリガーであったがそれらは再度研究されており、実用化のテストが始まっているところだった。

 

副作用もあるが、それでも安全基準はある程度クリアしている。それを使用せねばならない状況なら躊躇いなく使うのがヒーローだ。

 

なぜなら背後にいる船の中には5000人もの人間がいるのだから。

 

「あと10秒も保たない!!コーイチ!何かしろ!!」

 

返事はない。だってもう彼はすでに、何かを始めていたのだから。キャプテンセレブリティは、自身が数秒後に守るべきものたち諸共吹き飛ぶという状況でも恐怖は感じていなかった。

 

しかし、仲間であるはずの彼から発せられる不可思議な圧に、今は恐れを感じてしまっている。

 

「コーイチ……?」

 

何かが彼の体にまとわりついている。どこかから来た何かが腕に、そして銃のように構えた指へと集まって。そして……。

 

空間を裂くほどの衝撃と共に、よくわからないものが放たれた。

 

それは滝のように注ぎ続けていた彗星の光の中を逆らって、排斥しながら直進する。

UAIに空いた穴へと直進し、そのまま元凶を貫いて、そしてUAIを逆側まで貫通してそれはどこかへ消えていく。

 

「YOU。それ、なにさ」

 

その言葉に答えようにも、すでに灰廻航一は意識を失って落ちていく。勘でどうにか撃ってみたが彼は自分でほとんど思考をしていなかった。きっと、聞いても答えることはないだろう。

 

落ちていく仲間を咄嗟に捕まえて、どうにか守り切った空母まで下ろす。

 

そしてこの惨状を自覚した。空母が一隻、跡形もなく吹き飛ばされている。助けられなかった。そしてそれをした何かがUAIの中にいる。それを、止めなくてはいけない。

 

「あと2分もないけど、関係ないネ」

 

キャプテンがそう言って加速した時、引き金を引いたものがいる。

どこかで、銃声が一発響き。自らの頭をぶち抜いた。

 

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

世界は夢か(うつつ)か。俺にはわからない。

 

「大したことないネ。空間移動の敵を捕まえるのが最善だってさ。すぐ行かなきゃだからここはYOUに任せる……って。なんだって?」

 

UAIの関係者に死人は出さない。空母を失うなんてのは論外だ。そんなことは決して許してはいけない。

ACCの動きを変える。撃たれても良いように。そしてそもそも撃たせないように射手を抑える。

 

みんなを救える。絶対に。だって俺がいるのだから。

いくつもの悪夢のような光景を否定して、何度だってやり直す怪物がずっと状況を見守っているのだから。

 

敵の襲撃は想像よりも厄介であった。魏漢の砲撃も完璧に落とし切る配置を探るまでは非常に回数が嵩んだし、何よりあの全一君の後継候補たちは、対策を事前にしなければオールマイトも危なかった。

 

彼が負けることはないが、寿命と個性の寿命を大きく削り取られてしまう状況は認めるわけにはいかない。

 

 

沈みゆくUAIを見下ろしながら、自らを撃ち抜く。

殺されていく友人を見ながら、自らを撃ち抜く。

炎上する空母の残骸を眺めながら、自らを撃ち抜く。

 

 

いくつもの惨劇を看過して、そして学んで対応をしていく孤独な作業が続く。これが俺の日常だった。深く帽子を被り口元を覆うことで、狩人へと意識を切り替えることができる。今は装甲服がその全てを担ってくれている。

 

いくつもの失敗を踏まえて、動かせるコマを最適な場所へと割り振っていく。

 

 

 

爆撃も捌き、空母も落とされず、そして誰一人海上からUAIへと接近できない状況。

 

そんな中でもUAIにはヴィランが入り続けていた。

 

 

UAIのとある区画。ビルの屋上に黒い霧のような靄が発生した。

渦の中からは、精鋭の破壊工作部隊が入り込む。

 

「へっへ。ここが未来都市かよ。楽しみだなぁ?この綺麗な街が吹き飛ぶのはよぉ!よし、お前ら、行く……」

 

ゴロゴロと転がるのは、仲間だった彼らの頭部であった。

それを見た頭目の首にも、今は刃が当てられている。

 

 

「なん……なんで……?」

 

それだけ言い終わる頃には、見たことのないアングルから自分の体を眺めることになっている。

 

「なあに。なにも心配することはない。何があっても、悪い夢のようなものさね」

 

 

UAIの区画ごと破壊できるほどの爆弾と、個性による電子妨害を同時に行えるプロフェッショナルチームであったが、奇襲した瞬間に不意打ちを喰らえば流石に対応はできないようだった。

 

「これで爆発物は一箇所処理できた。相澤くんはどうかね?」

 

『現在処理中。あと5秒後に無力化の予定です』

 

「やはり距離というのは凶器だね。君らは狩人に向いているよ……」

 

 

 

UAIの元中央制御塔。現在は宇宙局が改造し、軌道投入用のカタパルト射出口とデコイとして重要区画のフリをしている場所に二人はいた。

 

授業の時の気だるげな声をそのままに緊張などはどこにも感じさせない相澤の声は、狙撃手にとって心地よかった。低く一定の声に従い、照準を定める。一人でもできるが、彼が見てくれているならそれ以上に確実なことはない。

 

レディ・ナガンは腹ばいのまま、無言でスコープを覗いていた。

続いて観測手がわずかに口を開く。

 

「個性を使えず困惑。立ち止まる」

 

乾いた破裂音が、静けさを鋭く裂いた。

 

「ハートショット。ヒット」

 

その声は囁きというより、呼気の延長のように静かだった。人を一人殺したというのに、あくまで合理的にすべきことだけをしている。

 

すでに次の動作に移っている。

ボルトが引かれ、金属が噛み合う音が短く響く。薬莢が排出され、床に当たってカランという微かな音が続く。

 

「崩れ落ちる。膝で一瞬止まる。ヘッドショット、エイム」

 

吸い込まれるようにその銃弾は目標の頭部へと到達し、仕事を終える。

 

「ヘッドショット。ヒット。状況終了だ。南東方面のターゲットを捕捉する」

 

「了解。次はどんな個性持ち?というか、なんでここまで詳細なデータがあって奇襲されてるわけ?意味わかんないわよ」

 

「この状況も、意味があるだろう。考えるのはあとだ。まずは最善を尽くすぞ」

 

「はいはい。でもま、誰かとチームってのは悪くないわ。イレイザーヘッドってこういう意味じゃないのにね。もう抵抗ないの?」

 

軽口を刺すような睨みで黙らせて、望遠レンズを覗き込む。抵抗は当然あるが、相手があまりに危険すぎる。1人のヴィランか100人の市民かを選べと言われた時に、両方だと無理を言って全てを失うようなことはできない。俺にはそんなこと求められちゃいない。

 

一度でもそれを失敗したなら、学ぶべきだろう。

 

ゲイルは加速して葬送の刃を振るい頭部を刈り取っていく。狙撃手と観測手の最適なコンビは、個性を否定し物理の力を相手の頭部へ叩き込んでいく。

 

 

「壊滅的な被害を生み出す敵は大方、処理できたはずだが、傭兵やチンピラが都市の各地に侵入してるな。対応は?」

 

『最適な戦力を割り振っています。生徒も含まれますが、彼らならやり切るでしょう』

 

それを聞いて、衝動的に捕縛布を持って駆け出しそうになる。しかし、理性はそれを許さない。

 

「くっそ。おい、ナガン。残業だ。ここから援護するぞ」

 

「ふふ。いいじゃない。そういうの、嫌いじゃないわよ」

 

「笑ってないで黙って弾をこめてろ」

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

UAIの都市部に、各国から集められた無法者たちがなだれ込む。数百名単位で散らされた彼らは陽動ではあるがそれ自体も脅威ではあった。

 

危険なものは即座に処理されているが、有象無象のアウトローたちが街を今まさに略奪を始めるところである。

 

 

 

そんな末世の喧騒の中、暗い路地裏にまた黒い霧が発生する。

 

「おい。予定と違うだろうが、なんで爆発一つ起こってない?精鋭とか言って偉そうにしてた奴らは誰一人まともに仕事ができないらしいな?」

 

黒い靄に文句をつけるのは、子供だった。

 

緑谷出久と同じような年ごろに見える立ち姿。暗い瞳に、白い髪。皮膚には発疹が浮かんでいて、それを上から掻きむしったような跡がある。

 

何より異様なのは、彼が全身を手に掴まれていることだった。人の手を模した何かが彼の顔を、腕を各部を掴んでいる。

 

 

「ムカつくなぁ。あいつらも偉そうにしやがって。オールマイトに殺されちまえばいい」

 

ガリガリと皮膚を掻きむしりながら、横にあったビルへと手をつける。

まるで気に入らないおもちゃを壊す子供のように、UAIの建物に触れるとそれはグズグズになって崩れ始めた。

 

「何人くらい殺せばアイツ来るんだ。まぁ暴れてれば、そのうち来るだろ。『世界ヴィラン連合』のお披露目だ。平和の象徴には一言もらいたい」

 

 

人々の手に包まれた悪意が笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死柄木弔 志村転弧

個性:崩壊

 

その手にあるのは破壊衝動だ。

君は何を望み、掴んで壊すのか。

 

34/0/0

 

君は、悲惨な幼年期を送った。

それは耐える力を育てるはずだった。

 

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