夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

70 / 164
戦いの終わり、そして

 

飢餓戦争と呼ばれるこの数時間の戦いは、UAIランドの代表であるオールマイトによる北朝鮮代表の拘束から始まったと記録されている。

 

国内の重篤患者や飢餓に苦しむ子どもたちを他でもない国家元首が人質に強気な交渉を繰り返し、最後には堪忍袋の緒が切れた結果交渉は決裂。実力にて最高指導者は捕らえられ、用意していた軍隊がUAIへと攻撃を開始するもドローン群によって無力化をされた。

 

オールマイトは平和を愛するヒーローであり、彼の行動は大局的には操りやすいと考えていた政治家たちはこの結果を受けて肝を冷やしたことだろう。

 

彼は戦争を始める勇気などなく、もっとヒーローらしく小さくまとまるだろうと想定されていた。しかし現実は全く異なる様相を呈示しており結果だけ見ればUAIと北朝鮮における戦いは、戦争と呼べる水準のものではなく強者が弱者を一瞬で飲み込んだだけの国際政治の常識を全て否定するような結末であった。

 

もちろん。この戦いはそれだけではない。飢餓戦争自体はそれこそ圧倒されて終わったのだが、同盟国が参戦し、そこからは100年以上前の世界大戦を想起させるような火力の投射が行われたのだった。

 

北朝鮮の支援という名目で、平壌ごと爆撃をするという狂気の攻撃を行ったのが元中華人民共和国の北部。今は国際的には『魏漢』と呼ばれる国というか地域であるが、そこがあまりに苛烈な軍事行動を示して戦争は次のフェーズへと進んでいった。

 

中国内戦において他二国をこの数年で圧倒していた魏漢が、その実力を全力で発揮して兼ねてより存在を否定していたUAIへと総攻撃を行ったのだ。

 

ミサイルとロケット弾は夜闇を一時晴れさせるほどの数が飛んでいき、北朝鮮の人民たちは誰もが空を見上げたという。北朝鮮にはできなかった高度な個性戦が展開され、大規模な戦闘部隊が1000人以上防衛網を無視してUAIランドの内部へと奇襲攻撃も同時に始まった。

 

それらに完璧に対応し切ったのが、Unified Artificial Island(UAIランド)であり世界初の統合人工島がその実力を遺憾無く発揮したと各国の軍部と諜報機関を唸らせたのだった。

 

まるで未来を知っているかのような、不合理な戦力配置とワープ地点の的確な予測。それでも溢れたテロリストたちへは軍人とロボットが対応し、市民の保護にはヒーローも多いに活躍したという。

 

北朝鮮の飢餓に苦しむものを収容し、治療をしながら南極にある難民のための医療の国へと護送が決定されたとのこと。治療が終わり希望した者は順次北朝鮮へと戻すことを発表した。

 

 

拉致ではないのか。という批判に対して、UAIランドの上層部、広報を担当していた塚内真は、理路整然とこう答える。

 

「UAI政府として、以下の通り明確に申し上げます。本件は、国際法上明白な国民に対する拉致行為であり、同時に他国の主権を侵害する侵略行為に他なりません。これは、いかなる意味においても正当化されうるものではなく、正義の名の下に行われた行動では決してありません。我が国は、国際政治の枠組みや国家間の主権関係を最優先に行動しません。我々は人間の生命と尊厳を守ることを最上位の価値として行動しております」

 

この時点で記者たちは言葉を失っていた。こいつは何を言っているんだと、誰もがメモをとる手の動きを止めてしまっていた。

 

「とりわけ、看過し得ない深刻な人権侵害が確認された場合には、まず加害者との交渉による解決を追求いたします。しかし、その交渉による救済が事実上不可能であると判断した場合には、被害者の生命を守るために必要な手段を講じることを躊躇いたしません。我々は自らを正義のヒーローと称するつもりは毛頭ございません。我々は尊い人命を守るため、必要に応じて暴力を行使する装置であるという認識を、厳粛に持っております」

 

当然ながらここまでの宣言を行えば、反論と詰問が爆発し記者会見は阿鼻叫喚の地獄へと成り果てる。そうして誰も彼女の言葉など聞く耳を持たない敵対関係になった時、とある爆弾が投下される。

 

それは、北朝鮮各地で行われていた非人道的な行為の証拠であり、飢餓の実態であり、人身売買と人体改造の記録だった。

 

写真と動画、最後には実際の被害者までもが会見場へと登場し、先ほどまでの喧騒が嘘のように誰も言葉を発さなかった。

 

彼女は最後に自分の言葉としてこう語って取材を締めた。

 

「我々は正しくないことをしたと自覚しています。そしてこれからもするでしょう。しかし、明確にもっと間違ったことを正すためには、野蛮な手段であっても取らざるを得ない場合があると知りました。我々は衝動的に人を助けることを続けます。協力をいただける企業や国家にはこちらからも全力で協力をいたしましょう。過去の行いを悔いるなら、未来の行いを変えるしかないのですから。我々は未来の話を皆さんとしたいと思っています」

 

強硬な力を見せつけて、そして強者から話し合いの余地を示す。人を救うことをさせてくれるなら独裁だって認めてやろうという、そんな譲歩を見せておく。この後、だいぶ怖がらせてしまうだろうから。

 

「だからこそ、オールマイトという人物が我々の代表であるのです。戦いを終えた後、彼が残した言葉が動画と一緒にありますので、最後にご覧ください」

 

 

とある海岸。大きなクレーターを作った張本人は限界だろうに、それでもそこに立っていた。

 

それは過去に見たこともないほど傷だらけのオールマイトであり、筋肉は見る影もなく、全身に傷のない場所がないほどの満身創痍。そしてその上で敵を打倒して立ち続けた英雄だった。

 

ドローンがそれを撮影していたのだろう。そのカメラに気づいた彼は、残った片腕と指を一本伸ばしてこう言った。

 

 

「次は、君だ」

 

 

国民を虐げていた国家の代表を捕縛し、飢餓から子供を救った直後のその言葉に世界が息を呑む。

 

それは、敵対者への宣言であり。どこかで救いを求める人への希望であり、そして彼の後を追う者たちへのエールでもあった。

 

その姿は、あまりに人を超えていて自らを燃やして世界を照らそうとする狂気がその目には漲っていることが画面越しでも伝わってくる。損得ではない。可能不可能などでもない。彼は願い、そして拳を振るって現実の方を変えてしまう。

 

その迫力が世界へと正確に伝わった。

 

歴史は、世界はこの事件をきっかけに動き出す。独裁者たちはその存在に怯え、復讐を恐れ始めていた。あれがここに来たらどうする?その当然の懸念に答えを持ち合わせているものはいない。なぜなら魏漢はこの世界においてまだ、外国と戦闘可能な軍隊を組織的に維持できている強国だったのだから。

 

「あのオールフォーワンがいた魏漢でこれだぞ?我が国などひとたまりも無い。どうすればいい?」

 

「一瞬で負けたあいつら、『世界ヴィラン連合』などと名乗っていたが、あれはまだ生きているのか?オールフォーワンさえ生きているなら、彼ならば」

 

あの支配者の恐ろしさを知らぬ者は小さな地域の支配などできるものかと、かの魔王を恐れることはこの世界の当たり前である。

 

5年前に彼が打倒されたと聞いて、全員が耳を疑った。そして発言者の正気を疑った。一番の主張を行なっていた『狩人』はどう見ても正気ではなくそれがむしろ信憑性を増してはいたが、それでも彼を恐れてUAIへと協力をしないものたちは多かったのだ。

 

あの狂気へと対抗するには、絶対的な指導者が必要だった。二度負けている点は相当に不安だが、それでもオールフォーワン以上の力を持ったものなどいないのだから。

 

個性を集める力は規格外すぎる。あのワープもそうだが、普通は負けないのだ。絶対に。信奉者たちはいまだに彼へと縋り付く。世界が変わらぬようにと祈りながら。

 

しかし、流石に風向きが変わったと直感したものたちもまた多くいた。

 

「オールフォーワン。いや、これからは……全一君だったか?そう呼ぶことにしようか」

 

今回の戦いできっと魔王が復活するのだろうとそう確信していたものたちも、今や現実を受け入れ始めている。

 

暴力で支配していたものが暴力によって負けた時、そこには何も残らない。

 

「オールマイトも大概だがな、ナイトアイと敵対するなんてそれこそ悪夢だ。あの『予知』の保護下に入れば、どんな危険からも守ってもらえるかもしれない」

 

世界は、旧体制へと縋り付くものたちと。新体制へと対応をする野心家たちに分かれ始めていた。

UAIへと味方するものはまだ大多数ではない。しかし、今回で大きく勢力を伸ばしたのは間違いない。

 

 

戦争によってしか世界は、人類は変わらない。

 

 

そんなあまりにも愚かで恥ずかしい言葉が歴史的な事実である。そう知ったどこかの読書好きな若者が仕掛けたこの戦争は、着実に世界へ変化を齎し始めていた。

 

「次は、どこにしょうか。ナイトアイ」

 

狩峰淡輝が手を伸ばして何気なく触れている地球儀は、150年前とはいくつか異なる箇所がある。

細かく見れば消えた島々や海岸線が無数にあると気付けるが、もっと大きな変化は地球の端っこ。

 

極点の部分がわかりやすく変わっている。

 

一点は、北極海が船で通行可能になっていること。そして何より大きな違いは南極大陸の一部の地表が見えていることだった。

 

 

南極に作られた難民たちのための国。そこに向かってUAIランドは進んでいく。いっぱいの夢を乗せて、誰かの夢を踏み躙りながらも進むのを決してやめなかった。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・

 

『北朝鮮の飢餓に苦しむものを収容し、南極へ……』

 

報道でもたったの一文で済まされたこの部分。歴史にも残らないその詳細、そこにこそヒーローたちの戦いはあった。

 

オールマイトが人類には倒せず防げないはずの脅威を除いたその直後、雄英高校の生徒たちの戦いは、まさにこれから始まるのだった。

 

「敵を倒し、誰かを殺すことのなんと簡単なことか。これまで私が言ったことを君たちも実感できただろう。それでは、人を救ったことになどならない。さらなるマイナスを消し去ったところで相手は変わらずマイナスの只中にいるのなら、それは救われていないのだ」

 

返り血で汚れたゲイル先生は、明らかに人を殺していた。

 

彼の制圧速度は異常であって、『加速』の個性を使っていてもどんなプロヒーローよりも担当区域の制圧が早かった。だからこそ救われた人が多くいたことも、というか自分自身すら救われていた生徒もいるのだが、彼が放つ人殺しとしての圧力は善良な子供達を萎縮させてしまっている。

 

「ここで私やUAI、ひいては雄英の是非を問うのは時間の無駄だ。後ほどゆっくりとやれば良い。それよりも、ここまで強硬に脅威を排除した理由を思い出したまえよ。ああ、そうだ。こんな殺人者など放っておいて、今は飢えた子供達を、思考を奪われ光すら奪われた哀れな兵士たちを。彼らを救うのが先だろう」

 

そう言って彼は、義足を外して車椅子へと深く腰掛けた。流石に老体に応えたのだろうとCクラスの生徒たちは心配するが、実際のところ薬物なども使って無理矢理に体を動かし続けていたのだった。

 

「ここからが、本当の期末試験だよ。存分に人を救って、救って、救い続けて。そして全てを救えず、無力を噛み締めてくると良い。それこそがヒーローなのだから」

 

 

鋭くも優しい視線は全体を見渡した後、爆豪勝己に向けられていた。少なくとも、本人はそう感じていた。

 

「っ言われなくても、わかってる」

 

自身が手にしたこの力。まるでゲームのキャラクターのように銃を乱射できるこの装備はあまりに危険だった。

 

爆破のために手放してもすぐに握り直せるように手首と一体となっており、機動をほとんど邪魔しない。

それに、それにだ。まだACで武装をしていない。空中の移動に掌の爆破を使わなくて済むのならさらなる最適化ができるだろう。

 

近づけば爆破。中距離では尽きることのない連続射撃。遠距離だって、考えがないわけじゃない。でもそのどれもが人を容易に殺してしまうような攻撃だった。あまりに簡単に人は死ぬ。

 

自分はきっと負けないだろう。この戦い方を徹底すれば、勝ち続けることができるとわかる。

 

だけれど、()()は理想とは程遠い姿だった。自分の憧れは、こんなに人を傷つけるような戦い方は決してしない。

 

「勝利の余韻に浸ることもなく、その在り方について悩み続ける。それこそが人である証だ。爆豪勝己よ。君の進路相談には乗ってあげよう。しかしそれも、期末テストを終えてからの話だよ。若人たちよ学びたまえ。きっと夢に近づくことができるだろうから」

 

 

これまでどれだけ戦闘訓練で成果を上げても、テストでトップを取ってもクラス替えの相談には一切乗ってこなかった担任が、自分から言い出したという現実に追いつけていなかった。言葉を失って、睨むことしかできなくなる。

 

 

「みんな、無事か?無事だよな!?」

 

「あ、狩峰く……きゃあああ!!!」

 

「なんだ!?ってうお!お前、どうした!?その格好は!」

 

全身をべっとり血で汚した、狩峰淡輝がそこにいた。晴れやかな表情をしているが顔は青い。体調は最悪そうではあった。

 

「いや、これ俺の血でもヴィランの血でもないから大丈夫。誰も傷付いてはいないよ」

 

ああ、なんだ。またいつもの奇行かよと。普段の行いによって流される寸前に、待ったをかける血液の専門家がそこにいる。

 

「ずるい!!ずるい!!ずるっこです!!こんな裏切りをするなんて、信じられないです!それって、全部百ちゃんの血でしょう?ひどい!なんでそんなこと!」

 

え゛?というヒーロー科一年の全員の声が聞こえた気がする。

 

「ち、っちが!違いますわ!誤解です!これにはきっと意味があって、仕方なく。あれ、でもそういばまだ意図を聞いていませんでした。説明してください!」

 

理由はなぜか正気を保てるからなのだが、これを言ったら終わりな気がする。だから政治家のように逃げさせてもらう。というか自分でもよくわかっていないのだ。意味わからんだろ。なんで人の血で鎮静化するんだよ。

 

「ノーコメント」

 

「サイテー!サイテーな感じの男って感じだ!見てよ!トガちゃん泣いてるよ!?どうなのさ!良い加減にはっきりしなよ!」

 

流れがちょっとおかしくなっている。移動のための無人機が到着するまではここで待機だし、逃げる口実もない。やっべえ。これどうしよう。

 

「さいあくです……。淡輝君は裏切り者のクソ野郎です……」

 

「いつの時代になっても女子を泣かせるのは罪深いのよ。狩峰ちゃん」

 

「いいぞー!やれ!吊し上げろ!ようやくだ!」

 

「待っていたぜえ。この瞬間(とき)をヨォ!!」

 

峰田やCクラスのバカどもも騒ぎ始めた。ああ、これはよくないノリだ。聞こえなかったフリとかで逃げられないだろうか。そうして切り抜ける恋愛漫画の主人公が結構いたはずだし、行けるはず……。

 

コメディの波動にやられかけたその時に、空気を変えたのはまたしてもトガちゃんである。

 

「私だって飲みたかったのに……!なんで、誘ってくれなかったんです!?許せない!」

 

 

ええ……?そっちい? 再びヒーロー科の心の声が重なり、ナイフを持って走ったトガちゃんが暴れて大騒ぎ。ヘリの音が聞こえるまでの取っ組み合いが始まっていた。

 

 

 

 

終わってみれば完勝で、それでも傷ついた人たちは多くいる。

 

ヒーローたちの戦いが、今から始まろうとしていた。

 

 




戦いが終わるとどうなる?

知らんのか?

また別の戦いが始まる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。