だがヴァンパイアは別の棺だ!
承諾された後はあっけないものだった。
ナイトアイが通話をかければものの1コールで彼が出る。
「どこに行けばいい?」
スピーカーでなくてもよく聞こえる、人を助けるために自分が必要なのだと確信した声だった。日本の遥か遠くから聞こえるはずの声なのだがすぐ近くにいるような存在感がある。
NO1ヒーローなんて一番嫌いな相手だったのに、その声を聞いて興奮している自分が確かにいた。
「今すぐに横浜、神野区まで来て欲しい。そちらのカバーは現地のヒーロー事務所に依頼した。……オールフォーワンがいる」
「っ!すぐに行く」
返事をするかしないというタイミングで轟音と共に通話は切れた。
「この条件で出せるオールマイトの移動速度はマッハ2程度。海上を走ってその速度だろう。約40分ほどで到着するはずだ。可能な限りの準備を行い、強盗チームをまずは私が捕縛する。そうすると新手の戦闘部隊が出るらしいが。それをオールマイトに一網打尽にしてもらう」
知っている限りの詳細を伝えていく。無謀ではあったが幾度も挑戦をしただけにヴィランの情報はかなりある。
ふー。とため息のようなものをつかれてしまった。
「やはり素人ではあるのか。代償を把握していないから断言はできないが、やり直せるのならもっと丁寧に調べるべきだな。その時刻の職員全員と銀行内の利用客。それらの個性と基本プロフィール程度は知っておかねば話にならない」
言われて気づいた。ついこの前に、被害者の中に先生がいたことを見落としていたことを自分はまた繰り返そうとしていたのかもしれない。
「まぁ、その辺りは追々か。今回は私が対処しよう。後続には準備がいるだろうが、その程度の強盗であれば一人で十分だ」
というかナイトアイは偉そうだが、本当に出来るのだろうか。地域で一番の武闘派ヒーローがなす術もなく撃ち殺された光景も見たことはあるのだが。彼があの戦闘用個性持ちよりも戦えるという確信はなかった。
身体能力は凄まじいとはいえ、まだ自分という子供を制圧する場面しか見たことがないからかその点は少し未知数であると値踏みしている。
「だから説明しただろうに。私の身体能力は常人を超えている。その上でこれほどの情報優位がとれているのならまず負けはない」
「でも、予知はもう使ったんだからただ動ける人ってだけなのでは?」
「時として人は、常識的に予測できるものを見落とす。そしてそれを思考力で想像したものを過去の者たちは預言者と呼んだ。常識というものはどうやら貴重らしく、予知と容易に混同され得る。まぁ、結局は見せたほうが早い。協力者を信じて黙ってついてくるがいい」
今だに疑問はあったが、まずは観察だ。プランを聞いてほとんど修正出来るところは見つからなかった。
準備は鮮やかで、ものの30分で周囲のサイドキックの配置と警察への別件要請を通しておく有能ぶりではある。
そして銀行強盗が待機している車へと向かう。自分一人だと敵に囲まれる状態になりやすく警戒もしている状態なのでこのタイミングで襲うことはなかったが、ナイトアイの奇襲は流れるようで、今までの苦労が嘘みたいに片付けられていった。
超重量の合金製印鑑が飴細工のように車の窓を貫通して両扉ごとぶち抜く光景は、ちょっとギャグみたいだった。
「無駄だ。銀行内の仲間はすでに無力化している。続きは警察署にて話せ。押印されたければ動けばいいがな」
「なん……なんなんだよお前ぇ!くっそ!情報が漏れてんじゃねーか!全部台無しだ!」
「ほう。やはり銀行内にも仲間がいたか。当たりをつけてやろう。ふん。女だな。ヒールを履いている。実力はお前たちよりも上。実質的にはリーダーといったところか。性格は慎重、手袋などで指紋を残さない。そして貴様らは然程、信用もされていない。部下というよりは従僕か舎弟という関係か。さて、当たりかな?」
「なんだよそれ……読心系の個性なんて、反則だろうがよ!姉さん!俺は、俺は裏切ってないですからね!」
マジで上手かった。
ていうか何だこれ。なんでそんな事がわかる?こいつは本当に一日に一度しか個性を使えないのか?過去も見れたりするんじゃないのか。
「常識は余地と混同されると言っただろう。車内の残り香に気付けば女がいたことはわかるし、座った位置は跡が残る。あれほど堂々と真ん中に座り左右の男が縮こまっているのだから、先ほどのような関係なのだろう。他に質問は?」
聞いてもないのに答えてくるのは腹が立つが、それでも有能なら問題ない。警察へと引き渡しバンを後にして、銀行へと向かう。
「先ほどの条件に近い女性客はいたか?」
「たぶんだけど、毎回二人目に人質になる女の人だと思う。アレも一味だったのかも……」
そうして銀行へと着けば、彼は即座に関係者顔で裏口から入っていく。自分は客として窓口の方へと進んだ。
あ、いた。
しきりにデバイスを確認してる女がイラついているように貧乏ゆすりをしている。
あれだと目配せすれば、サイドキックの一人が拘束アイテムを使って制圧。あまりに華麗な仕事ぶりに銀行にいた全員が唖然とするが、即座にヒーローであることを明かしてどうにかことを収めようとする。
よほど必要な情報なのだろう。そうこうしていれば、あの実行部隊がやってくる。
すでに制圧が完了しているとジープごと銀行へと突っ込んできて全てを台無しにするのだから厄介だった。そんな突入方法も伝えていたから、今回はどうにかなるはずだ。
盛大すぎる事故の音がした。
車が叩き潰される音というのを初めて聞いた。破裂音に近いそれを誰もが信じられない様子で聞かされる。
「私が、日本を縦断して来た!!!」
最強の男が、珍しく少しだけ汗をかいてそこにいた。若干だが肩が上下しているオールマイトは初めて見た。彼が立っているのは先ほどまでジープだったナニカの上である。
なぜか乗っているものたちは無事なようで、ボロボロという擬音を出しながら這い出てきた。
彼が降り立っただけで幾度も家族を殺し続けた襲撃が終わる。その威力は凄まじい。ていうか、おかしい。だって相手はまだ無傷なのに、プロの戦闘集団が即座に銃を捨てて降参のポーズになっている。
「あー終わった」
「九州にいるんじゃねぇのかよ!なんでここに!?」
「降参です。抵抗しないんで無駄に殴らないで」
あれを思い出した。5枚揃ったらゲームに特殊勝利ができる封印されしモンスターみたいだ。ああ、こんな風に冗談みたいなことを考えられるのはいつぶりだろう。
「んん〜!素直!では順次、マナーを守ってお縄についてくれよ!妙なことはしないでね?」
ギロリと睨みつけるがそれだけでここまで抑止力を発揮できるのは彼だけだろう。実際に彼が移動するだけでその地方の犯罪率が変わるのだから動く社会現象と言える。
「う、うう……」
一人のヴィランがその場でうずくまってえづき始めた。
「おい!やめとけって。何するつもりだ?こうなったらもう終わりだろうが!」
「デトロイト……」
平和の象徴が生むをいわさずに拳を固めて、弓矢のように引き絞っている。
「ちょっ!ちょっと待ってください!こいつそんな無謀なことするやつじゃ……。ていうか、うわあ!どうしたお前!」
嘔吐する男は真っ黒な何かを吐き出した。
ドス黒い血かと思えば、それはあまりに真っ直ぐ黒すぎる。彼はその泥のような何かに飲み込まれて、消えていく。
誰もがその光景を戦慄して眺めていたが、彼が消えた空間に再び先ほどの黒が発生した。泥が空間から溢れ出して、勢いを増していく。どこから湧き出たかわからない汚泥。そこから人の手が出てきたと思えば、スーツ姿の長身の男性が現れる。
朗らかな微笑みを携えた白髪の男は、静かにそこにいる。鼻筋がはっきりと通った日本人離れしたような顔立ち。
「重要な仕事だから色々保険をかけておいたのに失敗とは。変だと思ったら君だったのかオールマイト。なぜここに?」
重厚な声が響く。聞くものを威圧するような強者の声だった。
「というか、君たちらしくないぜ。ヒーローはいつも事件が起こってからマイナスをゼロにするばかり。だからこそ君と戦うのはもう少し先の予定だったけど、まぁいい。30年かけた
「オールフォーワン!!!」
相手を呼ぶ声がしたと思えば、すでにオールマイトの姿はなく声が後から響いていた。
音を置き去りにする速度でオールマイトが突っ込んだらしい。
オールマイトが、止められている。
拳が相手の顔に届かず何かに阻まれて届かない。九州から一瞬で移動できた最強がたったの50cmほどの距離を詰めることができてない。
「聞こえているよオールマイト。古き友よ。ワンフォーオールはまだそこにあるのかな。もう誰かに託したかい?結構、君も歳だからねえ」
緑色にうっすらと光る何かが守り、英雄の拳を阻んでいる。
防がれたのなら連打するまでと、切り替えて左のフックへと移行する。懐から飛び出してそれをガードしたのは、金属の塊だった。
「聖書を円運動させて動かせる個性。性能は高いがあまりに限定的だと思わないか?」
どこからか飛んでくる金属の群れが、英雄を襲う。回転しながら壁を、窓を破壊し尽くして銀行内に侵入し暴れ狂っている。
オールマイトが迎撃するが、その金属塊を撃ち落とすことができてない。弾いてもまるで惑星のように回転を続け、もう一度襲いかかってくる。
「でも、タングステン合金でA3サイズの聖書を作ったならそれを遺憾無く使うこともできる。個性の運用というのは面白いだろう?工夫と組み合わせ次第さ。やりすぎると一方的で面白く無くなってしまうけれど」
「っぐ!みんな一度避難してくれ!ここは私が……」
「独り占めは良くないな。ほら、みんな一緒に味わってくれ。『ダメージゾーン』『拡大』。君は余裕で動けるだろうが、他はどうかな?」
オールフォーワンの体を中心に何かが放たれ、そして体ががくりと落ちるような衝撃が走る。ジクジクという痛みが蝕み始める。逃げ始めていた者たちの足は止まりその場で足を引き摺るように動きが遅くなる。
なぜかニンニクのような刺激臭がして、それに気を回せないほどの痛みを与えられ続けていた。
オールマイトは逡巡するが、即座に決断。元凶を叩くべく再び跳躍した。
「さっきと同じだろうそれは。それじゃあ攻略どころか一歩を動かすこともできないぜ?」
再び緑の光に止められる。そして続け様に飛んでくる聖書に脇を抉られるが、どうにか堪えてもう一発を叩き込もうとするとまたもや新たな光が飛んできた。
白と黒の軌跡を残す光弾がオールマイトを焼いていく。その圧に押されて再び距離を取ることを強制されてしまう。
「『光弾付与』『鳩』『調教』。なぜかこの光弾は動物に付与すると威力が上がるらしくてね。ふざけたような見た目だけれど、威力は真面目だよ。その身で確かめてくれただろう。ほら、そんなに逃げるならこちらからも攻撃してみよう」
黒い鳩と白い鳩が同時に飛び出した。スーツの懐から鳩が飛んでくるというのはまるで手品を見ているようだが、それが生み出す圧力はタネも仕掛けもなくただ殺意だけを感じさせる。
白い鳩は柔らかな風を切り、まるで光そのものを生み出すように白い光を放って円を描く。
黒い鳩はその後を追い、夜の欠片をまき散らすように丸く影を引く。
オールマイトがそれを受け止めると、光が集中した部分から小さくではあるが出血した。
ナイトアイはそれを見て驚愕し、どうにか援護をしようと動き始める。
けれど次の準備をさせることもなく次が来る。
「『魔弾』『跳弾』『複写』。さぁみんなを守りながら、どこまで耐えられる?」
菱形の金属片が掌から飛び出して獲物を狙う。オールマイトは避けるが、そのまま魔弾は直進し、壁に当たると速度を落とさずに部屋の中を反射して動き続ける。
飛来する聖書と魔弾を捌きつつ、追ってくる鳩の光弾をどうにか耐える。それらを同時に行なっているのは驚異的だが、それでも動きは段々と遅くなっていく。
それでも誰一人として死なない。死んでいない。
死んでいない。だけだった。
「なぁオールマイト。これはもう詰みじゃないのか?」
巨悪は気軽に笑う。彼は最初から一歩も動いてすらいない。
「君とは以前の僕で戦ってみたかった。前なら思いっきりパワー系の個性を集めて力勝負でもしたかもしれない。右腕にありったけのパワーを集めたりしてね。それもきっと楽しかっただろうぜ」
「まだ、まだ私は戦える。私はお前を、お前を決して許さない」
「許す許さないの話じゃないんだ。そしてまだ戦えるとは言うが、君はもう消耗していくだけ。僕はこれから手数を増やすこともできる。その現実をどうして認められないんだ?」
「……ヒーローだからさ。助けてと誰かが思う限りは、負けられないんだ。決してね」
「はっは。立派だよ。言っておくがねオールマイト。僕は以前に負けた。同じやつに
ニヤリと笑い。得意気に敗北を語るその姿はオールマイトが師匠から聞いていた人物像とは異なるようで、違和感が拭えない。かつて師匠を追い詰めた時にはここまで言葉を交わすことはできなかったと今気づいた。
オールマイトはこの宿敵のことをほとんど何も知らない。
「考えているだけ、願っているだけじゃ何もできない。現実はそうはならない。幸運にも誰かが実現してくれたとしても、それは決して続かない。君は彼らを助けているが、このダメージゾーンはあと3分も喰らっていれば体が弱い老人などは死ぬだろう。無駄話をしている間に先ほど消えたシールドは回復するし、君は追い詰められていく。ヒーローっていうのはね。たまたまうまくいったやつが次に失敗するまでの期間呼ばれるあだ名なんだよ」
両手をかざして何かをする予備動作を始めるが、オールマイトはそれを止めることができない。
その時に、緑の光が再び光って消えた。何かが激突し、それを消費させたようだった。
「ナイトアイ。つまらない個性の君は眼中にないんだ。前に言っただろう。個性が成長するかと思って片目は残しておいてあげたが、その後の調子はどうかな? その自慢の身体能力で頑張ると言っても限界はある。君も向き合うといい。理想や未来などではなく。現実と現在というものに」
超重量の投擲物も完全に無視して、一部の聖書を向けるだけでナイトアイは回避以外に何もできなくなる。
「もちろん気づいていると思うけど。これまでの攻撃は全部、話をしたいから手加減してたんだぜ?だってそうだろう。範囲攻撃はせずに余波も小さい攻撃をわざわざしてやる理由はない。これで、詰みだ」
両手から天井まで焦がすような無数の炎の塊が生み出され、そして圧縮された。
見ているだけで激痛に体すら動かせなかった淡輝は、その炎の一つが向かった先をやけにくっきり捉えていた。
司書先生が激痛に苦しみ、倒れている待合室のソファー。それを許してしまえば、淡輝は決して自分を許せなくなる気がして。いや、よくわからない。この時自分が何を考えていたかなんて覚えていないが、それでも体は動いていて。彼女を守るように飛び出すことができたのだった。
炎が直撃し、全身を炙られる。その威力に焦げながら転がり、そして先生の足元にたどり着く。
「嘘、なんで、生徒が?いや、いやぁ!死なないで……」
「淡輝!淡輝ぃ!!」
先生とお父さんが一緒にいるなんて、ちょっと不思議だ。初めて二人が並んでいるのを見た。
これまで無数のやり直し。その度に銀行で一緒に殺されていただろうに、初めて見たのはようやく今だ。
あいつの言うとおりだ。どれほど現実から逃げ続けていたのか目の当たりにさせられる。
子どもが自らの命を投げ打って人を救い、死んでいく時それは起きた。
「ヒーローは、いつだって命懸け。こんな子供に諭されるとは、本当に見えていなかったらしい」
涙を流すその目は、すでに悲しみを超えている。
それを起こした敵にだけ注がれる感情は、敵意でも憎悪でもなく。平和への渇望だった。
「ユナイテッド」
聖書が殺到し、魔弾が体に穴を開ける。それらを無視して、オールマイトは踏み込んだ。
「ステイツ オブ」
ノーガードで受け止めた光弾に頭部が削れて脳が見えるほどに傷を受ける。血ではない体液が飛び散って、その人物の死を周囲に知らせている。頭が欠けると人間なら誰でも死ぬ。そんな当たり前を英雄は行動だけで否定する。
「スマッシュ!!」
捨て身の拳は、もはや光を放っていた。平和への強迫観念。あまりに強い狂気が込められたその拳は、タングステンの聖書をまるで紙のようにちぎりながら悪の元凶へと向かっていく。
聖句が彫られた金属の紙吹雪が舞い散る中、手が届く範囲まで肉薄した。
「どれだけ強くとも。一発ならば意味はない……」
緑の光と相殺されたその衝撃は守りを突破できない。本人には汚れひとつついておらず何も残さない。まさに無駄。
そのはずだった。
黒い手がオールマイトから無数に発生し、そして鞭のようにしなったかと思えば、手刀や拳、ラリアット、ストレート。あらゆる拳撃へと形を変えて殺到する。
先ほどと似たような威力の手が無数に伸ばされ、追い詰める。
「これは……『黒鞭』か!?なぜお前が……!」
何か心当たりがあるようで、オールフォーワンは初めて明確に動揺する。
ようやく足を一歩引いて体が本能的に逃げようとする。しかし、複数の光を纏っていたようでそれと相殺されていく。
「先ほどの動作を溜めて『発勁』か。そんなくだらないものでは」
まるで光そのものになるかのように体が動き、血と臓物と脳を撒き散らしながらも敵に迫るのはまさに人を超えたヒーローだった。
あまりに孤独で、あまりに傷つき、そして決して諦めない。超人の拳が今、届く。
「『硬化』『防御』『衝撃吸収』『盾』『衝撃変換』『クッション』『力場』」
無数の個性が迎え撃つ。その一撃をどうにか防ぐために全てが十全に機能した。理論上は完璧な防護が展開されている。
「UNITED STATES OF SMASH!!!!!!」
その上から彼の拳は全てを無視して叩き潰し、地面ごと相手の頭部を粉砕する。
地震が起こり、空が割れるような威力のそれを喰らって生存が可能な生物などいなかった。
オールマイトはこの相手であっても殺してしまったことを後悔し、そしてまだ生きている者たちを見ながら力尽きていく。
お師匠。母さん……。私は……。
その内心の独白を聞けたものもおらず、きっと最後まで言い切ることもできなかっただろう。しかし彼はやるべきことを終え、そして若者たちへと個性ではなく可能性を受け継いでいくことに満足して死んでいく。
オールマイト。本名八木俊典は幸福のうちに死ぬことができた。それは間違いなく幸運であっただろう。
その5秒後には、決して認め難い声がその場所に響いたのだから。
「おいおいおい。まさか、まさかだぜ。『超再生』が間に合わず、『復活』を使わせられることになるとは。本当にそれはワンフォーオールか?今までとあまりに違いすぎるだろう。お前は一体なんだったんだ?」
緊張をほぐすように息をつき、焦ったことを隠してすらいない。
オールフォーワンがそこに無傷で立ち上がる。
「ああ、せっかくの個性とスーツがダメになってしまったよ。しかし、さようならだオールマイト。弟は返してもらおう。一番ヒーローに近かった男として君のことは覚えておく」
意識が消失し、肉体も活動を終えようとしているオールマイトに触れると、とてつもなく大きな何かが英雄から失われるのを誰もが感じる。
慟哭が、悲鳴が、嘆く声が魔王の誕生を祝っているようだった。
狩峰淡輝はそれらを呆然と漠然と、なんとなしに死にながら見ていた。そしていよいよ死ぬと、意識はいつも通りに覚醒する。
あーたーらしーい朝が来た。きぼーうの朝だ。
喜びに胸をひーらけ。大空あーおーげー。
希望などは打ち砕かれ、現実がただやってきた。
狩峰淡輝は絶望する。
この世界で最も強いヒーローでも勝てない巨悪。それが家族を殺そうとしている事実に対して。
自身を転送することはできないという『泥ワープ』の条件は原作と変わらぬままです。