夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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普通の日常

血が滲み込んでいるような汚れが目立つノート。表紙に練習帳と書かれ可愛らしい動物や手書きのキャラクターが踊っている。その二つの要素の乖離こそが読む時に緊張を生み出すのだと思う。

 

ホラゲにあるアイテムのような趣のノートを開き、読む。その怪書の冒頭は単純な漢字の書取りがされていたが、そのうち日記のような文章が混ざり込む。他人に読まれることを想定していない文章というのは読みづらいものだが、それらを読み拾っていくとこのようになっていた。

 

7月10日 晴れ

学校がもうすぐおわる。さいあく。

ふつうにしなきゃっておもう。

 

7月22日 くもり

日記にはほんとうのこと書けないから、こっちに。

ママもお父さんも、ごめんなさい。

ふつうってなに?

あのカウンセラーは声が大きいからきらい。

 

7月24日 晴れ

大きい道に、ねこの死体があった。

わたし、あわててだき上げて、木のかげにかくれた。

もう死んでたけど、まだあったかくて、ぎゅっとだいた。

どこかがやぶれていて、血がにじんで、ゆっくり手についた。

いいにおい。ねこちゃんのにおい。

かわいい。かわいいなあ。かなしい味がした。

 

7月25日 雨

もう外に出たらだめっていわれた。

わたしがだめな子だから。

もう痛いのいや。

だから、いい子にならないと。

 

8月30日 晴れ

今月になって、はじめて外に出してもらえる。

銀行に行ってから、またカウンセリングだって。

でも家にいるよりいい。楽しみ。

 

9月1日 台風

みつけた。みつけた。みつけたみつけた。生まれた意味!月の香り。血のかおり。ボロボロで血が滲んでてそれでも生きてて、バラバラでいっぱいで色んな匂いがする。あわきくん。あわきくんだって。ああ、どんな人なの。いっぱいいっぱい知りたいな。これが運命の匂いだってわかったから、もううるさい人たちはどうでもいいの

 

 

……

…………

………………

 

 

8月31日

医者の先生に言われたのでまた書き始めようと思います。3年ぶりだと書き方も忘れました。淡輝くんと色々やっていたので何を書いたらいいかもわかりません。体を鍛えたり刃物の扱いを習いました。勉強をしないと試合をしてくれないので勉強もしました。親とはずっと会ってないです。

 

淡輝くんはあれから一度も血を出してくれません。血は出てないのにどんどん血の匂いが濃くなっていくのはなんで?ずっと不思議。知りたいな。プロヒーロー相手でも切れるようになってきたのに私より弱いはずの淡輝くんに一度も勝てない。無傷でボロボロの大好きな人。他の血はもうあんまり飲みたくないのです。もらえるなら飲むけど。

 

11月19日

進路は雄英高校にしました。淡輝くんがいくから。ヒーローにはならないけど体を動かすのは得意だからそうしたい。将来何になりたいかなんて知らない。私は一回でいいから淡輝くんになりたいの。雫月ちゃんになってみようかな。

 

12月15日

淡輝くんが殺しかけてくれた!すごい剣幕ですごい動きで!今までのが嘘みたいに冷たい動き。殺そうとしてくれて嬉しい。体が治ったらどうしよう。淡輝くんの大切な人って誰だろう。なんでやる前に全部知ってるの?ナイトアイは応援してくれてないのかな。

 

12月24日

もうしません。やっちゃダメを教えてくれました。もうしません。だからどこにも行かないで。私は普通でした。ごめんなさい。

 

……

…………

………………

 

7月7日

久々に会えました。受験も一緒にしていいって。お互いにやっていいことを約束したのです。自由にするとこんなことが起こるなんて今まで気にしたことなかったから時間はかかったけど。いっぱい考えました。自分のやりたいこと。叶えたい夢のために。我慢することを覚えたの。もう日記はここでおしまい。淡輝くんになるためにすべきことするのです。

 

……

…………

………………

 

1月10日

受験はとっても楽しかった!海外に行くってとっても素敵。狩人さんの狩りについて行きたかったけどまた人形ちゃんに邪魔されました。いっぱい殺したんだろうなぁ。血を取っていい人があんなにいたのに残念でした。そういえば緑谷くんを初めて見れたの。ボロボロに緑谷くんもすごく素敵。仲良くなりたいな。

 

 

4月4日

ゲイル先生は変です。おじいちゃんなのに淡輝くんと似てる匂いがする。親戚じゃないって言ってたけど、絶対嘘。血のつながりはあります。でも全部じゃない。あれって何なんだろう。

 

5月11日

個性の訓練が辛いのです。でもみんな優しくて嬉しい。女の子の友達もできました。みんな私をみても逃げないから安心でした。淡輝くんとも同じだし毎日楽しい。でも、血はいつまでも吸えてないから考えないと。このままじゃだめだ。

 

6月22日

初めてカラオケに行きました。歌うのって難しいけど楽しい。友達ってすごいです。ご飯も美味しくなるし、つまんない話も面白い感じがする。こうしていると忘れそうになる。月の香りに誘われる感覚を忘れかける。薄く腕を切ってその血を舐めると少し思い出せるのです。私は、あの何かになりたい。

 

 

 

 

日記はここで終わっている。

 

 

 

狩峰淡輝は手渡されたその日記を手にして歩きながら読んでいた。今では大きくなった日記の少女はその様子を伺って相手の顔を覗き込んでいる。

 

並んで歩いてはいるのに、二人の間には一枚の透明な膜のような絶妙な距離があった。近すぎず、遠すぎず。手を伸ばせば届きそうで、でもその一歩が踏み出せない距離。もどかしい、青春のような雰囲気であるとミッドナイトならよだれを垂らして評するだろうか。

 

夕方の公園は青々とした芝生が少し赤色に染まり始めていた。女子高生は少し前を向きながら、時おり横目で彼の様子をうかがう。そのたびに金髪が揺れて、弱い風にふわりと流れた。

 

「で、どうですか?」

 

「どうって……。難しいな。相当な猟奇&狂気の怪文書ではあったけど、なんか知り合いの女の子の日記読むってドキドキするね。あの時はやりすぎたかもとかは、今ならちょっと思うかな」

 

「いいの。あれも私の思い出だから。あと、これって割と女の子からの告白じゃないです?」

 

「あなたの頸動脈を切って血を飲んで、あなたになりたいっていうのはどう翻訳しても月が綺麗ですねとはならないよトガちゃん。それくらいはもうわかってるでしょ」

 

二人のうっすらとした影が、街灯に照らされて地面に伸びる。その影だけが、本人たちよりも少し近づいているように見える。

 

渡我被身子は自然と距離を詰める。その手には夕焼けを反射して光る刃が翻っていた。

 

ベルトのように腰に巻き付けることができるほどペラペラの日本刀が居合のように振り抜かれ、淡輝の前髪を切り裂いた。それを避けながら相手のバッグを奪う。甘酸っぱい青春は両断され、残るのは時代劇のような緊張感。

 

同時に全く逆方向の木々から飛び出すのは回転するナイフだった。人が放ったとは思えない速度で飛来するそれをトガちゃんのバックで受け止める。互いに距離をとり、近づいた影は跡形もなく消え去った。

 

「むう。ひどい。そのバッグ気に入ってたのに」

 

「はい自業自得。また俺の勝ちね。今日のナイフ投げチャンスは失敗ということで」

 

「男らしくないです。勝負に1000回も勝ち続けるなんて絶対にズルしてます」

 

これくらいならば全く構わない。ちなみにこれは一度も死なずに躱している。人形ちゃんによる索敵と危険予測によってこれくらいは可能だった。

 

『今回は電子的な偽装とハッキングによる負荷なども過去最高でした。彼女が調達したAIは恐らく違法のものでしょう。取り上げますか?』

 

手を振ってその対応を取り消す。彼女の成長を阻む必要はない。最悪は死んでもやり直せばいいのだから。

 

彼女はだいぶ人らしくなったと思う。やりすぎたこともあったけど、それでも反省して生き方を変えるために努力をできた。ヒーローにはならないだろうが、それでも彼女は自分の性質とうまく折り合うことができるだろう。自分なりに工夫をすることも忘れていない。

 

そう思っていたのだが日記を見て少し不安になった。こういう二日でどうにもならない内容は苦手だ。そのうちどんな影響があるのか想像ができない。ナイトアイなら見抜いているんだろうか。

 

彼女をまともにしようとするなんてことはしない。それは人格改造だ。けれど、ありのままで良いなんて綺麗事も言えない。その抜き身の欲望をぶつければ人は傷つき反撃するだろう。

 

自身の欲求と社会の折り合いをつけられなかった者がヴィランと呼ばれてしまうのだ。

 

本能に従って涎を垂らして牙を剥くならそれはもう獣と一緒だろう。獣ならば人間として扱わなくても良い。狩人の獲物になる。

 

人であろうと努力しなければ、人は獣に成り下がる。それを教えるために狩人は毎夜、世界に血を見せる。見せ続けなければ人は忘れるのだから。

 

獣を狩るのなら得意だけれど、人をどう成長させるかなんて自分にはわからない。傷つけることしかできない気がしてあまり深くは関われなかった。信頼できる大人を見つけて都度トガちゃんを預けていたけれど、それは正しかったと思う。

 

「告白したのに答えはくれないんですか?」

 

「今までと同じだよ。血は飲ませない。だいたいこれ付き合ってくださいとかそういうのじゃないでしょ」

 

「ナイトアイが女の子とも仲良くしろって言ってませんでした?」

 

「……なんで、知ってんの?」

 

「5年前に予想して教えてくれてました。どうせ頑なになってるだろうから、あらゆる手段を使って諦めるなって言ってくれたのに最近は邪魔ばかりされてます。抗議したいです」

 

何してくれとんねん。

それを言われるとかなり弱いが、それでも無理なもんは無理だ。首を横に振って意思を示すのが精一杯の情けない自分を自覚しながらも、彼女に歩み寄る気は起きなかった。

 

これ以上守るものを増やしてどうする。俺が抱えきれる訳がない。異常者で狂人。それが寝ぼけて常人のフリを出来ているだけなのだから。

 

この何年かで何度目かもわからないやりとりをいつも通りに終えて、それぞれ別の方向へと向かっていく。バイトに向かうトガちゃんを見送って、少し寂しい感じのする別れ際。最後まで雰囲気をぶち壊す背中への攻撃を凌ぎようやく自宅へと向かうことができた。

 

 

順番があるんだと思う。だから次に幸せになるのは、精一杯やってくれているオールマイトだ。俺じゃない。俺はまだ何もできていないから。

 

 

 

 

玄関の扉を開けた瞬間、ふわりと焼きたてのお菓子の甘い匂いが鼻先をくすぐった。

 

バターと砂糖が溶け合ったふわふわとした香りが、家の奥からゆっくりと流れてくる。

 

そして違和感。いつもなら真っ先に駆けてくるはずの愛犬たちはいつもより数と勢いが少ない。ちらりと覗くと、廊下の向こうで耳だけこちらに向けたまま、そわそわと落ち着かない様子で座っている。

 

どうやらキッチンの方が気になって仕方がないらしい。もう、お菓子作りは始まっているのだ。

 

オーブンの低い唸りと、甘い匂いが満ちた静かな家が、そう告げていた。

 

砂藤がお菓子を作り、そして俺は思いっきり料理をする。これは気分転換は俺にとって少ない娯楽だった。

 

まぁ、馬鹿どものせいで仕込みをしたら一度戦いに向かわなくてはいけないのだが。

 

「おいおい狩峰。なんか怒ってんのか?ちょっと笑顔が怪しいぜ?」

 

「ああ、貴重な時間を無駄にする奴がいてさ、俺の仕事を増やしまくってくれてんだよね」

 

俺の仕事を増やすんじゃねえ殺すぞ。と脅してみたくもなるが彼らには無駄だと知っている。期末が終わった後ならば轟焦凍の問題には切り込む予定である。

 

夏休み期間は日本に戻ることもできるし、訓練を続けることもできる。それぞれのカウンセラーや専属医師。精神科医などが彼らの疲労度を鑑みて休みの設計もしてくれている。轟君は日本に帰ることはないだろう。帰ったところで問題の元凶には会えないのだから意味も薄い。

 

だけれどここでならやりようはある。

 

夏休みの実習ではプロヒーローを呼んで教えを受けるカリキュラムを実施する予定であり、そこでエンデヴァーも呼ぶ手筈になっている。日本の法律で息子に接近できなくなっているがここは治外法権である。本人同士が望めば接触は可能なのさ!

 

他にも刺激的な講師陣を予定しているので無事に帰らなければいけない。雄英の夏はきっと忙しい夏になる。

 

「まぁ。ひとまずは杖で叩き直してくるか」

 

仕込み武器を抱えて現場へと向かう。この後作る料理の味を想像しながら小走りで街を進むのだった。

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