夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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三人寄れば

緑谷出久は咄嗟に黒鞭でガードをしたのだが、それでも甚大な衝撃を喰らっていた。

 

「それに、まだ終わりじゃない!」

 

打撃自体もさることながら拳藤さんは続く追撃が怖いのだ。何が怖いって、何が来るのかわからないのが怖すぎた。

 

 

素早い紫の光が飛んできたので、デコピンの要領で空気を弾き衝撃を弾として発射した。空中で相殺されるが、『危機感知』は他の脅威をすでに察知しているようで空中でも回避機動を始めていた。

 

「いつの間に、広範囲攻撃っ!?」

 

白い雨のようなものがばら撒かれていて広範囲に降り注ぐ。可能な限りを衝撃で散らしつつ、黒鞭を傘のようにして身を守った。

 

「濡れるだけで、効果は……わからない。怖いな」

 

その頃には素早い身のこなしで拳藤自身が緑谷に追いついて再び打ち上げようとしている。

 

ワンフォーオール15%。

 

「オクラホマ・スマッシュ!!!!」

 

繰り出された攻撃は、本来模擬戦で同級生相手に向けてはいけないレベルだったが、彼女に対しては不足すらしていると知っている。迷いなく拳を振り切って、莫大な力同士がぶつかり合った。相殺されるのはお互いにわかっているらしい。

 

「でも、ネイルは消耗するはず!力でも手数でも、負けてない!」

 

「緑谷もなんかすごい個性増えたもんね!なんなのさそれ!」

 

一人には個性が一つという常識を疑わせるような光景が繰り広げられる。明らかに複数の個性を使いこなしている二人はまるで決勝でもしているかのような白熱ぶりだった。まるで他のことなど眼中にないようにして、二人で戦闘をしている。

 

 

その戦いを見ている別の視線がある。

 

戦闘終わりの爆豪チームを狙っていたのは緑谷と拳藤だけではなかった。ビッグスリーではない三年チームもそこを狙っていたのだった。

 

「戦おう!一つは逃げたが、有力な奴らが集まってる。まとめてやるチャンスだ。一年相手に引いてられるか!」

 

「いや、そう思ってたけど流石にあれやばいって。一回引こう?」

 

戦闘要員の二人の意見は割れていて、当初の計画通りに進めるかどうかで逡巡している。どちらにも理があり、利があった。しかし取れる選択肢は一つだけ。

 

「だいたい、『炸裂』をこれ以上溜めたら狭くなった時使えねえ!やるだけやってくるのが最善だろ!やったらすぐに」

 

そう言って飛び出したのは自身の付近に光る球体を浮かべた三年の男子。そしてそれを止める間もなく、足元の小さな光球を踏み潰して加速した。

 

今、一年たちは目の前の戦いに精一杯だ。そしてそこに、溜めに溜めた『炸裂』をお見舞いすれば一気にアーマーを吹き飛ばせる想定である。それは実際正しい。

 

『おおーっと!ここで三年チームが漁夫の利を取りに来た!一年相手にも容赦なし!けれどその判断は正しいぜ!広範囲攻撃を横からぶち込まれりゃ誰でもたまんねーって!』

 

プレゼントマイクもそう言っているし、実際そう見える。

 

「緑谷くん、負けてほしくないな」

 

トガちゃんも不利と見ているようで心配そうだ。結構気に入られているから、もっと時間をかけて血みどろになってほしいと願われてしまっているらしい。この模擬戦ではそんなに出血はしないけれど。

 

「確かに奇襲ならやばい。でもほら、見てなよ」

 

二人が渾身の一撃を放つその瞬間に、炸裂を付近へ投げ込んでその衝撃を利用して離脱。それが作戦であった。

 

だが一つだけ、誤算があった。いや、思い込みと言うべきだろうか。

 

世界が一瞬騙される。拳藤と緑谷は全力の拳を最速で曲げて、互いに無防備を晒す。

 

完璧なタイミングで防御を捨てて体勢を変更すれば、そのまま殴られてKOされるに決まっている。しかし、それは起こらなかった。互いにその隙を一切使わず、乱入者だけを見据えていたから。

 

 

「「かかった!」」

 

 

両手を使って拳藤がその炸裂する光球を包み込み、そしてお風呂で水を飛ばすかのように炸裂した勢いが乱入者へと向くように手をあわせる。

 

後ろから攻撃し放題のはずの緑谷は、拳藤の背に隠れ黒鞭を射出。三年の体に巻き付かせた。

 

「お前らっ!組んでやがったのか!?」

 

次の瞬間、炸裂した力が手中で暴れ出し、そして今までで一番の風がそこから噴き出された。それでも必死に守るが、アーマーどころか気絶するほどの威力の力に晒されて三年生は意識ごと吹き飛ぶ。

 

「三年チームのエースをやれるなんてラッキーじゃん。ビッグスリーとか潰せれば最高だったけど。上々かな」

 

「うん。一年生には僕たちの戦いはどこか真剣味がないと思われるかもしれないから、先輩たち狙いではあったけど、本当に良かった!」

 

「じゃあ一旦は、残りのメンバーを落としとかなきゃね!」

 

 

巨大化した左手が、まるで熊手のように地面を鷲掴みにしている。そして右手には緑谷が乗せられて、身を丸くしていた。

 

「行ってこい!緑谷すまーーっしゅ!!」

 

「う、ぐぐぐっぐ!」

 

地面にアンカーを突き刺してそれを起点に、全力で投擲。ハンドボールのように豪快に飛んだ緑谷出久は、自分である程度着地点を調整しつつ、残りの三年チームとの距離を一気に詰めた。

 

詰めるどころではない。直撃コースのその物体を、命からがらに三年は避ける。凄まじい速度のまま通り過ぎる緑谷はしかし、それもしっかり予想していた。

 

黒鞭が近くの大木に巻き付くと、それを視点に思いっきりスイングされる。急激なUターンを決めて、全く速度を落とさぬままに転がっていた護衛対象へを飛び蹴りを叩き込む。

 

『護衛対象!粉⭐︎砕だぁぁあああ!今年の一年はどうなってんだマジで!』

 

この戦闘の設定として、自分たちの護衛対象は人間。相手のはロボットということにしてあるので緑谷は別に仮想で人を殺めたわけではないと弁護しておきたい。

 

そうして緑谷が仕事をしていると、投げた方の拳藤もまた別の戦いを始めていた。

 

 

トントンと爪先で地面を軽く蹴りつつ、拳藤はある一帯に向けて声をかける。

 

「じゃ、こっちはこっちでやろっか。地面の中にいるんでしょ骨抜!全員いるとみたね!」

 

「うげ!なんでわかるんだよ!増設してるのは戦闘だけじゃねーのか?でもまぁ、こっちも轟を抑えるの限界だったし、ちょうどいいっちゃいいわ!」

 

「封印され闇も抑えが効かなくなってきたところだ。戦闘は望むところ!」

 

付近の地面がタプンとぬかるんだと思えば、そこから骨抜と、常闇が護衛対象も抱えて出てくる。そして轟が顔を出す。

 

「お前ら、共謀してやがったのか。それでもヒーロー志望かよ。人を騙して、恥ずかしくねえのか?」

 

骨抜を振り解くようにして、轟は拳藤を睨みつける。どうやら何かが気に食わなかったらしい。

 

「うわっと。轟の逆鱗はここにもか。ヒーローらしからぬ行動とか、人を傷つける場面を見るとブチギレちゃうって聞いてたけど、バトロワだよこれ。これもアウト?事前の調査よりキレやすくなってないかな。ていうかエンデヴァーで情緒が荒ぶってると見るべきか」

 

「その名前を口にするんじゃねえ!」

 

「おい、轟!作戦を忘れるな!」

 

仲間の制止も止めきれず激情とともに放たれるのは冷気を氷にした轟の得意とする攻撃だった。

 

土と石を押しのけるように、蒼白な結晶がせり上がり、棘となって空と大地を裂く。凍りついた隆起は波のように連なり、前方へ走った。

 

氷の槍が地面から噴き出し、敵の足元を穿つ。逃げようとした先でも、さらに地面が盛り上がり、氷塊が壁のように立ち塞がる。冷気が刃となって肌を刺す。はずだった。

 

 

氷が迫り、そして拳藤はそれを正面から正拳突きで打ち砕く。

 

真正面から純粋な力で自身の全力を砕かれた轟は動揺してしまう。

 

「じゃ、次はこっちの番ね」

 

そんな隙など許さない。拳藤がその巨大な拳を一振りすれば、剛風と共に3つの色が放たれる。

 

その衝撃によって咄嗟に展開した氷壁が吹き飛んだ。そして、後から色が殺到してくるのだ。

 

赤色が最もシンプルで同時に厄介だ。炎が一気に互いの視界を埋め尽くす。

舌のような炎が床を這い、壁を舐め、触れたものを次々と変質させていく。ヒーローコスチュームやアーマーを着込んで訓練を積んだものたちならば耐えられるだろうが、一般人を想定している

護衛対象のロボットはそうはいかない。

 

護衛対象を晒すわけにはいかず取れる選択肢はあまりに少ない。氷壁などで完全に防ぎきるか、大幅な回避を強制させるかの二択を迫られる。それすらできなければ、自らのアーマーが割れることも厭わずに身を挺しての防御をするしかない。

 

「轟!くっ!やむをえん!ダークシャドウ!!」

 

「アイヨ!……ア、無理カモ!」

 

常闇の個性。『黒影』は自我を持つ闇の怪物である。光があると力を失い、闇が濃いほど力を増す。昼間よりも夜間の方が圧倒的に強いのだが、今は炎に照らされてしまっている。

 

それでもどうにか炎を防ごうとしているがこれで終わらないのが恐ろしいところ。この炎を本命として、同時に他の攻撃もやってくる。

 

中指からやってくるのは紫の光。これは短い時間拘束をする不思議な光だ。その性能を確認した時にはすでに三年生の一人が餌食になってからだった。連発はできないがそれでも、これを食らえば次の攻撃が確定するため必ず避ける必要があった。

 

炎は面で襲いかかり、そして拘束光は線でやってくる。上からは白光のような液体が降ってくる。白色の光る液体はボンドのような性質があり、熱で乾燥するとガチガチに固まってしまうのだ。

 

骨抜は必死で地中へと逃れ、そして常闇は逃げられなかった。

 

「ぐう!託したぞ!戦友!」

 

護衛対象を投げ渡し、骨抜へと渡して思いっきり殴り抜かれた。ミスをした轟は無視されて、仲間がその対価を支払わせられている。

 

「やるんならこっちにこい!なんで俺の方に来ねえんだ!」

 

「んなこと言っても聞くわけねえって!落ち着け轟!撤退だ!氷で牽制して逃げろ!次は作戦を忘れんなよ!」

 

骨抜が地中へと引き摺り込み、その寸前に氷壁をどうにか展開していた。

 

「骨抜くんは厄介だけど、もうちょい狭まったら捕まえられる。次はグーでやっちゃうからね!」

 

ふんすと正拳突きから拳を戻して残心する拳藤は、次なる獲物を求めて走り出す。このバトロワを正面から打ち砕いて優勝するのが、彼女の責務だったから。

 

このネイルを作るのに協力してくれた他の個性の人たち。多くの支援と思いを背負ってここにいる。

 

「ここまでしてもらったんだ。完勝でもしないと意味がない!」

 

それは傲りでも勘違いでもなんでもなく、真の強者の矜持であった。

 

一人で仁王立ちする拳藤に、引き連れられて地中を逃げる轟。そのあまりの違いに、エンデヴァーが炎を上げた。

 

「何をしている!焦凍ぉ!!!みっともない姿を見せるな!炎を使って戦え!お前は最強なんだぞ!」

 

 

 

そしてここに轟焦凍と似たような体勢で、そして轟炎司と同じ迫力で暴れる奴がいた。

 

「あれ!あれだけでもどうにかぶっ潰さなかきゃ!!オイラのアイデンティティを守らなきゃ!!」

 

目は血走り、存在を脅かされたかのように切迫した表情は予断を許さないどころか、この世の全てを許していない。峰田はついでのように自分の個性と似たことをやってのける拳藤へと復讐を誓っていた。

 

すでに戦場は遠い。峰田の悲痛な叫びも小脇に抱えられて、急速に離脱する爆豪には全く届かない。それでも暴れていたがうるせえ!とそれ以上の声量でキレられる。

 

「あの(てのひら)女がまだ万全の状態で当たるのは、負けにいくようなもんだ。どんだけ気に食わなくても、これは動かせねえって言ってんだ!負け犬みたいに尻尾巻いて逃げんのが最善で……誰が負け犬だ殺すぞ!」

 

「いってえよ!力みすぎだって!セルフツッコミなら自分殴れよな!わかったから!オイラ以上にお前我慢してんだってわかったから!」

 

「しかし、終盤ならチャンスがあるということでもある。そういうことだな。爆豪」

 

「っち!それにあいつら、なんかキナくせえ。うぜえ感じがしたが、やっぱ組んでやがった」

 

障子も爆豪の判断に従い、護衛を背負いながら逃げていた。

 

「消耗タイプの道具や能力の奴らは序盤に会う意味はねぇ。俺は後半になるほどあったまって調子が出る。俺らが戦うのは最後だ」

 

親の仇を睨むかのような形相で撤退をした爆豪は確固たるゲームプランを持っている。そしてチームはそれに従っていた。三本の矢が束ねられたなら、易々とは折れない。

 

 

『さぁ!ここで時間だ!エリア縮小ターイム!エリア外に出ちまうと、アーマーが勝手に削られていくぜ!ゼロになったら強制ノックダウンだ!エビバディケアフル!』

 

プレゼントマイクの宣言通りに、戦闘可能地帯が狭まっていく。だんだんと、隠れる場所も離せる距離も無くなって戦場が強制的に変えられていくのだ。

 

これまで陣地を築き、防戦することであのビッグスリーをどうにか凌いでいた二年の精鋭チームが、移動の時にミスをした。

 

上空への警戒を怠り、そこに猛禽のような翼が襲いかかる。

 

「油断、というほどのものじゃない。地上のねじれ、地中からのミリオを警戒するのは当たり前。だから、影の薄い俺なんかを忘れるのも無理はない。はぁ。憂鬱になってきた」

 

「ねえねえ!私がやろうと思ってたのに!」

 

「誰でもOK!さぁ!一年チームがまだ残っているみたいだ!上級生の威厳を保ってやらなきゃ、雄英高校が気まずくなっちゃうよ!ここで勝てば笑い話になるさきっと!」

 

「今の宣言で、気まずさが生まれたんじゃないのか?」

 

最強の三年生たちは健在で、一年たちの戦場へと向かっている。

 

『ヘイヘイ!リスナー!ちょうどいいから状況整理だ!現在の残りチームこちら!みんな移動しながら戦ってるが、こっからはエリアが狭まり続けるぞ!クライマックに向けてアゲてけてけオラぁ!!』

 

チームビッグスリー

・ミリオ、環、ねじれ

 

チーム緑谷

・緑谷、麗日、小大

 

チーム爆豪

・爆豪、障子、峰田

 

チーム轟

・轟、骨抜

 

チーム拳藤

・拳藤、??、??

 

 

結果を見れば一年たちがあまりに特異な活躍を続けているこの戦い。観客たちはすでにルミリオンを筆頭としたビッグスリーの勝利を願っている。それほどに一年生が強くなっていたのだった。

 

ヒーローバトルロワイヤル。最後に立つのは誰になるのか、結末まで後少し。

 

「やっぱり、何が起こるのか知ってるとつまんないですよね?」

 

「え、どうしたのいきなり」

 

「淡輝くんは物知りなので、つまらなそうな時があります。だから、驚かせたいと思ってます」

 

「それは、楽しみだけど難しいよ?ほら、ナイトアイだっているし」

 

彼女の言葉をいちいち間に受けないのが仲良くするコツではある。だけれど慣れというのは恐ろしい。彼女はすでに予告していた。言われたのだから予想をしているべきだったのに、俺は見事に裏をかかれることになる。

 

 

そんな未来まで、もう少しだ。

 

 

 




今年も大変お世話になりました。
まだまだ書いていきますので、お付き合いいただければ嬉しいです!

せっかく節目ですので感謝を伝えさせてください。
感想をありがとうございます。これを見るたびに更新への活力が湧いてきます。
ここすきをありがとうございます。意外なところに好きと言ってくれることも多く毎回驚きがあって楽しみです。
作品評価など本当にありがとうございます。その一言に何度救われたことか!

そして、そして。誤字脱字報告をしてくれる皆様。あなたたちのおかげで毎日投稿をできています。本当にありがとうございます。大好き!愛してる!

それでは皆様、良いお年を〜〜〜!

次回投稿は来年1月1日です!(休みなし)
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