深夜。市民の誰もが寝静まっていたところに警報が鳴り響く。戦争という耳慣れない言葉、そしてそれを証明するかのように黒い霧から現れた集団は暴力と略奪を開始した。
しかし、さすがUAIというところだろうか。避難経路とそれらの護衛は非常に完成度が高く、一部の指示を無視するものさえ除けば多くの人間が無事にシェルターへと駆け込むことができるのだった。
しかしながら人の指示を聞かない人というのは案外多い。それらを救うのもまたヒーローの務めであると確信し、彼は即座に夜の街へとベランダから飛び出した。
爆豪勝己は両手から発する爆破の威力を制御して飛んでいく。そんな移動中、緑谷出久からの全体連絡が先ほど行われた直後が今である。
「クソナードが、代表気取りかよ」
すでに爆豪は空を爆発的に移動して、街の中でも一番に騒がしい場所まで駆けつけていた。
「てめえなんかに言われるまでもねえ。ここで動けないやつがヒーローになれるわけねえだろうが」
その苛立ちは入学前から高まるばかり、そしてその不安定な精神状態の自分を腫れ物としても扱わず普通に接してくるクラスメイトにも言いようのない感情を抱いていた。
俺が、誰より何でもやれるということを証明しないといけない。
デクなんて大したことないと。俺だけは言わなければいけない。
本当に、そんなことがヒーローのやることなのか?
脳裏に浮かんだ邪魔すぎる疑問を忘れるために、犯罪者たちへと近づいていく。堅牢なガラスを割ろうとしている一団に接近して怒鳴りつけた。
「おいカスども!ぶっ飛ばされたくなきゃ今すぐやめろ!」
一瞬驚いた様子の相手だったが、爆豪の剣幕と言葉を聞いてなぜか気を抜いたようだった。
「んだてめえ!こっちの担当じゃねえだろ!空飛べるなら中枢への襲撃班じゃねえのか?」
「荷物抱えて飛べねえだろうが!あとで分けるから、仕事しろよ!」
どこか親しみを込めた返答に、一瞬理解できずに呆然。しかし彼の優秀な頭脳は即座に相手の認識を想像することができた。
相手はこちらを仲間だと確信しているらしい。
「誰がヴィランだ!殺すぞモブ共が!!」
いや、もういい。こいつはぶっ飛ばす。言った時にはすでに襲いかかっていた。
「いやどっからどう見てもそれで、ヒーローなわけ……」
武装していても一切怯まず、落下と爆破の加速で急接近。その勢いを殺す爆破によってついでに相手に衝撃を浴びせた。
一人、また一人と意識を奪っていく。
至近の爆発を浴びせて意識を奪う。これが爆豪の基本戦術だ。見た目には焦げて白目を剥いた相手がピクピクしながら倒れるコミカルな光景であるが、相手視点ではそうはいかない。
爆炎の衝撃が叩きつけられた瞬間、チンピラの世界は一変した。耳の奥でバチンという音が弾け、それを境に音という音がすべて遠ざかっていく。
仲間が何か叫んでいるのか、銃声が鳴り響いているのか――わからない。残されたのは、耳鳴りの甲高い音だけ。
血がじわりと耳の穴から滲み出し、チンピラはふらつきながらも頭を押さえた。口を開いても声が自分に届かない。叫んでいるつもりでも、口の形だけが虚しく動く。
周囲の混乱がスローモーションのように見える中、彼の視界はぐらぐらと揺れ、足元も定まらない。まるで水中に沈んだような感覚に取り残され、恐怖と苛立ちが入り混じった表情で歯を食いしばった。
「……聞こえねぇ……!」
鼓膜が破れ、世界から音を奪われたチンピラは、孤立したような静寂の檻に閉じ込められていた。
「こんなヒーロー……いてたまるか……」
最後の一人は信じられないという表情で倒れていった。それはヒーローに対する怨恨ではなく、まるで裏切り者への恨み言である。爆豪勝己はセンスの塊である。彼の評価は対人のコミュニケーション以外軒並み高得点を出し続けており、それは日々高まっているのだ。
切り替えも早い。現在許されているレベルまで爆破で相手を痛めつけることに抵抗はなく、そして致命傷を与えることもしないコントロールができている。
彼の個性『爆破』について話そう。
オールマイトの『ワンフォーオール』。
キャプテン・セレブリティの『飛行』。
それらが複合の個性であることは研究で判明しつつあり、世間でも潜在的な複合個性は現在登録されている10倍はいるだろうという試算もあるほどだ。
爆豪勝己の『爆破』は掌の汗腺からニトロのような汗を出す事ができ、それを爆発させることができる個性だ。それによって空中機動を実現し、そして鉄筋コンクリートを砕くほどの威力を放つこともできる。
しかし、これが本人の申告通りの個性であれば何が起こるか想像するのは難しくない。ビルを破壊するほどの威力の爆発とは人間が間近にいて良いものじゃないのだ。
まず、ある程度の爆発を起こした時点で彼の手は跡形もなく消し飛ぶだろう。
さらに言えば爆轟によって圧力が劇的に変化。肺が激しく圧縮され、肺胞や血管が破裂し、内出血を引き起こす。爆風肺と呼ばれる状態になり本人は死亡する。
最低でも鼓膜は破れ、脳は損傷するだろう。
しかし、現実にそうはなっていない。
つまり彼が無意識にそれらを制御しているか、彼の爆発は非常に高い指向性があるということになる。
そして彼を小さく人工的な爆薬で爆破し続けたところ、前者であると判明した。自身で分泌した爆発性の汗がもっとも制御率が高く、熱や光。衝撃なども含めて制御をしているのだ。
この違いは非常に大きい。なぜなら彼は爆発物に対するプロフェッショナルになれる可能性があるのだから。ダイナマイトから始まり、戦争で大いに使われた爆発という武器。軍だけでなくその製造の容易さと人への有効性から世界中のテロリストから利用され続けているこのベストセラーの武器に対して非常に有効な個性と言えるだろう。
極めれば、爆弾を巻きつけられた人質に抱きつくことで爆発を別の方向へ逃すこともできるかもしれない。爆撃の中、彼だけは無傷で動き続けることができるかもしれないのだ。
『爆豪君。次の標的はこちらです。協力して対処してください』
「ああ゛?協力なんているか!モブは邪魔だ俺一人にしろ!爆発の威力絞んのがダルいんだよ!」
『その問題も踏まえて私は結論を出してます。あなただけでは勝てません。というより、協力しないと学生では誰も勝てない相手です。一部の戦闘に秀でた生徒たちを向かわせました。命令に従い、ヴィランを制圧してください。これ以上の口答えは減点の対象ですので、速やかに行動してください』
クソ人形が!なんでもわかった風に言いやがって。
そう内心では思いつつも、指示には従う。目的地へ向かうとき、我慢できずに一言だけは言ってやった。
「そのデータは先週の個性測定の時のだろうが。俺は常に成長してる。お前のデータなんて当てにならねえってのを見せてやるから、よく見とけや!」
そうして爆豪が指定の公園に辿り着いた時、目を疑う光景が飛び込んできた。
そこにいるのは50名は超えるであろう人数のいかにもな風体の輩たち。ヴィランを名乗るためにあえてそんな格好をしているのかと思うほどに敵モブと言っていい格好の奴らだ。
彼らはそれぞれ凶器を持って個性を使い暴れている、そうでないものはすでに地面に伏せて倒れていた。
それをしたのはきっと雄英生徒なのだろう。2年と3年が中心に公園の各地でヴィランたちと戦闘をしていて。戦闘用のロボットやドローンもサポートに入っているようだった。
クソナードや風バカ。刃物所持の地雷女にいけ好かない半分野郎まで揃い踏みだ。
その戦いは順調そうに見えているがしかし、それではあのAIが言っていた意味が通らない。
あのミリオとかいう雄英で一番強いらしいふざけた透過桃野郎が戦場を横断して不意打ちを繰り返し、戦況を支配しているようだった。
一体どいつが脅威だ?
『あの鎧姿で刀を持った対象が要注意人物です。あれにすでにプロヒーローが10名。戦闘用のマシンが無数に破壊されています』
その声と共に空中から俯瞰して戦場を見ている爆豪が、それに最初に気づくことができた。
変態にしてはあまりにキレのある動きで奇襲したそれは、決まったはずだった。
しかし直後に倒れているのは、完全な優位から奇襲した方であって。妙な鎧を着た不審者は刀のような何かで弾いただけである。
それだけで、あのルミリオンが膝をつく。
その致命的な隙を逃さず、刀が袈裟に振るわれて斜めに寸断しようと迫っていく。
弾いた時点で、そこまで戦いの先が読めた。だから爆豪は無意識に動き、空中から落下するより早く急接近。殺さない程度の最大火力で面攻撃を行った。
どっからどう見てもパワータイプじゃねえ。カウンターで相手に弱点を生み出して崩すタイプ。
こういう輩は、触れずに吹き飛ばす!
的確な分析と対応は、ほとんど無意識のうちに処理している。体勢を崩してから1秒以内に最適解へと辿り着き攻撃までを済ませてしまうのは、もはや生半可なプロすら超えていた。
何より敵を攻撃する時によくある躊躇いが一切ない。
爆豪は正しかった。しかし、それは相手が爆発すら弾けないただの刀使いだった場合であったが。
硬質な音がガキィインと響き、あの妙な刀が爆破を弾いた。その結果に理解が追いつかない。衝撃は面であり物体ではない。
にもかかわらず、自身に迫る攻撃を一手で防ぐと上へと斬撃を浴びせつつ、後ろ蹴りを放って隙を晒したルミリオンの鳩尾をえぐった。肉が凹むほどの威力の蹴りでルミリオンは吹き飛び、建物を破壊して飛んでいく。
優勢だったヒーロー科の生徒たち。彼らの顔が驚愕に代わり、そして絶望へと変わってく。
戦場の空気が明確に変わった。
そして個性とは感情に大きく左右されるものである。弱気になれば実際に弱くなり、そして勝てると思えばいつもよりも威力が上がるのだ。
たった一人の負けではなく全体の趨勢を決める一撃であって、もはや勝負は決したと……
「僕が抑える!!」
そう思ったその時に動けるものがいた。緑谷出久が、鎧の刀持ちへと突貫し大声を上げた。そのままでは、だめだ。あの弾くカウンターを使うまでもなく切り捨てられる。
そう気づいたのは自分だけなのではなかろうか。そしてその目が一瞬こちらを見て、何かを期待するように光ったのを見たのは確実に自分だけだとわかる。
その目を見た時、爆豪勝己は自分の中で何かが切れた音を聞いた。
何を、期待してんだ。この
この激情はあまりに危険だった。
しかし、これは以前に避けられたことがある攻撃でもある。どうせアレは避けるだろう。もはや殺意に近いそれを解放する。
何を、期待してんだ。この
反射的に指をかけていたコスチュームにあったピンを抜いていて。爆破は制御、そのまま弾かなければ二人纏めて爆殺できるほどの直線的な指向性を持たせた爆破を叩きつける。
ヒーローコスチュームは特注だ。これに自身の汗を溜め込むことができる。それを解放することで瞬間火力を文字通り爆上げさせる工夫だった。
全てを把握しているはずのAIから制止はなく。引き抜いたと同時に自身の行動を自覚し呆然としてしまった。
今、俺は見下していたはずのデクを信頼して、死んでもおかしくない攻撃を叩き込んだのか?
体は次弾を撃つためにまだ撃っていない方の腕を向けているが、そこでようやく意識が追いついた。
相手は爆炎から、傷ひとつなくその姿を見せる。少し、体勢を崩したようで追撃の警戒を緩めていない。
無意識に信頼していたこと。その相手を殺しかける技を放っていたこと。それらを全ていなしたヴィランの実力。
それら全てを信じられず思考と動きが止まる。その空白が鎧刀は理解ができなかったようで。防御姿勢を向けたまま、身じろぎだけをしているようだった。
デトロイト・スマッシュ!!
その隙に、直線距離で突っ込んだ緑谷は渾身の一撃を叩き込む。カウンターを合わせられるかギリギリのタイミングで刀が振るわれるその一瞬。
殴るフリをして地面を思いっきり叩いた。
爆発するようにアスファルトが砕けて鎧刀に襲いかかる。同時に面で、それでも独立した礫たち。
「かっちゃんの爆破を一つの攻撃として弾くのなら……こっちはどうだ!」
大きな石礫を一つ弾くが、他はもろに喰らって腕が折れたようだった。刀を落として、それを拾おうとしている。
「かっちゃん!?」
なぜ攻撃しないのかとその呼びかけは至極正しい。今はまさに仕掛けるタイミングだったし、刀を落としたタイミングなら爆破を浴びせることができたはずだ。
それでも爆豪は動けなかった。先ほどの衝撃に、まるで心の均衡を崩されたかのように動けない。
「っ!轟くん!イナサくん!!」
「ああ、ヴィランは潰す」
「おっくれましたぁ!!首席の動き、参考になるっス!炎ください!合わせます!」
イナサからの要望に、轟は応えられない。氷をまるで津波のように展開して侵入者へと叩きつける。
「嘘でしょ!?何でわざわざそっちでやるっスか!?個性伸ばしじゃ、炎使ってたっスよね?」
「っ!わざとじゃねえ!いや、これで制圧できるなら文句ないだろ」
互いの意見は噛み合わず、プロですら倒す襲撃者にそれで通用するはずもない。
殺到する氷の壁に刀を拾うのが間に合った。硬質な音が連続し、そしてそこには無事で刀を構える鎧姿。
「っ!?なら、畳み掛ける」
続けて氷がまた迫っていくが、鎧が持っている刀が妖しげに光を放ち始める。
その光を見ると、まるで首筋に刃を当てられたかのような悪寒が走った。ゾッとして距離を取りつつ叫ぶ。
「みんな逃げて!あれはなんか、まずい!逃げろ!!」
閃光が瞬き、そして氷山が吹き飛んだ。
咄嗟に逃げたイナサは空中で余波を喰らい墜落。そして轟焦凍は体から血を出して、そして踏ん張った。
「轟くん!!」
「いや、大丈夫だ。コスチュームの防具と氷でどうにか防いだ。でも、その上で切られた」
氷で止血するが、その傷は恐らく深い。致命傷には遠いがそれでも重傷だった。
迫る敵はゆっくりと、それでも確実に近づいてくる。それはまるで死刑の執行人のようであり。逃げることはできないように確信させられてしまうのだった。
「Power!!!!!」
絶望を塗り替えるのは、雄英の期待の星。その声と姿でみんなの顔が上がり、ヴィランたちは後ろに下がる。
倒したはずの一番の実力者の登場に流石に驚いたのだろう執行者の動きに精彩が失われる。彼の持っていた何かしらの道具がその鎧の隙間に差し込まれ、それに返す刀をどうにか合わせた。
彼の高い身長の頂点。ちょうど頭部に刃物が当たる軌跡であったが、彼の頭がまるで溶けるようにして消えて、切れたのはその泥濘のような何かだった。
溶けた彼の体から、裸の女性が現れて、二つ目の刃を隙間に差し入れる。
「隙あり、です」
猫のような身のこなしでその後の反撃すらバク転やバク宙を繰り返して回避、渡我被身子は無事に死域から帰還する。
降り立つのは動揺して動けなかった爆豪の横である。裸の彼女が隣にいても、その目は全く現実を映していなかった。
「燃料をかけました。着火したら死にますよ。チャッカマンをお願いしたかったんですけど、バクゴーくんは、口だけです?」
唐突な罵倒で、意識が戻る。
「うる、せえ!黙ってろ、地雷女。もう……いいから指図すんな」
「その呼び方、かあいくないので嫌いですー」
これで制圧できただろう。動くなら爆豪は火をつけることを恐れない。やらなきゃ、やられるという時には彼は動ける男だった。
すると再び、黒い霧のようなものが発生して誰かが出てきた。
「おいおいどうなってる? ここも無事ってどういうことだ? ヒーローは粗方倒してるはずじゃあないのかよ。誰も死んでないじゃないか」
全身は人の手に掴まれているような状態で、顔も手が覆って隠している。その好奇と狂気が滲む目線を見てみれば、それと語り合うことがいかに難しいかを感じてしまう。ヒーローならば考えてはいけない類の思考が思わず巡る。
「どこだよ平和の象徴は。まぁいいか。何人か殺せば来るかな?」
顔についた青白い手の手首から先には通信装置のようなものがついているらしく、指を当てて誰かに問いかけている。
「おい、黒霧。とっとと脳無を出せ。見せしめに殺す」
無造作な殺意が口から出てくる。そして、何が起こるのかと身構えているが。
「黒霧、何をしてる。聞こえてんのか?とっとと脳無を出せって言ってるだろうが!」
沈黙が続くと、イラついたように体を掻きむしり始める男は癇癪を起こし始める。よくわからないが、何かが上手くいっていないことだけはわかる。
思考が加速した。ブツブツと独り言が思わず溢れた。殺害予告はもうされてる。それにこの状況話ができる場合じゃない。
鎧の制圧を任せ、緑谷出久はその重要人物であろう相手に肉薄する。ワンフォーオールを全身に漲らせて10%までを引き出して、一瞬で加速。筋肉が少しちぎれる感じがしたけど問題ない。無視できる範囲だからと敵を見続けた。
きっと個性は手を使う何か。さっきの言葉からして、彼自身にこの場の全員をどうにかできる実力はない。
両手と体の手に警戒しつつ、先手を取る!!
踏み込んで、いつでも回避できるくらいのコンパクトな打撃。ボクシングでいうジャブのような動作でインパクトを叩き込む。
これで倒せるとは思っていない。相手の出方を見るための攻撃だった。反撃があっても余裕を持って回避行動ができると思っているのだ。
しかし、直後にその予想を裏切られることになる。
ワンフォーオールの10%を発揮した拳の力は、並の強化型個性を優に超える出力がある。腰の入っていないジャブだったとしても、一般人であれば余裕で卒倒するほどの威力だ。
手を張り付けた変質者は、
「……へ?」
あまりに予想外すぎる光景に思わず声が出た。
「クソバカが!気い抜いてんじゃねえ!!!死にてーのか殺すぞ!」
かっちゃんの怒号に思わず晒していた隙を自覚する。まずい。今、何かをされたなら……!!
何も、起きなかった。
まだ意識はあるようで、うめき声をあげてこちらを睨んではいるがまともな言葉も動作もおぼつかない。深刻な脳震盪と戦っているようだった。
「あんだけ黒幕オーラ出しといてこれって逆に新しいっスね!俺知ってます!逆張りってやつっス!」
嘘だろうと思うが、黒幕とは言わないが幹部くらいの言いようで後から現れた相手が一瞬で沈むというのはちょっと予想外すぎた。
罠かと思ったかっちゃんの予想は当然だったがどうやら本当に倒してしまったらしい。
「嘘だろ!候補者が二人もいるから大丈夫って聞いてたのによ!両方ともダメじゃねえか!」
「何が崩壊者だよ!偉そうにしてただけのガキじゃねえか。執行者さんは強かったのに、ふざけんなっ!」
それは周囲のヴィランたちの反応で分かった。とても信じられないが、手の少年は『崩壊者』と呼ばれ先程の執行者と同格の存在らしい。
鎧は倒された若者を一瞥もせずに武器を構え直す。
「動くんじゃねえぞ!ヒーロー志望の学生はやらねえとでも思ってんのか?」
初めて声のような何かが聞こえた気がした。フッと笑うような吐息が鎧の奥から聞こえ、そして爆豪は本来やるつもりのなかった行動を強制された。
あまりにも強い殺意を浴びせられ、体が勝手に動き出す。本能的に爆破を行い着火する。
即座に鎧を包む業火はその命を奪ってしまうはずだった。
八百万などはその死を見て悲鳴をあげるのが当然だったのだが、その叫びは聞こえない。
そこにいる誰もがそれを感じる。生命力が鎧から光となって溢れ、体から光の粒子が溢れていく。
燃えながら生命力を漲らせ。そして目を覆うような閃光の後に鎧姿はどこにもない。
そこにいるのは、原初の獣だった。
混じり気のない純粋さを感じる。黄金の毛並み。溢れ出す生命力が体から突き出すようにして伸びる角は頭部の2本だけでなく、肘や背中からも幾本もねじれながら生えている。
生命の坩堝のような熱量から放たれるのは、獣の咆哮だ。
咆哮一つで、轟とイナサの作った風と氷の防壁は物理的に吹き飛ばされた。学生たちも散らされていく。
そして、周囲で傷つき倒れていたヴィランたちはなぜか起き上がる。
オールフォーワンの後継候補である獣が、ワンフォーオールの後継者を正面から捉えてその大きな口を開く。戦いが、再開した。