夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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星に願いを

 

アメリカ合衆国で最高のヒーロー。世界最強の女、スターアンドストライプ。

 

彼女はアーマードコアを持っていなかったはずだ。しかし、専用のヘルメットのようなものを被り、そこから豊かな髪の毛を見せていた。表情は見えない。

 

「なぜ、貴様がここにいる。どれほどの代償が、制約があるかお前が一番理解しているだろうに」

 

「マスターが困ってる!二の足を踏む理由がどこにあるのさ!それに後輩たちがここまでやったんだ。トップの私が来ない理由も見つからないな!」

 

「いくらでもあるだろう。お前にも家族がいただろう。家族の命も必要ないと?人質があるからお前は米国から動けないはずだ。それが世界の前提だというのに」

 

「その辺りは弟弟子とナイトアイがなんとかしてくれたみたいでね。数年かかったがこうして私はここにいる。ステイツ(アメリカ国民)の声援と大統領からの勅令で出撃できたってわけだ」

 

それはある種の不可能であった。政治的に圧倒していた支配者が自身の脅威となりうる強者を閉じ込めるための人で作った囲い。それは自由民主主義という名の檻だった。

 

強者には家族や大切な人間を作ることを制度として受け入れさせていざという時の枷とした。オールマイトに倣って独身を貫こうとしたスターであったが、そのままではアメリカでヒーローを続けることが困難になってしまう状況から仕方なしに結婚をしたのだった。

 

今では二児の母にもなりさらにパワフルになったと評判でもある。母となったスターは実力を伸ばし、そして数年前からは劇的に力を増強したのだった。

 

彼女の個性は『新秩序(New Order)』その効果は複雑だが結果はそれ以上に凄まじいものである。

 

それは対象に触れてから名を呼ぶことで、対象に新たにルールを設定することができるという個性だ。

 

制約は一度に二つまでしかルールを追加できないということと、自己強化に限界があるということ。例えば『オールマイトを超える身体能力』などは実現することはできない。しかし他の変更には基本的に制限はない。

 

『大気は私の100m先正面の空間には、存在できない。』などの文言は成立してしまうが、『触れた相手は死ぬ。』などは実現しない。しかし、『触れた相手の心臓は体を動かせば止まる』であれば実現するなどその柔軟性は検証しきれないほどに曖昧な能力でもある。

 

その効果は生物をはじめとする実体のある物に限らず大気やエネルギーなどの実体を持たない事象や概念にも影響を及ぼせるこの力は、人類の中でも破格の能力である。

 

この存在がなぜ許されていたのか。言ってしまえば彼女が個性検査を受けて発覚した時に全一に殺されていなかったかという当然の疑問は、それを育てて奪うためである。

 

全一が入念に隔離した最強の個性。それは自身を脅かしうると最初から知っていた。若く脅威である才能を早期に潰さなかったのか、それは個性を奪う際のルールに関わっている。彼が奪うと個性はその成長を止めてしまう。だから本来の持ち主にできるだけ負荷をかけて命を追い詰めて覚醒させ、それで奪うのが最上なのだ。

 

ちょうど実力的には最盛期を迎えた頃に相手の能力を全て対策した状態で奪いにかかるのがオールフォーワンの常套手段であるようだった。

 

5年前の事件でオールマイトは片腕を欠損。病にかかり、そして個性を譲渡した。彼はいまだに最高のヒーローであるが世界最強は彼女だろうと多くの人が知っている。

 

だからこそ、この核兵器並みに危険な存在を自国へと近づけさせないように世界が一丸となってアメリカに圧力をかけているというのが国際政治および軍事の前提であった。

 

そんな彼女が今この米国本土から遥かに遠い場所にいる。それもアメリカ議会の承認を受けて。

今回アメリカ側にUAIが多くの利益を引き渡し、そして未来の情報や協力を約束しこれまで集めた弱みやコネを酷使して彼女を即座に呼び寄せたのだった。

 

今後アメリカに対してはあまり自由を効かせることはできないだろう。いくつかの要人の安全なども確約したため『ハンター』の脅しもできない人間が増えてしまった。

 

それでも、この盤面を返すためにはそれこそ世界を変えるような力が必要だった。

 

 

人形のような少女が話しかけていたのはきっと時間稼ぎだったのだろう。

 

ずっと物陰や死角から矢を放っていた弓手が、限界まで引き絞った個性持ちの人間を練り合わせたような大弓を壊れるほどに力を込めてそれを放った。

 

 

音を遥かに置き去りにするその一射(ワンショット)は全ての障害物や妨害を無視して直進し、獲物を穿つ必殺の一矢となって進んだ。

 

『地面は凹凸になる』

 

スターは地面を軽く殴ってそう言った。やったことはそれだけだ。なのに世界はあまりに変わる。

 

そうしただけで、スターの周りが一気に100mも陥没しその周囲が逆に100mほど円形に隆起した。土の壁が立ったという規模ではない。地面自体が100mも持ち上がったのだ。それがおよそ1秒以内に行われ、研ぎ澄まされた殺意の一撃は遥か上を虚しく過ぎていく。

 

高低差が200mもある決闘場にスターアンドストライプは立っている。緑谷出久と重傷者の二人は器用に200m上の土の上に寝かせてあった。

 

そんな状況の変化にも物怖じせず、巨漢が迫り衝撃を纏った渾身の拳を叩き込んできた。

合わせるような見事な連携で人形の少女は自身の力を限界まで使って赤い雷を生み出した。竜のようなそれが迫り、次の瞬間には消し炭にするだろう。それほどの威力のそれをスターは避ける素振りを見せない。

 

『電気は、纏える』

 

彼女は持っていた電池を握りつぶして宣言した。バチリと音がしてそして、世界がまた変わる。

 

そして先ほど変わった地面はそのままだった。これから電気というものはスターアンドストライプに触れると纏われるという物理的な性質を獲得している。

 

つまりは無駄どころではなく、攻撃がそのままに支援となった。

 

女と漢の拳の交換。本来であればスターが負けていただろう。しかし今は赤い雷が鎧のように自身を守り、そして触れたものへと伝わっていく。

 

 

世界が千切れたかのような衝撃音が大地ごと人間へと叩きつけられた。

 

ドゴォォォォンッ!!!!

 

空気そのものが悲鳴を上げ、地面が一瞬ふるりと浮いたかのように震える。遠くで聞いたお茶子ですら耳の奥を殴られるような圧力が突き抜け、胸骨の内側まで震えが走った。

 

落ちてきた雷撃は、通常の白い閃光とはまるで異なる。真紅の光は血が煮え立つような色合いで、太く歪んだ槍となり戦士に突き立った。周囲の岩肌は溶鉱炉に投げ込まれた鉄のようにどろりと崩れ、焦げた砂塵が爆風に巻き上げられて渦を巻く。

 

中心にいた被害者は、それでも原型を留めておりそれもまた異常であったのだがそれでもすでに動けるような四肢は残っていない。

 

「跡形もなく消し飛ばせるなら簡単だけれど、オーダーをつけてくれたんでね。もう死んでいるんだろう。ならせめて、お前たちの体はできるだけ無傷で確保する」

 

その不遜な宣言に怒る戦士たちはいない。それが実行可能な人間が現実をただ述べているだけであり、それは何もおかしなところはないのだから。

 

何かに次なるルールをつける前にどうにか殺さなくてはいけない。これを相手に後手に回ればそれだけで敗北は確定してしまう。無事な全員がそれぞれの必殺を放つ。けれどそれより早く彼女は

 

『キャスリーンベイトは大気に影響を受けない』

 

『周囲200mの大気の質量は1000倍になって安定する』

 

 

その妙な音を聞いたが最後、他の全ては聞こえなくなった。

 

耳に奇妙な低音の響きが届いた瞬間、周囲の空気が重く、粘つくものに変わった。まるで海底に沈んだかのように。息が詰まる。いや、息などできなかった。肺が、最初に悲鳴を上げた。今やそれは鉄の塊のように空洞を見つけては押しつぶす。

 

1000倍の質量は1000倍の圧力を生み出し、空気はまるで水のように流体化している。

 

肺の薄い膜が、内部から膨張する気体に耐えきれず、ぱちんと音を立てて破裂した。血が混じった泡が喉を逆流し、口から溢れ出る。咳き込む間もなく、視界が赤く染まる。内出血。体内の液体が圧力に抗えず、組織を浸食していく。

 

すでに死んでいた無敵のはずの彼らは、即座に深海数千メートルへと落とされたかのような圧力の変化に全身を潰され、身動き一つ取れていない。普通なら死んでいるだろうが、何かの個性で死にきれていない。あまりに一方的で残酷な状況になっている。

 

「チェックメイトだ。まぁ、これも聞こえてないだろうけどさ」

 

『周囲200mの大気は徐々に消える』

 

彼らを残し、地上へと飛び上がる。彼女だけは深海のような空気の中をいつも通りに自在に動ける。呼吸はヘルメットからの酸素を受けており大気と関係なしに呼吸をしていた。

 

「緑谷出久。後継者だな?本当に、よくやったよ。お前が紡いだ一秒は、確かに世界を変えたんだ。あとは任せて、良い子で休んでおきなさいな」

 

重傷の二人の応急処置を済ませるまでに後継者へと語りかける。

 

「まだ、まだやれます。妨害がなくなったから、ACの追加パーツが届いてる。手足を補強したなら、まだ!」

 

「驚いた。でもそうか。年齢は関係ないってことか。君が後継であるなら納得だ。そのACを使っている理由は知らないが、まぁあとで説明を求めておこう。とはいえ、流石に足手纏いだ。ここで休んでいてもらおう」

 

「僕が、僕が最後まで、頼まれたことをやってるだけじゃダメなんだ。きっとこれじゃ想定を超えられない未来も、最善も、全部をひっくり返すくらいのヒーローに、ならなきゃきっと……」

 

スターは自身が鳥肌を立てていることに気づき、思わず冷や汗をかいてしまう。失態だな。死にかけの学生にここまで圧されるなんてと反省しつつ、それでも自身の判断は撤回しなかった。

 

「じゃあ、パーツが来る前に置いていかなきゃじゃないか。さぁ!マスターを助けにいってくるよ!待っていてくれ!」

 

この状態の子供を更なる激闘が予想される場所に連れていくなど狂気以外の何物でもない。そんなことは絶対にさせない。スターは早めに対話を切り上げ、自身へと飛べるようにルールを付加して飛び立った。

 

あまりに呆気なく状況をひっくり返した彼女はすでにオールマイトへと向かって飛んだ。周囲がまるで追いつけないスピードでそれを実行していくのだ。アメリカ全土をカバーして重犯罪やテロと戦う彼女はあまりに万能でもあった。

 

あまりに軽い重量の違和感に気づけなかったのは、よほど動揺していたのかもしれない。足に巻きついた黒いワイヤーのその先には、緑谷出久がついている。どういうわけか体重がまるでなく加速の際にもそれほど力が必要なかった。気付くのが遅れてしまったらしい。

 

「なんてやつだよ。マスター!こいつもイカれてるじゃないか!気に入った!」

 

ワイヤーをたぐって彼を引き寄せ、そして同行をしてもらうことにする。彼を放置したら何をしでかすのか想像もできなかったから。

 

 

 

平壌ではアメンドーズとオールマイトの壮絶な肉弾戦が展開されている。

 

アメンドーズの戦闘技能はないに等しいが、それでも無茶な体躯を振り回すだけで周囲ごと破壊を撒き散らすことができる。何より夥しい量の目玉から放たれる収束したレーザーのような攻撃は遠くまで死を撒き散らす。あれの予兆を感じたらオールマイトは接近して殴らなくてはいけなかった。

 

レーザーで誘い、近接戦を繰り返す。互いにダメージは蓄積しているが、どうにもオールマイトが不利に思える。倒すための前のめりな戦い方をしていればきっともうどちらかが地にふせていただろう。

 

「だが、もう、いい加減に限界だぞ。少年」

 

事前に聞かされていたリミットの時間が迫って、今まさにそれが過ぎてしまった。これでUAIにいる方の怪物が暴れ始めているはずだった。ここからでは移動にも時間がかかってしまう。街を、人工島の根幹までを破壊するのにそう時間はかからないはずだった。

 

 

焦る。しかし、それでも信じるという気持ちが遥かに勝る。彼の考えに身を預けると決めただろう。思考を読まれることを警戒し、詳細すら聞いていない。緑谷少年が時間を稼ぎ、狩峰少年が敵を倒す策を実行するとだけ聞かされていた。

 

 

いよいよ、全てが手遅れになる。そう思ったその時に、流星のような瞬きが視界に入った。

 

 

「マスター!!」

 

「キャシー!!??それに、緑谷少年まで!!?」

 

スターアンドストライプが手を伸ばせば、それだけで意図は汲み取った。でも、この接触はこの数年でようやく実現し演習だってそうそう何度もできたものではなかったが、それでも狩峰淡輝は数上の訓練の機会をどうにか作ってテストしていた。

 

だから何をするのかは知っている。そして、それが失敗することもあるということも。すでに手遅れかもしれない。一秒だって無駄にできない。

 

「最高のヒーローが揃ってる。失敗なんかするわけないだろう!!」

 

彼女へと跳躍し、そしてその手が届くその寸前。あり得ないはずの横槍が飛んできた。アメンドーズが、自身の指をちぎって投げたのだ。長身の人間よりも長いそれが、まるで槍のように飛んでくる。

 

これを避けたり、防いだりすれば、少し遅れる。しかし、彼女の命には代えられない。だからこの遅延を飲み込もうと覚悟した時、あまりに眩い緑の閃光が視界を走った。

 

手足の3本がぶら下がっただけ、全てがボロボロの緑谷出久が口でワイヤーを引いて機動を行い、かかと落としのように足を全力で上げていた。

 

奥歯が砕けるほどに、ワンフォーオールを使って噛んで動かしたのだろう。口から血を出しながら、それでもその足はまっすぐに飛来する冒涜的な槍を捉えている。

 

 

『MANCHESTER SMAAAAAAAAASH!!!!!!!!!!』

 

その叫びは世界を切り裂いて、その一瞬だけ現実を変えるほどの力を見せた。

 

アメンドーズの指が、彼の蹴りで少し逸れる。

 

「なんてやつだよ!全く!」

 

「ああ、若いって恐ろしい。でもこれで、大人もやるべきことができるはずだ」

 

 

キャスリーン・ベイト。現在はキャスリーン・フォージとなったスターは万感の思いを込めてオールマイトと拳を合わせた。

 

 

そうして世界へと宣言する。この変化を現実にするために。

 

『オールマイトは飛べる』

 

『オールマイトは()()()()()()()()

 

 

決して解除するなと言われた自身の強化を投げ捨てて、彼のために二つともを託していった。

ここまで後輩にさせてしまったのだ。自分が出し惜しみなんてできるわけがあるものか。

 

 

「私が、行く!」

 

 

オールマイトは拳を掲げて飛び始める。その速度はあまりに早く、そして反応する前にアメンドーズへと突き刺さった。

 

 

世界最強から、世界最高のヒーローへと託されたバトンは。彼の原点を刺激した。

 

 

 

「どこまでもだ!!」

 

 

このオールマイトに勝てるものなど、いるわけがなかった。

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