夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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ヒーローとは

オールマイトの勝利のスタンディング。天に拳を突き出して健在を示すそのポーズを見て鳥肌が立った。

 

ニュースで何度も見たそれをずっとくだらないと冷笑していたが、過去の自分を殴りつけてやりたい。これに救われてしまったら、世界に光を取り戻してくれたあの背中を知ってしまったのなら。彼の立ち姿一つで、人の人生が変わるのだ。

 

ずっと見ていたいそんな光景も彼は人を救うために動き出すから、すぐになくなってしまう。

影は伸びて、やがて夜がやってくる。それでもなんだか、もう夜が来るのが怖くない気がした。

 

そういえばいつから眠っていないのだろう。眠り方を忘れてしまった気がする。笑い方もどうだろうか。あ、お腹が空いたかもしれない。

 

いつぶりかもわからない各種欲求を感じつつ一歩足を踏み出す。自分の影も歩幅を合わせて付いてくる。ずっと世話になり続けた狩人というもう一人の自分。彼にも感謝をしなくては。

 

足を止めて、ナイトアイの方を見ようとした時に違和感に気づいた。

 

影が、濃くなっていく。止まらない。

 

黒い残像が増えていく。まるで手のひらを広げるようになぜか自分の周囲を黒くしている。

 

指を開いたような手の形の影が落ちて、それが自分を包んでいた。

 

疑問に思って顔を上げると、そこには沈みかけの夕日があるだけ。

 

 

おかしい。これは変だ。

 

 

だって影が落ちてるのだから、光源と自分の間に何かがないとおかしいじゃないか。それに指の数も6本もある。光が透過しているのに透過していない何かがそこにいるとでもいうのだろうか。そんな矛盾したものはオールフォーワンでも作れないだろう。

 

やっぱり後遺症は深刻らしい。自嘲気味に笑って目を逸らそうとするが、なぜかそこから目を動かすことはできなかった。

 

 

俺は何で、何もないところを見ているんだ?

 

俺は何を見ているんだ?

 

 

 

 

俺は、なんでこれを今まで見ることができていなかったんだ?

 

 

突風によって顔を覆っていた帽子が外れ、マフラーがほどけていることを今更ながら自覚する。

 

剥き出しになった狩峰淡輝は、擦り切れたはずの感性が子供に戻ったような感覚でそれをみた。見るほどに子供になっていくような、意味のわからない時間の感覚に捕まりながらもそれを見ている。

 

 

あれを腕と呼ぶしかないのが、まず間違っているのかもしれない。動物と言われれば違う気がする。まるで大きな木のような存在感がそれにはあって、節くれた手足のようなものは枝に見えなくもない。硬いけれど生物ではあるというどっちつかずな感じはなんだろうか。

 

さりとて植物と言われれば、あまりの生々しさにその言葉を当てはめることに抵抗がある。ゆっくりと、そして重厚に動いているそれは大きく重い印象だというのに滑るようにビルのガラスに取り付いていた。

 

 

矛盾している。これはおかしい。透明なのにそこに見える。重いのに体重がないようだ。生き物なのにそう見えない。

 

 

ただし確信できるものが一つだけあった。

 

 

どうしようもないほどの恐怖。内臓が引き攣るほどの恐怖がそこにずっといた。

 

恐れが形になってこちらを見ている。こちらをじっと見てる。

 

目を合わせてはいけない。見てはいけない。そう思っても、その異形をみる目は瞬きすら忘れたように釘付けになってしまっていた。

 

息が浅くなる。胸の奥でようやく積み直し始めた何かが音を立てて崩れていく。きっとあれだ。オールフォーワンが負けそうになると出してくる切り札か何かなのだろう。じゃあこれも対応しなくちゃいけないな。

 

体を動かさなきゃいけないのに、その手がゆっくりと自分を掴んで持ち上げるまで微動だにできなかった。

 

この程度、こんな恐怖がなんだ。今までも最悪の経験を乗り越えて来たじゃないか。そうだ。オールフォーワンを一度倒しただけで満足するなんて勿体無い。もっと情報を奪って、街も壊さないように挑戦すればいい。勝てるのなら、あとは勝ち方を選ぶだけだ。

 

全部全部、目の前の恐怖から逃げたいがための言い訳だということはゲールマンの言葉を聞かなくたってわかっていた。

 

 

「少年!?」

 

「これは話になかったぞ!一体どうなってる!?」

 

だってこんなの初めてだもん。そんなの知らない。まだこのあたりに知らないことがあるなんて、知らなかった。

 

体が浮いていく自分をオールマイトがどうにか捕まえようとするが、何かに阻まれて手が届かない。

 

「ホーリーシットだ!なんだこれは!?どうすればいい?」

 

これを攻撃してしまって良いのか逡巡するが、即座に行動に移した。

 

「オールマイトの拳が、何の影響も与えない何か。オールフォーワンから目を逸らすな!!」

 

「やってる!あいつの個性じゃない。どこかに協力者がいるのかも……」

 

大人たちが慌てふためくが、そんなに焦らなくて大丈夫だ。どうせ死んだらまだやり直せる。これの正体を暴いて、それでどうにかすればいい。

 

 

それは11歳の少年を頭頂部まで掲げるように握り上げ、そして絞ったレモンをかけるようにその血を自らに浴びせるのだった。

 

 

 

 

狩峰淡輝は目覚めながら考える。

強がりじゃない。こんな死に方は予想外だったけど全然マシな方だったから。それに見えなくて触れないなんて個性、絶対に強い制約や条件があるはずだ。使用者を見つけて対策をすればいい。

 

 

そうして目覚めて、また同じことを繰り返せばそれでいい。オールマイトをこちらに向かわせて、マッハ10で着弾させればまた勝てる。勝てるとわかったのだから、もう気負いはない。

 

 

そうして銀行へと向かう道すがら、オールフォーワンの隠れているビルとも違う場所をふと見るとあれがいた。

 

 

「アメンドーズ……」

 

なぜかそれの名前のような単語が口をつく。そうして次の瞬間に、知らない言葉を話した以上の異常をようやく認識してパニックが追いついてきた。

 

急な化け物に襲われて殺される時よりも、心底の部分で動転していた。

 

 

 

だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ

だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ

 

 

世界が崩れる。前提が壊れる。これ以上、壊さないでくれ。

 

「いるはずない……。この時間、あの区画にあんな化け物、いなかった。おかしい。おかしい!おかしいだろ!!」

 

「どうした?異常事態か?」

 

「なんだアレ。なんなんだよアメンドーズって!!っそうだ!予知してください。そうすればサーもアレが見えるはず……」

 

誰もそれを見えない。サーが予知で自分を見ても何も見えない。

 

「お前が、空中でつぶされる姿しか見えなかった。私には、それは見えない。本当に不可視の念動力のような個性ではないのか?」

 

もうナイトアイの言葉も聞けない。

これほどの巨体がビルに取り憑いているのもおかしい。一体これはなんだ?超常が当たり前の世界においてもこれの異常は明確にわかる。

 

これは個性などでは説明できないと直感する。

 

のしのしとゆっくりと移動しているように見えるのに、それはナイトアイの車に容易に追いついて自分を見ている。自分の完璧なループの情報が崩れていく。あ、その売店を踏み潰すなよ。オールマイトのファンがいて協力的なのに。

 

あいつがいるだけで、知っている世界が壊れていく。それじゃあ、ダメじゃないか。そんなのダメだろ。反則だ。

 

気づけば帽子を深く被ってより強く狩人に心を預けていた。えずくような感覚が終わると思考は澄み渡る。前回のオールマイトは、自分に配慮して全力で殴れていなかった。どんな攻撃が有効であるのかを検証すべきだろう。

 

 

狩人は表情を失ったまま、獲物を見る目でその異形を見つめた。目が合った。

 

黄色い目がこちらを向いて、光っている。

 

 

 

その瞳から放たれた光は直進し、狩人を車ごと消し飛ばすのだった。

 

 

 

死んでしまったがしかし、狩人はそんなことでは折れはしない。絶望はもう十分にしたのだから意味はない。戦いに不要だから捨てることができる。

 

だから試した。

 

 

飛行機であれに突っ込んでみた。

オールフォーワンの全力の攻撃を当ててみた。

オールマイトの着地をアレにやってみた。

 

 

その全てが、無駄だった。そして大体全てが、アレが自分を殺した後に起こっている。予知によって事前にその結末を知って死にに向かうというのは淡輝であれば耐えられなかっただろう。助かりたいなら、奇襲攻撃をしている時間はないかもしれない。

 

でも、そうしても結局はオールフォーワンに殺されるだけか。ああ、なんであの化け物はヴィランを殺さないのだろう。自分にだけ執着するのだろう。

 

あれの意味も仕組みもわからない。

オールフォーワンがやっているようなダメージの無効化じゃない。バリアでもない。まるで何もなかったかのようにずっとそれはそこにいる。傷どころか汚れ一つであっても生まれないからだ。

 

自分のできるどんな攻撃手段、どんな個性であってもアレに何ひとつ影響を与えることができない。

 

 

狩人はいまだに折れていない。だから試行錯誤を繰り返そうとするが、それでもその無敵性は一切変わらずにそこにいた。

 

なんというかあれだ。ゲームで表現するならば、オールフォーワンは最強のスペックをもったラスボス。アメンドーズは、戦うことができないステージギミック。ダメージ判定が存在しないというか、そんな感じと言えばいいだろうか。

 

 

 

それでも何かを掴めるまでやり直しをし続けようと思ったが、狩峰淡輝という弱い子供は流石についていけなかった。

 

 

自分に懇願して言い訳を並べ1日だけ戦うのをやめる。もうこれが最後だからと必死だった。

 

お父さんと先生にごめんなさいと言いながら、卑怯だとわかっていても一度だけ図書館に向かってしまった。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・

 

 

放課後の光が、細長い窓から静かに差し込んでいる。埃がその光の中でゆっくりと舞い、まるで時間までゆっくり動いているようだった。

 

この場所は何も変わらない。少しだけ木の匂いがする。古い本棚の表面は指でなぞるとすべすべしていて、角には小さな傷がいくつもついている。

 

奥の壁ぎわには背の高い本棚が並び、低学年の子でも届くように踏み台が置かれている。

その木の踏み台を踏むと、ほんの少しだけギシッと鳴る。でも、それもこの場所の音のひとつ。懐かしい、安心できる音。

 

先生と無性に話がしたかった。

 

 

「やれることを全部やって、それでも、全部ダメだって思ったら、どうすればいいですか?」

 

 

話しかけ方を忘れてしまっていて、変な敬語になっちゃった。ゲールマンのように語りかけていたから、なんだか慣れない。先生はきっと図書館に入るための方便である友人との喧嘩について想像しているのだろう。真剣に悩んでくれている。

 

「そうねぇ。まずそこまで頑張れたのは本当にすごいと思うわ。その上で、自分じゃどうしようもなさそうなのね」

 

頷く。

 

「そしたらね。その後にやることがあるのよ。実はね」

 

驚いた。解決策が出てくるわけがないと思ったから。でもこういう時、先生は適当なことを言わない。彼女には期待してしまう。

 

「あなたが今できているように、もっと多くの人に……できれば大人がいいわね。良い人たちに向かって大きな声でこう言うの『助けて』って」

 

温かい言葉。心が軽くなる気もするが、けれどそれでは現実は変わらない。それで救われるほどの無垢さはもう持ち合わせていなかった。

 

「結構馬鹿にならないわよ?追い詰められて、悩んでる時って自分で思ってるより視野が狭くなってしまうもの」

 

「でも、それも無駄だったら?その大人が全力でやってくれても何もできなかったら?その人が人類で一番うまいのにできなかったら?」

 

「そうねぇ。その時には、ヒーローに助けてって言わなきゃいけないかもしれないわね」

 

「一番って言ったのに」

 

「ヒーローっていうのはきっとね。そういうのを超えていく人たちのことなのよ。だから勇気を出して声に出してみて」

 

そう言う先生の後ろの窓の全面。そこには6本の指が張り付いていた。黄色い目が光ってこちらをみている。

 

「……助けて」

 

そうしてまた、先生と俺は死んだ。

 

 

- ---・- -・-・・ ・-・- ・-・・

 

 

戦いは続いている。

 

狩人に任せて試行錯誤を繰り返す。オールフォーワンと交戦するところまで行かないことが多くなった。一番生き残ることができるのは、オールマイトを可能な限り早く呼んで自分を抱えて逃げてもらうことだった。

 

けれどそうしていると、そのうちオールフォーワンが出てきて殺される。それでもそれが一番、長く生きて検証ができるルートだった。

 

 

純白と漆黒の鳩が生み出す光の束に、オールマイトの脇腹が抉られる。そのまま高速でビルに突っ込むが自分を守ってくれていたようで怪我はない。だけどオールマイトは瀕死。自分もこれから死ぬだろう。

 

勢いに負けて、帽子が落ちてしまっていた。

 

 

6本の指が追いついてきた。

 

また握られる。掲げるように頭部の上へと運ばれて、そしてまた絞られるのだろう。手加減を知らない子供が初めてカエルを思いっきり握りしめるようにして。上下から撒き散らしてまた死ぬんだ。

 

昔自分も似たようなことをカエルや虫にやったことがあるからわかる。あれをするのに何も考えていない。ただ好奇心からそうするだけの行為。疲れ果てた淡輝にとってもはや耐え難い苦痛だった。

 

「もう、やだ……。もう、いやだよ。なんで、俺ばっか……。嫌だ、嫌だ!もういやだ!!」

 

消えてしまったと思っていた激情が恐怖によって引き出される。もう自分でも何を言っているのかわからない。それでも叫ばずにはいられなかった。意味がないからと何も叫ばずにずっと静かに死んでいたけれど、もう何も考えられなかった。

 

「意味わかんないよ!こんなに、こんなのって!変だろ!一回くらい、逃げるくらい、なんでもいいから……もう、やめたい……」

 

ジタバタと足掻いて、もがくけど。その指は微動だにしないとわかっている。パニックで舌を噛む自分と、冷静に分析をしている自分に分かれてしまう。

 

だから、直前に言われていた言葉が思わず口から出てしまった。情けないし、意味がないのに。言ってしまった。

 

 

「……助けて。……助けてよ!」

 

 

そうしてまた潰される。そう思って目を閉じる。あの真っ赤に染まって少しだけ自分の体を見れる時間がいやだから。死ぬまでに時間が少しだけあると知っているから目を強く瞑った。

 

 

死なない。

 

なぜ?

 

 

そうして見ると、オールマイトがそこにいた。右手を失って、そして身体中から血と中身を溢しながらも、閉まろうとしているアメンドーズの手を止めていた。

 

 

 

 

こいつの、動きを止めている?

 

 

 

「もう、大丈夫……なぜって?」

 

 

血反吐を吐きながら、それでも白い輝きを唇の奥から見せつけてヒーローは言う。

 

 

「私が、きた」

 

 

オールマイトは、片手でアメンドーズの指をちぎり投げる。そして思いっきりぶん殴ったら吹き飛んだ。悲鳴のような不快な音をさせながら、異形の怪物は向かいのビルにめり込んだ。

 

こいつの血も赤いんだ。なんて、そんな感想しか出てこない。というか、オールフォーワンは?

いや、違う。そんなことより、オールマイトは今何をした?

 

どれだけ試してもできなかったことを、今彼はやっている。

 

「目の前で助けを求められるなら、助けなくっちゃな……」

 

「ああ、ヒーローならそうすべきだ。火事場の馬鹿力で吹き飛ばしたオールフォーワンがすぐに戻ってくるぞ。あの威力の力はまだ出せそうか?」

 

片腕でボロボロのオールマイトと、両目を潰されたナイトアイがそこにいる。

 

「いくらだって……やれるさ。今の……私、は……っ無敵だよ」

 

 

ふっと笑い合う。それが現実ではなく、冗談の類であると互いにわかっているから。それでも彼らはそれを本気で現実にしようとしている。

 

「狩峰淡輝、次の私にそのまま伝えろ。『思いついた仮説は正しい。世界を変えれば未来は変わるだからこの少年を絶対に助けろ。お前の悪夢を晴らすためにも、これは絶対なのだと。怪しいのはわかるが、予知も使うな』そう伝えれば十分だ」

 

「そんなの、どうやって……」

 

それじゃあ信頼を得られない。そんな不確かな情報じゃあ……

 

「助けてと、一言伝えればそれでいい。それで私は必ず協力する。いいか、その顔を絶対に笑わせてやると私は決めたぞ。死んでもだ」

 

笑えないはずのジョークに、思わず笑ってしまった。涙が出て、笑えた。

 

世界から色が失われていると気づいたのはこの時だった。何年も眠らず、食べず、笑わず、そして戦い続けた先に全てが台無しになってそれでも。

 

人はまた希望を持てるんだということを、ヒーローたちが示してくれた。

一陣の風が通り過ぎて、そして全部の五感が動き始める。

 

体が熱い。鮮やかすぎて色が目に痛い。匂いもこんなに鮮烈で吐きそうだ。でも、逃げようという気は少しもない。体が痛い。お腹が減った!失っていた感覚が戻ると自分のコンディションが最悪なことにようやく気づく。

 

それでも救われた。

 

まだ現実は変わっていないのに救われてしまった。希望を人に見せて立ち上がらせること。それこそがヒーローなのだと今わかった。

 

 

魔王が戻ってくるより早く、攻撃が到達する。見えていないはずなのに、最後の最後まで自分をかばい、回ってきた聖書にナイトアイが轢き潰される。

 

「やれやれ、どんな茶番なんだ?というか先ほどから起きている現象に説明がつかない。一体何が起こっている?お前はそれを知ってるのか」

 

オールフォーワンがこちらに興味を示すも、オールマイトがそれを許さない。

 

「手出し……せない。彼を、助ける……」

 

「脳も内臓もこぼしているくせになんなんだ?流石におかしいぞ、オールマイト。さっきは一体何を殴るふりをしていた?」

 

不気味さを感じ、言葉から余裕が失われる。アメンドーズはまだこちらを見ていた。

 

 

そこでようやく気づけた。狩人が戦い続けても、きっとダメだ。

 

俺だ。俺が戦わないといけないんだ。

 

それで今度はちゃんと言おう。心から助けてと先に言わなきゃいけない。その上で戦う。やってやる。もう逃げない。狩人のことは頼るけど、もう影に隠れるだけじゃない。俺だって、やってやる。

 

アメンドーズに殺されると、心の何かが削られる感じがする。だから、もう殺されてやらない。

 

「オールマイト。ナイトアイ。ありがとう。助けてくれて、ありがとう」

 

その目に今までとは全く異なる熱を宿して、そうして語る。それを中断させるのは容易のはずなのに、オールフォーワンすら動けない。オールマイトもその姿に圧倒されている。

 

「次は俺が、ヒーローを助ける」

 

銀行強盗から奪った銃を自らの頭に向けて、内心のためらいを見せずに引き金を引いた。

 

 

今まで無数の死を経験し、実際に自殺のようなことは多々していたが直接的な自害は一度もしてこなかった。もう死んだ方が効率的だと思っていても、できない一線がそれだった。

 

これは成長ではないのかもしれない。でも、変化だ。

 

 

変化をするものだけが生き残る。それがこの世界の真理だろう。

 

不変の化け物を殺してやる。変わり続ける不死の魔王も殺してやる。オールマイトを、ナイトアイを、先生を。家族を。守ってみせる。

 

 

ここでようやく失敗に気づくことができた。

狩人の孤独な長い夜。もう一人の自分に辛いことを全部を任せて逃げ続けていただけじゃダメなんだ。

 

もう、逃げない。自分も戦う。狩峰淡輝と狩人が一体となって初めて戦いが始まるのだ。

 

始めてしまえば、勝機さえあるならば、絶対に負けない。意地でも通してやる。

 

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