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神野の悪夢と呼ばれるあの狂気の放射性物質をテロに使用したヴィラン事件から数日立ってようやくナイトアイの膨大な仕込みが見えてくる。
ナイトアイは死ぬまでに色々なことを残してくれた。
無茶すぎる予言を好きなだけ言ってくれたものだがそれでもやるしかない。だって俺がそれをしたいと思っているのだから。サーへの贖罪でこれをさせられるんじゃない。
もらったものを返したいだけなんだ。
いくつもの根回しをすでに済ませてくれていて、これで未来を予知していないと言われる方が信じられなかった。特に自分の精神状態に対しての用意はあまりに早い。しごできすぎる
『死後出来というやつか』という脳内ナイトアイを黙殺しつつすべきことを進めていく。やかましいわ。死人に口無しが通用しなくなって困ることもある。
オールマイトを支えるサポートアイテムの数々を発明した天才。シールド博士にサーから依頼されていた内容は驚きの精神治療である。近年の技術の進歩によって可能になった一つの方法を博士は世界最高の水準で用意してくれた。
それは精神分離を経験した患者へのとある治療法だった。
淡輝の中にはいまだに、人形とゲールマンという人格が潜んでいた。家族と話していると人形が出てくるし、何か問題に行き当たるとゲールマンが助言をしてくる。その上狩人もいるので脳は常に混乱している。固い決意をしているが、それも人が変わればどうなってしまうかわからない。
特に狩人へと全てを預けることはできない。あれに全部を任せると、変数として家族や大切な人すら殺して試行錯誤をし始めてしまう。実際に、そうなったからもう二度とさせない。
画期的な治療法とは、その人格を出力して別の存在にしてしまうという荒療治だった。
100年ほど前から活用されていたこの手法はまず、AIにその人格としての振る舞いを模倣させてまるでその人のように話せるようにすること。そしてそれを別人として本人が対話をしていくことで自分と別の存在として認識を強めて隔離するという方法だ。
これを年単位で続けていくと、本当に自分と別の存在として切り離せるのだから不思議だった。
今回はさらに淡輝のDNAから生み出された培養脳を生体コンピュータとして活用するという新技術が取り入れられている。
脳細胞を活用した生体コンピュータにAIを搭載し人格を学ばせる。そこまで卓越した成果はまだ出ていなかったが、これは画期的な試みだった。WHOの全面協力のもと様々な設備が用意され、事件の一年後にはそれらは完成した。
ちなみにだが、オールマイトが抱えた病たちへの対策をするために俺は父親を世界一の大富豪まで押し上げた。それで世界中から先端医療をかき集め、予算を度外視して研究を進めた結果。それぞれの病の進行を大幅に遅らせることに成功しつつある。
全世界の医師と科学者。そして医療機関の全てを金の力で振り回せばブレイクスルーは起こせるのだ。21世紀のコロナパンデミックの時にも一致団結した医療界の対応は早かったらしい。
培養脳の話に戻ろう。
結果としては、それらはあまりに上手くいった。行き過ぎて科学者たちは混乱している。
なぜか淡輝が必要だと言い出したのは『脳の培養槽に自分の血液を混ぜること』である。ゲールマンが助言をしたからというなんとも根拠のない話だが、シールド博士はナイトアイの指示があると言ってそれを即座に実行した。
投入された血液は、単純な不純物として1日もあれば全て除去されるだろうと結論が出たため害にもならないと実行されたが、これが成功の原因であると判断できる科学者は一人もいなかった。
『おはよう。狩峰淡輝。私の体はまだ用意できないのかね?車椅子よりも不自由があるとは思わなかったよ』
『ゲールマン様。そのような物言いは、淡輝様に失礼ではありませんか?』
『あの可愛い人形が、ここまで言うようになってしまった。君の影響だろうね。いやはや全く恐ろしい』
「それぞれ体が用意できた。悪いけど、あまり選り好みはするなよ。ゲールマンなんて適合の可能性があるだけで奇跡的なんだから」
数年後、ゲールマンが宿った人類初の培養脳と機械の混合物である生体コンピュータは『加速』の個性の肉体へと移植される。元ヒーローだったらしいが今は脳死状態の老人だ。足を悪くしているが、それについて本人が文句を言ったことはなかった。
『因果なものだ。きっとこうなる運命だったのだろうね』
これまた史上初。生体コンピュータと量子コンピュータの統合を無事に乗り越えたマリアの人形には、性能も機能も世界最高のロボットの体が与えられた。
「これでまた私の本来の造物目的を果たすことができます。おかえりなさい。淡輝様」
狩峰淡輝から生まれた知性は、なぜか彼が知らない知識を無意識に語ることがある。それは本人さえ覚えてない繰り返しの中で得た知識なのかもしれない。
あのブローチの血は一体なんだったのか。体を満たしたあれはただの錯覚なのか。俺の血は一体どうなっている?
当然最新の科学で調べられるだけ調べたが身体能力は変わらないし、個性因子が増えたわけでもない。いや、因子に関しては少しだけ増えはしたらしいがあの感覚と釣り合うほどでは全くない。
まぁ、これらは追々だな。これからやることを考えよう。
俺の目的はいくつかある。まずナイトアイの約束を守ること。家族と先生たちが幸せに生きてくれること。
そして、オールマイトを救うことだ。
最後のが一番難しいと思うかもしれないが、正直最初の方が厳しいと思う。心から笑えるようになれって無理すぎる。まぁ、それでも頑張りたいと思えた。あの予言を成就させるためにやれるだけをやろうじゃないか。
事件の直後はそれはもう忙しかった。
まずはオールフォーワンがどれほどの根を広げて、深く世界に根ざしていたのかを知らなければと動き出した。あれは基本的に無敵と言って良かった。オールマイトと自分という反則を、完璧に使いこなす打ち手であるナイトアイがいたからこその奇跡的な勝利だ。
警察も公安も、ヒーローの仕組みも全てをひっくり返してやる。
すぐにそれをすれば流石に脱落者や反対の運動が起きるだろう。あいつが育てていた日本人への呪い。『無関心』を最大限利用させてもらう。
かつて無数のループの中、あいつは笑いながら語っていたことがある。
『シミュレーションゲームもやっていてね。私が直接支配している国には育成テーマがあるんだよ。なんだかわかるかい?』
『日本、イギリス、オーストラリア、アメリカ。それぞれが先進国なんて顔しているけれど笑えるよな。それぞれ無関心と無責任、無力に無教養。どれがどの国のテーマかわかるかい?はは。無教養を育てようとしたら、反知性にまで勝手に育つんだから面白かったなぁ』
性格は最悪だったが有能な支配者ではあったと思う。
オールマイトだけでは無理だ。ナイトアイが用意したストーリーに合わせて狩人という存在を目立たせる。個性が進化しそして冷徹さを身につけたナイトアイが暗躍していることにする。
シールド博士に早急に強化スーツをハリボテで良いからと作ってもらった。まだまだ身長は足りないが、これで彼が中に入っているように見せられる。動きに関しては完コピは済んでいる。
未来を知ってでもいないと不可能な動きで、改革の邪魔をしている人間を殺していく。そしてこちらに靡いたものたちへ厚遇を約束し、変化を加速させていく。こいつらは保身すらできれば良いらしいから、何人かを見せしめに無惨に殺せば即座に降伏した。
ナイトアイの個性が覚醒し、そして冷徹な殺人鬼として目覚めるというストーリーは権力者たちを心の底から震え上がらせた。
子供の自分があれだけ必死に訴えても動かなかった公権力があっけなく屈服する姿を見て、心から軽蔑する。悲痛な叫びは無視される。慈悲を求めても何も返ってこない。支配者を殺し、無慈悲さを暴力で見せつければ人は動くのだった。なんてくだらないんだろう。
やはり英雄が必要だ。
社会に必要ではあるが、もっと現実的な脅威として英雄がいなくてはいけない。
オールマイトだけがアメンドーズに干渉できたことをずっと考えていて専門家やシールド博士も巻き込んで分析を続けていた。途中から科学者だけではなく、人類学者、民俗、伝承、神話など様々な分野の専門家も含めて話し合われていく。
結論ではないが、仮説は生まれた。その中にいた、有名漫画家がつぶやいた素朴な疑問がそのまま仮説になったのだ。
「え、ていうかそんなおかしいことですか?神っていうか上位存在、それより上のオーバーロードでも呼び名はなんでもいいですが……」
「上位者」
「え?」
「あれらのことはこれから上位者と呼びましょう。続けてください」
「そもそも、神……上位者なら物理無効なんて不思議じゃないですよ。そもそも存在する次元が違うとか、それをたまたま見れていただけなのでは?」
「いやだからあれはビルを掴んでいたし、人に干渉したらしいじゃないか」
「向こうが意思を持っていれば触れられるんでしょうね。だから、別次元存在じゃなくて『上位者』なんでしょう。向こうが選ぶ側なんですよきっと」
「それなら、それならオールマイトが上位者を打倒できたことをどう説明する?それこそ自ら望んで殴られたとは思えないがね」
「単純です。オールマイトも神の領域に入ったんですよ。英雄は古来から半神や神になるものでしょう。オールマイトは神的な存在だから殴れた。事実はこんなところだと僕は思いますけどねぇ」
常識的な反対意見や、もうそれでいいやという疲弊した賛成意見が交わされるが、それよりも納得感のあるものはついに出てこなかった。
なんとなく、それが正しい気がしている。
オールマイトはちょっとどころではなくおかしい。個性因子とそれが引き起こす超常の結果が全く釣り合っていないとはシールド博士の証明書つきである。
彼は科学で測れない何かを纏っている。それが、あの邪神を打倒した力の源泉なのではないだろうか。
それは、奇しくも俺と同じ『狂気』というものなのかもしれない。
まぁ一口に狂気と言っても色々とあるらしい。
俺は自分が生きるために狂気に逃げて自分を変えたが、オールマイトはその狂気と同化して、それで世界の方を変えようと拳を振るっているのだから。
じゃあ、どうすれば良いのか。非常にシンプルだと思う。
ヒーローを増やせばいい。
きっと上位者に類するものはまだいるだろうという感覚があるし、どこかで会うだろうという嫌な予感というか確信がある。
というかアメンドーズという名前からしてもうダメだろ。最後の
だけどもう自分は逃げない。狩人だってなんでも使って戦ってやる。悪夢をぶん殴って吹き飛ばすような。そんな夢のヒーローアカデミアを作ることにきめたのだった。
そのためならば、何でもする。
世界を救い、恩人を救い、そしてできれば笑顔になるために。無理だと思っても、やめる意味はない。できるだけ死なせないように。できれば殺さないように。
だからやってやろうじゃないか。
どれだけ無惨に死んだとしても、それはやめる理由にはならない。
・・- ・-・・-- ・・- ・・・・
神野の悪夢から数日後。
蛇腔総合病院 地下研究施設にて。
「っ!いいから研究の全てを集めていますぐに移動するんじゃ!わしらの夢が、魔王の夢が潰えてしまう!」
あり得ない。決してあり得ないはずだった。敵対勢力などというものは存在しておらず、飛び抜けたヒーローのオールマイトであっても今のオールフォーワンに勝てるはずがなかったのに。
「早く、早く移動を!予備の施設、いや国内はダメだ。きっと見つかってしまう。中国の試験施設まで行かなければいかん」
最後にこの施設でやり切ることさえやれれば、即座に逃げることができるように準備を不眠不休で進めさせていた。
慌てふためいている人物はオールフォーワンからドクターと呼ばれていた科学者で、自身の知的好奇心とクライアントの要求を実現するためにあらゆる生体実験に手を出している倫理に縛られない純粋な科学者である。
「あの場からジョンちゃんが助け出せたのはカーちゃんだけ。パーちゃんは死んでしまった……。まだ、いっぱい食べたかっただろうに……くうっ!」
滂沱の涙が止まらない。失った可愛い我が子たち。彼らの短い生を思うと悲しみが心の底から溢れ出す。
おいおいと泣き喚く殻木球大。黒い影が六体、無言のまま施設で作業を進めている。全員、同じ形をしている。漆黒の防護服というよりも、それ自体が皮膚のように体表へ密着していた。関節部には筋肉に似た繊維が見え隠れし、動くたびに微かに波打つ。
脳無と呼ばれる
「オールフォーワンの夢は終わらせぬ。半年前の因子になるが、それでも彼は消えてはいけない、まだ世界の壊れるその先までを見せてもらっていないのだから。起きろ!起きてくれい!」
予定の期間を大幅に短縮した弊害は生まれるだろう。おそらく一部臓器と感覚器に障害があるだろうが、きっとそれは後から個性でなんとかなるだろう。
培養槽での育成を中断すると、けたたましいアラームが鳴り響き人の形をした肉塊が出てきた。
脳と臓器を優先したせいで、目がまだ作られていなかった。まるでのっぺらぼうのような相貌で、それでもしっかりと存在している口が開く。
「やあ、ドクター。どうやらよくないことが起きたようだね。まさか僕が殺されるなんて、核兵器でも使われたのかい?」
その声が、圧力が、眼差しが全てを語っている。呼吸器が必要であっても関係がない。彼は人間を支配できる力を持っている。
「だけれど安心してくれよ」
殻木球大は最低な人間であるが、それでも科学者としては最高の仕事を成し遂げた。
個性に依らない、科学による人間の蘇生。個性因子を使った人格ごとの複製という偉業を人類で唯一成功させた科学者である。
「もう大丈夫、
生きているのならまた最強になれる。いくらでも成長できる。だって全ては自分のものだから。
悪の花は枯れるも、その種は未だ残り育つ。そして5年後にまた、戦火を散らす鮮やかな赤の花弁を開くのだった。
これにて狩峰淡輝オリジン編はおしまいです!
暗くて辛い時間を耐えてくれて感謝!
次回はちょっと間を空けて3週間後から!とはいえ最低週一以上は学園日常編をまばらに投稿していきます。シリアスすぎたので息抜きしましょう。
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