夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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メリークリスマス!!


平和の祭典編
平和の祭典


海は広いな、大きいな。

 

でも割と遠くまでは見えねえな。

 

人が見渡せる範囲というものは限られていて、前方の180度も見れているか怪しい。見えているのならこんなにくだらないミスをしないだろうとも思うし、手元すらおぼつかない毎日である。そういや盲点なんてものもあったっけ。

 

視界の中にある暗闇の一点を気づくことがないのはそれを脳がなかったことにしているからだ。

 

目が丁寧に光の情報を届けても脳は勝手にそれを変える。そこにないものすらリアルタイムで補正し続けてくれるのだから驚きだ。

 

まぁ、つまるところ我々は見えているようで何も見てはいないということを言いたい。その上、脳は時に幻覚まで見せてくる。記憶は曖昧だし信頼できようはずもない。

 

狭い視野で曖昧な映像。そしてそれを認知する能力すら未熟。人間はなんとも未完成だ。

 

水平線に目を向ければ、そこには光の輪郭が光っていて朝の神々しさを演出してくれている。未熟な人間に対して雄大な自然という比較はそれこそ傲慢と言えるだろうか。

 

もしも頭に目玉が増えて360度見渡せたとしても地平線や水平線という球体の限界も存在している。この広大な海のたった半径5km程度しか見れない。実際には船の上からなのでもう少し見えるが、視力の限界というものもある。

 

地球が平面ならどこからでもエベレストや世界一高い塔が見えなくてはいけないが、見えないことで何かを証明するというのはかなり高度な行いらしい。目の前の地平線という証拠を指差して、今日も人々の意見は割れている。

 

現在では地球平面説信者はアメリカを中心に大きな派閥となっていて、反知性勢力はそれはもう隆盛を極めている。とはいえ彼らはすぐに仲違いをし続けるので大きな一派という形にはまとまらず永遠に小競り合いを続けている。

 

大学というだけで週に一回襲撃をされてしまう最悪の治安状況からこの数年はだいぶ回復してきたと言えるだろう。アメリカからは複雑な個性が出にくくなっているという研究報告もありオールフォーワンの社会実験はかなり興味深い結果を示しているようだった。

 

強力な個性があってもそれを扱う人間の思考力が低ければ大したことはできない。そんな冷笑的な仮説を裏付けてしまっていたのが5年前までのアメリカである。そこで成長をして究極の脳筋として帰国し、裏で全てを操っていた魔王を筋肉で粉砕したのだから噴飯ものの笑い話でもあるのだが。

 

半知性が根付きつつあった国のNO.1ヒーロー。スターアンドストライプなどは政治的に、大局的にオールフォーワンにやり込められてしまっていたと言っていいだろう。

 

彼女は早くから個性の強力さを軍に認められ、高等教育をスキップして軍属になっていた。

 

『新秩序』という世界最強と言って差し支えない神の如き力を持っていたのに、彼女は物理学を学ばせてもらえていなかったのだ。数学や物理を学ばずに、筋トレや格闘技を学ばされ立派なヒーローとして教育を受けていた。レーザーやミサイルなどの火力を束ねて敵にぶつけるという技を聞いた時には驚いた。ちょっと工夫しただけでほとんど脳筋戦法である。

 

彼女が愚かだったわけでは決してない。環境がそうさせなかったというだけだ。自分だってあの悪夢のような地獄に閉じ込められるまでは日本に与えられていたテーマである『無関心』を体現していたと思う。

 

そんな人類を自分のおもちゃとして遊んでいた男はすでに玉座を追われている。自由な発想で彼女に何を伝えれば良いか検討し専門のチームまで作ってあげた。彼女の個性を詳しく分析しそして科学者たちが検討をすると、それはもう恐ろしいほどの可能性が見えてくる。

 

彼女は一言で人類を滅亡させることができる。破滅的な相手に洗脳や催眠系の妨害を受けないようにその方面の研究は日夜最優先で進められてもいる。

 

多大な制限を受けながらも彼女は訓練をした。この五年間で最も実力を伸ばしたのは間違いなく彼女だろう。全人類の中でダントツであると狩峰淡輝は確信している。

 

あのUAIを吹き飛ばす渾身の一撃を見た上で、そう断言できるのだから彼女は異常だった。

 

 

ああ、なんか。いろんなことに思考が飛んでいくな。寝起きはすごくいいんだけれど、少し経ってご飯を食べるとぼーっとしてしまうこともある。

 

なんでこんなことを考えているのか。それは単純にUAIの頂点から水平線を眺めていたら彼女が飛んで現れたからだ。

 

「朝が早いことはいいことだ!年頃らしく黄昏てるとこ悪いけど、時間良いかな?」

 

「朝日を見てたので、黄昏っていうよりは朝ぼらけって感じです。これ翻訳できてます?」

 

「ああ、問題ないよ。翻訳アプリも今はスタンドアローンで接続を切ってるけれど雰囲気で感じてるから。この会話は他の誰にも聞かれていないからいくらでも話せる。安心してなんでも話してみてくれよ。ナイトアイは今日も出てこないんだろう?」

 

揺るぎない笑顔で相手を安心させるのは世界最強のヒーローである。

 

「はい。これからも表舞台に彼が出ることはないですよ。それこそオールマイトの結婚式があったって出席しないくらいには揺るがない事実です。彼がオールマイトの結婚式でもですよ?わかりますよね」

 

「はは!ああ、そうだね。そりゃあただ事じゃない。()()()()()だ」

 

彼女はきっと色々と察しているだろう。冗談にしか聞こえないこれがどれだけの意味を持つのかはナイトアイの狂信的なまでのオールマイトへの入れ込みようを直近で見たものにしか理解できないだろう。

 

「以前から懸念していた上位者。あれはあなたのフルパワーでも一切影響を与えることはできません。ただし、見てもらった通りあなたが強化したオールマイトならやりあえるどころか圧倒できた」

 

「へえ。私はフルパワーなんて出した覚えはないけれど、やっぱりナイトアイは並行世界を見れるみたいね。まぁ、そんなわかりきった驚愕の事実はおいといてそれより変なのはあれでしょう」

 

手で指し示す先には歓楽街の巨大モニター。そこには元気100倍になってカッ飛んで全てをめちゃくちゃにしてくれたオールマイトの勇姿が映っていた。

 

「あれはちょっとどころじゃなく変だった。あそこまで強くなるわけないのに、なっちゃったよね。あのオールマイトを元気100倍なんて、私の個性でも上限を超えてる。彼をそこまで強化するなんて不可能だというのにね」

 

肩を困らせてやれやれとため息をつくが、それはもうすでに分析官や科学者たちが十分すぎるほどにやっている。そのリアクションはもう間に合っていた。

 

「あれは再現性がありませんね。あなたと彼のプルスウルトラってやつらしいです。感情の昂りとあの時の緊迫感などなど、上位者や予知など不確定な要素がありすぎて分析不能だって科学者とAIの両方が降参してました。正直言って奇跡ですよ」

 

あれはやり直しをしたとてまた引き起こせるのかわからない類のものだったと思う。こちらも全力だったし、その必死さも彼らに影響をしていたとなれば死に慣れた末に消えていく類のものもあるのだ。

 

それは目覚めによるやり直しが万能でないことをどうしようもなく鋭くこちらに示している。英雄たちの激情は論理や再現性とは真逆にあるのだから。

 

「結果としては完勝。ステイツの議会を黙らせることはできているし、国際社会の反応も悪くない。それでもここまでの無茶を通したんだ。以降は私が出張ることは簡単じゃなくなるというのもわかるね?」

 

「ええ。もちろんです。とはいえ不可能ってほどじゃない。そう、緑谷出久のやったことに比べれば、あんまりにもお手軽ですよ。彼はアレに干渉しました」

 

「あの時に迫っていた何か。あれを弾いたんだってね。私やレーダーには一切感知されなかったアメンドーズの指だったか。あれだけの物証を見て彼と君たちを信頼していても、何一つ感じ取れなかったのはなかなかショックだったよ」

 

そう言いながら彼女は静かにUAIの一番高いところにある柵へと腰掛けた。無造作に手を置いたそこには何もなく、ただ朝焼けを受けて影を落とすだけ。そう見えているのだろう。

 

だが朝を超えてからというもの、自分には以前より見えるものが増えていた。人の視覚や幻覚について考えていたのはそのためだ。

 

「何が現実で何が超常なのか、この150年はそれが曖昧になり続けたと言ってもいい。それでもこの5年での現実の揺らぎ方は異常です。今、俺の目にはあなたが不気味な骸骨のような白くて小さい亡者のような何かを潰したように見えてます。うわ!指の間から新しいのが生えてきてる。シルクハットとか被ってますよ。意味わかんないなぁ」

 

ため息まじりに自分の現実をお伝えしておく。嘘をついたってしょうがない。実際に見えるし、俺にだけ見えるものがただの幻覚で片付けられないことももうわかっている。

 

「それは……。どうリアクションをしたらいい?ちゃんと検査も受けているだろうし、嘘もつかないとわかっているけれど、ここにも上位者が?」

 

「いや、それが害はないみたいで。朝起きたら覗き込んできたりして漏らしそうになるくらい不気味で怖くはあるんですが、なんていうか。ただそこにいてこちらを見ている感じっていうんですかね。『もののけ姫』わかります?そのコダマが餓死したらこんな感じかなって見た目なんですけど……」

 

「ジブリの名作だっけ。今度帰ったら子供達と見てみよう。実害はないけれど、そこら中にいて見てくるか。頭がおかしくなりそうな状況だ。しっかり休んで欲しいところだけど、そうもいかないんだろう」

 

「はい。ワープの個性を持っているオールフォーワンは当然ながらアメリカ軍とあなたの空爆を避けて生き延びています。その影響力は確実に削いでいますが、時間は与えないに限る。南米に反社会的な組織が集まっている動きを隠しもしていない。誘われているなら悪くない。最悪なのは完全に隠れてゲリラ戦をされることですから」

 

「あれは狡猾だけれど、決して隠れ続けることはしない。やはり根底には子供っぽさがあるようだ。その隠れ蓑だった魏漢はすでにボロボロ。残りの二国が北朝鮮ごと奪い合うだろう。でもステイツにできるのはここまでさ。南米についてはアメリカはタッチできないよ。あの地域にはトラウマがありすぎる。議会も民衆も決して介入には賛成しないしできない。あの壁は今だに安心を与えてしまっている。残念ながらね」

 

超常黎明期。他国と地続きの多くの国ではそれはもう悲惨な事件が多く起こった。起こり続けた。

アメリカと南米の関係は前世紀から悪かったが、燻っていた火種が各地の火薬庫に引火したかのように爆発炎上したと言っていいだろう。

 

以来アメリカは南米との国境に以前よりも高い壁を築き、それだけでなく地雷まで敷設したのだからそれはすでに戦争と言って良かった。

 

「まぁでもその前のオリンピックだったね。あれにはできる限り協力するからさ。平和の祭典なんて素晴らしいじゃない。家族で楽しめるように準備しているから、中止にならなくて良かったよ」

 

「世界から強制的に戦争を奪う2ヶ月間。この間に戦争をした組織や国家にはオールマイトやあなたを含んだトップヒーローが向かってトップを説得する。または『狩人』やAC部隊が派遣されるというあまりに乱暴で勝手な押し付けです。暴力を更なる暴力で抑制するだけのシンプルな平和だからこそ、実現はできる」

 

「ああ、相手方の対抗馬は逃げるのに必死だ。今ならそれが可能だと私も思うよ。この世界から2ヶ月だけでも、表面上だけでも争いが止まるというのは画期的。本当に感心したんだから」

 

わしゃわしゃとその大きな手で頭を撫でられるというか、掴んでくしゃくしゃにされた。

先ほど亡者を潰した手であるが、今更気にならない。大きな力と温かな感覚がそこにはあって、自分が頼れるかもしれない。数少ない大人という意味でも、少しは子供扱いを受け入れることができている。

 

「けれどあの傭兵部隊には気をつけて。こちらでも調べたけどあまりに汚点がなさすぎる。あれが必要な状況だったことは理解するし、実際に仕事は良いものだったけれど。油断しちゃダメだよ」

 

 

北朝鮮の詰み盤面。それらを勝利へと動かすためにスターに来てもらったのだが当然それだけではない。

 

スカイクロウラーとCCセレブリティを空母の護衛から夜渡りの戦士たちへと向かわせることができた背景には、純然たる戦力の増強があった。技術や資金を対価に戦えるものを動員したのだ。

 

中でも目覚ましい活躍をした組織がある。ACのような強化外骨格を活用した新興の民間軍事会社である『カンパニー』はAC技術の提供と長期の専属契約をすることで引き込むことができた戦力の一つだ。

 

全一や上位者との戦いには全く役に立たないがそれ以外の戦いには活用できる。急場の契約のためかなり足元を見られる内容になっているが仕方ない。オールインしなければ打開できない状況だったと確信できるから。技術や金で翌朝が買えるなら安いものだと思ってしまう。

 

「いいかい。私よりも賢くて物知りな君には余計なお世話かもしれない。けれど、頼れる人は頼るんだ。私にも家族はいる。家族のためならなんでもするが、世界のために全てを捨てて何もかもを優先してというわけにはいかない。それでも限界までは世界平和のために動くと約束しよう。自分すら捨てる覚悟のナイトアイとオールマイトには一歩及ばないけれど、私はスターアンドストライプとして家族と故郷を守ってみせる。この判断に迷いはない」

 

その目で見つめられると、少し弱い。彼女は家族思いの最強ヒーロー。こちらを助けようとしてくれているということがわかる。

 

「ええ、頼りにしてます。勉強について聞きたいことがあれば相談してくださいね。本だけは死ぬほど読みましたから」

 

「出たよ。世界一の図書館振興過激派だものね。どれだけ基金に金を突っ込んでいるんだか。でもそっちも問題なし。もうすぐ修士も取れるんだからね。アメリカのトップは脳筋で低学歴とは言わせないさ」

 

冗談で気恥ずかしさを少し躱しつつ、頼れる大人と別れていく。

 

「最後に、前に語ってくれた夢は今も変わらないかい?」

 

「ええ、一つも変わりません。上位者はいると思ってた。全一は生きてると思ってた。それでも俺は、オールマイトのために世界を平和にしてみますよ」

 

「いいね。やっぱりイカれてる。私たちで変えてしまおう。いずれ来る破滅があるなら、後回しにはしない。させない。だけど一つだけ心配なのは……」

 

「ナイトアイに似てるけど違う弟弟子へのアドバイスだ。人のことをわかった気になってはいけないよ。未来を知れるなら尚更だ。感情というものはいつどんな爆発をするのかなんてわからない。全知に近くとも、全てを知ることはできない。全能になれる可能性を持っていながら決して及ばない、ただのお姉さんからのレクチャーさ」

 

 

つい先ほどは先輩として頭を撫でてくれたその手を、今度は対等に掴んで握手する。

 

「悪夢は狩れる。打ち倒すことはできると教えてくれましたから。俺はやれるだけをやりますよ。何も知らなくてもそれは変わらない」

 

 

「HAHAHA!安心だ!彼ら(英雄)ほど心から狂えていないのに、それでも彼ら以上のことをしようとしている君が一番クレイジーだと私は思うね。とても楽しみだ!」

 

自分には休んでいる暇などないが雄英高校は現在、夏休みに入っている。カウンセラーに指示された者は強制で、そうでないものも希望者は日本へと帰国している人も多い。

 

それでも残って、雄英高校体育祭とその後に控えるオリンピックへと挑戦をする学生も確かにいるのだった。かつて人類の規格が破綻して無くなってしまった五輪という世界的なイベントをUAIが復活させる試みである。

 

代替となっていた雄英高校体育祭は前座となり、そこの優勝者がユース代表となって各国の選手たちと競っていく。

 

 

熱い戦いが、世界中の戦争を中断して行われる。世界から争うエネルギーを奪うのだ。

 

 

代理戦争を誰もが熱狂できるエンタメに昇華して、人が死ななない平和な争いへと変換する。これはUAIが世界へと仕掛ける大勝負だった。

 




体育祭&五輪編ということで年末年始は少し血生臭さからは離れてリスタートだ!
師を走らせろ12月!
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