夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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いざ試験へ

あーたーらしい朝がきた。希望の朝だ〜。

 

祖父母の日課のラジオ体操という運動のお馴染みの音楽が鳴り響く。この歌は1951年からあるらしく、なんと200周年を超えている。すごすぎだろおい。

 

日本人であれば前世紀の人とも同じく共感できるこの歌は実はすごいのではなかろうか。いまだに夏休みにはこれを流してスタンプをもらっているという無形文化財である。温暖化の影響で放送時間は徐々に早まり、今では朝5時に放送されている。早すぎだろおい。

 

これを聞いていると色々なことを思い出す。

 

ああ、帰ってきたんだな。なんて一週間経った後に今更実感した。

馴染みの音楽と共に、ちゃっちゃっちゃっというフローリングを爪が弾く音が家に響く。

 

一つこの音が鳴り始めると、続いて二つ、三つと続いていく。

 

そしてそれが段々と大きくなって、ほらきた。

 

サモエド、シベリアンハスキー、ゴールデンレトリバー、ダルメシアン、秋田犬。

 

毛むくじゃらの力強いモフモフが襲来。そのまま立ち上がらないと毛に埋もれて、揉みくちゃ確定。顔をベトベトにされるから、余裕をもって起きておく。

 

二足歩行ならそうそう負けない。人間を無礼(なめ)るなよ?

あ、ダメだ。こいつら理性が吹き飛んでる。3頭が一斉にジャンプして飛びかかり、そのままベッドへ押し戻された。朝起きて俺がいることが嬉しすぎて、獣になっていやがる!

 

もう一週間経ったのに、この大騒ぎだ。

ウワー!ヤメロー!という大して嫌でもない声が、犬の大波に飲み込まれ、めちゃくちゃ舐められた。

 

以前ならこの襲撃イベントは自分には無縁だったのだが、今日は避けきれなかった。

個性『目覚め』によって寝起きだけは人類で一番良い俺は寝起きに隙はない。だからこれをやられるのは常に双子の姉の方なのに。

 

双子の姉、狩峰雫月はいつもワンコアタックによって起こされていた。彼らがいない近頃は自分が起こさないといけないため少し面倒だったが仕方ない。

 

これが狩峰家の朝であって、数ヶ月ぶりの実家感の空気を味わう。

4月からはUAIランドに一緒に住めるのだが、この家とは離れることになってしまうため少し悲しい気持ちはある。

 

けれど、目覚めの光景が変わるというのは良いことだ。

目が覚めて、ずっと同じような光景だと頭がおかしくなるのだから。いや、本当にね。

 

「あら、淡輝はやっぱり早いわね。しづは?まだ寝てる?」

 

疑問から勝手に納得へと切り替わるが、母は上機嫌そうだった。

それもそうだろう。生まれてからずっと一緒だった双子の子供が10ヶ月もいなかった上に父もあまり家には帰って来れていなかったはず。寂しい思いをさせてしまったと思う。

 

「おはよう。みんな元気だねほんとに。しばらくあの騒ぎは収まらないだろうけど」

 

「ハッスルしてるわね〜。よっぽど嬉しいんでしょ。あとで庭で遊んであげて」

 

はいはいと空返事しつつ、楽しみにもしている。あいつらと遊ぶのは好きだから。

 

「そういえば、全然心配してなかったけど今日受験でしょう。あんたはともかくしづは大丈夫かしら。雄英の医学科でしょう?普通にやったら難しいわよねぇ。裏口入学になんてなったらあの子気にするんじゃない?」

 

「いや、意外といい線いくんじゃない?結構成績伸びてたし、割とあると思うよ。まぁズルしなくても、看護科の方にはいけるから大丈夫大丈夫」

 

「それもどうなのかしら。でも、家族で移住かぁ。この家を離れるなんてねぇ。しかもよりによってあの人工島だなんて、人生わかんないもんだわ」

 

それ以前にもっと大きな生活の変化があったろうに。丁寧に守ってきた日常はしっかりと機能してくれているようで、母さんの反応に少し安心する。

 

数代前に財を成した狩峰家は代々、非常に堅実な投資をしているのだが当主が変わった際には必ず高リスクな投資を失敗するまでやれという家訓があり、3代に渡って実行されていた謎の伝統も、成り上がりに際して行った不自然な投資の整合性を与えてくれていた。

 

先代と先先代は失敗したが、今回はたまたま当たったのだろうとマスコミは納得し、世間もそのように納得した。

 

二位と大差をつける世界一の富豪にしてはささやかな家で朝食を済ませて犬と遊ぶ。

狩峰家はのほほんとした受験当日の朝を過ごし、そして余裕を持って双子は受験のため横浜へと向かう。

 

(ねむり)に会ったらよろしくね。まだ結構気にしてるみたいだから。声かけてあげて」

 

母の旧姓は香山。その妹で叔母にあたる人の名前は香山(ねむり)だ。プロヒーローミッドナイトとして活動している。ギリギリの格好で18禁ヒーローと呼ばれる存在が親族にいるのはキツかったが、こちらも大人になったのでもう気にしていない。

 

母の容姿はミッドナイトに結構似ている。順番としては姉である母の方が先なんだけど、世間の認知的にはミッドナイトが先行するから仕方ない。

 

「はいはい」「は〜い」

 

姉妹で癖っ毛は似ているが、母は肩までで髪の毛は切っている。あと眼鏡はかけていないのと、泣きぼくろの位置が左右逆だ。かなり似ている姉妹だろう。

 

「あわき。返事は一回。しづ。間延びしないの。じゃあ行ってらっしゃいね」

 

靴を履いてから玄関を出て母が家族写真の飾られた靴箱の横から見送ってくれる。こんな光景もあと何回見れるだろうか。

 

朝の電車は規則正しく線路を刻み、曇りがかった夏空の下、低く連なる屋根や古びた商店街、見慣れた駅の看板が次々と流れていく。

 

車窓の向こうに広がる街並みに、記憶がゆっくりと呼び起こされていく。

 

どこか煤けた銀行のコンクリートの壁、ビルに掲げられた病院の看板、親に手を引かれる女子小学生。その一つひとつが、胸の奥を静かに叩く。

 

嫌なことを思い出しつつ、それ以上の大切な思い出を振り返る。

 

久しぶりに吸い込むこの土地の空気は、湿り気を帯びながらもどこか懐かしく、少し汗ばむ肌に朝の空気が心地いい。窓を流れる景色の速さの中に、かつての自分がぽつりと立っているような気がして、目を細めた。

 

あの頃、毎日見ていたはずの景色が、今は少し違って見える。それでも、変わらない匂い、変わらない電車の揺れ、通勤客の眠たげな顔。

 

日本に帰ってきたことを、静かに実感する朝だった。

 

「で、緑谷家はどうだった?一週間だけじゃ大して休まらないかもだけど」

 

緑谷出久と合流すれば、彼はちょっと寝不足気味に見える。

 

「いやもう壮絶だったよ。受験を控えてると思うと全員緊張しちゃって。みんな寝れないし、朝から緊張してみんなミスするしで大慌てでさ。ほら見て、まだ指の震えが止まらないや」

 

「うわぁ。ほんとに震えてるじゃん。連打早そう。ていうか目が血走りすぎだろ。こええよ」

 

いつもの男子の会話だが、今日はもう一人いる。

 

「緑谷くんなら大丈夫そうなのに〜」

 

「おっふ……(ありがとう。そういってもらえたら嬉しいよ。狩峰さんは緊張しないの?)」

 

「緑谷、いつか普通に女子と話せるようになるといいな。こいつで無理ならもう全部無理じゃね?」

 

「結構長い付き合いになるのに、一日の初めの方はずうっとダメダメだよね〜」

 

あと失礼だぞと姉パンチを一発食らいつつ、双子と緑谷は一緒に試験会場までの道中を消化し、そしていよいよ試験会場がある人工島へと渡る。

 

一週間ぶりのUAIランドの空気にどこか馴染みを感じてしまっていることに気がついた。

三人はすでに予防接種や各種検疫、デバイス登録などは済ませているので簡単だが初めての人たちはすでに体力を使っているようだ。

 

ようやく乗り込めたシャトルが人工島の玄関エリアへと滑り込むと、受験生たちは一斉に窓に顔を寄せた。

不安と興奮とが入り混じった視線の先、空へ伸びる光の柱のような高層ビル群が、朝の霞に輪郭をぼやかしながらそびえ立っていた。

 

乗降車ゲートが開き足を踏み出した瞬間、静かに響いた人工音声が近未来感をさらに演出していく。

 

「ようこそ、UAIランドへ。ようこそおいでくださいました。今、皆さまが足を踏み入れているこの都市は、人とAI、先端科学と個性研究が共生する、新しい時代の都市です。ここは、すべての人々がそれぞれの個性と才能を最大限に活かせるよう設計されています。

 

初めて訪れる方も、UAIランドを心ゆくまでお楽しみください。

申し遅れましたが、私はこの都市のサポートAI、マリアと申します。ご不明な点がございましたら、いつでも私にお声がけください」

 

『『『「みなさまの入国を歓迎します」』』』

 

車内のアナウンスと腕時計のように付けたデバイスが完全に同期して歓迎の声をかける。

 

ソワソワと落ち着かない空気の中で、数人が驚き、その声に背筋を正しているものもいる。

 

「結構、少ない?雄英の受験っていつも行列になっててすごいのに。あれの長さを賭けにしてる海外サイトもあるくらいでさ」

 

流石にマリアの音声にも10ヶ月近く馴染んでいた緑谷はそんなところに驚きはしない。彼が気にしているのは別のところのようだった。

 

「今年は書類選考でかなりの数を落としてるから。ここに入国するってだけで手間で時間もかかるし。有望な学生しか受けられないから批判もあったらしいけど、まぁ何を言われてもノーダメだし。一万人以上受験できてた今までが異常なんだよ」

 

「最終的には世界中から最高のヒーロー志望が集まるんだもんね。今はまだアメリカとイギリスだけ?」

 

「そうそう。オーストラリアも参加できればよかったのに、くだらない政治のいざこざで流れちゃった。だから今年は三国だけになるっぽい」

 

「すごいなぁ。本場アメリカに国際的なヒーロー活動の多いイギリスなら、いろんな人がいるんだろうなぁ」

 

まだ見ぬ強敵へと想いを馳せる緑谷は、目を輝かせている。

ヒーローは憧れるものという体に染みついた習慣は数ヶ月じゃ取れないようで、恐縮したり萎縮したりする癖はまだまだ残っているみたいだ。

 

その憧れの象徴とも言える人物が目の前にくれば、そのテンパり具合も最高潮へと達する。

ほら来たぞ。

 

「私が、世を偲ぶ真の姿で来っ、ゲホっゴホっ!」

 

痰の絡んだような濁った咳をしながら、痩せた長身の男がそこにいた。

 

「オールマイト!」

 

緑谷は反射で叫ぶ。はい。やらかした。

 

「え?オールマイトいんのか!?どこ?」

 

「オールマイト!?」

 

「オールマイトっ!どこよ!」

 

にわかにざわめき始める周囲。街中でもそうなるだろうが、この場においてはさらに劇的である。当然だ。なんと言ってもここは雄英ヒーロー科の受験生たちが多く歩いている場所なのだから。

 

「リピートアフターミー!人違いでした!」

 

オールマイトは咳き込みながらも挽回を図る。

 

「リピートアフターミー!人違いでした!!!」

 

しかし残念。壊れたおもちゃのような繰り返しをするのがやっとの緑谷はパニックになっていた。

 

側から見ていればオウム返しをする緑谷は微笑ましい。

興奮した赤い顔からやらかした青い顔への変色は見事なもので。あの前世紀の古典的名作を思い出した。

 

なんだっけ、ジブリの……そうだ。ナウシカだ。

あの王蟲の目みたいに変色する人間信号機と化した緑谷は必死である。

 

「やれやれ。緑谷少年にはそろそろ慣れて欲しいんだけどね」

 

「無理ですよ。物心ついた頃からの大ファンですから。オタクとしての反応が魂に刻まれちゃってますね。アンチからの反転ファンになった俺とは違って、全身全霊って感じだからなぁ」

 

森へおかえりと言いながらパニクった緑谷の背中をさすってやる。

 

「しかし体つきは見違えたじゃないか緑谷少年!!武者修行の成果はどうかと聞きたかったが、一目見ればわかるね。いや、見違えすぎじゃないか?体重どれだけ増えたんだ君?」

 

「10kg増量しました!身長はあまり伸びなかったけど、でも筋肉はつきましたよ!」

 

「人体改造って領域じゃないのかそれ。10ヶ月でそこまでして大丈夫?」

 

たらりと汗を流して心配しているが、前に見せてもらったオールマイトの育成計画よりはマシである。受験当日か前日に個性の継承とか緑谷を殺す気か?とガン詰めさせてもらった。

感覚派の天才には後進育成は鬼門であると痛感する資料である。

 

やはり彼には象徴として立ってもらった方が良い。だからこそ、この独立行政区の代表になってもらった。政治家としての実務はほとんどないが、彼が表に立つだけで解決する問題が多すぎる。

 

少なくなった稼働時間は有効に使っていきたい。

 

「ええ大丈夫です。ここは最先端の医療都市ですから、無茶は通せますよ。なんて言ってもリカバリーガールクラスの個性が11人もいますし、それを研究して実装された医療施設がひしめいてますからね」

 

緑谷は良い実験体としても歓迎されていた。個性にまだ馴染んでいない子供以外の事例なんて世界でもそうそういるものじゃないのだから。

 

「本来なら後継の育成は私が直にやりたいところだったけどね。だがやはり君に任せてよかった。きっと最適だったと思うよ。狩峰少年も緑谷少年も、よくがんばったな」

 

痩せていても大きな彼の手でそれぞれ頭をガシッと掴んで揺らされると、二人してフラフラしてしまう。

 

一人はファンサに有頂天。そしてもう一人は何かを噛み締めるような、辛そうな顔をしてすぐに笑顔で上書きした。

 

緑谷は嬉しそうだったが、すぐに他のことを考え始めその表情は曇り始める。

 

「でも……色々と、できませんでした。全力ではやれたと思いますけど、それでも全然足りないってわかっちゃって……」

 

ブツブツとネガティブな方向に思考が暴走しているようだ。これ、ヒーローとしては良くない癖だよなぁ。

 

「緑谷少年。その向上心は素晴らしい。だが上ばかり見ていると足元をすくわれるぞ。自分の努力を蔑ろにしてはダメだ。よく考えて自分を見つめてみるんだ。10ヶ月前に友人を救うために飛び出したあの時と比べて、5ヶ月前にワンフォーオールを初めて受け取った時と比べて、今はどうだい?」

 

「それは……確かに。そうです。それが正しいって思うんですけど、でも、でもやっぱりどこか正しくないっていうか、何かの間違いじゃないのかって気分になって……」

 

「いいかい。その力はもう君のものだ。借り物でも、何かの間違いなんかでもない。個性はその人と一体のいわば身体のようなものさ。そんな風に迷わずに、その分一人でも多くを救うのがヒーローだよ。君の憧れたヒーローだってそう言うんじゃないか?」

 

HAHAHA!と憧れのヒーローその人が笑う。

 

「緑谷は常に悩み続けるのがデフォルトなんで、あんまり深刻に捉えすぎないで大丈夫ですよ。助けを求めている誰かがいれば、それこそ誰かさんみたいに迷わず飛び込めるんですから」

 

どこか、二人の間に生まれている絆を感じて彫りの深いオールマイトの表情がさらに、くしゃりと笑みに歪む。

 

「若いって素晴らしい!さて、そろそろ私は……」


 

「というか、なぜ一人なんです?今はBローテの時間のはずでは?また勝手に動いたんですね」

 

やっべ。という表情でNO.1ヒーローがたじろいでいる。

 

「いやでもオールマイトが動いたってことはそれは必要にかられてのことだろうし、そうなればきっと誰かを助けたんだろうから、僕は何も言えないや。というかやっぱりオールマイトはそうじゃなくちゃ!」

 

「UAIランド周辺はここの戦力含めて、周辺ヒーローも警察も十分以上に出動してます。あなたの席はないですよ。後進の仕事を奪うのは長期的に見て悪手です」

 

「ん〜〜!右から全肯定。左から全否定。しかし両方とも私を考えての言葉だ。大人として逃げられないな」

 

左右から別の色の声援をもらって喜ぶ最強の中年の姿がここにある。

ブツブツと続く称賛も、グサグサと刺してくる正論もどちらもありがたいものだと喜んでいる。

 

「その説教の仕方、いい加減に師匠に似すぎだよ狩峰少年。サイドキック時代を思い出しちゃうぜ」

 

「へぇ〜!サーナイトアイって狩峰くんみたいな感じなんですね!?メモしとかなきゃ。やっぱり、オールマイトのことになると狩峰くんってお母さんみたいになるような……」

 

身長2m超え、体重250kg越えの母親を名乗るのは流石に無理だ。せめて20cmと2.5kgくらいならどうにか、いや無理だな。

 

「おおっと、失礼。夢中で話し込んでしまっていたね。狩峰少女もご機嫌よう。受験は心配なさそうかな?」

 

「おはようございます。オールマイトさん。厳しいかもですけど、慌てても仕方ないですしね〜」

 

「はっはっは!狩峰少女はすでに大物の風格だな。緑谷少年も見習わないといけないぞ。ヒーローはこれくらいドンと構えないといけないからね!」

 

「私、別にヒーロー志望じゃないんですけどね〜」

 

「それでまた、用件はなんですか?一応俺たち受験生なんで、そんなに時間ないですよ」

 

「オールフォーワンについての続報だ。今夜、例の場所に集合を頼むよ」

 

「オールマイト?先日決まった事を忘れちゃいましたか?正式名称で呼んでくださいよ」

 

「ああ、そうだったね。いやはや。やっぱりいいセンスしてるぜ狩峰少年。ナイトアイ事務所のブラックジョークとシュールギャグ担当だけはあるな?」

 

「な、何が決まったんですか?」

 

「緑谷少年にはまだ言ってなかったね。今後は個性『オールフォーワン』のことは()()。個性『全一』を扱う敵の親玉の事を()()()と呼ぶこととなったんだよ」

 

ブフっと吹き出したのは雫月だった。緑谷は唖然としている。

 

「それは、なんていうか……その、すごく弱そうっていうか、普通な感じになりますね?」

 

反応を受けて発案者の淡輝がニヤリと笑う。

 

「笑っちゃうだろ?こういうのアイツ結構嫌がると思うんだ。まぁ、嫌がらせだけじゃなくて実利もあるけどね」

 

「単純にさ、長いだろオールフォーワンって。それに人名と混同しちゃってて書類的には最悪ね。せっかく日本人っぽいんだし名前を付けてあげたってわけ。感謝して欲しいよな全一君には」

 

次に会ったときには名付け親には敬語を使えや、感謝が先だろと詰めると決めている。今から楽しみだ。

 

「そんな風にあいつを攻めるのは歴史上で初めてだよきっと。そしてそれはきっと有効だ。奴は数多の人間を恐怖で支配してきたが故に、こんな攻撃は知らないはずさ。痛快だねほんと」

 

血を吐きながらもHA HA HA!と笑う平和の象徴(にちじょうのすがた)を見ると、淡輝は自分が良い仕事をできたようだと満足できた。

 

やはりユーモア。ユーモアは全てを解決する。

 

 

「じゃあ、私はこっちだから。緑谷くん。頑張ってね〜」

 

「私も、普通にシャトルバスで行くことにするよ。またな少年少女たち」

 

「は、はひ!!」

 

必死で返事をしてそして満足げにこちらを振り返る。サムズアップしているが、何を達成感を感じているのだろう。

ヒーローへの第一歩を踏み出した!10ヶ月の成果を出せました!みたいな顔やめて。

 

「よし。楽しく話せたなって顔できる内容だったか?二文字の返事を噛んでるんだけど」

 

おそらく脳のリソースを全て使って返事をしたのだろう。体の操縦の方に皺寄せが来たようで、緑谷出久は何もないところで転ぶという奇跡を見せるが……

 

なんと盛大にこけた緑谷出久は、地面に落ちなかった。

 

「大丈夫?」

 

重力を忘れてしまったらしい彼は、ふわふわと浮いたままでそこに浮かんで手足をバタつかせている。

 

「私の『個性』ごめんね勝手に。でも転んじゃったら縁起悪いもんね」

 

そう言いながら手を合わせて笑顔で謝る彼女は受験生だ。

同時に緑谷はストっとその両足を地面について、彼女のおかげで転ばずに立て直した。

 

「緊張するよねぇ……」

 

「へ?あ、えっと……」

 

ふわふわとした雰囲気の女子が朗らかに語りかけるが、緑谷はまだ意味のある単語を発せていない。

 

「お互いがんばろう!」

 

じゃ!とその場を離れていく彼女を見送る緑谷は嬉しそうにキュン顔をしているだけである。殴りたい。

 

「女子と!喋っちゃった!!」

 

「いやだから喋ってないって」

 

浮ついた背中を思いっきり叩いて正気に戻すが、この後遺症はしばらくありそうだ。これは本格的に慣れさせなきゃダメか?ハニートラップとかで瞬殺されそうで怖いよ。

 

 

受験会場までのあれこれも、誰かと行くのなら楽しいものだ。

これから大変な経験をし続けることが確定している緑谷のことを心配しないわけではないが、彼はきっとやり切るだろう。

 

それくらいの信頼はこれまでに積み重ねてきている。彼はきっとヒーローになれる。心からそう思う。

 

まぁ、女性関係で攻められない限りは。大丈夫じゃないかな。今日これから起こる事件には女性の敵はいなかったし、彼が関わる予定もないから大丈夫だろう。

 

 

そろそろか。そう思った瞬間に、UAIランド付近の港で爆発が起きた。

 

さぁ。ヒーローの出番だぞ。

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