夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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グラウンドゼロ

あまりに長かったこの戦いだったが、ようやくゴールが見え始めていた。

 

最初にナイトアイを頼った時が懐かしい。もはやこの銀行は勝手知ったる庭のようなものであり、この中にいる人たちは長年付き合いのある友人と言えるかもしれない。

 

驚くほどこの環境のことを知っている。知り尽くしている。

この銀行にいるすべての人間がどんな性格でどんな道を辿ってここにきたのかを知っている。

 

今日、この瞬間のこの場所だけに限って自分に知らないことはない。

それでも毎度、出し得の攻撃しかしないオールフォーワンには勝てなかったがそれでも綻びはみつけている。

 

 

 

オールマイトが現れると、その後2分ほどでオールフォーワンがやってくる。連絡がついたら即座にやってくるのだ。あの謎のワープで唐突にどこにでも。

 

銀行でやっても。他の場所で襲撃班を制圧しても全部同じだった。近々戦うつもりであったことを仄めかす言葉をよく使うため多少予定を前倒しにしても問題ない範囲のトラブルと認識されているようだった。

 

「過去と現在をどこまでも観察しろ。そうすれば未来まで見えるはずだ」

 

ナイトアイの助言に従って、知れる限りのことを調べた。

ワープは全部同じなのか?若干の差はないかと観察していく。オールフォーワンの癖のようなものや使う言葉、オールマイトの何に反応して執着するのかもずっと見ている。

 

あいつは無意識に個性を()()()()している。2度だけ、全く別の黒い霧のようなもので出てきたことがあった。調整中だというのになどと愚痴っていたこともあったが、あれは本拠地から一定距離以上離れた場合に起こるとしたらどうだろうか。

 

泥ワープの有効距離を仮定して、そして円を地図に重ねていく。

 

離れても手段を変えてどっちにしろ現れるなら意味がないだろうか?

 

いいや、そうではない。

 

逆に考えるとこの情報も活用できる。

つまりは、あのワープが必要ないくらい近場ならどうなるか。ということだ。

 

わざわざ転移をする必要もないくらい目と鼻の先、そこで事件が起きたならあいつはわざわざ移動の個性を使わないのでは?

 

その仮定から、あいつをあらゆる場所に呼び出した。

 

大雑把な区ごとに変更して、そしてさらに一丁目などの住所から細分化して相手の反応を覚えていく。

 

そして見つけた。あいつが泥ワープすら使わずに影から這い出てくる場所を。そこからはしらみつぶしに当たっていく。頭の悪い総当たりをやってしまえば良いのだ。付近のビルにオールマイトとナイトアイを送り込みノックをさせる。そして奴が出てくれば大当たりだ。

 

そこにいるという情報を渡して突入させるため、空振った時には恥ずかしい思いをさせるのだがそんなことを気にするような二人ではない。

 

スマートとは言えないが確実なその調査によってついに特定に至る。そうして見つけたのは製薬会社のオフィスビル。その地下に奴がいる。別にバンカーに篭っているというわけじゃない。普通のオフィスビルの地下区画を借りているだけだった。

 

永遠に感じるほどの苦痛を与えてくれた張本人。ここまでの仇など人類史上を遡ってもいないだろう。親と恩師と自分を何度殺してくれたのだろうかこいつは。

 

やり直しをフル活用して、ようやくこちらからの先制攻撃を与えられる可能性が出てきた。

 

 

必要なのは完璧な不意打ち。そしてあのしぶとい生き物を殺し続けるという無茶だった。

だけれどやってやろうじゃないか。無限に挑戦できるなら不可能などあり得ないということを叩きつけてやる。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・

 

コスチュームがなければ少し肌寒かっただろう。空気が薄い。だからこそ胸いっぱいにそれを吸い込んだ。

 

自分でも加速はしたが、それでもまるで魔法のマントのようにここまで運んでくれた。ホークスの個性である『剛翼』は羽が独立して飛行して様々な機動をできるというものだった。重かっただろうに羽の一つ一つにお礼を言いたい。よし。本人にも言おう。

 

「ありがとう。私は行くよ」

 

『ここからの修正はGPSを見て大体の誘導になりますから、最後は自力で修正をお願いしますね』

 

こちらからの音を伝えるには、もう速度を出しすぎた。加速することで返事とすることにした。

今まさに、翼に押され、大地の重力に引かれて全盛期に近い速度へと近づいていく。

 

直下で加速してしまえば一瞬で地面についてしまうため、斜めからのコースで加速する距離を稼いだ。それは十分な溜めを実現してくれている。

 

かつて憧れたあのヒーローのように。オールマイトは流星となって空気を押しのけ、空を切り裂いていく。英雄が天から地へと落ちていく猛烈な速度の中では空気が壁のようにぶつかってくるが、それらを容易くぶち抜いて加速をし続ける。

 

「ついてくる気か?燃えてしまうぞ」

 

まるで一つ一つに意志があるかのようにオールマイトの背を押す羽たち。それは落下というにはあまりにも速すぎる。そして今なお加速し続けていた。

 

大気が拳にぶつかり、まるで石を砕くような抵抗が骨の芯まで響く。空気の摩擦は一瞬でプラズマを生み、腕の輪郭が淡い橙色に包まれた。

 

 

誰も測ってなどいないが、客観的に見ているものがいれば増えていく数字を幻視しただろう。

 

4…5…6…7…8………ここまで至ること自体、あり得ない偉業であるのだがさらに数字は上がっていく。

 

9…。もはや何も彼を止めることは出来ない。

 

 

そして………10に到達した。

 

 

マッハ10とは、音の10倍の速度という意味であり秒速およそ3.4キロである。

 

彼の体は、その速度で空気の海を切り裂いている。柔らかな風や抵抗のない気体というものはその世界には存在していない。

 

空気は壁だ。加速を阻み、常人の世界へと引き戻そうとする世界のブレーキに包まれている。突き出した拳の前には常に高密度の衝撃波が生まれ、まるで布のように彼を包む。

 

フィクションの中の空飛ぶヒーローたちが拳を突き出しているのはきっと、空気の壁を殴り飛ばし衝撃を避けるためなのだろう。

 

加速はできるが、微妙な調整は難しい。それをホークスの『剛翼』たちが燃えながらも修正していく。オールマイトも可能な限りその羽を守る意識をしつつ、大部分を加速へと費やしていく。最後には直下型の落下にしなければ周囲の被害が甚大なことになってしまう。

 

 

 

音速の十倍で進む彼の背後には、幾重もの衝撃波が連なり、その尾は雷鳴のような轟音を地表に叩きつける。

 

自身を守るよりも翼たちをどうにか守ってあげたいと願えば個性が応えてくれる。それでも燃えていく翼たちは最後の最後まで微調整を繰り返してくれた。

 

天に向かって翼が溶けていった英雄はいたが、太陽からこれほど速く遠ざかり、地に向かいながら翼を溶かしたものはいなかっただろう。オールマイトの脚力は容易に音の壁を超える。それを使って空中で機動することもあるのだが、ここまで直線的に力を失わない方向に加速するのは初めてだった。

 

空気を蹴る音が上空から響くが、そんな音は遥か後方に置き去りにしていく。

 

師匠が背中を押してくれている気がする。それはまさしく『浮遊』などでは説明のできない加速だった。

 

重力と加速度が臓器を圧し潰そうとするが、彼の筋肉は金属よりも強靭にそれを押し返す。ふと、視界の端に稲光が走った。だが、それは彼自身の衝撃波が発生させた放電である。

 

体内では、血液がわずかに泡立っている。頑健な自身の肉体はこの衝撃と熱でも問題はない。全盛期には走るだけでマッハ10を出したこともあったのだから。

 

血湧き肉躍るような飛翔を体現して彼はきた。

 

目当ての街がありえない速度で大きくなっていく。目線の先に捉えたと思えば次の瞬間にはその上空を飛んでいる。

 

 

完璧な角度。完璧な速度。

 

 

「やってくれ。ヒーローなんだろ?」

 

狩人の奥底から、狩峰淡輝も思わずつぶやいた。

 

 

そして神野区に隕石が落ちた。

 

 

 

I am here(わたしが きた)

 

 

 

音と光が消えたかと錯覚するほどに、ここまで溜め込んできたあらゆるエネルギーが地に満たされる。不自然なほど集中する爆発と衝撃は内部を徹底的に破壊し尽くすが、上空へとあらゆるエネルギーを誘導している何かがあった。

 

オールフォーワンはこの事態を全く想定できていない。バンカーバスターのような地中貫通兵器を使用できる国はすでに掌握済みであるし、日米の防空網を掻い潜ってこの日本のど真ん中を空爆できる能力を持つ航空戦力などは存在し得ないからだ。

 

自分を脅かすことができる暴力をNO.1ヒーローは持っているが、人命を尊重する脳筋に負ける道理はない。無辜の市民を盾にしておけば決して奇襲など受けないはずだった。

 

しかし、この時このビルと付近においてはエンデヴァーによる銀行襲撃犯の捕縛が行われておりその影響で複数のビルの消火装置が作動して、一般人は避難したばかりであった。これは相手目線では不幸と片付けるしかない。

 

 

というか、やはり着弾の被害規模がおかしい。

 

ビルだった何かが崩れるクレーターの中心で、オールマイトは拳で大地と宿敵を捉えている。

三点のみが接地しているその姿はまさにヒーロー。スーパーヒーロー着地なんて呼ばれる体勢を実際に機能させているのはおかしな話だ。

 

おかしいのは断じて自分の頭なんかじゃない。やはり、一番おかしいのは彼の筋肉だ。

 

オールフォーワンがオールマイトへの精神攻撃に余念がなかったのは何より重要な戦略であったと証明された。マッハ10で地表にぶつかって問題がないなら、他のどんな攻撃にも無敵と言えるはずなのに。それでも彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で怪我をする。

 

エネルギーとしての比較に意味はない。この二つの現象には大きな物理的矛盾が潜んでいるが、説明としては彼の気持ち次第ということらしい。

 

精神だけで現実を凌駕するのが英雄ということだろうか。

 

この規模の破壊を引き起こしておいて、周囲のビルは窓が割れただけで済んでいる。意味がわからなかった。このビルの中にいる人間だけを避難させればひとまずは大丈夫というのは見ても信じ難い。この目で見ないととても信じることはできないだろう。

 

 

 

 

 

グラウンドゼロとでも表現すべきクレーターの中心に彼は立つ。

 

そして、今まさに目の前で炎になって蘇ろうとするのは不死の怪物。それの頭部が再生し切る前に、オールマイトの拳がそいつの胸に叩き込まれる。

 

オールフォーワンにとってはまたしてもあり得ない事態。敵を殺す気で殴るというのはオールマイトは絶対にしないと確信できていたのに、それが異なってしまっている。何度殺せば死なないのかを完璧に把握し、それを信頼して殺してもらうことで本来あり得ない殺戮を引き受けてもらっていた。

 

12回。こいつは12回も死を回避できる個性を持っている。

 

だから12回は思いっきり殴って殺していい。そうしないと決して勝てないと訴えてそれが通った。一度13回だと嘘をついたこともあるが、彼は騙されなかった。なぜか嘘は見抜かれるため本当のことを言うしかない。

 

オールマイトの打撃は特殊だ。殴られたけれど致命傷を負わず、気力やスタミナを持っていかれて動けなくなる。

 

拳が土と肉を打つたび、音が低く空気を震わせる。一つ、また一つ。規則的なリズムはまるで機械のように続き、地面は少しずつ窪んでいく。

 

殴るごとに土が崩れ、全霊の力が地面に刻まれていく。オールマイトは最後の最後まで全力で拳を叩き込み、もはや掘削に近いほどのラッシュを中断する。

 

オールフォーワンは何をされたのかもわからないまま、残機を最後の一つにされて全ての力を奪われた。

 

 

「これで、勝ったと思うか……?」

 

マウントを取ることで、大穴を生み出したオールマイトに殴られ続けた方が語りかける。

 

「どうだろうね。秘策があっても殴り抜けるさ」

 

しかし、それでも備えていたのだろう。意識とは無関係に条件付けされた個性『逆境』が発動してしまう。追い詰められるほどに力を増すというシンプルな個性であるが、今の彼がそれで立ち上がれば『超再生』は強化され復活に近い効能を発揮するだろう。

 

 

けれど、それは起きなかった。

 

 

「見て欲しいものがあるって言っても限度があるでしょうに。こちとらまだ新人、チームアップでのサポートメインだったんですがね」

 

「これもサポートであるしチームだろう。君が来てくれて助かった。あれは何をするかわからないからな」

 

クレーターの淵からその中心を覗くのは、ナイトアイと彼が呼びつけたアングラ系のプロヒーロー。イレイザーヘッドが発動する個性を『抹消』するためにそこにいた。

 

しかし、瀕死の巨悪はそれでも凄惨に笑った。

 

「ああ、当然抹消を使うだろうね。見れば終わりの無効化。日本に今ある妨害系個性14種のうちでも、あれは特に便利だからなぁ。でもそれじゃあ、ありきたり過ぎる」

 

オールフォーワンは日本の個性登録情報を牛耳っている。アングラ系ヒーローの新人とはいえ、その情報網に登録しているヒーローが引っかからないはずはない。そして既知の個性ならオールフォーワンに対策ができないものはない。

 

「さてここで問題だ。見て発動する個性と、見られて発動する個性。この二つがぶつかった時、一体どうなると思う?」

 

 

『抹消』の個性が発動し、そしてオールフォーワンの個性が発動して抹消される。

 

もしイレイザーの個性が見たものの個性を一定時間消す。などであれば有効だっただろうが、彼は相手を見続けなければいけない。

 

目に針を刺したような痛みが走る目潰しの個性が発動し、そして次には驚愕が訪れる。

 

 

 

……!?

 

 

()()()()()()()()()()()は、個性が『抹消』されている事実に対してではない。

 

『抹消』対策が機能していないことに対する驚きだった。ナイトアイを睨むが、それを準備させたのは彼じゃない。

 

狩人は凄惨に笑った。

 

「見たら発動する個性があるなら、見られたら発動する個性だってある。『目潰し』を常時使っているから安心してたんだろ?妨害系個性は相性が悪いってのはせめてもの救いだったよ」

 

『ああ、完全に対策ができていると驕っているものほど足元を掬われるようだ。次は君の番かもしれないね?』

 

幻覚のゲールマンがうるさい。

 

見る個性と見られる個性。発動条件が同時発生する状況はどうなるかという問いへの答えは『両方が発動する』というものだった。この実験を出来ているのは世界でもオールフォーワンと狩峰淡輝のみ。それだけ稀有な事象である。

 

だから『抹消』は一瞬だけ受けても、同時発動する目潰しで中断ができるはずだった。それらの発動は同時なのだから。

 

そして、目潰し自体は発動していた。問題は目に針を刺されるような激痛を受けても一切視線を切られていないという状況にある。

 

もはや呆れ声であるが、それでも感心は隠せないようでイレイザーヘッドは素直に賞賛する。

 

「ここまでやりますか、自分は合理的だと思ってましたが反省しますよ。あなたはどこまで見えているんです?」

 

「私ではない。これは子どもの発想だよ。このアイデアに感心するなら、雄英高校の教職につくといい。これは予言だが、きっと似合うぞ」

 

相澤の目蓋は、これまた別のヒーローのロックという個性で固定化されていた。目を物理的に閉じられない状態で、そしてゴーグルをさせられている。

 

ゴーグルの中には目薬が満たされており、瞬きをしなくて済む仕掛けであった。さらには眼球周辺に部分麻酔すら施しており、痛みも感じていない。

 

抹消という秘策の対策。さらにそれの対策までを行なってようやく戦いは収束に向かう。

 

『逆境』は発動せず、体はもうボロボロの死ぬ寸前。そして個性は封じられている。ナイトアイが素早く駆け寄って、麻酔や筋弛緩剤などの薬品を投与して制圧は完了だ。

 

 

あまりに遠すぎたゴール。それを通り越したのだと気づいても、いまいち実感が湧いてこない。

 

 

狩峰淡輝はいまだに信じられないのだ。自分は負けるものであり、オールフォーワンが勝つことが

この何年もの間の当たり前だったから。

 

それでも人間が音速の10倍で着弾して噴煙が上り、そして拳の風圧でそれらが散らされた空を見ると信じざるを得なくなっていく。

太陽が眩しく街を照らしていた。街の人々は突然の激闘についていけず、普通ではない静寂が街を支配しているようだった。

 

 

マッハ10で市街地に着弾して日本の支配者をボコボコにするという事実を知るものは本当に僅かだ。平和の象徴による蛮行という想像など誰もしない。隕石の落下をオールマイトが防いだというシナリオを通すことになるだろう。

 

政治家たちとの戦いはどれだけ高く見積もっても障害にはなり得ない。支配者を失った家畜など今更敵じゃない。狩る必要もなく。ただ一部を刈り取るだけになるだろう。

 

ようやくこの地獄が終わった実感が駆け上がってきて、夕焼けを浴びていつぶりかの喜びを感じる。

 

彼なりの笑顔を必死に思い出し、傷だらけでも立っている英雄たちを憧れるような目で眺めるのだった。

 

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