夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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期末テストの少し前、日常を喰らえ!!


期末テスト前
Aクラスの女子会


 

「どうしよっかな……」

 

思わずこぼれた一言は、あまりに雄大な景色へと溶けていった。

 

見渡す限り、雲ひとつない快晴。雲どころか地平線まで丸っと海しか見えない。

 

 

大海原は鏡のように静まり返り、陽光を受けて無数の銀の粒が舞っている。そこを豪快に撫でれば、その粒たちは一斉にさざめき、空と海の境を曖昧にしていく。

 

空は深く透き通った青。遠くに目を凝らしても、雲ひとつなく、ただ淡いグラデーションが地平へと溶けている。海のど真ん中にいるはずなのに潮の香りは薄く、代わりに人工庭園の草木が風に触れて小さく音を立てている。

 

音は少ない。風と、水面が陽光を受けてきらめく微かな音だけ。それだけで、この場所がどれほど高く、どれほど世界から切り離されているかがわかる。移動型人工島。UAIランドの高層ビルの屋上。庭園の中でも小高い場所にいるのなら世界を空と海だけにすることだってできる。

 

 

「浮かない顔。お茶子ちゃん。どうしたのかしら?」

 

横を向けば友達がいるし、下を見れば街並みが広がるけれど。

 

「ああ……独り言やったんやけど、声大きくなっちゃってたね。梅雨ちゃん。ごめんね、ありがとう」

 

両手を合わせて謝意を伝える。その時に指だけを合わせるのは私の癖だった。

 

「期末テストのことかしら?みんな不安そうね。一体何が起こるのか、わからないもの。ケロケロ」

 

大きな目と口が特徴的な女子は、『蛙』の個性を持っている蛙吹梅雨だ。蛙にちなんだことなら割となんでもできるという個性は身体的な特徴にも影響していた。

若干の猫背に大きな手はカエルらしさを滲ませている。

 

「そうですわね。前より楽なんてことはないということだけは確信が持てますし、どんな困難へと向かっているのか想像もできませんわ」

 

「ん」

 

その言葉に同意を示すのはクラス委員の八百万百。いつも通りのポニーテールが潮風で揺れている。上機嫌な時の尻尾のようであるが、このちょっとしたピクニック女子会という庶民的な娯楽に彼女はちゃんと感銘を受けていた。感情に同調して動くわけではないが、今の彼女の心情を表してはいる。

 

そんな髪の毛に少し頬を打たれつつも言葉少なに頷くのはミディアムボブの美少女だった。

 

小大唯の個性は『サイズ』。触れた物の大きさを変える事が出来るというもので。生物以外の大きさを変えられる。入試では大量の物資を小さくして持ち運ぶことで大きく貢献しAクラスへと入ることができた。その時からお茶子の個性でそれらを軽くするという協力をしておりずっと交流をしているのだった。

 

A組の女子はこの四名のみであり、この時代には珍しくお茶子が茶髪であとは黒髪という地味な色合いだった。

 

「そういうんやなくて、ごめん。すごい個人的なことなんだけど……」

 

「例の宇宙関連の大金の話ですのね!そうでした!あれは結局はどうなったのですか?」

 

「一旦報酬は待ってもらってるんだけど、協力はし始めてるんよ。でもほんとに楽で、個性の負荷訓練とは比べものになんないくらいに無茶しないし。すごく気を遣ってくれるしで。仕事としては文句ないっていうかそんな贅沢は言えないんやけど……まいったなぁ……」

 

「いきなり大金を手にすると幸せじゃなくなってしまう人の話も聞いたことがあるわ。その葛藤は正しいと思うの」

 

「ん」

 

うんうんと唸っていると小大さん。いや、唯ちゃんが頭を撫でてくれた。無表情で口数は少ないけれど優しくて可愛い子なんだとこの短い期間を過ごしていれば十分に気づけた。

 

「八百万さんはお嬢様だよね。どう思う?なんか悪いことをしてる気がして、受け取れなくて。ウチお金の受け取り方下手やぁってなってて……」

 

「わたくし自身が大金を稼いだことがないのでお答えできるかわからないのですが、そうですわね。でも近い悩みなら考えることはありますわ。個性でお金儲けなんて、やろうと思えばいくらでもできてしまいますから」

 

「ケロ!確かに金も宝石も生み出せるものね『創造』は。すごい個性だわ」

 

「日本では規制がかかっているけれど、UAIだと法律違反にすらなりませんから自らを律するしかありませんの。それに、もっと高価な物質だって生み出せます。それでもわたくしは目標があるから、何でも屋さんではなくヒーローを目指しているんです」

 

その目には迷いがなく、自分とあまりに対照的でなんだかあまり真っ直ぐ見ることができなかった。

 

 

「ヒーロー。ヒーローかぁ。そこなんよね……。今日のカウンセリングでもいっぱい話したんやけど答えが出せなくて、もう、うわーってなってる」

 

「メンタルケア系の個性ないしプロでもないですが、私たちは友達でしょう。ぜひお話ししてくださいな」

 

「ヒーローになろうと思ってたのは元々お金を稼ぎたいからで。それが解決しちゃったから、戸惑ってね。それだけじゃなくて多分だけど、世界とか人類とか。そういう規模で考えると。ウチが訓練とかしてるより協力をしてる方が助かる人が多いっぽいのがさ。見て見ぬ振りとか無理だぁ〜」

 

うごおおおと頭を抱え込んでいると。唯ちゃんがさらにぎゅっとしてくれる。やばい、泣きそう。

 

実際、自分の見立ては正しい。自分の個性を運用していけば、人類が自分たちで埋めてしまった宇宙への道が開くのだ。そのために尽力をしていった方がみんなのためになるし、家族や自分にとっても安全で儲かる。お金は大事だ。これだけは間違いないんだけれど、それでもこれでいいのかという不安が拭えない。

 

「思い詰めていたのね。お茶子ちゃん」

 

手を握ってくれる。ひんやりとした感触になんだか落ち着いた。

 

「八百万さんは、明確な目標があってすごいなぁ。それって、ちっちゃい頃から?」

 

「うーんと、そうですわねぇ。昔からヒーローには憧れていたと思います。きっと雄英高校を目指していたでしょうけれど、でも一度事件にちょっと巻き込まれることがありまして、それで……。ごめんなさい。はっきり言えなくて。でもわたくしには救いたい人がいるから。そのためにヒーローになろうと思いました」

 

すごい。なんかもう立派にヒーローじゃないか。それに比べてウチは……

 

落ち込み始めているその時に、唯ちゃんがツンツンとつついてデバイスを見せてくる。そこに写っている写真は八百万さんと、狩峰淡輝くんで……。

 

百ちゃんが狩峰くんの腕を引っ張ろうとしてる光景だった。そういえば幼馴染だって言ってたっけ。つまり、つまり!

 

「えっ……!そういうこと!?」

 

 

「ち、ちがいます!!違いますわ。誤解です!そういうことではなくて、あーくんの笑った顔がまた見たくて」

 

「え、ガチやん」

 

「ケロ。世界はそれを愛と呼ぶんじゃないかしら」

 

「ん!」

 

固まる私。人差し指を上に向けながら考える顔で断定する梅雨ちゃん。サムズアップする唯ちゃんはしてやったりという雰囲気の無表情を維持している。

 

「それにしても意外だわ。百ちゃんはそういう恋愛的な部分にちょっと疎そうなイメージがあったから」

 

「違うんです!もうずっと中学でもからかわれてきたのですから、この5年で慣れっこです!」

 

暗い雰囲気はなくなって気軽な会話に切り替わっていった。実際のところは知らないけれど、女子会なのだから恋する乙女ということにさせてもらう。ごめん!でもありがとう。

 

女子高生らしく会話が飛んでいく。ホップステップと跳ねながら、それぞれなんでヒーローになりたかったのかを聞かせてもらった。

 

「ケロ。私は個性を使って人を手助けしたいと思ってここまで来たの。水場でやれることは多いし水難救助のヒーローは比較的少ないと聞いて目指したわ」

 

「めっちゃ合理的や……」

 

「素晴らしい志ですわ!あの、わたくしも梅雨ちゃんと呼んでも?」

 

「ええ、もちろん。親しみを込めて梅雨ちゃんと呼んで」

 

くいくいと袖を引かれると、唯ちゃんがまた写真を見せてきた。

 

そこには幼いときの唯ちゃんが、何か着ぐるみというか全身スーツのキャラクターと写真を撮って満面の笑顔でそこにいるのだった。あの唯ちゃんの笑顔だ。初めて見た!

 

基本の色は銀。そこに赤い模様が体の中央や腕、脚を縁取るように走っている。ラインは均整が取れていて、装飾というより機能的なデザインのようだ。胸の中央には青く光る円形の装置があり、わずかに光っている。

 

「なんやったっけこれ。昔の、アニメ?」

 

「……ウルトラマン」

 

「初めて3つ以上の文字を聞いた気がするわ。今日は記念日にしましょう。ケロケロ!」

 

「確かあーくんもウルトラマンセブンはいいぞと言っていた気がしますが、こちらの方が?」

 

「……これ、初代」

 

「絶好調やん!好きなものは語りたいもんねぇ。そっか。憧れのヒーローがいたんだ」

 

ヒーローコスチュームもウルトラマンに寄せているのに今気づいた。そっか、意外と唯ちゃんもデクくんとおんなじ理由でヒーローになってるんだ。そこからもワイキャイと騒ぎながら、幼い唯ちゃんの写真で盛り上がる。持ってきたお茶を飲んで一息ついて、そしてまた幼馴染との関係性を突いていく。

 

そうして楽しい時間が過ぎていくが、お茶子はもうすぐ決めないといけないとわかっていた。

 

 

期末テスト。それが終わったらちゃんと答えよう。

 

危ないこと、辛いことは好きじゃないし。お母ちゃんもずっと心配してる。もちろん父ちゃんも。

 

 

 

私はヒーローになりたいのか?自分は一体何がしたいのだろう。

 

 

 

迷いを抱えたまま自分で進めていなくても、この船は前に進んでいく。選択から逃げることはできない。それだけはなんとなく、わかっていた。

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