戦闘は各所で起こっていた。
仕掛けているのは主に3人のうちでもっとも機動力があり、火力も出せる一人だけ。
基本的には防戦側が人数的に有利になるようにできていた。一人を遊撃に回さないとなれば三人で待ち構える事もできるということで有利すら取れるだろう。
三人が備えているところに襲いかかり、無傷で相手を圧倒するミリオ先輩と拳藤さんは相当におかしい。
そして、護衛を一人に任せて二人で攻めに転じている緑谷チームもまた相当の変わり種だろう。こんなに型破りな戦法を取るとは、やはり緑谷は侮れない。というかこれは彼の策なのだろうか。
「へいへい!また爆豪だ!これで仕掛けるのは3チーム目ってんだから前のめりすぎやしないか?息切れしない自信があるってのかぁ!」
「爆豪くんの最近の戦い方って好きじゃないです。なんか遊びがなくて一方的で、すごい自分勝手って感じがして嫌ですー」
「カードゲーマーへの文句かな?でも戦いにおいてはこの上ない褒め言葉だよねそれって。前までは遠くから接近して近接か、若干の中距離から爆破しかなかったもんな」
「それならやりようがあったけど、今は弾切れか息切れを待たなきゃなので面倒なのです。近づいても戦えるのに、それまでが大変って嫌なタイプ」
そう。爆豪は全距離の戦闘適性が高い。遠距離でも器用に射撃もこなすことができるようだったが、それよりは距離を一定に保ち続ける二丁拳銃スタイルに落ち着いた。
その真価は、まさに攻めの場面でこそ光るのである。
二年の明日羅金剛は3m近いその体を存分に活かして戦っていた。
三面はそれぞれ死角を埋めて警戒をしているし、同時に常人の3倍は思考をすることができる。意見が食い違ってしまえば混乱の元にもなるが、ヒーロー科に入ってからの厳しい訓練を経て意思統一もラグなくできるようになったのだ。
それぞれの手にはサポート科から託された盾が二つ。剣と槍。今回に限って突撃銃を二つ装備している。
迫り来る相手に銃弾を浴びせ、そして盾で防ぎ切る。彼は二年で最もバランスの良い戦闘ができる逸材だった。
他の二人もかなり強力な個性を持ってはいる。
しかし、銃撃ができる上で守らなくてはいけないものがあるこの戦場では一年間の普通のカリキュラムがあることが決定的なアドバンテージにはなっていない。
雄英高校で今もっとも重視されている能力。それは間違いなく適応力であった。
「ちょっと!全然当たってない!」
索敵を担当しているのだろう。大きな耳を必死に押さえて辛そうにしているのは二年の女子で最も聴力に優れた生徒である。
「もう8枚も割られてる!再生間に合ってないぞ!このままじゃ!」
浮遊している六角形の光る板は、俊敏に動いて銃弾から仲間と護衛対象を守ってはいるがそれでも明日羅の大楯に防ぎ切れないものを弾くだけでも消耗が激しい。
こんな形になるとは予想していなかった。従来の雄英が採用していた模擬戦の形式では流石の爆豪でもこの三人には勝てなかっただろう。
彼は実戦に近づくほどに威力を発揮する事ができるというだけだ。
「ぐっ!しょうがねぇだろう!あの、フラッシュがっ!厄介過ぎる!!」
そう。総合的な実力はむしろ二年が個々で上である。だが、爆豪が彼らを圧倒しているのには理由がしっかりとあった。
爆発の衝撃でも熱でもなく、光にエネルギーを偏らせて爆破する事も可能ということで彼がやっているのは単純な目眩しであった。
「やっば!もう割れかけなんだけど!」
「それよりお前も索敵と回避くらい自分でやれよ!なんのための役割分担だと思ってっづあ!!?」
爆発の種類が変わった何かが炸裂し、会話が引き裂かれた。
ギィィィインという残響だけが残り、互い何を言っているのか開閉する口の形で想像するしかないのだが……
次に閃光が視界を焼いて、その情報すら途絶する。暗闇とうるさいほどの静寂の中、彼らは銃弾の雨に晒される。
それを見たトガちゃんは不思議そうな声を出していた。
「なんで、北朝鮮で目を焼かれた人達を見てたのに対策しないんです?」
「うーん。あんまり擁護はできないけど、人にした事を自分にもされるって思えるのは結構珍しいのかもね。でもやっぱり爆豪があれだけ勝ちに徹して動けるっていう事が予想外だったのはデカいんじゃない?」
爆豪はそのままに射撃を浴びせ続け、ついにはシールドを全て割り切った。
護衛対象はまだしっかりと守れていたが、チームの二人が被弾。そして、ダメ押しで繰り出された大技に完全に対応できなくなる。
『ハウザーインパクト』
溜め込んだ爆発性の汗を一度に起爆して広範囲を巻き込むその技は、コントロールが甘いうちは人に向けてはいけないと言われていた必殺技である。
一帯を爆炎が包み込み、敵も味方も前後も上下も無くなって世界が炎だけに包まれた。あまりに高い威力に観客たちは悲鳴をあげる。
『やっばくねえかおい!!あれは流石に怪我もあり得るぞ!』
必殺技とは必ず殺すと書くのだ。ゲイルはかなり丁寧にその点を教え込んでいた。
「君たち、必殺技を習得することは私も推奨しようと思う。きっと役に立つ時はきてしまうだろうから。しかし、その運用には注意をすべきだろう。日常で使える必殺技などというものはないのだから」
必殺ではない技をそう呼んではいけない。殺傷力の高い技を作ったのならそれを気軽には使わないこと。それらを徹底されたCクラスは必殺技を習得しない者たちもいた。
ちなみに淡輝の必殺技はない。いざとなれば、空母打撃群とオールマイトとスターアンドストライプをけしかけるというのが必殺技と言えなくもないか。虎の威をかるのが人類で一番上手い自負があるから、この点では譲れない。自分単体で可能な攻撃はたかがしれているが、やりようは他に無限にある。
『ああーーっと!これは爆豪!まさかの牽制だ!今の爆炎で他の二人が近くまで来ていることを悟らせなかった!!明日羅にモギモギがもう6つもついている!武器につけば切れ味を失い。盾につけば重くなって別のものも引っ付ける。あれ邪魔すぎだろーー!!』
爆豪チームは、まるで爆豪の単騎かと思わせておいて全員で合流して叩くことにしたようだった。それも奇策ではあるかもしれないが、戦力を分散しないというのは基本中の基本である。爆豪がそれをしたというのが奇策として見えるだけだろう。
そして、格上の1チームを撃破したその時に、それは来た。
『エアフォース!!!!』
緑谷が放つ衝撃派による奇襲。それに続けて、黒鞭によって引っ張られた岩がいくつも飛んできた。
「クソデクが!引け!変態ぶどう!」
「オイラのことそうやって呼んでたの!?」
まだ距離はある。このまま引けば、無事に体勢を整えることはできるだろう。その場にいる誰もがそんな確信をしていたのだった。
けれど、緑谷出久は別の確信に満ちていた。
「かか、かっちゃん!逃げんのか!?戦えよ!弱虫!!!」
なんだそれ。観客は思っただろうまるで小学生並みの挑発であると。
しかし爆豪を知っているものの見解は違う。これは必中で必殺の、不可避の罠だと知っている。あの爆豪が緑谷の安い挑発を無視することなど不可能だ。
「やっべえ!おい、爆豪!」
諦め半分であの峰田が叫んでいる。
そして、爆豪は……
「……一回引くぞ。別のやつも狙ってやがる」
「え、うそ。冷静なんてそんなことある……って顔こわ!!!」
青筋を通り越した何かを顔面に走らせて、食いしばった奥歯は割れるかと思うほどの悲鳴をみしみしと上げている。
人を殺した直後と見間違えるほどの終わっている剣幕であるが、しかし爆豪は冷静だった。
「カスどもの挑発には乗らねえ。あれがくる。一旦引けってんだ!離せや!逆に邪魔だわ!」
閃光と音響でその場の全てを奪い、一目散に逃げ出す爆豪。緑谷は置いてきぼり。あまりにありえない光景に少しも身じろぎができなくなっている。
そこへ特大の拳が迫り、緑谷を空へと打ち上げた。
「あれれ?爆豪ったら逃げたのマジで?緑谷くんいるなら私がきても戦い続けると思ったのになぁ」
拳藤という最強が、その拳を叩きつける相手を求めて獰猛に笑った。
ちょっと短いですが、分割しないとだったので今日はここまで!
またあした!