夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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試験前に桃

爆発は予定時刻通り、その対応も完璧だった。不意を打てないテロは脅威などになり得ない。

 

その爆発はもはや宣伝のための花火であって、どのように活かすかはこちら次第だ。

 

『先ほどの、横浜の港で起きた複数のヴィランによるガソリンスタンドの爆破未遂事件ですが、続報が入りました。起爆用の爆弾は個性によるものであり、それによってタンクへと引火する危険がありましたが、タンクは空になっており引火をしていなかったようです。また、サーナイトアイのお手柄ですね!そして実行犯のヴィランへと迫るのはやはり平和の象徴。あの人です!』

 

映像が切り替わり、監視カメラの録画が映される。

 

刃物を振りかざしてスタッフを脅しつけている敵たちは、結構若い集団だった。おそらくUAIランドの寄港を台無しにしてやろうというどこかしらの勢力に雇われたのだろう。人を殺す予定はなかったようで、脅しつつ逃しているようだった。まぁレジの金に手をつけている時点でアウトではあるが、最低限のラインは守っている。

 

彼らは個性で光る球を生み出して、タンクへとぶつけた。

そして、それ以上のことが起きなかった。

 

あれ?なんで?という雰囲気。二度三度とぶつけて爆破するも、タンクが損壊していくだけ。

 

気まずそうに顔を見合わせて、そして喧嘩が始まったその時。

 

「私が来た!!」

 

遠くからの引きの映像であるが、決め台詞はバッチリ届いていた。

そう言うと同時に、二人の敵の頭を掴んで高速で揺らすオールマイト。登場と同時に二人を撃沈して、颯爽とポーズを決めている。

 

残る二人は爆破に失敗し、そして目前の平和の圧倒的なフィジカルを見て震えている。

 

『残るヴィランは抵抗せずに出頭し、無事に事件解決となりました。その後駆けつけたレポーターがコメントをもらおうとするのですが、次があるからとオールマイトは空へと飛んでいったとのことです』

 

そうしてオールマイトはこの寄港を台無しにしようとしているいくつかの敵を潰しまわって帰還した。この間なんと30分である。一件あたり約6分のスピード解決だ。

 

彼の勇姿は良い宣伝材料になるため、危険度の低いものは事件を起こすのを見守ってあげた形である。ちなみに当然だが、自分が未来を知っていることを共有しているのはごく一部の信頼できる人だけだ。

 

未来の情報が一介の学生から出てくるなんて怪しすぎるので、ナイトアイの個性が進化した末にこんな反則になりましたというカバーストーリーを広げている。全部ナイトアイに押し付けさせてもらっている。本当にありがとうございます。そしてごめんなさい。

 

おかげさまでナイトアイは世界中のテロ組織や独裁者。ヴィランたちからオールマイト以上に狙われている状況になったため、表舞台からは姿を消した。

 

今でも様々な情報を世界各国に提供し続けており、彼がオールマイトのサイドキックを自ら名乗っていなければ、世界一のヒーローと呼ばれていてもおかしくないほどだ。

 

何せ彼は、犯罪や災害を予防しているように見えるのだから。

 

そんな報道が映っているのはUAIの内部を走るシャトルの画面だった。事件発生と解決という日常を見届ける頃にはようやく目的地についたようだった。

 

やってきました。試験会場。みんながごくりと唾を飲み込む。

 

受験生たちは全部があるビルに案内された。

全てとは一体どういうことか気になるだろうが、全部と言ったら全部だ。

 

衣食住は当然。娯楽もあらゆるものが揃っている完璧な娯楽施設が待機場所であり、試験開始まで過ごす場所として指定されている。

 

「おいこれ日本じゃまだ発売してないやつだろ!」

 

「最新からレトロまでゲームの品揃えもすげぇ。世界のどんなゲーセンより広くない?」

 

「ジラピケあるんですけど!見たことないのばっかり!すごーい!!」

 

若者にとっては刺激的すぎる店がそこら中にある複合施設がこの場所だ。元々『Iアイランド』計画では観光用の施設だったがそれを活用した形である。

 

この世界で買えるものならなんでもあるのではないかと思うほどの品揃えと店構え。

 

ゲーセンがやけに充実しているのは自分の趣味ですはい。特にレトロゲームが良い。PS6とかもうどこでもプレイできないからな。

 

これは居住者に限った機能だが店がなくてもタッチパネルでオーダーすれば、在庫の限り対応してくれる。なければ輸入すらし始める。そんな最新最高の品物を置いたモールのような空間が広がっている。

 

別の階には運動場や訓練場。図書館や自習室など、本当になんでもあるのがここだった。

 

受験は明日のため今日はここで時間を過ごすことになる。それどころか宿泊の部屋も用意されており、日本に戻るまでは豪華な個室を自室として使うことができる。

 

これだけでも来てよかったとこの時点で誰もが思うほどに、この未来都市は受験生の心を鷲掴みにしている。

 

フハハ。もっと惑え。暗黒面の力は素晴らしいぞ!受験なんて忘れて遊んでしまえ!

 

しかしここまで選抜された者たちはそうそう羽目を外さないだろう。

アメリカ、イギリスからの参加者はまだ日本ほど多くなく各国100名ほど、日本の受験生は300名程度である。

 

例年通りのクラス人数であるならば100名あたり20名しか残らない倍率だ。応募数万の中から選ばれた300名という時点で凄まじいのだが、それゆえに最後の試練への緊張は高まっているはずだった。

 

「生まれ変わった雄英を受けるというのになんだ君たちは!物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」

 

メガネをかけた体格の良い受験生が他人を叱りつけている。ゲーセンにはしゃぐ男子もショッピングに嬉しい悲鳴を上げていた女子もその一喝に姿勢を正した。

確かにとも思うが、ライバルである受験生が遊びにうつつを抜かしてくれるなら得なのでは?

 

彼はどうやらヒーロー像や正義感がかなり強固で広いタイプのようだ。お節介で暑苦しくてイイネ!

 

「あの人すごいなぁ。人のことまで心配して、余裕あるんやなぁ」

 

心から感心している様子のフワフワした独り言は、先ほど緑谷を助けてくれた女子である。

視線が合って、ちょっとだけ気まずいがヒーロー志望は基本的に明るい人間が多い。コミュ障などそうそういない。

 

「あ、これ全然そういう皮肉と違うからね!?三重の方言だから!」

 

「さっきはどうも。俺は狩峰淡輝です。浮かせる個性、すごいですね」

 

次代の平和の象徴を目指すやつがコミュ障という深刻な問題から目を逸らしつつ、女子へと注目する。

 

 

「みみみ、緑谷出久でっす!あの、あれ、ありがとう!あの時転んでたら、みんなの邪魔するところだったよ」

 

「敬語も感謝もそんな、こそばゆいからやめて〜。私は麗日お茶子。よろしくね」

 

笑顔で自己紹介されて緑谷は硬直するが彼女の麗らかな雰囲気に巻き込まれ、のほほんとした空気が流れて自己紹介と雑談が始まりそうだった。

 

緑谷だって個性の話やヒーローの話題。受験についてなら流石に話せるだろう。

 

さぁ、行ってこい!高校デビューの始まりや!!

 

「おいデク!!テメェこら何逃げやがった!ある事ない事チクりやがってこのクソナードが!内申に傷がついただろうが!」

 

ガッデム!別のイベントが始まりやがった。女子耐性獲得とは絶対に同時進行できなさそうなやつがやってくる。

 

「かかかか、かっちゃん!?そっか、でもそうだよね。雄英受けるって言ってたし」

 

「転校までしてご苦労なこったなぁ!?どこ行って何してやがった?そんな風に体鍛えて、無駄だってわかんねぇのかよ。しまいにゃ女口説いて受験そっちのけってか?いつからお前はそんなに偉くなったんだ?あ゛あ゛!?」

 

「口説かれとらんし!」

 

麗日さんの抵抗は彼らに届かず、爆発的いちゃもんは激しくなっていく。

かつてのヘドロヴィラン事件でも関わり、緑谷と同じ中学だった爆豪の襲来に対して自分は何をするかというと……。

 

 

「あ〜、二人は幼馴染だから大丈夫。それよりあっちの図書館すごいっすよ。見ました?」

 

「あ〜。なるほど?見てないから見に行こうかな?」

 

空気を読みつつある麗日さんをエスコートしその場から離脱。緑谷は裏切り者を見る目でこちらを見ていた。恨みではなく絶望と助けてを眼球と冷や汗で表現しているがお生憎様。かっちゃん関連で手助けはしないと決めている。

 

「最終試験まで幼馴染も一緒とかすごいね。あんまり仲良くはなさそうだったけど……大丈夫かな?」

 

少し心配しているのだろう。振り返って緑谷の様子を彼女は伺うが、それでもいきなりお節介を焼きに行くようなタイプではないらしい。

 

「うわ〜。あそこでも喧嘩?男子って感じやねぇ……」

 

「いや、全然男子で括らないでほしい。あいつらちょっと野生すぎでしょ」

 

そう遠くない場所では、別の男子二人が至近距離で睨み合い、どちらかが手を出すのを待っているような緊張感で対峙していた。

 

一人は190cmくらいはあるだろう坊主頭の体格の良いやつ。野球部キャプテンといった風貌だ。ちなみにもう夏の甲子園はなくなった。気温が上がりすぎたのと個性による多様化に対応しきれなかったのだ。仕方ないね。

 

もう片方は、175cmくらいだろうか。白と赤のハーフアンドハーフな髪色をしている。

 

彼らは特に受験生の中でも能力が高く、事前に淡輝は知っていた。しかし爆豪と違って人格に問題はなかった……。いや、片方にはあったか。なんなら爆豪よりも問題を起こしていたりもする問題児だったわ。

 

とはいえ夜嵐イナサの方には問題はなかったはずなのに、何か因縁があるのだろう。

 

受験前の監視下でようやるわとため息をつきそうになるが、まぁ一旦は関係ない。後ほど報告を見ることとして図書館へと急ぐ。

 

だって、頼りになる先輩がこんな状況を放置するわけないのだから。

 

「おいおいおい。穏やかじゃないね!元気いっぱいすぎないか君たち!」

 

壁から顔がいきなり生えた。そして語りかけてくるホラーである。

そしてまた壁へと引っ込み、そして次の瞬間には床から顔が出てきた。

 

「雄英に入りたいのかい?」

 

また潜り、そして次は天井だ。

 

「入りたくないのかい?」

 

前後左右からの顔面だけカットインを行う彼の目前に、マントを投げる誰かがいた。

 

「どっち なん だい!!」

 

マントを受け取りつつ、局部を隠して登場するのは全裸の男。その場にいた者たちが悲鳴をあげる。

 

「ごめんごめん!クールダウンさせようと思ったのに激アツギャグをやるところだったよ。チョイスをミスるとこだった!」

 

雄英高校が誇る次代のトップヒーロー候補が公然猥褻(ギリ見えない)をしながら登場だ!

 

現在は二年生だが、もうすぐ三年生になる彼は期待の雄英生である。まだ卒業をしていない三年生を含めても現在の雄英高校で最も注目されている。

 

個性『透過』によって神出鬼没の移動を獲得した彼は、卒業すれば瞬く間に上位ヒーローになるだろうと言われるほどの逸材だ。

 

彼とはオンラインでよくやり取りを交わしていた。サー・ナイトアイ事務所のインターン生として、自分はバイトとして仕事上でやり取りが多かったから自然とそうなっていた。

 

ユーモアを大事にするヒーロー。ルミリオンに任せておけば大丈夫だろう。彼なら信頼できる。

 

よーし。図書館行って、ゲーセン行って、お買い物して寝ようっと。

 

 

 

-・・・ -・-・ --・-- -・--・ 

 

 

 

UAIランドが横浜を出発してから一晩が過ぎ、受験生たちは緊張した面持ちで部屋を出てくる。うん。みんな元気で何よりだ。

 

筆記試験は明日の予定であり、今日は丸一日が自由時間ということになっている。

普段の中学生なら自由時間なんて跳ね回って喜ぶだろうが、受験を目前にした彼らはそうはいかない。

 

いや、そういえば自分も受験生だったわ。でもこの試験問題も発案は自分だし、マッチポンプどころの騒ぎじゃない。

 

まぁ時間があってもなかなかリラックスはできないだろうがこれは仕方ない。

アメリカとイギリスの受験生たちへの時差ボケ配慮でもあり、この新環境に慣れるまでの猶予でもある。

 

そして当然ながらこれも試験の一環だ。明確に人に見られている本番以外でどう過ごすのか。そこに本来の人間性が垣間見えるのだからそこを見ない理由はない。

盗撮だって?いいや、これは合意の上だ。

 

この国へと入る時に全員がサインしたクッソ長い規約の中に情報収集には協力する旨が明記してある。共有部に限るが記録はしっかりとさせてもらうし、当然それはAIが分析して評価もつけている。

 

この一日はそれぞれが自由に過ごすことができるからこそ意味があるのだった。

性格悪くてすまん。でもみんな、本性を見せてくれ。

 

 

まず受験生たちは戸惑った。一体これは何の時間なの?と、素直に困惑している。

 

けれど時間は過ぎていく。各々がいますべき事を選んでやり始める。

 

リラックスのために娯楽施設で遊ぶもの。

人と話して情報交換をするもの。

運動をして体の調子を整えるもの。

部屋に引きこもり何かしらをしているもの。

 

それぞれに色が出始めている。良いぞ良いぞ。

現せ。もっと本性を現せ……。

 

黒幕じみた笑みを浮かべてはみたが、そこまで大きな差は生まれないとは思っている。

 

なぜなら、ここにいる時点で相当に優秀なのだから。中学3年生のなかでも最上位の上澄も上澄である。

事前の書類選考は非常に厳しいものにした。例年大量に受け入れていた記念受験の者たちを選考でふるい落とし、選ばれた者だけが受験資格を勝ち取ったのだ。

 

ヒーロー志望かつ日本で最も能力のあるものたちだけがここにいるため、大きな問題は起きない……

 

「おいお前らやめとけってなんでわざわざ喧嘩しそうなワードチョイスすんだよ!」

 

「こいつが絡んできてるだけだ。迷惑してる。俺に構うな」

 

「お邪魔だったみたいっスね!! 本当にそっくりでびっくりしちゃって、どうもすいませんっしたー!!!」

 

坊主頭は相当の高身長にも関わらず、おでこが床を叩くほどに深々と礼をする。その姿に、あまり謝罪の念は感じない。

 

「今なんて言った?」

 

問題なぞ早々起きんと思いきや、全然そんなことなかった。

 

特筆すべきは三人。

彼らはすでに初日から騒ぎを起こしているとびきりのバカ共である。今日も元気で非常によろしい。

 

轟焦凍と夜嵐イナサの諍いはちょっとした挨拶からの些細なものであるが、しまいには互いに個性を漲らせて張り合っており日本国内であったならそれだけで犯罪になるレベルだ。おいおいやり過ぎ。ヴィラン志望かな?

 

とはいえ轟焦凍の荒れようは理解できるものだった。その根本原因には流石に関係ないのだが、その親子及び家庭の問題を軽く悪化させたのは自分のせいと言ってもいいかもしれない。

 

端的にいえば、彼の父親であり恨みの対象であるエンデヴァーを逮捕した。

 

ヒーロー規範の改訂とそれを象徴した事件。実父であるNo.2ヒーロー、エンデヴァーの逮捕から数年。轟焦凍は問題行動を起こすようになっていた。学校や街中で起こる暴力や怒鳴り声、誰かの加害に対して過剰反応をしてしまい複数回、ヒーローが出動する事態を起こしている。

 

彼の復讐対象であったエンデヴァーの社会的地位が暴落し距離が離れても、解決したり溜飲が下がるような簡単な話ではなかったようだ。ここまで悪化するとは思わなかったが。

 

この場においては男気のある男子たちがそれぞれを押さえてくれたおかげで衝突せずに済んだようだった。止めてくれた人にはヒーローポインツ加算。彼らの顔を覚えておこう。

 

ようやくお互いに露骨に距離をとって関わらないようにし始めたようだ。

 

受験会場で喧嘩をしないなど当たり前だと思うだろうか、ここにそんな常識を爆破する男がもう一人いた。

 

「おいデク!テメェ昨日ので話が終わったとでも思ってんのか?ああ!?説明しろやクソナード!」

 

初日に緑谷に絡んだ金髪のツンツン頭の少年の名は爆豪勝己という。

 

 

「かかかかっっちゃん!?昨日ぶりだね!!?」

 

 

ああ、これはダメな方の緑谷くんだ。ハズレです。次の10連ガチャを回そう。

私怨丸出しのイチャモンに、苦手意識とトラウマとが染み付いたナード的な反応をすれば相手はさらに加熱していく。

 

しまいには胸ぐらまで掴んで今からでも受験をやめろと詰め寄ってくる始末。南シナ海を通り過ぎようとしているタイミングで無茶言うなっての。

 

この光景を見れば信じられないかもしれないが、爆豪勝己は優秀な人間だ。

 

緑谷と同じ中学の出身で成績は優秀、身体能力、個性ともに非常に秀でており単純な書類選考では余裕で通過する逸材。

どこのヒーロー科であっても余裕で合格するだけの実力が彼にはあった。

 

しかし、新たな雄英の選考基準においては除外されていた。

それは本来の内申書に書かれていなかった生活態度の内容であり、彼が『いじめ』を行っていたという重い事実である。

 

受験生全員を調べているわけではない。彼については緑谷出久の調査の際に合わせて調べをつけてあったから言ってしまえば偶然だ。

 

いじめをしていたというだけでヒーローとして不適格。余裕のスリーアウトどころか即レッドカードであるが、彼については全く別の観点から受験を認めた。というか入学をさせることを決めた。

 

理由はたった一つ。緑谷出久の成長のための障害として、超えるべき壁としての役割を務めてもらう予定である。彼にはどうあっても雄英に入学してもらう。

 

全ては後継の育成のために、どんな手段でも俺は使うと決めている。

次代の英雄にとってのトラウマや確執は全て乗り越えて成長してもらわなくてはいけない。

 

そのために、雄英高校は生まれ変わった。

本物のヒーローを育成するための機関になるのだ。

 

ただの人気ランキングへとなっていたヒーローのビルボードチャートも大いにテコ入れした結果、いくつも順位が変動している。

 

かつての支配者の影響が社会から排除されていくごとに、変化の波が日本中を襲っている。人々は変化を嫌がるものだけれど、反対運動などの能動的な行動をするものはすでにいない。

 

自らに抵抗する勢力や芽を刈り取り続けた結果が、これとは皮肉なものだ。全一君はきっとハンカチを噛みちぎっているだろう。

 

やはり財力。お金は大抵の事を解決する。マネーイズパワーなのだ。

 

財産と政治の圧倒的な暴力により国立だった雄英を私立にして買収し自由を確保。受験からカリキュラムまで本当に一から刷新して自分と緑谷の入学には間に合わせた。

 

多くを変えたがしかし、『Plus Ultra』というスローガンだけは続投させた。

 

良い言葉だ。しかし実践するためには壁がいる。

だからこそ雄英は常に試練を用意する。これまでのカリキュラムのような生ぬるいものではなく、本物の試練を。

 

真の英雄を生み出すための苦難を十分に計画してある。

 

そんな試練の一つとして期待していた爆豪が張り切ってくれているが、迫力が凄まじ過ぎて仲裁できる人がいなさそうだ。怖いもんね。

 

緑谷はこちらをチラチラと見ているが、残念ながら対かっちゃんについてはノータッチの方針だ。笑顔で手を振ってやり過ごす。絶望した表情の緑谷には後でアイスでも奢ってやろう。

 

 

誰も近づけなかった彼らの足元をふと見てしまった。

自分だけではない。その喧嘩を眺めていたものたちが全員そこを見た。

 

 

そこにあったのは……。

 

 

 

———『桃』

 

———のごとき尻だ。

 

 

「桃が()ってるよ!!」

 

 

自称桃の尻が主張している。が、その異様な光景に周囲は圧倒されている。

 

 

爆豪ですらそれにどう反応していいのかわからないようで、硬直していた。

 

「二日連続元気すぎだね君たちは!先生たちが見えないからって怖いもの知らずだよまったく!!」

 

雄英のトップであり、サーナイトアイに師事することにおいては年上の後輩でもあるミリオ先輩がまたしても危機に床から現れてくれる。

 

今回はヒーロースーツを着ているので全裸ではない。彼の体毛などから作られた特殊スーツは一緒に透過してくれるのだから、普段からパンツだけでもそれを履けと小言を言えば、それはできないと残念そうに断られた。多分理由はなさそうだった。

 

カラッとした気持ちの良い露出魔という矛盾した存在だが、まぁ大丈夫。実力的にも立場的にも彼らがルミリオンを無視できるわけもないのだ。

 

それぞれの因縁や新たな出会い。さまざまなものを載せながら世界最速、最大の船は大海原を進んでいく。

 

夜明けを背に夜を行く船を世界が待ちわびている。

 

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