夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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原作準拠の話を書くことに新鮮味を感じる。楽しい!


ヒーローネーム

あれが無音で後ろに立つと反射的に攻撃してしまいそうになるし、一般生徒なら飛び上がってビビるだろう。淡輝はいまだにゲールマンが苦手である。こいつの助言は遠回りで説教臭いからあまり聞きたくない。いやまぁ、重要な情報もあるから聞くんだけれど。

 

「おはよう諸君。良い朝だったかな?」

 

「「「「「おはようございます!ゲイル先生!」」」」」

 

「元気そうで何よりだ。そして今日の授業は特別だ。心してかかるように」

 

「っとととと特別!?」

 

「予告なしに不意打ちで銃をぶっ放してくる先生が特別って、それ実戦以外ないっスよね!プルスウルトラっスか!」

 

「オイラ、震えが止まらねえよ。武者震いじゃないぜ?無茶震いだよこれは……」

 

「小テスト、法律系でもいいから平和なやつであってくれ!」

 

「君たち。自身が名乗る名称を決めたまえよ。コードネーム。ヒーロー名というやつだね」

 

「「「「胸膨らむやつキタぁぁ!!」」」」

 

はしゃぎ騒ぐCクラス。それもゲイル先生が手を挙げると一瞬で静まった。完璧に彼らは統率されている。たまに合同で訓練を行う軍隊の人たちにももう注意されることはないレベルである。

 

「事前に提出してもらった内容について私は適切な判断をする能力、感性がないのでミッドナイト先生に任せよう。あまりふざけた名前でなければなんでも良いだろうね。『爆殺王』を却下することしか私にはできなかったよ」

 

「っんでそこだけ却下してんだ!黙って引き下がれや!」

 

渾身のヒーロー名を却下され喚く爆豪に、ため息まじりにゲイル先生は答える代わりに指すのは教室の入り口だった。

 

 

「適当に名前をつけたら地獄を見るわよ!学生の時の仮称がそのままヒーロー名なることは多いわ」

 

「「「「ミッドナイト!!」」」」

 

両手を頭上で組みながら、しゃなりしゃなりと腰をくねらせて教室に入ってきたミッドナイトが高らかに宣言する。体のラインを強調しているボディスーツのようなコスチュームは胸を強調している。

 

「その動きやめてください。マジで」

 

「っぐ!……いいえ、今の私はミッドナイト。このヒーロー名に恥じない行動を続けるわ!」

 

甥っ子に自らのセクシーポーズを披露するというこの状況は彼女にとっても非常にきついものだった。奥歯を噛み締めて、耐え難い苦痛に打ち克ったような表情でそれでもポージングを続行した。

 

オールマイトのスタンディングのような矜持をちょっと感じて嫌だった。

 

「気にしないでくださいミッドナイト!こいつがガタガタ抜かすならこのモギモギで黙らせてやりますよ!」

 

「ふふ、ありがと。いい子ね?」

 

妖艶な微笑みに峰田と男子たちの興奮は高まっている。そんな姿を横目に女子たちは若干温度が下がった。淡輝の視線はすでに絶対零度だから下がりようはない。

 

オホン!と気を取り直して教師としての仮面を被り直し話を再開した。

 

「『爆殺王』の何が問題かはさすがに説明いるかしら?いらないわよね?んん?」

 

「ックソ!まだ候補はあんだよ。見てろや!」

 

「爆豪ってやっぱこういうとこちゃんと抜けてるよな」

 

きゃっきゃと爆豪いじりをし始めるクラスに「っるせえわ!」と吠えて応戦している。これも日常的な光景だった。

 

「まぁ思い入れや個性は重要よ?でも今後プロヒーロー事務所にスカウトをかけられることもあるでしょうし今や世界で活躍をし始めているんだから国際的にも通用する名前が良いかもしれないわね。あんまり日本的だったり海外でのNGワードだったりが入っていると報道に載らないかもしれないから」

 

「トップヒーローは在学時に声をかけられてたなんて逸話はいっぱいありますもんね!」

 

「ええそうよ。ただまぁ、1年生や2年生の前半に指名をかけられた場合は将来性を見込んでのことだから、何かが変われば一方的に話はなかったことに。なんてこともあるでしょうね。そんな要因は実力以外だと悲しいでしょう?ヒーローネームは重要よ」

 

「大人は勝手だッ!」

 

ダンっと机を叩き、社会の理不尽を糾弾するのは峰田である。こいつはこいつで少年法に守られてそうだし、少年のような見た目に助けられているであろうからあまり大人のことをとやかく言えないと思うが。

 

「みんなはすでに例年の雄英生よりも非常に多く広く世界から注目されているわ。みんな頑張っているのは知っているけど、決して油断しないようにね」

 

「いただいた指名がそのまま自身へのハードルになるんですね」

 

葉隠ちゃんは理解が早い。UAIランドの注目度は非常に高いため日本だけでなく各国からも大いに見られている。そのハードルは高いだろう。失言とかしている場合ではないのだ。爆豪、お前のことだぞ。

 

「これは受け売りだけれど、将来自分がどうなるのか名をつけることでイメージが固まり、それに近づいていく。名は体を表すってやつね。理想と願いを込めた名前をつけること!オールマイトはまさにその通りだと思うでしょう。私も、ね?」

 

最後の部分でウインクと投げキッスを放つミッドナイト。峰田は撃沈した。淡輝は目を閉じた。

 

 

 

 

 

「じゃあそろそろ、できた人から発表してね。」

 

「うお。発表形式かよ」

 

「これはなかなか、大喜利みたいじゃない?」

 

フリップ芸じゃないか。ちょっと気合い入ってきた。でもふざけてもいけないし、どうしよう。ユーモアを重視すべきだろうか。ヒーローになる予定がなくても冷やかしで参加するのは違う。

 

やはり真面目にやることにした。そして自身の願いを込めるとなればこれだろう。まさか『ハンター』と名乗るわけにもいかない。

 

 

シンキングタイムも数分が過ぎた。事前に考えてもらっていたし大半は考えついているだろうが最初に発表するという重責を一体誰が背負うのか。

 

先陣を切る熱血バカたちは頭をひねってうんうんと声を上げている。多分事前に提出もできていない顔だ。さすがに準備もできずに発表をするほど蛮勇ではなかった。すでに準備を終えているのは真面目なものたち。互いに顔を見合わせて機を伺っていた。

 

ここで動くものこそヒーロー。そんなピリリとした緊張感が走る直前に動けた人物がいた。おもむろに席を立ち、颯爽と教壇に上がってニコリと笑うのは青山君だった。

 

 

「輝きヒーロー。『I can not stop twinkling.』〜キラキラが止められないよ☆〜」

 

 

その時、クラスに電流走る。

 

「「「構文!?」」」

 

「そうねえ。これはIを省略してcan'tにした方が良いかもね」

 

「それね。マドモワゼル」

 

「「「いいのかよ」」」

 

「つか、英語かフランス語かどっちかにせい」

 

クラス委員たる砂藤のツッコミも光る。キラキラが止まらないぜ。

 

「じゃあ次あたしね〜!ズバリ!『エイリアンクイーン』だよ!」

 

「血が強酸性で人のお腹を突き破ってくるあれを目指してるの!?やめときなさいよ!」

 

「ちぇ〜。エイリアンクイーン2とかまでなりたかったのにな〜」

 

「いいことみんな。何かを元ネタにするときにはそれについてよく調べなさいな。エイリアンのデザインは女の子が名乗っていいものじゃないわよ?後でネットで死ぬほど言われることになるんだから、今のうちにその辺りは検討しておくのが吉!」

 

「くっそ。初っ端から変なのが続いたせいで、大喜利の雰囲気が強まってるじゃねーか!」

 

俺もそう思う。考えていた面白みのかけらもない真面目な名前を破棄して親の七光方面の自虐ネタを書き殴るべきだろうか。レインボーリッチとかその辺り。くそ。正解がわからねえよナイトアイ!助言者はとっとと消えやがったし。

 

 

「いよし!!覚悟決まったぜ!やっぱ改めてこれしかねえ!俺のはこれだ!剛健ヒーロー。烈怒頼雄斗(レッドライオット)!!」

 

「これはあれね。紅の狂騒……漢気ヒーロー。紅頼雄斗(クリムゾンライオット)リスペクトというところかしら?」

 

「そっす。だいぶ古いんすけど。俺の目指すヒーロー像はクリムゾンそのものなんす!」

 

「フフっ。憧れの名前を背負うっていうのは相応の重圧がついて回るわよ」

 

「覚悟の上っす!」

 

漢気が示され拍手で切島の命名は決まっていく。まともなヒーロー名にみんなが安心しそれをきっかけに発表は加速していった。

 

「甘味ヒーロー。『シュガーマン』!」

 

「女子ウケしそう!甘くていいわね〜」

 

「エイリアンクイーンがダメなら……『Pinky(ピンキー)』!」

 

「スタンガンヒーロー『チャージズマ』!」

 

「ステルスヒーロー『インビジブルガール』だよ!」

 

「ふふ。そしてオイラの番ってわけね」

 

ニヒルに意味深に、牙を光らせる峰田に女子たちの警戒度が上がっている。

 

「もぎたてヒーロー。『グレープジュース』だオラァ!文句あんのか?マスコット化して女子たちにぬいぐるみをぎゅっと……。ぐへへ……」

 

「グレープジュースの企業から好印象かもしれないけど、その分不祥事を起こせば終わりよ。気をつけなさいね。私も歩くセクハラとか女性の性的消費だとか散々言われてたけど、うまいことやったわ。あなたは気をつけなさいな」

 

「『爆殺卿』!!!」

 

「違う、そうじゃない」

 

「私はビーストヒーロー『ジェボーダン』にしますぞ!」

 

「ジェボーダン?」

 

「おお、博学な狩峰氏はご存知ですかな?21世紀初頭の映画なのですが、これがまた名作でして……」

 

「掌握ヒーロー『バトルフィスト』にしようかなって。ちょっと血気盛んすぎますか?」

 

「武闘派ヒーローってことがわかるのも良いことよ。その手で敵を倒し、そして平和を掴み取る!いい名前じゃない」

 

「自分思いつかないっス!よければ考案していただけないでしょうか!!」

 

ドン!という豪快な音を床と頭で奏でるのは思考を放棄した夜嵐イナサだった。

 

「個性『旋風』よねえ。快活な性格。大きな声と体格。ヴィジュアルも良いけど単純バカなところもあると……。そうねえ。『烈風』、いや『レップウ』なんてどうかしら」

 

「あざます!いたただきます!」

 

このように人につけてもらうパターンもあったりする。自分でつけるより良いものが出たりもするのだ。

 

「トガはトガです。よろしくお願いします」

 

「『トガヒミコ』まさかの本名フルネームってのは珍しいけど、でもいいかもね。ちゃんと理想の自分に向かっていきなさい。応援してるわよ」

 

「……はい。そうします」

 

トガちゃんは深く頷きそしてミッドナイトと何やら目で通じ合っているようだった。そこが仲良さげというのはあまり把握していないぞ。ちょっと不穏だ。

 

「お!問題児に隠れて実は一番ヒーローに消極的なステルス不良のお出ましだぜ!ヒーロー名つけるのかよ!」

 

その通り。ヒーローにはならないと公言している不良ヒーロー科生徒なのだ自分は。そしてフリップを出して書いたものをただ見せる。

 

 

 

『オーバーマン』

 

 

おお、という感心の声。意外そうな表情が並んでいた。

 

「ありそうで、あんま聞かねえな。シンプルなのが良さげだわ」

 

「スーパーマンとかとおんなじ感じ?淡輝くんなら21世紀のコミックヒーローとか?」

 

「いや元ネタは1880年代だね。スーパーマンよりだいぶ古い……けど。気にしないで。語ると長いから数時間もらえるならいつでも話すよ」

 

いやいいですと、クラスメイトはちゃんと引く。以前に2000年初頭の映画語りを滝のように浴びせたのが効いているようだった。

 

ミッドナイトはすごく由来を聞きたそうにしていたが、強目に否定して話を切り上げた。ここでニーチェの話をするつもりもない。後で聞かれそうだけど特に深い意味はない。

 

意味は超人だ。やりすぎ男と呼ばれてもいい。俺は英雄にならず人を超えられるだろうか。

 

 

 

後日、担任から呼び出された。爆豪と俺をわざわざ呼びつけてのゲイル先生からの助言である。どうしても聞けと譲らなかった。

 

「最終的に出てきたのが『大・爆・殺・神ダイナマイト』とはね。君はそこまで非常識ではなかったと思ったが、これは却下させてもらおう」

 

「っんでだ!こっちに任せんじゃなかったのかよ」

 

渾身のヒーロー名を却下され喚く爆豪に、ため息まじりにゲイル先生はつらつらと用意していた言葉を投げ渡す。

 

「君が悪意ある発想をしていないことは知っているが、少し考えが足りない。爆殺という言葉が多くのテロ被害者にとって忌むべき言葉であることを考えたことはないかね。さらには神を名乗るということの重要性もおそらく日本人には想像ができないのだろうが控えるべきだろう。若気の至りということで責めはしないが再考することを勧めるよ。海外における宗教とそれによる爆破テロ。その被害者について学んでからなら一考しようじゃないか」

 

Cクラスにはよくこういった気まずい沈黙が場を支配することがある。今回はたった三人だがそれでも重たい間が空くものだ。

 

「なつもりじゃ、っ俺は!」

 

「わかっているよ。だからこそ考え直せばいい。君は衝動的に動かなければ一定の信頼はできると思っているよ。冷静になりたまえよ。人に信頼されたいのならば」

 

「……そんなもんが役に立つのかよ」

 

「わからないよ。しかし君はAクラスには上がりたいのではなかったかな。そのために私からの評価を上げることは理に叶っているとは思うがね。大体にして君の弱点は思考と知識と経験だ。これ以上体を鍛えて個性を無闇に伸ばすよりは、自身と向き合うべきだと以前から言っている。決定するまでは『バクゴー』と名乗るが良いだろう。期末テストを終える頃には決まることを祈っているよ」

 

ゲイル先生は首をこちらに向けて、先ほどまでの雰囲気を忘れたように鋭い表情で俺を見る。そこにいたのは助言者ゲールマンだった。

 

「そして狩峰淡輝。君には伝えるべき言葉があることを思い出した。よく聞くように」

 

息を吸い、整えてそしてまるで夢でも見ているかのような曖昧な視線でそれを言う。

 

「我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う。知らぬものよ。かねて血を恐れたまえ」

 

「んだよそれ。助言にしても意味わかんねえ。特別扱いにしかわからない暗号でも使ってんのか」

 

自分がいるからと内容をぼかしたと思われたのだろう。なら呼び出しを個別にするしゲールマンは可能な限りわかりやすく伝える努力をしてくれている。それでもこの様なのである。

 

正確な意味は不明だ。だがしかし、何か意味があるような気がして。何よりどこかで聞いたような気がして無視できない。心に留めておこう。

 

人を失うだけでは人を超えられないことはすでに5年前体験した。人を超越したらどうなるのかもオールマイトの背中を見ていればわかる。

 

どうすればナイトアイとの約束を守って、オールマイトも救えるのだろう。どちらかを選ぶしかないのだろうか。

 

 

狩峰淡輝はまだその選択を終えていない。いつかその時がやってくることだけは知っていた。

 

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